ダンジョンで『神おま』を求めても出てこないんだけど   作:ぱきのら

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調査しようぜ

 

 轟々と咆哮を上げるように流れては落ちる音。

 決して嫌いではない独特な水の香り。

 

 水辺のフィールドは好きだ。【炭鉱夫】を自称する者の活動地点は、かげろう揺らめく灼熱の火山であることが常である。つまり、こうも涼しく水に囲まれた地形などあまりにも縁遠い。

 

 だからこそ、俺は好きだ。

 

 密林が好きだ。孤島が好きだ。水没林が好きだ。渓流が好きだ。原生林が好きだ。

 ただし沼地、てめーはダメだ。どうしてハンターのエリア移動必須経路に毒沼があるんだ。原生林とかを見習って端っこにいやがれ……あれ、確か最近は環境変化か何かで沼地の毒沼は消えたんだっけか?いや、それでも許さん。

 

 あとやっぱ追加で密林の視界不良も許さん。誰かあの樹木たち伐採してくれよ。何にも見えないって。

 

 ……話が逸れた。

 とにかく、限られた生物のみが生存を許される火山地帯とは異なり、生命溢れた水場のフィールドは心を穏やかにしてくれる。

 

 景色を見るもよし。生物観察するもよし。

 しかし俺が好きなのは……おっと。

 

「よっしゃ釣り上げた!さすが"釣りフィーバエ"、食い付きが違うねぇ!」

 

 向こうの世界の餌はこちらの世界の魚にも好評らしい。

 何の魚かは分からないが、見た目はサシミウオに似ている。で、味は?

 

「……」

「……マリィ、冗談だ。ちゃんと逃がすから、そんな悲しい目で見ないでくれ。食べないって」

「私の目の前で、私みたいな魚を食べるんだ……」

「だから食べないって。それにマリィはマリィだろ?魚じゃないさ」

 

 すぐ側の水溜まりから顔を半分出したマリィのじめっとした視線を受けながら、たった今釣り上げた謎の魚を逃がす。

 攻撃的モンスターではない珍しい魚だったのに勿体無い……なんて言ったらまた拗ねるかな。

 

「せっかくすぐに会いに来てくれて嬉しかったのに、私の目の前で釣りをするなんて……ひどい」

「だけどこの釣りでマリィを怖がらせてたモンスターを釣り上げて、助けたこともあったろ?釣りは悪いもんじゃないさ」

「あ、あの時のすごかった!こーんな大きいの釣り上げて、すぐに倒しちゃったよねっ!」

「ふっふっふ、前はもっと凄いのも釣ってたぜ?20メート……いや、あの大岩3つくらいの大きさでな」

「あはは!それは流石に無理でしょー」

 

 む、信じてもらえない。

 釣りカエルを持ってくれば良かったか……いや、いっそのこと大タル爆弾をモンスターに飲み込ませて……。

 

「それに【炭鉱夫】なら、泳いで捕まえた方が早くないかな?泳ぐのすっごい得意でしょ?そんなに重そうな鎧を着てるのに」

 

 また一緒に泳ごうよ!と水をぱしゃぱしゃ跳ねさせながらはしゃぐマリィを見て、こちらも自然と笑ってしまった。

 

 元気そうで、良かった。

 

「なぁマリィ。ラーニェから聞いたんだが、前に叫び声が聞こえたり、大きく揺れたりしたんだってな。少しでも体調に違和感があったり、痛いところはないか?」

「うん!全然平気!」

 

 彼女は嘘を知らない。少なくとも、今は彼女に危険はなさそうだ。

 

 マリィは人魚(マーメイド)だ。

 その性質上、彼女はこの水源タイプの25階層から27階層以外での活動が困難。他の異端児(ゼノス)たちと共に行動することも難しい。

 

 だからリドなどの特定の異端児(ゼノス)、そして俺が彼女の安否確認も含めて定期的に接触するようにしている。あとはまぁ、彼女が寂しがるというのも理由の一つだ。

 

 そしてつい先日も、俺は彼女の元へ赴いたばかり。

 それでも今回は急ぎでマリィに確認しなければならないことがあった。

 

「マリィ。ここが大きく揺れて、叫び声が聞こえたその時のことを、もう少し詳しく教えてほしい。何か見たりしたか?例えば……この棘に似た、何か」

 

 腰のアイテムポーチから、布で覆ったそれを慎重に開いてマリィに見せる。

 

 それはラーニェから渡された、白と黒の謎の棘。

 ラーニェがマリィの様子を見に行ったとき、この25階層で発見したものだ。

 そしてほぼ同時刻に、マリィが聞いたという叫び声、大きな揺れ……。

 

 偶然とは思えない。

 

「……あの時のこと?」

「怖いことを思い出させてごめんな。でも、大事なことなんだ。何かほかに変なことはあったか?」

 

 マリィから笑みが消えて、怯えたように縮こまる。

 

「……ずっと聞こえてきたの。怒ってる叫び声。周りの水が割れちゃうような、声。それで、私のことを振り回すみたいに揺れて……深く潜ったのに、全然なくなってくれなくて……」

「何かを見た訳じゃないってことか」

「……ごめんなさい……」

「大丈夫、何も謝ることないさ。マリィが無事だった……これ以上嬉しいことはない。話してくれてありがとな」

 

 彼女の髪をすくように撫でると、強ばっていた表情も緩んでふにゃりと笑ってくれた。

 

 俺のなでなでスキルは伊達じゃない。

 なにせ最初は撫でるのが下手くそすぎてオトモアイルーにぶちギレられ、徹底的に矯正されたのだ。

 これぞ"ネコのオトモ指導術"……あれ、違う?

 

「さて、そろそろ行くよ……何か危険を感じたら、すぐに逃げて隠れること」

「うん。【炭鉱夫】のくれた、この宝石もずっと身に付けてるからね!ほら、上手に使えるようになったんだよ!あと、せんこーだま?とかもちゃんと持ってる!」

 

 マリィがすいすいと華麗に泳ぐと、彼女の周りを纏うように泡が舞い始めた。同時に、マリィの動きも一層軽やかに素早く、まさに舞うように滑らかになっていく。

 

 マリィの細い腕には、武骨な装飾の腕輪。

 そして輝く、藍色の石。

 

 『泡沫の舞Lv.3』と、『回避性能Lv.2』のスキルを持ち、更に『回避距離UP』の装飾品を埋め込んだ、回避特化の護石である。

 水中でも問題なく使えているようだ。

 

 それに加え彼女に渡してある閃光玉や強走薬を併用すれば、大抵の危害から逃れられるだろう。

 

「今度は一緒に泳ごーねー!」

 

 ぶんぶんと腕を振る彼女に片手を上げて答える。

 

 水溜まりでぱしゃりと足音を鳴らしながら、もう一度布に包んだ刺を見た。

 

 ……まずはこれと同じものが残っていないか、近くを探索してみよう。他にも、この棘と関連する何かが残っているかもしれない。

 

 叫び声、揺れ……このダンジョン、何が起こるか分からないからなぁ……。

 

 

△△△△△△△△△△△

 

 

 

 結論から言うと、何も分からなかった。

 

 このダンジョンは生きているだかなんだかで、壁や地面に傷をつけても、破壊しても、元通りになってしまう。

 ならば例えモンスターが暴れても、数刻経てば何事もない景色に様変わりだ。痕跡など見つけようもない。

 

 あの棘のように、分離した物理的な痕跡を残してくれれば話は別だが……このダンジョンは広い。広すぎる。

 俺一人が練り歩いたところで到底見つけられない。ラーニェが見つけてくれたのは本当に幸運だったと言えるだろう。

 ちなみに彼女が最初に棘を発見した場所には、既になにもなかった。

 

「叫び声とか振動とか、派手に動いてるようだったから、もう少し手早く見つかると思ってたんだがな……」

 

 見通しが甘かった。

 そもそも、叫び声に振動……そんな目立つ事象が発生したなら、他の冒険者からも噂や目撃情報が出ていてもおかしくない。

 

 しかしダンジョン内で遠目に冒険者を見かけても、変わった様子はなし。

 

「ここまで浅い層に来ても混乱の気配すらない……ってことは、冒険者の目が少なく、かつ広大な深層で発生する限定的な事象ってことか……?」

 

 27階層から探索を開始してそのまま階層を上にさかのぼり、何も手がかりが得られず……ダンジョンの出入り口付近まで来てしまった。

 

 深層をくまなく探索となると、相応の準備が必要になる。一度フェルズに相談して、方針を決めて……。

 

 

『……ファイ……ルト……』

 

 

 かすかに聞こえた声と、続く間延びした爆発音。

 咄嗟に屈んで、集中する。

 

 再度同じ声。爆発音。

 

「……近い」

 

 マリィの語っていたそれと比べると、あまりに規模が小さいが……確かめない理由にはならない。

 

『ファイアボルト……!』

「……魔法詠唱か?」

 

 近づき大きくなる、繰り返される数回の爆発音。

 それを最後に、ぱたりと音が途切れた。

 

 そして、いた。

 

「……この少年は……」

 

 小柄な体格。白髪。まだあどけない……寝顔?

 

 思い出す。ナルガクルガの亡骸の前で、多くの人々と少女に囲まれ称賛されていた小さな光景。

 フェルズに聞かされた、ナルガクルガを討伐したというルーキー……名前は確か……そう。

 

 

 ベル。

 

 

「それがどうしてダンジョンで寝てるんだ……?」

 

 胸元は上下に緩く動いている。呼吸も安定、外傷なし……まず大事には至らないであろう状態に見えるが、念のため首や顔に触れて確かめる。やはり何も異常は見当たらない。

 だからこそこんな場所で一人寝ている意味が分からない。それにまともな装備には見えず……いや、私服じゃないかこれ?

 

 防具も身につけずインナー姿で狩猟にいく変態ハンターは向こうの世界にも一定数いたが……まさかこの少年も?

 

 分からない。どうするべきだ。

 無理矢理にでも起こすか?地上に運ぶ?

 

「……え」

「は?」

「……え?」

 

 気の抜けた呟きが聞こえた。

 顔を上げる。

 

 二人の女性が、俺と少年を見ていた。

 

 金髪の少女は、ぼーっとした顔で。

 緑髪の女性は、警戒するように視線を強めて。

 

 ……知ってる。俺はこの二人のことを知ってる。

 なんなら金髪の少女の方には致命的に許されないことをしたのも知っている。

 

 そして彼女らの視線の先には、倒れた少年にべたべた触れる鳥頭の不審人物。

 

「……なに、してるの?」

 

 神おまの出る確率は限りなく低いのに、どうしてこういう最悪な確率ばかり当たるんだろうか。

 

 




■個人的誰得メモ

・密林……
MH2から登場した、周囲をぐるりと水に囲まれたジャングルっぽいフィールド。最新作で新しいエリアを伴い復活したときは嬉しかったね。
ただ視界が糞。雑木林で何も見えない。クシャルダオラとかがきて雨が降るともう最悪。誰か「環境破壊は気持ちいいゾイ!」して。


・沼地……
霧が深い。草も深い。寒い。毒沼がすごく嫌なところにある。
ちなみに落とし穴が使えなかった。シビレ罠とか切った尻尾も草が深すぎてどこにあるのか分からず、走り回るハンターの姿が風物詩だった。


・釣りカエル……
水中の大型モンスターを釣り上げられるやべぇカエル。ちなみにザボアザギルも釣れるらしい。知らなかった……。
釣り上げた時に地面に叩き付けたダメージはバカにならない。
モンハン3以降の釣りカエルは、ボタンを押さなくても勝手に釣れるらしい。知らなかった……。


・釣り……
ずっーと続いている、言葉のままのシステム。特に『黄金魚』の納品は伝統的なクエスト。
しかし餌を準備して、食いつくのを待って、タイミングよく釣り上げるという手間がすごいからだいたい皆釣りは好きじゃないと思う。普通に大型モンスター討伐より時間がかかる。
農場システムの登場で一気に手に入ったりしたのは普通にありがたかった。ガンナーや爆弾使いだけにかぎらず、こんがり魚とか、魚は普通にアイテムとして有用である。


・泳ぎ……
ハンターは重装備を身に付けつつ、水中の中で武器を振り回しながら、約7分間泳ぎ回れる特殊な訓練を受けています。


・泡沫(うたかた)の舞……
泡を纏う状態異常になることで、回避性能と体術と同等のスキルが発動する。しかし効果時間があったり攻撃を受けると解除されたりと玄人向けってイメージがある。シリーズにタマミツネが出てこないとこのスキルも出てこない。
死中に活なんかのスキルと組み合わせると強い。
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