―イッセー side―
気づくと、そこは白い世界だった。
…覚えがある。ここは神器(セイクリッド・ギア)の内部だ。歴代の先輩たちを説得しにきたときによく訪れていた。
いまそこに俺がいる。
俺は、いまサイラオーグさんと激闘とを繰り広げていたはずだ。
俺が一度追い詰めて、そこからサイラオーグさんが本気の獅子の鎧を身にまとって、そして、トリアイナの『戦車(ル-ク)』が効かなくて・・・・・・。
……周囲を見渡せば、歴代の先輩の姿。以前のように無表情なのかなと思ったが――。
何やら、黒いオーラを立ちのぼらせて、怨恨めいた顔つきになっていた。
『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)……』
『……覇龍(ジャガーノート・ドライブ)だ』
『あの男を倒すには覇龍(ジャガーノート・ドライブ)しかない』
そんな不気味なことを口にしていく。
覇龍(ジャガーノート・ドライブ)!?どういうこった!!
白い世界の上空に映像が映し出される。そこには――俺がいた!!部長に抱きかかえられた俺!鎧を破壊されて、口から大量の血を吐き出していた。見ただけで致命傷なのがわかる。
……サイラオーグさんと俺は戦っていた。ライオンと合体したサイラオーグさんの一撃を食らって俺は――。
意識だけが神器(セイクリッド・ギア)の内部に飛ばされたってことか……?
『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』
『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)しかないだろう』
『そう、それしかない』
『あの男はそれを求めている』
歴代の先輩たちが椅子から立ち上がり、黒いオーラをまとわせながら、不気味な笑みを見せていく。
――っ!!俺の体にも黒いオーラが出現していた!それが体を覆っていく!と、同じくして内側からどす黒い感情がうごめきだしていた。
……なんだ、これ……。恨み……辛み……憎しみが……俺の中で高まっていく。
……あの男が……サイラオーグさんが…………憎いっ!倒したい……っ! 力が欲しい……! 絶対的な力が……っ! そのために……サイラオーグさんを消滅させたいと……この世から、消し去りたいと……。俺は……っ!
くっ……エルシャさん……ベルザードさん……俺は……ッ!
心までも力に飲み込まれそうなときだった。
映像の奥から子供たちの泣き声が届く。子供たちの泣き声。
『おっぱいドラゴンが死んじゃったーっ!』
『やだよーっ!』
『立ってよーっ!』
……悲痛な叫びが聞こえる。
ゴメンよ、俺はもう……。
意識も黒いものに支配されそうなとき、一人の声が白い世界に響き渡った。
『泣いちゃダメ――ッ!』
子供の声……?
映像が移り変わり、とある一人の帽子を被った子供が映しだされた。
……あの子供に見覚えがあるぞ……。そうだ、俺のヒーローショーでサイン会に参加できなくて泣いていた子だ……。
その子は――リレンクスは、観客席でむせび泣く子供たちに向かって叫んだ。
『おっぱいドラゴンが言ってたんだ!男は泣いちゃダメだって!転んでも何度でも立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならなくちゃいけないんだよ!』
――っ。
それは俺が泣いているリレンクスに言い聞かせた言葉だった。
その一声を聞いて、他の子供たちも立ち上がる。
『おっぱいドラゴンが負けるもんかッ!おっぱい!おっぱい!』
『おっぱい!立ってよォ!おっぱいドラゴンっ!』
『おっぱい!』
『おっぱいドラゴン!』
『ちちりゅーてーっ!』
俺を呼ぶ必死な声。……皆、俺は……。
聞き覚えのある声も耳に入ってきた。
子供たちのいる観客席で応援団長をしていたイリナだ。
『そうだよ! 皆!! イッセーくん――おっぱいドラゴンはどんなときでも立ち上がって強敵を倒してきたの!だから、応援しよう! 信じよう! おっぱいドラゴンは皆のヒーローなんだからっ!!』
涙で顔をくしゃくしゃにしながら、イリナは必死で子供たちに訴える。
『皆、おっぱいドラゴン好き?』
「「「「「「「「「「大好きーっ!」」」」」」」」」」
『私も大好きだよ!すごいスケベで、いつもエッチなことを考えているヒトだけど……誰よりも熱くて、諦めなくて、努力して、大好きなヒトのために戦えるヒトだって、私は知ってる!皆も知ってるよね!!』
「「「「「「「「「「知ってるーっ!」」」」」」」」」」
『だから、応援しよう! 声を届けるの! おっぱいドラゴンは! どんなときでも立ち上がって! 冥界や天界、いろんな世界の皆のために戦ってくれるんだからーっ!』
『おっぱい!』
『おっぱい!おっぱい!』
『皆も一緒にぃぃっ!おっぱいッ!!』
『おっぱい!おっぱい!おっぱい!』
『おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!』
俺は――知らないうちに涙を流していた。
……こんなにも俺を呼ぶ声がある。俺を求めてるヒトがいる。俺を応援してくれる子供たちがいる。
そのときだった――。
声が聞こえてくる。俺の知っている声だ。いつも隣にいて、俺を励ましてくれたヒトの声――。
『ねえ、イッセー。聞こえる?皆、あなたを呼んでるの』
映像が移り変わり、声の主が映しだされた。
俺の視界に紅が映り込む――。
紅い――ストロベリーブロンドよりもさらに鮮やかな紅の髪。
そう、あの人の美しく紅い長髪は、いつも俺のそばにあった――。
そう、そうだった。あのときも俺が死ぬ間際、目に映ったのは――。
鮮やかな紅。
血の色と同じ色。
けど、いまはそうじゃないと思ってる。
気高く、優しくて、温かい。俺を包んでくれる紅――。
俺は――その色から始まったんだ。
『私もね。あなたを求めてるのよ?だって、私はあなたのことを……』
俺の大好きな女――リアス・グレモリー。
俺もあなたのことを……。
彼女を思う俺のもとに暗い声が近づいてくる。
『さあ、現赤龍帝の兵藤一誠。暴れよう。「覇龍(ジャガーノート・ドライブ)」を発動しよう』
先輩の一人がそう黒いオーラをまといながら言ってくる。しかし、俺を呼ぶ声もさらに高まっていく。
『おっぱいドラゴン』
『がんばって!』
『立ち上がって!』
『おっぱい!』
『おっぱいッ!』
あの男の声も聞こえてくる。
『どうした、兵藤一誠。――終わりか? これで終わりなのか?そんなものではないだろう?――立ち上がってみせろ。おまえの想いはそんなに軽いものではないはずだッ!!』
……ああ、まだ終じゃない。終らせてたまるか! まだ俺は戦える!
…しかし、先輩たちは子供たちやサイラオーグさんの声を聞いても邪悪なオーラを揺るがさない。
『さあ、あの者を破壊しよう。覇道の力で――』
「うるせーよ」
俺は先輩たちを見渡すようにして言う。
「聞こえないのか?俺を呼ぶ声が――。部長だけじゃない、あんなに大勢の子供たちの声だよ」
『いや、天龍は覇王となることが本来の道程。あり得ない。そんなことはあり得ない』
「違う――。俺は…………覇王になんてならねぇ。俺は兵藤一誠! ただのスケベで、いくならやらしい王さまになってやるッ!」
『否、覇王こそが、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)こそが、この神器(セイクリッド・ギア)に組み込まれた本来の――』
『――良いじゃないか』
再度先輩の言葉を遮って、その者は現れた。
白い光に包まれた男性が一人――。それを見て、先輩が激昂した。
『貴様は……ッ』
白い光に包まれている男性は俺に向かって言う。
『僕は歴代アルビオンの一人だ』
――っ。えっ…なんだと……?
アルビオンの……歴代の先輩ってことか?
『そう、あなたはあのとき、アルビオンの宝玉をブーステッド・ギアにはめ込んだ。あの宝玉に僕の残留思念が少しだけ乗っていたみたいなんだ。本来の僕はディバイン・ディバイディングのほうにいるだろうけどね』
あー、確かにそれをおこなった! じゃ、じゃあ、あのときにこのアルビオンの先輩も取り込んで……!
アルビオンの先輩が手を差し伸べる。
『――赤龍帝、これも何かの縁だ。あなたを助けよう。僕が持つ半減の力で、ブーステッド・ギアに渦巻くものを抑えてみせるよ』
「いいのか?俺は赤龍帝で、ヴァーリじゃないのに……」
俺の言葉にアルビオンの先輩が笑む。
『あなたはおもしろい。歴代最強の赤龍帝お二人が笑いながら消えていったのもうなずけるんだ。呪いを吹き飛ばすほどの熱意と可笑しさのあるあなたなら、天龍を、いや、二天龍自体を新しい可能性に導けるのかもしれない。――――だからこそ』
先輩が手を天高くかざして、光を広げていった。
『あなたはヴァーリ・ルシファーと共に新たなドラゴンになるべきだ』
パァァァァッ。
淡い白銀の閃光が白い空間に広がり、歴代赤龍帝の先輩たちの黒いオーラを取り払っていく! 憎悪の念が半分に消失して、さらに黒いオーラも半分に減っていく。
これがアルビオンの先輩の力! 黒いもの、恨みが、怨恨の感情が、徐々に減っていってるよ!
『させるか!! 憎しみが! 悲しみが! 恨み辛みこそが赤龍帝の神器(セイクリッド・ギア)なのだッ!呪いを内に込め、怨嗟を吐きながら負をまき散らすことが天龍の――』
恨み辛みをいまだに止めない先輩に俺は言った。
「――おっぱい。俺はこれに救われた。そして、これからもそれを求めていくぜ」
しかし、先輩たちは最後の抵抗で覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の呪文を口にしだした。
『我、目覚めるは覇の理を神より奪いし、二天龍なり――』
違う! 俺は違う呪文を独自に唱えだした!
「我、目覚めるは覇の理を捨て去りし、赤龍帝なり!」
『無限を嗤い、夢幻を憂う――』
「無限の希望と夢を胸に抱かかえ、王道を往ゆく!」
『我、赤き龍の覇王と成りて――』
「我、紅き龍の王者と成りて――」
『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――ッ!』
「汝らに誓おうッ!真紅の光輝く未来を見せると!!」
俺が最後に唱えた一節に先輩たちは晴れたような表情となった。
『――未来。未来を見せる……だと』
「そうだ!俺が見せてやる!! いや、俺と見よう!俺と共に見せてやろうぜ! 仲間に! 友に! 好きな女に! 子供たちに!! 俺たちが未来を見せてやるんだよッ!!!」
『未来……。僕たちが……未来を……! 破壊ではなく、未来を……!!』
そうさ、それができるんだよ、皆で力を合わせればさ!!
「行こうぜ、先輩たち!――俺は赤龍帝で、おっぱいドラゴンで、リアス・グレモリーに惚れた男!!兵藤一誠だぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!!」
映像のなかで俺を抱きかかえる部長のおっぱいが紅く輝き、俺の体を紅色のオーラが包み込んでいった――。
―side out―
―ツバサ side―
「…………――ふぅ。」
俺は深く嘆息した。……どうやらイッセーは歴代赤龍帝の負の感情に飲まれなかったようだ。……正直言ってしまえばかなりギリギリだったけどね。
『……どうやら、あの赤龍帝の子はなんとか持ちこたえたようね。それも新たな力を得て…』
すると、同じく感じ取ったルーツがそう言った。
「うん。さすがイッセーだよ。本当に面白いね。……でも」
『本当にね。今代の赤龍帝はずいぶんと面白いわ。赤龍帝の篭手に取り込んだ白龍皇の宝玉の中に眠っていた残留思念を具現化させた甲斐があったわね……それにしても』
俺とルーツは、一度暴走して覇龍になりかけた以来、密かにいつか本当の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)になった時の対抗策として、イッセーの中にいた歴代白龍皇の残留思念を具現化させていた。
あのときは、不完全だったから良かったものの、完全体になったらヤバかったからね。
……まぁ、そんな事よりも〜
『「イッセーの影響が子供たちにも与えられてるなんて……」』
俺とルーツはイッセーのエッチな影響が純粋な子供たちに与えられてるという事実に肩を落とすのだった。
……大人になって、なんかやらかさなければいいけれど……心配だなぁ〜
『あぁ、そうそう。あの子の中にいた歴代白龍皇の人ががこっちにきてね、「意識を復活させてもらいありがとうございました。おかげさまで歴代赤龍帝の皆も救われたようです。このことを歴代赤龍帝で女性最強のお1人にこの事を伝えて伝えてください。そしたら、お喜びになりますよ」だって。』
ルーツがそう言ってきた。
「あぁ〜そうなんだ。気にしなくてもいいのになぁ〜………って、ん?……あれ? 気づいてたのか?」
『えぇ、気づいていたようね。私もびっくりしたわ。』
……えぇ〜…。た、確かに、イッセーや歴代赤龍帝の方々にも内緒でさ、イッセーが男性女性それぞれの歴代最強のおふた方に説得して残留思念が消える前にさ、歴代赤龍帝最強のおふた方を復活させたよ?……いや、正確には、歴代赤龍帝の男性最強のベルザードさんは、もう成仏したいと言ってきたのでそのまま成仏さて、エルシャさんは、俺の魔法と家の技術をフルに使って復活させたよ?うん。……今は家で新しい身体の具合と調節とのなんやかんやで、大人しくしてもらってるけども…………
……あれ〜?……なんで知ってる…いや、気づいたのかなぁ?
『よくはわからないけれども、おそらくあの歴代白龍皇は生前、探知能力がかなり優れていたから、それで気づいたんじゃないかしら?探知能力だけなら歴代白龍皇そして赤龍帝ともにずば抜けていたし。
それか、私達があの歴代白龍皇の意識を復活させたから、その時の影響で、同じく私達の力で現世に復活させたエルシャと何らかの理由で感覚が共有して感じ取ったとか、そんな感じじゃないかしら?』
「……それでも、わかるものなのか?」
『いえ、だからわからないわよ。ただ、それ以外しか考えられないわ』
ルーツもどうやらわからないそうだ。……うん。わからないなら、これに関してはあまり深く考えるのはよそう。いまは、イッセーとサイラオーグの試合に集中しなくちゃね。うん!
ちなみに、エルシャを復活させた話は、後に番外編で書きますので、それまではお楽しみです!
クオリティは低いだろうけどね!(`・ω・´)キリッ