ハイスクールD×D~最強男の娘の転生物語~   作:三元新

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6話 絶望――そして、希望

バクンッ!!

 

突き飛ばされた私の身代わりにサマエルの舌に飲み込まれるツバサ。

 

「……そ、そんな…こんなの……ウソよ…」

 

私のせいで、ツバサが…つーくんが……。

 

腰に力が入らない私は、その場で座り込んでいた。

 

…無限と称された私は、目の前にいた最愛の二人を守れないなんて……。

 

ふと気付くと、両目から涙が流れ頬を伝っておちていく。ぽとぽと…とロビーの床に染みていく。

 

悔しい、歯がゆい……弱い自分が…何も出来ない自分が――憎い!

 

「オーフィス!ツバサちゃん!返事してくれ!!」

 

イッセーが塊に話しかける。けれど、目の前の塊からの返事はない。

 

私は…どうすればいいの…。

 

何もできない、いまの私は『龍喰者(ドラゴン・イーター)』を眼前に無力だった。

 

「祐斗!斬って!!」

 

リアス・グレモリーの指示で、木場祐斗は手元に聖魔剣を創りだすと同時に黒い塊に斬りかかる。

 

――だけど、黒い塊は聖魔剣を飲み込んで刃先を消滅させてしまう。

 

「……聖魔剣が消された…。この黒い塊は攻撃自体を消し去るみたいですね」

 

確認した木場祐斗は即座に退避する。

 

『『Half Dimension(ハーフ・ディメイション)!』』

 

ヴァーリが背中から光翼、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を出現させると、神器(セイクリッド・ギア)からの音声と共にサマエルの周囲が歪んで、あらゆるものが半分になっていく。

 

けれど、黒い塊とサマエルの舌だけには効果がない。

 

「ツバサ様を――我が愛しき主を返しなさい!!!」

 

つーくんの専属メイドにして、元イザナギ神の護衛者、カンナが炎の塊を頭上に出した。

 

「――ガイアフォース!!」

 

ドォォォンッ!!

 

それを撃ち出して、オーフィスとつーくんを包み込んでいる塊に直撃させた。

 

――だけど、これも飲み込まれてしまう…。

 

「なら、消滅魔力で!」

 

リアス・グレモリーが消滅の魔力を放つ。けれど、それも効いていない…。

 

ゴクンゴクン……。

 

不気味な音を立てて、塊に繋がる舌が盛り上がり、サマエルの口元に運ばれていく…。

 

……それは塊のなかにいるオーフィスとつーくんから吸い取っているみたい。

 

近くでイッセーが素早くせきりゅうていを発現して身にまとう。そして、黒い塊に殴りかかろうとしたとき、アザゼルに制止された。

 

「イッセー!絶対に相手をするな!!おまえにとって究極の天敵だ!ヴァーリどころじゃないぞ!!あれはおまえらドラゴンを簡単に屠ほふれる力を持っているはずだ!それにこの塊はどうやら俺たちの攻撃を無効にする力を持っているらしい!ていうかな、オーフィスやツバサでも中から脱出できない時点で相当にヤバい状況になってんだよっ!相手はドラゴンだが、アスカロンは使うな!龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)相手じゃ何が起こるかわからん!!」

 

「そんなこと言ったって、オーフィスが奴らに捕らえられたら、大変なことになるんでしょう!?」

 

叫ぶイッセーの横でゼノヴィアが素早く飛び出し、デュランダルをサマエルのほうに向けて振り放った。

 

バシュンッ!!

 

それを薙ぎって振り払うもの……そう、あの曹操の聖槍だった。

 

「またキミは開幕からいい攻撃をしてくれるな、デュランダルのゼノヴィア。だが、二度はいかないさ」

 

指を横に振る曹操。

 

「絶妙なタイミングで放ったつもりだが……私の開幕デュランダルはわかりやすいのか?」

 

ゼノヴィアがそうつぶやいた。

 

前回……京都のときに一度、開幕デュランダルを放っているから警戒されていたのだ。

 

「相手はサマエルか。その上、上位神滅具(ロンギヌス)所有者が二人。不足はない」

 

ヴァーリが白い閃光を放って鎧姿となる。

 

皆がそれぞれ戦闘のかまえを取っていく…。

 

だけど、その中で私はまだ座り込んだままだった。

 

「龍巳、レイヴェルを頼んだ。後方で守ってくれ」

 

イッセーがレイヴェルを私に預けてくる。私は力の入らない脚に鞭をうって無理やり立たせた。

 

皆の戦闘態勢を見て、曹操が狂喜に彩いろどられた笑みを浮かべている。

 

「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。何せハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらえていないんだ。ここで決めないと俺たちの計画は頓挫とんざする。ゲオルク!サマエルの制御を頼む。俺はこいつらを相手にしよう」

 

「一人で二天龍と堕天使総督、グレモリー眷属と地球連邦軍のトップ二人を相手にできるか?」

 

「やってみるよ。これぐらいできなければこの槍を持つ資格なんてないに等しい」

 

曹操の持つ精巣がまばゆい閃光を放ち出す!

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

すると、曹操の体に変化が訪れた。神々しく輝く輪後光が背後に現れ、曹操を囲むようにボウリングの球ほどの大きさの七つの球体が宙に浮かんで出現していた

 

曹操が一歩前に出る。すると、同時に囲む七つの球体も宙を移動する。

 

「これが俺の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手(バランス・ブレイカー)、『極夜なる天輪聖王の輝廻槍(ボーラーナイト・ロンギヌス・チャクラヴァルティン)』――まだ未完成だけどね」

 

曹操のその状態を見て、アザゼルが叫ぶ。

 

「――ッ!亜種か!!『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』のいままでの所有者が発現した禁手(バランス・ブレイカー)は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった!名称から察するに自分は転輪聖王とでも言いたいのか!?くそったれめが!あの七つの球体は俺にもわからん!」

 

「俺の場合は転輪聖王の『転』をあえて『天』として発現させた。そっちの方がカッコイイだろう?」

 

……亜種の禁手(バランス・ブレイカー)。私も過去に見てきていたけど、聖槍の亜種は初めて見るわね。

 

私は驚愕の表情をしていたと思う。隣に立っているレイヴェルが心配そうにのぞいてきたから…。

 

ヴァーリがイッセーの隣に並んで言う。

 

「気をつけろよ、二人とも。あの禁手(バランス・ブレイカー)は『七宝(しっぽう)』と呼ばれる力を有していて、神器(セイクリッド・ギア)としての能力が七つある。あの球体ひとつひとつに能力が付加されているわけだ」

 

「な、七つッ!?二つとか三つじゃなくてか!?」

 

「ああ、七つだ。それのどれもが凶悪だ。と言っても俺が知っているのは三つだけだが。だから称されるわけだ、最強の神滅具(ロンギヌス)と。紛れもなく、奴は純粋な人間のなかで一番を争う強い男だ。……そう、人間のなかで」

 

曹操が空いている手を前に突き出す。

 

球体のひとつがそれ呼応して曹操の手の前に出ていく…。

 

「七宝がひとつ。――輪宝(チャッカラタナ)」

 

そう小さくつぶやく。――すると、フッとその球体が消え去った

 

ガシャンッ!

 

音のしたほうを見ると――ゼノヴィアの握っているエクス・デュランダルが破壊されていた。

 

「……ッ!エクス・デュランダルが……ッ!」

 

誰も反応することができなかった。そして、エクス・デュランダルの破壊に呆気を取られてしまっていた。

 

「――まずはひとつ。輪宝(チャッカラタナ)の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練れのみだ」

 

不敵に一言漏らした曹操。次の瞬間――。

 

ブバァァッ!!

 

ゼノヴィアの体から鮮血が噴き出していた。

 

「ごぶっ」

 

口から血を吐き出し、その場にくずれおちるゼノヴィア…。

 

――その腹部には貫かれた穴がある…さっきの球体で貫かれていたのだろう。

 

「ついでに輪宝(チャッカラタナ)を槍状に形態変化させて腹を貫いた。いまのが見えなかったとしたら、キミでは俺には勝てないな、デュランダル使い」

 

曹操の一声を聞き、皆がその場から散開する。

 

「ゼノヴィアの回復急いで!アーシア!!」

 

リアス・グレモリーがすぐに反応してアーシアに回復の指示を出す。アーシアは呆然と倒れ込むゼノヴィアを眺めていたけれど、正気を取り戻してゼノヴィアに駆け寄る。

 

「ゼノヴィアさんッ!いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

アーシアが泣き叫びながら回復を始めた。

 

怒りに包まれたイッセーと木場が曹操に飛びかかっていく。

 

そんな二人の表情は憤怒に彩られていた。

 

「曹操ォォォォォォォッ!!」

 

「許さないよッ!」

 

二人の同時攻撃。

 

だけど、曹操はそれらを聖槍で軽々とさばいていき、また球体のひとつを手元に寄せた。

 

「――女宝(イッティラタナ)」

 

その球体が二人の横を高速で通り過ぎて、リアスや朱乃たちのもとに飛んでいく。リアスたちが反応してその球体に攻撃を加えようとしたとき――

 

「弾けろッ!」

 

曹操の言葉に反応して球体が輝きを発して、リアス・グレモリーたちを包み込んでいく!

 

「くっ!」

 

「こんなものでっ!」

 

リアスたちはまばゆい光に包まれながらも攻撃しようとした。

 

…しかし、リアスたちは手を突きだしたまま……。

 

……周囲を見ると、カンナの魔法が解除されていたり、アリアの魔術防御壁がなくなっていたりしていた。

 

「女宝(イッティラタナ)は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限りは無効化できない。……勘の鋭い者もいるようだが」

 

曹操の発言にリアスや朱乃たちは驚く。

 

「……ふぅ、間一髪逃れた」

 

私の周囲に着地する人影…。つーくんの双子の姉、結城優子のユーちゃんだ。

 

「なかなか危ないものをしてくるじゃない。……まったく――ふざけないでよね?」

 

優子は曹操にたいし、絶対零度の暗い瞳で見ていた。正直いって怖い。

 

曹操は高笑いする。その表情は完全に戦いを楽しんでいるものだった。

 

「ふふふ、この限られた空間でキミたち全員を倒す――。派手な攻撃はサマエルの繊細な操作に悪影響を与えるからな。出来るだけ最小の動きだけで、サマエルとゲオルクを死守しながら俺一人で突破する!なんとも最高難度のミッションだッ!!だが――」

 

金華とルフェイが手に魔力、魔法の光を煌きらめかして、サマエルとゲオルクのほうに突きだしていた。

 

そこにも曹操の球体のひとつが向かう。

 

「ちょこざいにゃん!!」

 

金華がもう片方の手を球体に突きだして迎撃しようとしていた。

 

「――馬宝(アッサラタナ)、任意の相手を転移させる」

 

その曹操が発言したと同時に金華とルフェイの姿がその場から消えた。

 

すると、視界の隅に金華とルフェイが出現していた。

 

手を突き出したままの金華とルフェイ。

 

その手の先には、ゼノヴィアを回復させるアーシアがいる。矛先を変えられてしまった

 

「ふざけるなよォォォォッ!『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニック・ブーストナイト)』ッ!」

 

『Change Star Sonic(チェンジスターソニック)!!!!』

 

イッセーは瞬時に内の駒を切り替えて、誰よりも速くアーシアのもとに飛び出していった。

 

高速でアーシアの前に到着して、彼女の壁になる…。

 

ドドドドドドドドドドォォォォォォオオオオンッ!!

 

けたたましい轟音と共にイッセーに直撃していく二人の魔法攻撃。

 

「がはっ……!」

 

多量の血を吐きだしたイッセー。鎧も装甲を薄くしたために、胸部から腹部にかけて致命傷を受けていた。

 

力なく倒れていくイッセー。曹操は嘲笑するような笑みを見せていた。

 

「赤龍帝、キミの力はもう知っている。バアル戦では不安定で強力な能力にも目覚めたようだが――。やりようなんていくらでもあるさ。トリアイナのコンボは強力だ。だが、一瞬だけ内の駒を変更するところにタイムラグがある。それを踏襲とうしゅうした攻撃方法で攻めれば俺なら潰せるんだ。――攻略法が確立すれば数手でキミを詰められるよ」

 

…まさか、すべてが計算された動きだったの…!?

 

私は曹操の――人間のそこの知れない能力に畏怖していた。

 

「ヴァーリィィィィッ!俺に合わせろッ!!」

 

「まったく、俺は単独でやりたいところなんだがな……ッ!」

 

毒づくヴァーリとアザゼルは曹操に向けて飛び出していった。

 

アザゼルの持つ光の槍とヴァーリの魔力のこめた拳が同時に撃ち込まれる。

 

「堕天使総督と白龍皇の競演!これを御すことができれば俺はさらに高みを目指せるなッ!!」

 

嬉々としてその現状を受け入れる曹操はアザゼルとヴァーリの高速で撃ち込まれていく攻撃を既すんでで避けていた。もう、人間という領域を超越してしまっている状態だわ…。

 

「力の権化たる鎧装着型の禁手(バランス・ブレイカー)は莫大なパワーアップを果たすが――、パワーアップが過剰すぎて鎧からオーラが迸り過ぎる!その結果、オーラの流れに注視すれば、次にどこから攻撃が来るか容易に把握しやすいッ!ほら、手にしている得物や拳に攻撃力を高めるため、オーラが集中するからねッ!」

 

曹操が二人の攻撃を避けながらそう告げる。

 

すると、曹操の右目が金色の輝きを放ちだす。

 

「邪視(イーヴィル・アイ)というものをご存じかな!?そう、眼に宿る特別な力のことだ!俺もそれを移植してね!!赤龍帝にやられ失ったものをそれで補っている!俺の新しい眼だ!!」

 

アザゼルとヴァーリの攻撃を避ける曹操は視線を下に向ける。突然、アザゼルの足下が石化していく…。

 

「――メデューサの眼かッ!」

 

眼の正体に気づいたアザゼルは舌打ちをする。

 

メデューサ……私と同じ蛇の眼なら、サマエルの影響があるはず…。

 

ドズンッ!

 

鈍い音と共にアザゼルの腹部に聖槍が突き刺ささる。

 

黄金の鎧は聖槍に難なく砕かれて、アザゼルの鮮血が迸った!

 

「……ぐはっ!……なんだ、こいつのバカげた強さは……ッ!」

 

アザゼルは口から大量の血を吐き出してくずれおれていく。

 

曹操は槍を引き抜きながら言った。

 

「いえ、あなたとは一度戦いましたから、対処はできてました。――その人工神器(セイクリッド・ギア)の弱点はファーブニルの力をあなたに合わせて反映できていない点です」

 

「アザゼルッ!おのれ、曹操ォォォォォォッ!!」

 

アザゼルがとられてしまったことに激昂したヴァーリが曹操に極大な魔力の塊を撃ち放っていた。

 

「両親にバケモノとされて捨てられたキミを唯一拾って力の使い方を教えたのがアザゼル総督だったかなっ!?育ての恩人をやられて激怒したか!!」

 

ヴァーリの撃ちだした魔力の一撃のもとに球体のひとつが飛来していく。

 

「――珠宝(マニラタナ)、襲いかかってくる攻撃を他者に受け流す。ヴァーリ、キミの魔力は強大だ。当たれば俺でも死ぬ。防御も厳しい。――だが、受け流す術すべならある」

 

ギュゥゥゥゥゥンッ!!

 

ヴァーリの魔力が球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていく――。

 

キュポンッ!

 

すべてを吸い取った渦は消失して――

 

白音の前方に新たな渦が発生した!

 

「バカ、なんで避けないの!白音ッ!」

 

黒歌が悲鳴を上げて白音の前に立って壁となって――。

 

ゴバアァァァァッァァァァァァンッ!

 

爆音がロビー内を駆け回った!!

 

白音の目の前で黒歌は瞑っていた目をゆっくりと開けて、目の前の光景に驚いていた。

 

曹操に受け流されたヴァーリ魔力の一撃を受けていたのは――黒歌の目の前で盾になっていた金華だったから!

 

血を噴き出して、煙を上げて倒れていく金華。白音と黒歌がすぐその体を抱き留める。

 

「……し、白音、なに、ちんたらしてんのよ……」

 

消え入りそうな声音で言った金華。白音が首を横に振って叫ぶ。

 

「……き、金華姉さまッ!」

 

黒歌は仙術を使って回復を試みている。

 

「金華!しっかりしなさいっ!!」

 

「曹操――、俺の手で俺の仲間をやってくれたな……ッ!」

 

怒りのオーラを全身にたぎらせているヴァーリ。

 

「ヴァーリ、キミは仲間想いすぎる。まるでそこで無様に転がる赤龍帝のようだ。――二天龍はいつそんなにヤワくなった?それと、俺の七宝のいくつかを見たことのあるキミが、能力が把握しづらいのはわかっているよ。――キミに見せていない七宝でわざわざ攻撃しているからな。良かったな?これで七宝のすべてを知っているのはキミだけになったぞ」

 

「では、こちらも見せようかッ!我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし――」

 

ヴァーリが『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の呪文を唱え始めた!それを察したようで、曹操がゲオルクに叫ぶ。

 

「ゲオルクッ!『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』はこの疑似空間を壊しかねない!」

 

「わかっている――。サマエルよ!」

 

ゲオルクが手を突き出して魔方陣を展開させると、それに反応してサマエルの右手の拘束具が解除されてしまう!!

 

『オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオンッ』

 

不気味な声を発して、サマエルの右手がヴァーリに向けられる。

 

ブゥゥゥゥンッ!

 

空気を震撼させる音と同時にヴァーリが黒い塊に包み込まれていく。

 

『オオオオオォォッォォォォォオオオォォォォォオオオッ』

 

サマエルが吼えると黒い塊が勢いよく弾け飛んでいった…。

 

バシュンッ!!

 

弾け飛んだ塊の中からヴァーリが解放される。――解放と同時に鎧は塊と共に弾け飛んで、体中から大量の血が飛び散っていく…。

 

「……ゴハッ!」

 

ロビーの床に倒れ込むヴァーリ。

 

「どうだ、ヴァーリ?神の毒の味は?ドラゴンにはたまらない味だろう?ここで『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』になって暴れられてはサマエルの制御に支障をきたすだろうから、これでカンベンしてもらおうか。俺は弱っちい人間風情だから、弱点攻撃しかできないんだ。――悪いな、ヴァーリ」

 

「……曹操……ッ!」

 

憎々しげに曹操を見上げるヴァーリ…。

 

「さて、そろそろ頃合いかな?ゲオルク、どれだけ取れた?」

 

曹操はゲオルクにそう訊く。

 

「……オーフィス、結城翼、共に四分の三強ほどだろうな。大半と言える。予定外の収集ができたのはいいが、そろそろサマエルを現世に繋ぎ止められなくなってきている」

 

そう漏らすゲオルクの後方でサマエルの魔方陣の輝きが薄れてきていた。

 

「上出来だ。そうだな、無限の存在は後々厄介になるかもしれない…ゲオルク、もう少しいけそうか?」

 

うなずいた曹操は、肩に槍をトントンさせながらゲオルクに訊く。

 

「少しならいけそうだ。やれ、サマエル!!」

 

『オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオンッ』

 

再び不気味な声を発して、サマエルの右手が私に向けられた!

 

私はギュッと目を瞑った。サマエルを相手に私は何もできない…そう、抵抗さえも。

 

私は死を覚悟した………

 

………………あれ? 何も…こない?

 

「――まだだ、まだ、あきらめるには早いんじゃないの?――龍巳」

 

聞き覚えのある声が、私の目の前に聞こえた…。

 

私は不安を忘れ、目を開けるとそこには――。

 

「――っ。ツバサ!!」

 

私の大切な家族にして、最愛の人が私の目の前に立っていたのだった――。


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