ダンジョンで『神おま』を求めても出てこないんだけど   作:ぱきのら

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ロキ・ファミリア

 

「では【炭鉱夫】と、今回の怪物祭(モンスターフィリア)で現れたという【髑髏】の人物は、同一人物だと?」

「もしくは仲間同士か、同じ組織に属する者か……少なくとも、互いに無関係ということはないと思うね」

 

 波乱の怪物祭(モンスターフィリア)が幕を閉じた、その日の夜。ロキ・ファミリアの本拠地、黄昏の館のとある一室。

 そこで顔を見合わせていたのは、何十人というファミリアのメンバーの中でも上澄みの実力者である者たちと、とある一件の関係者、そしてファミリアの主神。

 

 彼らの話し合いに、一つの結論が見い出された。

 

「改めて、話をまとめておこうか。僕たちが【炭鉱夫】と初めて遭遇したのはダンジョン45階層、遠征の最中だ。これは以前、ロキにも共有したね」

「今でも意味分からんけどなぁ。そんなとこに単独で、ろくな装備も道具もないって。ただのバケモンか、一周回ってアホやんけ」

 

 机に座り、足をぷらぷらと揺らしながら、彼らの主神であるロキは呆れたように言った。

 

「ま、その報告より前から【炭鉱夫】は神の中じゃ有名な話やったけどなぁ。どいつもこいつもそーゆー噂話大好きやし。【炭鉱夫】探索ツアーを作って新しい名物にしよー、とか言っとる奴もいてな。【炭鉱夫】を見つけて連れてきた奴が優勝!別に報酬はないけど、みたいな」

「ロキ、話が逸れる」

「おっと。ごめんなママ」

「誰がママッ……フィン、続きを」

 

 この道化の神と知り合ってから短くないリヴェリアは、この神の口車に付き合っていては話が進まないことをよく知っていた。

 大きく溜め息をつかれながら話の主導権を戻されたフィンは軽く苦笑いをしつつも話を続ける。

 

「そこで【炭鉱夫】に対し、単独で45階層にいる経緯と目的……そして闇派閥(イヴィルス)であるか否かの問答を行った」

「んで、最後んとこだけはっきりと否定されたと」

「そして何かアイテムを用いたのか、消えるようにいなくなった」

「何度聞いても訳分からん。まんま幽霊やんけ」

 

 ここまでが【炭鉱夫】の話。

 

 そしてその【炭鉱夫】を、今回の怪物祭(モンスターフィリア)に現れた【髑髏頭の人物】と繋げたのは、彼と実際に言葉を交わしたアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの発言だった。

 

「装備はまるで違ったわ。【炭鉱夫】は鳥頭に安っぽい革の防具、武器も二本の短刀だった」

「でも今回の髑髏の人は、文字通り頭がカラフルな髑髏だったし、防具もすっごいゴツゴツした黄土色の岩みたいだったよ。武器も私の背丈の何倍もありそうな長ーい槍と分厚い大盾でさ」

「それに突然、鈴がたくさんある……楽器?鈍器?が落ちてきて、それを振り回してました」

 

 アマゾネスの姉妹と、エルフの少女が順番に見たままの光景を言葉にしていく。

 ここまでの話に、【炭鉱夫】と【髑髏】の共通点はない。

 

「……ナイフ」

 

 しかし、アイズの発言を、誰も見過ごすことが出来なかった。

 

「【炭鉱夫】が腰にさしていたナイフと、【髑髏】の人に貸してもらったナイフが、同じだった」

 

 冒険者の観察眼は鋭い。

 そうでなければ強力なモンスターや敵対者と対峙し、生き残ることはできない。

 アイズはそのナイフを、【髑髏】の人物本人から貸し与えられ、誰よりも近くで見た。使った。

 

 彼女の静かな主張を疑う者など、このロキ・ファミリアには誰もいなかった。

 

「アイズが返却を渋る程の切れ味と、魔法にも耐えうる耐久性を持つナイフ。そういくつも存在するとは考えにくい」

「ちゃ、ちゃんと返したもん……」

「やましくも慣れない金銭交渉までした、とティオネに聞いたが?」

「うう……ティオネェ……!」

「嘘偽りなく正確に報告できなきゃ、団長のお嫁さんとして失格だもの」

「ティオネは僕のお嫁さんではないけどね……」

「それで、【炭鉱夫】も【髑髏】の奴も同じだったとして、だ」

 

 

 

 ーー奴は敵になりうるのか?

 

 

 

 ガレスが髭をいじりながら本題を切り出す。

 

「そ、それは違うと思いますっ!」

 

 弾けるようにレフィーヤが言った。

 その場にいた全員の視線がレフィーヤへと集中する。彼女から見れば、神であるロキを除いて誰もが格上の冒険者であり、先輩。

 それでも、臆されながらも、彼女は続けた。

 

「あ、あの人は、私を助けてくれました。見たこともない道具を、全く知らない私や巻き込まれた人々を救うために惜しみ無く使って。誰よりも先に前に出て、あの二本角のモンスターの注意を引いて……だ、だから、決して悪い人ではないと……!」

「それをあの変人にやらせたのは、てめぇらが雑魚だったからだろ」

 

 吐き捨てるように言い放ったのはベートだった。

 

 その言葉に、レフィーヤは身体を震わせて俯く。しかし代わりに、アマゾネスの少女が狼人族の青年を強く睨み付けた。

 

「あの場に居もしなかったあんたが、好き放題吠えるじゃないの」

「そうだな、俺はいなかった。だがまぁ、俺は得体の知れねぇ野郎から寄越された気持ち悪ぃ薬品なんざ、絶対に飲まねぇってことだけは断言できるぜ。乞食かよ」

「……てんめぇ、ベートッ!」

「やめろお前たちっ!!」

 

 リヴェリアが怒声をあげて漸く双方の動きが止まる。

 普段の小競り合いや遊び半分の喧嘩などではない。ティオネもベートも、互いを本気で睨み付けていた。

 

「髑髏野郎がしゃしゃり出てきたタイミングも都合が良すぎる。何より俺たちの誰も、聞いたことも見たこともねぇモンスターについて知りすぎだろ。髑髏野郎どもが準備したモンスターが暴走して、てめぇらが都合良く後処理に利用された……なんてクソ下らねぇ話なんじゃねぇのか?」

 

 言い方はきついが、ベートの言い分はあり得ない話ではないと、フィンは思考を巡らせていた。

 

 二本角のモンスターの急所を的確に伝え、ティオネたちの攻撃を効果的なものにした。

 動作や行動を見切り、モンスターに満足な行動を許さず、街中という閉鎖的な空間の中で効率的に討伐してみせた。

 

 そして髑髏の人物は、その二本角のモンスターを『ディア……』と何かしらの決まった名称で呼ぼうとしていたという報告も、フィンは彼女らから受けていた。

 

「ベート、それらはティオネたちも同じように訝しんだ。だから【髑髏】を連れてこようと……」

「それで逃げられてんだろ?後ろめたいことがあると白状してるも同じじゃねぇか。言い訳の一つもしねぇで逃げた雑魚を擁護する理由がどこにある……!」

「っ……」

 

 レフィーヤは何も言えず、俯いた。

 そんな彼女の様子に何を思ったのか、大きく舌打ちをしたベートが荒い足音を立てて彼女の方へと歩いていく。

 まさか暴力沙汰かとレフィーヤに寄り添っていたティオネたちが守るように身構え、フィンたちも落ち着かせるため口を開きかけたが、ベートはレフィーヤを無視して部屋を出る扉へと歩を進めた。

 

「おいベート!まだ話は……!」

「気分が悪ぃんだよ……!うちのファミリアを好き勝手振り回しやがった挙げ句、一人殺されかけてんだ……!礼が必要ってんなら、まずはそこの落とし前をつけさせてやる……!」

 

 乱暴に扉を開け放ち、出ていってしまった。

 何度目になろうか、リヴェリアが大きな溜め息をついたところで、何かに気付いたように首を捻ったティオナがティオネへと耳打ちする。

 

「……あれってもしかして、心配してくれてた?レフィーヤとか、私たちのこと」

「……さぁ、知らないわ。雑魚呼ばわりしてくる男の考えてることなんて」

 

 ティオナに適当に返事をしながら、ティオネは内心で悪態をつく。面倒くさい性格にも程があると。

 

 そして同時に、【髑髏】がアイズに苛烈な刺激臭がする"ナニカ"を投げつけて逃走したことも、ベートに伝えなくてよかったと思っていた。

 

 【剣姫】と呼ばれ多くの憧憬の目を向けられるアイズだが、まだ16歳の女の子だ。

 同世代の女子に比べれば戦闘以外の事柄には基本的に無関心であるといっても、女の子があのような憂き目にあったと喧伝することは流石に酷だろう。

 

 だからどうか、今回の事件の詳細共有は重要とは言え、どうかその部分は濁してくれ、勘弁してくれと、ティオネたちがロキとフィンに嘆願したからこそ、ベートたちにはあの、神(ロキ)の怒りを買った【髑髏】の最後の愚行は伝わっていない。

 

 これがもしベートに知られていたら、ベートは【髑髏】を殺しにいくだろう。彼が知らなくてよかった。

 

 事実、ロキは神の力(アルカナム)を使ってでも【髑髏】を消し炭にすると言ってのけた。流石に冗談であると思うが、神ロキでさえこれだ。本当に知られてなくてよかった。いや、私もあれを許してはないけれど。

 

 と、逸れていたティオネの思考はフィンの咳払いによって引き戻される。

 

「話を戻して、ガレスの疑問に答えようか。【髑髏】、そして【炭鉱夫】が敵となるか、だけど……放置できない危険人物だと見ている」

「そ、そんな……」

 

 レフィーヤが思わずといったように落胆の声を溢した。

 しかしロキが訂正を入れる。

 

「危険人物とは言ったけど、敵とは言ってないで?」

「……え?」

「んん?どういうこと?」

「【髑髏】だか【炭鉱夫】だかの特徴をまとめると、大きく二つや」

 

 一つ。

 

 ベートの言っていたように、二本角のモンスターについて既知であったのはほぼ間違いない。

 しかしレフィーヤを始めとして、倒れた一般人の救助を何よりも優先させた様子から、彼が騒動を引き起こした犯人とは考えにくい。それさえも自身に疑いを向けないためのブラフだと言うには、いささか身を削りすぎている。

 

 二つ。

 

 【髑髏】と【炭鉱夫】が同一人物もしくは仲間同士だとすれば、45階層でロキ・ファミリアと対立したことから、レフィーヤたちのことを知っているはず。

 であれば余程の考えなしでない限り、レフィーヤたちとの接触によって正体が露見することは避けたいと考えるだろう。それでもモンスターの前に躍り出て、救出を断行した。

 

「ここまで聞いて、どう思う?」

「……良い人?」

「そ。今回の【髑髏】は人命救助を最優先に動いていたようにしか見えへん。だから、現時点では明確に敵と位置付けることは難しい」

「じゃあ、危険人物でもないんじゃないの?全然危ない人には見えなかったよ?」

 

 言ってることが正反対じゃん。と、ティオナが腕を組んでうんうんと唸る。

 

「その人命救助の手段が問題なんだ」

 

 ごとりとテーブルに置かれた、三つのビン。

 それぞれのビンの中で薄く波立つ、真紅色と鈍い銅色と黄金色。

 

 【髑髏】からアイズたちへ渡されたものだ。

 

 あ、と。

 ティオナが呆けたように呟いた。

 

「これらは【髑髏】からティオネに譲渡された分の残りだ」

「後から何か身体に異常があった時のために、少量を残しておいたんです。状況が状況だったので飲みましたが……毒であったときの解毒方法の作成手段に役立つと思って」

「その判断は正しいよ。なにせ……」

 

 飲んだだけで頑丈になり。

 あらゆる身体能力が強化され。

 疲れなくなる。

 

 

「ほんま、びっくりやで。まるで……うちらの与える『神の恩恵(ファルナ)』やないか」

 

 

 道化の神は笑わない。

 

 この場の誰もが、ビンの底で薄く波打つ物言わぬ液体を、まるで呪いのアイテムがそこにあるかのようにじっと見ていた。

 

「まだ、効果は続いているのか?」

「……多分」

「飲んでから、六時間くらい経った……かな」

「これらの所持者に悪意がないとしても、周囲の者がそうである保証はない。そして所持者当人は、これらを軽く他人に与えたという事実がある」

 

 洒落になっていないのだ。

 

 もしこれらが、量産が可能な代物だとしたら。もしこれらが、市場に出回るようなことがあれば。もし、悪意ある連中の手に渡ったら。

 誰でも飲むだけで怪力を得て、経験値などなくとも耐久力があがり、それが疲れ知らずで動き回れる。

 

 神の所業を、人が自ずから為せる。

 

 それが創り出すのは、新たな人の可能性を見出だす楽園か。

 それとも、この薬を求めて欲望という名の血の雨を降らす地獄か。

 

「こいつらの成分は秘密裏に調べる。ええか。決して、口外無用や。それとベートにも、ここにいない他の子たちにも後で口をすーっぱくして言い付けるけど……」

 

 ロキがビンの一つを手に取る。

 

 道化の神は、笑っていなかった。

 

「もしまた、【髑髏】あるいは【炭鉱夫】と遭遇することがあったら……絶対に逃がすな。出来る限りの情報を聞きだせ」

「……っ」

「正直な話、危険人物どころやない。超超超危険人物や。オラリオどころか、この世界の常識をひっくり返す爆弾が人の形して動き回ってるようなもの。レフィーヤたんには悪いけど……敵だと割り切ってくれた方が、まだ対処しやすいぐらいにな」

 

 ロキも、レフィーヤを含めてかけがえのない子供たちの命を救ってくれたことには強い感謝の念がある。

 

 しかし、それはそれであり、これはこれなのだ。

 レフィーヤが泣きそうな顔をしようとも、アイズたちが割り切れないように顔を伏せようとも。

 

 はっきりと明言しなくてはならない。

 

「あんま脅すようなこと言いたかないけど……次に奴が現れたときが運命の分かれ道や」

 

 

 

 ーーこの世界が地獄となるかどうかの、な。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 

 あれだけ、ロキから【炭鉱夫】の危険性を説かれていたのだ。ダンジョンで遭遇する可能性があるなど、分かりきっていたことだ。

 

 だが、いざ【炭鉱夫】と相対したとき、彼の足元に白髪の少年が倒れているその光景を認識して……私は一瞬、思考が停止してしまった。

 

「なに、してるの?」

 

 アイズの声に、はっと気づく。

 

 呆けている場合じゃないだろう……!

 相手は革の防具に、奇妙な鳥の被り物……そして、腰のナイフ。間違いなく、45階層で遭遇した【炭鉱夫】だ。

 

 ……神と同等の奇跡を与える手段を持っている、常識からはかけ離れた存在。

 

 オラリオを、世界を破壊しかねない存在……!

 

「……」

 

 ……落ち着け。状況を確認しろ。

 

 【炭鉱夫】はじっとこちらを見ているだけで、まだ動きを見せない……いや、片手を腰のポーチに入れて中身を探っている?いつでも何かしらの道具を使うための前準備か。

 だが現状は動いていない。こちらの動きを待っている。

 

 倒れている白髪の少年は……恐らく大事ない。

 見たところ外傷もなく、呼吸も安定している。

 

 隣のアイズも動かない。元より口下手な子だ、私に合わせる方が最適だと考えているのだろう。先程の発言は……口をついて出てしまったのかもしれないが。

 

 誰も動きを見せない。

 やはり、こちらから敵意がないことを示さねば……。

 

「……俺では、ない」

「え?」

「俺が彼を見つけたときには、倒れていた。俺は何もしていない」

「あ……あぁ!分かっている。彼の様子を見るに、魔法の過度な使用による精神疲弊(マインドダウン)で気絶しているだけだ……ただ、念のため彼の容態を確認したい。近づいても?」

「……頼む。俺には判断がつかない」

 

 ……まさか【炭鉱夫】の方から弁明されるとは。

 

 しかし、渡りに船だ。倒れている少年には悪いが、自然に【炭鉱夫】に近づく理由付けができた。

 

 少年の方は、もはや見慣れたとも言える、魔法を覚えたばかりの冒険者が引き起こす精神疲弊(マインドダウン)の症状そのものだ。

 

「やはり気を失っているだけだ。すぐに目を覚ますだろう」

「そうか……良かった」

「……この少年とは、知り合いなのか?随分と気にかけている様子だが」

「……変、か?」

「冒険者同士は、基本は互いに無干渉だ。余計なトラブルを避けるためにもな。だからこの少年が貴殿にとって見ず知らずだと言うなら……貴殿のような人は、珍しいと言える」

「そうなのか」

 

 冒険者としての通例を知らない……?

 フィンの言っていた、【炭鉱夫】が冒険者ではない可能性があるというのは、本当なのか?

 

 その仮定が正しければ、【炭鉱夫】は冒険者ギルドの認可もなく、不法にダンジョンを出入りしていることになる。

 しかしそうなれば、オラリオで正規に武器や薬、アイテムを扱っている施設のほとんどを【炭鉱夫】は利用できないはず。

 

 ……そんな孤立無援の状態で45階層まで進出できるのか。オラリオ都市の最強と名高いオッタルでさえ不可能だろう。

 

 【炭鉱夫】がどこぞの神の恩恵を受けて、規格外の強さを持ち合わせている。あるいは、非正規でダンジョンを出入り可能な【炭鉱夫】独自のルートが存在する……考えられる可能性は、その程度のものだった。

 

 あれらの薬を見せつけられる、その時までは。

 

 ……あの薬があれば……可能なのか……?

 

 あの薬だけじゃない。あのとき、45階層から消えてみせたあの緑色の煙玉もそうだ。あれらは、【炭鉱夫】の持つ常識外れの道具や手段の、ほんの一部に過ぎないのではないか?

 

 一方で、関係者か本人かは定かではないが、【髑髏】の人物がオラリオに繰り出しレフィーヤたちを含めて住民たちの命を救った。

 

 ……やっていることがちぐはぐだ。統一性がまるでない。

 【炭鉱夫】という存在が、分からない。見えない。

 

 だが……。

 

「この少年のことはほとんど知らないが……恩人なんだ。だから、無事なら良かった」

 

 ほっと息を吐き出すように呟く【炭鉱夫】。

 顔は相変わらず気味の悪い鳥の被り物で見えないが。

 

 悪人ではない気がする……なんて、根拠も何もない理想論が思い浮かんでしまった。

 

「恩人というならば、この少年にとっては貴殿も恩人だ。まともな装備も身につけず単独でダンジョンに入った挙げ句、気絶するなど自殺行為に等しい。貴殿がいなければ、モンスターの格好の餌だったろう」

「そうだね……ありがとう」

「……彼が無事で、俺への疑いもないなら、そろそろ失礼させてもらう」

「……っ」

 

 ダメだ、やはり警戒されている……!

 

 逃がす訳にはいかない。しかし、またあの消える緑色のアイテムを使われたら追跡など不可能。戦闘などは本当に最後の手段だ。何をされるか予想もつかない……!

 

 つまり【炭鉱夫】が足を止めざるをえない、言葉をかけるしかない。

 

 ……【炭鉱夫】は、私たちにとって、未知だ。

 【炭鉱夫】と【髑髏】の関連性も曖昧で、種族や年齢どころか、性別すら恐らく男だろうと推察の域を出ていない始末。加えて、神の力をも凌ぐ薬を持ち合わせているときた。

 ロキが最大級の警戒を向けるのも大いに頷ける。

 

 ……超、危険人物、だったか。

 

 私だってそれに同意した。絶対に野放しにしてはならない存在だとはっきり言える。

 

 だからこそ、騙してでも、嘘を吐いてでも、媚びへつらってでも【炭鉱夫】を足止めし、情報を抜き出すことに全力を尽くすべきなのだろう。

 

 ……ロキから警告されたその時から、【炭鉱夫】との遭遇時、どのように対応すべきかずっと考えていた。

 

 そして、私は既にその結論を見出だしている。

 

「【炭鉱夫】……いや、今は【髑髏】の槍使いと呼ばせてもらおう」

「……っ」

 

 ぴくりと、彼の指先が動くのが見えた。

 

 鳥の被り物ごしに、じっとこちらを見ている。

 【炭鉱夫】はすぐにでも何かしらの行動に移れる。

 

 ……くそっ……喉が渇く。心臓の鼓動が速くなっている。

 ここで逃がしたら……これからのオラリオが、世界がどうなるか分からない……!

 その運命の手綱を、今、私が握っているという事実に震えそうになる。

 

 しかしそんな超危険人物が……レフィーヤの命を救ってくれた。

 

 何を考えてレフィーヤを守ってくれたのかは知る由もない。もしかしたら、善意からの行いではないのかもしれない。ベートの言っていたように、邪な思想のもとの行いだったという可能性も否定出来ない。

 偶然かもしれない。気紛れかもしれない。本人は、助けたことなど忘れてさえいるかもしれない。

 

 それでも、救った。

 だからレフィーヤは生きている。

 

「貴殿が【髑髏】の槍使いだと仮定した上で、伝えたいことがある」

 

 すまない、ロキ。

 

 これは、賭けだ。

 私の言葉が届くかどうかの、賭け。

 

 絶対に伝えねばならないと決めていたんだ……!

 

 

「レフィーヤの命を救ってくれて、本当にありがとう」

 

 

 心からの、礼を。感謝を。

 

「レフィーヤは私の大切な……弟子だ。彼女が今を生きて笑っていられるのは、貴殿の助けがあったからだ。だから、ありがとう。この気持ちだけは、どうしても伝えたかった」

「……」

「……私からも、改めてお礼を言わせてほしい。あの時私たちを、町の人を、レフィーヤを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 私の言葉を、アイズの言葉を聞いた【髑髏】……【炭鉱夫】は。

 

 ただ、拳を強く握り締め、その両肩は小さく震えていた。

 

「……俺に、は」

「……」

「そんなことを言われる資格は、ない……っ」

 

 ーー何故だ?

 

「……貴殿は」

 

 

 ーーいったい何を、恐れているんだ?

 

 

「……すまないっ……!!」

「っ!?」

「待っ……!?」

 

 いつの間にか【炭鉱夫】の手中にある、緑色の球体。

 反射的に駆け寄ろうと足が動く。だが間に合わない。

 

 ああ、ダメだった……!

 

 届かない……っ!!

 

『止まってくれ【炭鉱夫】』

「!?」

 

 ……【炭鉱夫】の動きが、止まった……?

 

「……この声は誰だ、何処にいる……!?」

 

 周囲を警戒する私。

 倒れている白髪の少年。

 その少年を庇いつつ、隣で同じように姿勢を低くして気配を探るアイズ。

 そして、球体を振りかぶった姿勢のまま動かない【炭鉱夫】。

 

 ……違う。【炭鉱夫】の腰のポーチの中からこの声は聞こえている……!

 

『話は聞いていた。これから先は私が話そう』

「……任せていいのか?」

『今ここでのお前の意思と意見を放置する形になるが……お前のことも十分に考慮した上での、私たちの結論だ』

「……分かった。俺は黙っている」

『すまないな』

 

 私たちを他所に【炭鉱夫】と謎の声の会話が続く。

 

 あの腰のポーチの中に仕掛けが入っているのは間違いない。遠方の者と意志疎通を図れるアイテムか何かか……?

 本当に次から次へと規格外のアイテムを……!【炭鉱夫】の手札が全く読めん……!

 

『ロキ・ファミリアの副団長、【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴと、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。正体も見せず声だけで横やりを入れた無礼を許してほしい』

「……お前は、何者だ」

『【炭鉱夫】の同胞、とだけ言っておこう』

 

 同胞……?

 ではこの声の主も、あの薬のことを知っている……!? 

 

『話が随分と拗れているようだ。まずは率直に私の用件を伝えさせてほしい』

「っ……何だ……!?」

『【炭鉱夫】と共に、とある"クエスト"を受けてくれないか』

「!?」

 

 

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