はい、すみません!謝りますから、だから石投げないで〜!!
そ、それでは改めまして、ゆっくりしていってね!
1話 昇格のお話
イッセーがリアスさんに告白したあの日かはや数日。
あれから随分と経ちました。イッセーがリアスさんといちゃついたり、光輝兄さんとレイジ兄さんが喧嘩したり、イッセーが悪友に何故かボコられたり、光輝兄さんとレイジ兄さんが喧嘩したり、木場と俺が刀で模擬戦したり、光輝兄さんとレイジ兄さんが喧嘩したり、俺が部隊の新人くんを鍛えて上げたり、光輝兄さんとレイジ兄さんが喧嘩したり、皐月姉さん達とお茶したり、光輝兄さんとレイジ兄さんが喧嘩したり、光輝兄さんとレイジ兄さんがお嫁さんと姉さん達にボコられたり……と、それはそれは、とても短くも長い数日でした。
……いや、本当に本気と書いてマジで疲れましたよ。特に、光輝兄さんとレイジ兄さんの喧嘩が。
なんで喧嘩していたのかって?……それは、こっちが聞きたいですよ。とりあえず、とってもくだらない理由で喧嘩している……とだけ言っときますね。
そして、そんな彼等はこりずに今日も――
「おっしゃー!今日こそ決着つけようか!この愚弟が!!」
「それはこっちのセリフじゃ!愚兄め!! お前の脳みそはその体同様に筋肉になってんじゃないのか?あぁ!?」
「……んだと?――やんのか、阿呆が」
「……脳筋」
「……剣バカ」
「「殺す!!」」
「やめんか!?」
バシィィィン!!
また、一触即発の状態になってたところへ、俺はハリセン(外見が紙で中身鉄製Ver.)でおもいっきり2人の頭を叩いた。
「いてぇじゃねぇか、ツバサ」
「ほんとな、痛いじゃないかツバサ」
「……普通の人なら、中身鉄製のハリセンで頭をおもいっきり叩かれて、痛いじゃすまないと思うんだけど」
ふたりはまるで何事もなかったかのような感じで、頭をさすりながら軽く言った。
そんなふたりを見て、俺は思わず深い嘆息が出てしまった。
「あんまり暴れないでよ。アホか………まったく。」
俺はハリセンを懐にしまい、光輝兄さんとレイジ兄さんの目を見る。
「さて、今日はイッセー達の昇格についての話なんだから、さっさとイッセーの家に行くよ。こんな森の中にいないでさっさと動いた!」
今の時間は夜だ。もうすぐサーゼクスさんが言った集合時間になってしまう。早く行かなければ。
「てなわけで、このまま行きますね〜」
「え!?ちょっ!おま、まっ――」
「ぐふぅ! ままって!?く、首がしまって――」
俺は、両袖から出した鎖で適当に兄さん達を捕まえて、紫さんの能力のスキマを使ってイッセーの家に直接行くのだった。
……途中で何か鳴ってはいけない音が聞こえたけど、気のせいだよね。
――――――――――――――――――――――
場所は変わってイッセーの実家のVIPルーム。そこでは、イッセー含めたグレモリー眷属と、サーゼクスさん、グレイフィアさん、アザゼルがいた。
「――お、ちょうどいいところに来たな。3人とも」
俺達が入ってきたことに気がついた者――アザゼルが俺達を呼んできた。
ちなみに、アザゼルの隣にはサーゼクスさんが座っており、その隣にはグレイフィアさんが座っていた。
その三人の前には、今回の主役であるイッセーと木場と朱乃さんの3人と、その主リアスさんが座っている。
アザゼルが「ここに座れ」とジェスチャーで隣の席を指していたので、俺はアザゼルの隣の席に腰をおろした。光輝兄さんとレイジ兄さんは、アザゼルとサーゼクスさんの間に座らせた。
すると、確認を取ったサーゼクスさんが話を切りだした。
「先日も話した通り、イッセーくん、木場くん、朱乃くんの三名は数々の殊勲を挙げた結果、私を含めた四大魔王と上層部の決定のもと、昇格の推薦が発せられる」
……そういえば、サイラオーグさんとの戦いが終わってすぐにサーゼクスさんから直接イッセーに昇格の話が持ちかけられていたっけ。当の本人はすごく混乱していたけどねぇ…。
あれからもうそんなにも時間が過ぎたんだね〜。本当に時が経つのは早いや。
悪神ロキや『禍の団(カオス•ブリゲード)』と戦っていたことが大きな功績になったらしい。
…少しは手伝っていたとはいえ、俺から見てもリアスさんたちの死線率は相当なものだよね〜。
近くにいるだけでなんか事件に巻き込まれるとか……退屈しないよね〜ほんと。
まぁ、それらが認められて昇格できるとは、直接的には関係の無い俺でも、なんか鼻が高い気分だ。
「昇格なのだが、本来、殊勲の内容から見ても中級を飛び越えて、上級悪魔相当の昇格が妥当なのだが、昇格のシステム上、まずは中級悪魔の試験を受けてもらいたい」
俺はイッセーの狼狽っぷりを見ていて、おもしろさのあまり口をつけていたお茶を吹きそうになった。
アザゼルがグラスのお酒をあおりながら言う。
「イッセーと木場と朱乃は、殊勲だけ考えれば上級悪魔になってもおかしくはないんだが、悪魔業界にも順序があるらしいからな。特に上がうるさいそうでな。おまえらに特例を認めておきながらも順序は守れと告げてきたそうだ。――とりあえず、中級悪魔になって、少しの間それで活動しろ。そのうち、再び上から上級悪魔への昇格推薦状やらが届くはずだ。なーに、中級の間に上級悪魔になったときの計画を本格的に練り出せばいい」
簡単に言ったアザゼルにイッセーが訊き返した。
「ちゅ、中級とか、じょ、上級悪魔……っスか! お、俺にそんな資格があると……?」
サーゼクスさんはイッセーの問いに笑顔でうなずいた。
「うむ。テロリストと悪神ロキの撃退は大きな功績だ。そして先日のバアル戦でも見事な戦いぶりを見せてくれた。何よりもイッセーくんは冥界の人気者『乳龍帝おっぱいドラゴン』でもある。昇格の話が出てもおかしくないのだよ。いや、むしろ当然の結果だろう」
例の特撮番組もポイントになっているらしいね。……あ、そう言えばこの間、『スポンジドラゴン』とかいう洗い場用スポンジを売り出したらしい………何故か、家のキッチンにもあるんだよね。誰が買ったんだろうか?
それに、サイラオーグ戦のときの会話を商品にするところに商魂のたくましさをしっかりと感じ取れたよ。
「昇格推薦おめでとう、イッセー、朱乃、祐斗。あなたたちは私の自慢の眷属だわ。本当に幸せ者ね、私は」
リアスさんは満足そうな笑みを浮かべている。自慢の眷属が評価されて、心底うれしいのだろう。
「イッセーさん、木場さん、朱乃さん、おめでとうございます!」
「うん、めでたいな。自慢の仲間だ」
「中級悪魔の試験とかとても興味があるわ!」
「イッセーくん、昇格推薦おめでとう!」
「ウチも応援してるっすよ~」
「ふむ、おめでとう。私も応援しているぞ」
アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナーレ、ミッテルト、カラワーナの教会と堕天使メンバーも喜んでいる。
……あ、ちなみにだけど、レイナーレにミッテルトにカラワーナの3人は、イッセーの家で専属メイドをしてるよ。主にアーシアの。なんでも、アーシアには特に仲良くしたいから、メイドでいさせてと、本人に頼んだらしいね。だから、いまはイッセーの家で暮らしてるよ。この堕天使3人組は。
「ぼ、僕も先輩に負けないように精進したいですぅ!」
ギャスパーも前向きなコメントをかけている。以前より前向きに、そして明るくなってきているね。
「私も早く昇格して高給で安定した生活が欲しいところです」
ロスヴァイセさんは相変わらず堅実な夢を持っていた。
「ライザーお兄さまのチームではもう太刀打ちできないほどの眷属構成になってしまいましたわね」
と、レイヴェルが言う。…アハハ、確かにね〜。いまのイッセーなら、前使った身体の一部を代価として禁手(バランス・ブレイク)する、あの禁術を使わずとも勝てるね。
「フェニックスのところは長男がトップレベルのプレイヤーじゃないか。あそこのチームはバランスがいい」
アザゼルがそう言う。
「うちの長兄は次期当主ですもの、強くなくては困りますわ。それはともかく、さすがリアスさまのご眷属ですわ。短期間で三人も昇格推薦だなんて。ね、白音さん?」
レイヴェルが白音にそう投げかけた。
「……当たり前。――おめでとうございます、イッセー先輩、祐斗先輩、朱乃さん」
笑顔を見せる白音だが、若干テンションの低い。
……ここ最近だけど、どこか元気のない様子だった。普段通りに接してはいるものの、俺の近くにいるとすごく落ち込んでいるような状態になっていた。
そのことを黒歌に尋ねてみたが…、
『んにゃ…、だいじょうぶよ。誰もが通る道だし、女の子の秘密に男の子が入り込むのはどうかと思うにゃん。つばさはそんな子だったのかにゃん?』
…と、返されてしまった。
そう言われれば俺は何も言えなくなるし、何事もないのなら、そっとしておくべきなのかなぁ〜なんて思ったりしたけど……
……誰もが通る道、女の子、アレ、猫又、獣系妖怪…………まさか――
いや、考えるのはよそう。うん。これ以上は流石にダメだ。まず、人としてアウトだよ。こんなの考えちゃ〜ダメだよね! 忘れよ。うん。忘れよ……否、忘れろ!
……でも、もしも俺の考えてる"これ"が正しければ…………あれ?もしかして、かなり危険?
「ま、その三人以外のグレモリー眷属にも直に昇格の話が出るさ。おまえらがやってきたことは大きいからな。強さって点だけで言えばほぼ全員が上級悪魔クラス。そんな強さを持った下級悪魔ばかりの眷属チームなんざレア中のレアだぜ?」
アザゼルがそう言う。そうなんだよね、他のメンバーにも大いに昇格があり得るってことなんだよ。
なんせ、あれだけの死線を潜り抜けてきているからね…、眷属全員の評価がないわけがない。むしろ、なんで全員一気に昇格じゃないんだって言いたくなるほどだよ。
……それをサーゼクスさんに聞かされた時、あんまりの結果に対して不満を持った、あの皐月姉さんが悪魔の上層部に突撃しようとしたので、家族全員で抑えたのはいい思い出だよ(´-ω-。` )
木場と朱乃が立ち上がり、サーゼクスさんに一礼する。
「このたびの昇格のご推薦、まことにありがとうございます。身に余る光栄です。――リアス・グレモリー眷属の『騎士(ナイト)』として謹んでお受け致します。魔王サーゼクス・ルシファーさま」
「私もグレモリー眷属の『女王(クイーン)』として、お受け致します。このたびは評価していただきまして、まことにありがとうございました」
木場と朱乃さんはサーゼクスさんたち上のお偉い様のご厚意を受ける。
「イッセーくんはどうだろうか?」
サーゼクスさんがイッセーに問う。イッセーも立ち上がり、サーゼクスさんに深々と頭を下げた。
「もちろん、お受け致します!本当にありがとうございます!……正直、夢想だにしなかった展開なので驚いてますけど、目標のために精進したいと思います!リ……部長にも応えられて俺も満足です!!」
リアスさんのことを名前で呼びかけて言い直したイッセーに、サーゼクスさんはイタズラな笑みを浮かべて言う。
「おやおや、イッセーくん。私の手前でもリアスのことは名前で呼んでくれてかまわないよ」
「いえ、しかし……」
かしこまるイッセーに、サーゼクスさんは嬉々として続ける。
「ハハハ、むしろ呼んでくれたまえ!私も嬉しいし、見ていて幸せな気持ちになれる」
「も、もう!お兄さま!茶化さないでください!!」
リアスさんが顔を赤く染め、立ち上がって怒り出した。
「ハハハ、いいではないか。なあ、グレイフィア」
サーゼクスさんがグレイフィアさんに話しを振る。グレイフィアさんはいつもと変わらないクールな表情のまま言った。
「私風情が分に過ぎた事など言えません。……ですが、この場の雰囲気ならば名前で呼び合っても差し支えないかと」
「……グレイフィア……お義姉さままで」
さすがこリアスさんもグレイフィアさんにそう言われれば顔を赤くして黙るしかなかったようだった。そんな様子を見てうんうんとうなずくサーゼクスさん。
「よしよし。それならばついでに私のことも義兄上と呼んでくれてかまわないのだよ!さあ、呼びたまえ、イッセーくん!お義兄ちゃんと!!」
スパン!
その頭部をグレイフィアさんのハリセンが激しく叩く。
「サーゼクスさま、それはこの場ではやり過ぎです。――いずれ。いずれではありませんか」
「……そ、そうだな。性急すぎるのがグレモリーの男子の悪いところかもしれない……コホン」
俺の隣でその様子をゲラゲラと笑って見ていたアザゼルは息を吐くと改めて言う。光輝兄さんとレイジ兄さんは肩を震わしながら笑っているのだが、何故か目線だけはふたりで見つめている。……気のせいか、2人の間で火花が飛び散っているように見えるのは何故だろうか?
「てなわけで来週、イッセー、朱乃、木場の三人は冥界にて中級悪魔昇格試験に参加だ。それが一番近い試験日だからな」
来週ねぇ…。あんまりゆっくりはしていられない期日だね。これから忙しくなりそうだ。……特にイッセーが。
「来週ですか。急ですね」
木場がそう言い、朱乃さんも続く。
「中級悪魔の試験って、確か、レポート作成と筆記と実技でしたわよね?実技はともかく、レポートと筆記試験はだいじょうぶかしら」
その言葉を聞いて不安な表情になっているイッセー。そんな中アザゼルが言う。
「心配するな。筆記は朱乃と木場ならまったく問題ないだろう。悪魔の基礎知識と応用問題、それにレーティングゲームに関することが出されるが、今更だろうしな。レポートは……何を書くんだ?」
アザゼルがグレイフィアさんに問う。グレイフィアさんは立って説明をし出す。
「試験のときに提出するレポートは砕いて説明しますと、『中級悪魔になったら何をしたいか?』と目標と野望をテーマにして、『これまで得たもの』と絡めて書いていくのがポピュラーですね」
ふ~ん、レポートねぇ……。つい最近の研究発表のことを思い出したのだが、あんな大変な思いをしなくていまはいいと思った。……こんな時、隊長という立場である俺は、苦手なレポートをこれでもかというほど書いて、一応上司である兄さん達に渡さないといけないと思うと、ストレスで胃に穴が開きそうだよ。
「なんだか、人間界の試験みたいですね」
イッセーがそう言うと、アザゼルがサーゼクスさんのほうに視線を向けた。
「ま、倣ってんだろう?」
サーゼクスさんがうなずく。
「中級悪魔に昇格する悪魔の大半は人間からの転生者なのだよ。そのため、人間界の試験に倣ったものを参考にして、昇格試験を作成している」
すると、アザゼルはこっちに視線を向けて言った。
「そう言えばさ、光輝とレイジのふたりは社会人なんだし、あの地球連邦軍のトップなんだから、そういうのはあるだろ? それに、ツバサだっていち隊長なんだから、立場上そういうのは経験済みのはずだろう? だから、イッセー、木場、朱乃、このお兄さん達に遠慮なく教えてもらえ」
その言葉にイッセーたち三人の目が輝いてこちらを見つめだす。
「……おいやめろ、その目で俺を見るんじゃねぇ! その前に俺は教える気なんてないし、なにより、さっきグレイフィアが説明したことを中心に考えれば、おのずと思い浮かぶだろうが。
その前に俺はもう二度とレポートに関わりたくはないんだ…」
「右に同じくだ……もう、レポートは見たくもねぇ」
もううんざりだというぐらい、苦しそうな顔でそう言った兄さん達。そんなふたりを呆れて見ながら俺は言う。
「確かにね、立場上、俺はいろいろ研究や調査の報告書やそれに関する事を、物としてレポートはするよ?つい最近だってこの2人に出したばかりだし。 でもね、俺は教える気はないよ。なんてったって、そういうのは自分の意思で考えて書くものだからね。
……てか、そこの愚兄たち………あんたらのレポートの大半が、喧嘩や暴れすぎて壊れた建物や自然の始末書及び反省文でしょうが。殆ど自業自得だろうに。」
その言葉を聞いて、3人とふたりがシュンとしてしまったが…少し言いすぎたかもしれないが、これも一歩大人になるためだと思い、無視をする事にした。……でもイッセー達にはあとで、何かお菓子でも作ってあげよう。甘いものは頭にいいというしね。あと心も落ち着くし。……ん?お兄ちゃん達?知らないね、そんな愚兄さん。このふたりはもっと反省すべきだよ。
すると、アザゼルが膝を叩いてイッセーたちを見渡した。
「何はともあれ、レポートの締め切りが試験当日らしいから、まずはそれを優先だ。だが、イッセー!!」
「は、はい?」
アザゼルがイッセーに指を突きつけて言う。
「おまえはレポートの他に筆記試験のための試験勉強だ!基礎知識はともかく、一週間で応用問題に答えられる頭に仕上げろ! 安心しろよ。おまえの周りには才女、才児がなんでもござれ状態だ」
「任せなさい、イッセー、私がいろいろと教えてあげるわ」
「イッセーくん、僕も改めて再確認したいから一緒に勉強しよう」
「あらあら。じゃあ、私も一緒に勉強ね」
リアスさん、木場、朱乃さんが教えるのなら心強いだろう。
「えーと、じゃあ、実技のほうは?」
イッセーがそう言うとサーゼクスさん、グレイフィアさん、アザゼル、光輝兄さん、レイジ兄さんがきょとんとした顔で見合わせた。
ちなみに、俺も同じくきょとんとしている。
「それは必要ないんじゃないか?」
と、アザゼルがごく当たり前のように言う。
「……それに関しては俺も同感だな。アザゼルに」
アザゼルに続くように光輝兄さんがそう言った。
「え……、でも、俺的に一番得点を稼げそうなところなんでぜひともトレーニングとか欲しいところなんですけど!」
イッセーがそう言ったが、アザゼルは手を横に振った。
「だから、いらないって。ぶっつけ本番にしとけ。そこは試験当日じゃないとわからないかもな。朱乃、木場、おまえらも実技の練習はいらんからレポートに集中しとけよ」
「「はい」」
返事をする朱乃さんと木場。
「まぁ、おまえ達の実力なら実技は余裕だろうからよ。なにより、実技の試験内容は当日にしかわからないからさ、ほっといてもいい。アザゼルの言う通り、取れるものは少しの間何もしなくたって取れるさ。それよりも、筆記のほうを重点にしておけ。特にイッセーはな。そっちが落ちたら、実技でも落ちるぞ?」
光輝兄さんは軽くプレッシャーを3人にかけていた。その中で、イッセーはさらに落ち込んでいた。どうやら、倍以上に不安という精神的ダメージが入っているようだ。
まだ不安に駆られているイッセーは恐る恐る手をあげて質問した。
「あのー、最後にひとつだけ。……まことに恥ずかしい話なんですけど、もし落ちたらどうなるんですか?推薦取り下げですか?」
サーゼクスさんは横に首を振る。
「いいや、そんなことはないよ。一度挙げられた推薦は、仮に来週の試験で落ちても受かるまで何度でも挑戦できる。よほど、素行の悪いことでもない限りは推薦の取り下げは起こらないよ」
その言葉に安堵するイッセー。……どうやら、心拍数、呼吸音共に、正常値へと戻っていっているようだ。
まぁ、誰だってそうはなるよね。
「それに私はイッセーくんが次の試験で合格すると確信している。イッセーくん自身は突然のことで不安かもしれないが、まったく問題ないのではないかな」
魔王様から直々に太鼓判を押されたイッセー。
「俺、頑張ります!絶対に中級悪魔になります!そして、いずれ上級悪魔にもなります!」
気合を入れて宣言するイッセー。
「さて、話がまとまったところで、私は少しばかり出かけようと思います」
そういえば、先ほどから外出用の格好をしているねロスヴァイセさん。
「ロスヴァイセさん、どこに行かれるんですか?」
イッセーが問うと、ロスヴァイセさんは遠くに視線を送るようにして言う。
「――北欧へ。一旦帰ろうと思います」
……いきなりの発言だったので、何も知らない俺と光輝兄さん、レイジ兄さんの3人は首をかしげていた。
「例の件ね?」
リアスさんの言葉にロスヴァイセさんは静かにうなずく。
「ええ、このままでは、力不足だと思いますから。グレモリー眷属は強者と戦う機会が多い。いまのままでは、私は役立たずになりかねません。――『戦車(ルーク)』の特性を高めようと思います」
すると、アザゼルが訊いた。
「ロスヴァイセ、ヴァルハラにアテがあるのか?」
「はい、そちら専門の先輩がいましたので。……ヴァルキリー候補生時代、攻撃魔法の授業を重点に単位を取っていたのがここにきて徒あだになりました」
どうやら、バアル戦後、ロスヴァイセさんも思うことが多かったようで、実力を発揮しきれなかったことを悔いていたようだ。……俺はその時、ちょうど謎の黒いモヤのような生物みたいな変な黒いナニカと戦っていたので、見れていない。
そんな事を考えていると、アザゼルが言う。
「リアスチームのバランスを見ると魔法の使い手はいたほうがいい。できることなら『兵士(ポーン)』か『僧侶(ビショップ)』でロスヴァイセの長所を伸ばしたほうが良かったかもしれないけどな。リアスの眷属は圧倒的に火力が高いが、全体的に見ると防御面が薄く、テクニック――ハメ技にやられやすい。過去、実戦でもゲームでもそれでつけ込まれているからな。要はチーム全体的に脳みそまで筋肉傾向なんだよ。『やられる前にやれ』ってな。それを魔法で補うのはいいことだ」
アザゼルの評価に全員が苦笑いする。リアスさんも恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。
次にサーゼクスさんが言う。
「だが、そちらのほうが好みだというファンはとても多い。戦術タイプのチームやテクニック重視のチームだとひと目では判断が付きづらく、派手さも少なめなためか、玄人のファンが好むからね」
アザゼルもうなずいた。
「だな。リアスとサイラオーグのチームは派手さを売りにしつつ、戦術を高めたほうが将来のプロ戦で盛り上がるぞ」
俺もアザゼルの言葉にうなずいた。
……将来、そんなイッセー達と本気で戦って見たいと思ったのは内緒にしておこう。
「何はともあれ、そのパワーを補う力は必要だ。ロスヴァイセがヴァルハラに行ってもいいんだろう、リアス?」
アザゼルがリアスさんに訊く。
「ええ、自ら伸ばしたい点があるのなら、断る理由はないわ」
リアスさんも合意する。それを見て、ロスヴァイセさんは礼を口にした。
「ありがとうございます。あ、それと学園の中間テストのほうはすでに問題用紙を作成しておきましたのでご心配なく」
ロスヴァイセさんの報告にリアスさんと朱乃さんがうなずいた。
「さすがね」
「そうでしたわね。学園でもそろそろ中間テストの時期ですわ」
俺はそれを聞いて、速攻でイッセーのほうを向いた。
「やべぇ!そうだ、中間テストあるんだった!!べ、勉強あんまりしてねぇぇぇっ!!!」
立ち上がって叫んだイッセー。
……相変わらずだねイッセー。予想通りすぎて、呆れるよ。
俺は同情と哀れみの目をイッセーに向けていた。
すると、イッセーが俺の視線に気づいたのか、目をそらし顔を隠した。
そんな頭を抱えているイッセーをよそにサーゼクスさんがレイヴェルに言う。
「レイヴェル、例の件を承諾してくれるだろうか?」
「もちろんですわ、サーゼクスさま!」
快諾するレイヴェル。
……はて、例の件とは?
「例の件ってなんですか?」
そうイッセーがサーゼクスに訊いた。
「うむ。レイヴェルにイッセーくんのアシスタントをしてもらおうと思っているのだよ。いわゆる『マネージャー』だね」
……へぇ〜、イッセーにマネージャーねぇ。
「……ほっほ〜う、イッセーにマネージャーなぁ。くっくっくっ。なんか面白くなりそうだなぁ」
それを聞いた光輝兄さんはとってもいい顔で笑っていた。……なんか、裏で操ってる悪のボスみたいだ。
そんな中でもサーゼクスさんは続ける。
「イッセーくんもこれから忙しくなるだろう。人間界での学業でも、冥界での興行でも。グレイフィアはグレモリー眷属のスケジュールを管理しているが、それでも身はひとつだ。どうしてもまかなえきれない部分も今後増えるだろう。特に細かい面で。それならば、いまのうちからイッセーくんにはマネージャーをつけるべきだと思ってね。そこで冥界に精通し、人間界でも勉強中のレイヴェルを推薦したのだよ」
…うん、確かにマネージャーがついてくれるなら、あのエッチな事にしか頭を働かせないお馬鹿なイッセーでも、悪魔家業と学校行事の両立ができるよね。しかも、自分で考えなくていいから、少しでも負担が減るし、なにより、レイヴェルはとっても優秀だとあの親バカなレイヴェルの父親にさんざん話を聞かされたから、大丈夫でしょうね。
「さっそくで悪いのだが、レイヴェル、中級悪魔の試験についてイッセーくんをサポートしてあげてほしい」
サーゼクスさんの言葉にレイヴェルは立ち上がり、自信満々に手をあげる。
「わかりました。このレイヴェル・フェニックスめにお任せくださいませ。必ずやイッセーさまを昇格させてみせますわ!さっそく、必要になりそうな資料などを集めてきます!」
言うやいなや部屋を飛びだしていくレイヴェル。
「レイヴェルにとっちゃ、将来の自分の生き方にも大きな意味を持つからな、おまえの昇格は」
などとアザゼルは言う。……ふむふむ。なるほどねぇ〜。そういう事なのか。
「白音、油断しているとおまえの大好きな先輩がレイヴェルに取られちまうぞ?」
アザゼルが白音をあおる。白音はレイヴェルに対抗心を燃やしているので、何かと言うのだが――。
「…………」
とうの白音は顔をうつむけ、心ここにあらずの状態だった。
『………?』
白音の無反応に皆が首をかしげていた…たった一人を除いて。
家族の心配をする俺だが、自身の勘が当たれば絶対に"厄介ごと"だと思う。
そんな空気の中……昇格試験と中間テストのふたつの難題にイッセーは頭を抱えていたのだった。