あれから俺は自力で脱出し、龍巳の前に現れた直後――サマエルの攻撃に向けて、右腕を払って相殺した。
いまの俺の挙動に驚いている曹操とゲオルク。……サマエルの攻撃を払い退けたからな。
――俺は意識が少し飛びかけているのを確認した…どうやら禁術の反動がきたようだ。
「…どうやって抜け出した?サマエルの…神の毒の中から。……それに――」
"その姿はなんだ?"……と、曹操が聞いてきた。
俺のいまの姿は、とある脇が出ている巫女服に狐面を付けた姿だ。いっけんなんてことの無い姿に見えるが……
曹操がいってるのはそこじゃない。では何処か? それは簡単な話だ。
その理由は姿。正確には全身。いま、俺の全身は全てが赤黒く不気味に光っている。
巫女服に狐面も同じ色に染まっているのだ。
禁術符『無想天生・災禍』
それが、俺の創り出したスペルカードの1つ。巨大で圧倒的な力を出す代わり、意識の半分以上を持っていく凶悪な技だ。
コレを使うと軽くバーサーカーモードとなり、なりふり構わず暴れまくる。いまは、それ程ではないが、あともう少し続くと、完全に意識はなくなり俺は無意識に暴れまくるだろう。
……それまでになんとか、決着をつけたいものだ。
「……お前、その姿は――」
「大丈夫。まだ、大丈夫だよ兄さん。……そう、まだ…ね。」
光輝兄さんが言おうとしたので俺は止めた。うん。大丈夫だから心配しないで。
……でも、もしもの時は…お願いね?
「さぁ、曹操。俺はお前達にとても腹が立っている。こうして話しているだけで怒りが爆発しそうだよ。だから無駄話は終わりだ。――あとは、わかるよね?」
俺は不敵に微笑む。……まぁ、仮面をしているのでわからないだろうが。
「――ああ、そうだな。ゲオルグ!」
「おう。……いけ、サマエル」
『オオオオオォォッォォォォォオオオォォォォォオオオッ』
ゲオルグの指示にサマエルが腕を振り下ろし攻撃をしてくる。
そんなサマエルまで、俺は飛んだ。
「曹操!俺達も忘れてもらっちゃ困るぞ!――行くぞレイジ!!」
「おう!」
向こうでは光輝兄さんとレイジ兄さんが曹操とゲオルグまで走っていた。
「ゲオルグ。あの2人は俺に任せろ。だからお前はアレの制御に集中してくれ」
「了解した」
曹操とゲオルグが喋っている。どうやら曹操が1人で兄さん達を相手するようだ。
「……ほう。俺たち2人を貴様たった1人で相手するのか。……ずいぶんと舐められたものだな」
「ああ、確かにあなたがた2人は強い。――しかし、結城家で強いのはあくまでもあのサマエルと戦っている『結城の巫女』だ。あなたがたは所詮はただの人の子。英雄の血を引くオレにとっては恐れるに足りないからな」
曹操はまるでバカにするようにそう言った。
……あーあ。よりにもよって、1番しちゃダメなことしちゃったねぇ。曹操。こりゃ〜、勝ちは決まったものだな。
「…………くははは。本当にずいぶんと面白いことを言ってくれる。俺は人の子?確かにそうだ。結城家最強はツバサ?それもそうだ。……だがな、曹操。貴様は1つ大きな間違いをおこしている」
「――なに?」
光輝兄さんの言葉に曹操は怪訝な顔をした。
……おっと、よそ見していたらサマエルの毒に当たりかけるところだったよ。危ない危ない。
「それはな―――俺もそこにいるレイジも、結城家の者は皆、"化け物"揃いだってことよ!!」
バギィィィィィン――
そう言った瞬間、空間が割れた。
――そう、本当に破れたのだ。物理的に
「――は?」
「――我が名は結城光輝。結城家 当主にして、地球連邦軍の総司令官なり! 」
そう叫んだ瞬間、光輝兄さんの体から尋常じゃないほど赤いオーラがほとばしる!
「我が力をとくと見よ!!!」
赤オーラが兄さんの上で集まり塊となった。その塊は徐々に形を変えていき……人形となる。
まるでその姿は全身を赤き鎧に纏った巨人。その大きな拳から繰り出される力は絶大だろう。
「『化身・アストラル』……我が力の集合体"化身"。我が力の形をなしなものよ!――さぁ、小僧。貴様に我が一撃、受ける勇気があるか?」
光輝兄さんは曹操に不敵に笑う。
「――ッ!? 馬宝(アッサラタナ)!!!」
曹操がとっさに宝玉の1個を飛ばすが――
「――無駄だ」
キィィィン――
その前にでたレイジ兄さんに防がれた。
「な、なんだと!? それより、何故防げる!!」
曹操が驚愕した声でレイジ兄さんに怒鳴る。
「……ふん。俺の相棒のそんじゃそこらの刀と一緒にするな。それに、コイツは武器じゃない。武器の姿をした精霊だ。――だから、武器破壊といった類のものは効きやしない。」
「くっ!だったら――っ!?」
「おりゃぁ!!」
ズドンっ!!!
曹操はレイジ兄さんに追撃しようとしたが、横から現れた光輝兄さんの攻撃をとっさに交わした。
「オラオラオラどうした!!!好きだらけだぞ?曹操さんよぉーー!!!!!」
光輝兄さんはそのまま曹操に連続の追撃を行った。
「クハハハハハハ」
……もはや、どっちが悪役かわからなくなってきた。
「さぁ、この一撃に耐えられるかな?」
――『滅ノ神威』
光輝兄さんが静かにそう呟いた瞬間――凄まじい勢いで化身・アストラルから鉄槌が振り下ろされた。
ドオオオオオオオオオオオンッ――
振り下ろされた鉄槌の威力は凄まじく、地面を叩き割りクモの巣のように地面がひび割れ砕けた。
「――ぐぅ。とっさに馬宝(アッサラタナ)を使わなければ、殺られるところだった」
どうやら曹操の使う馬宝(アッサラタナ)は相手だけではなく自分も転移できるようだ。
「……どうした。来ないのか?」
「――っ!!」
ふふふ、光輝兄さんもレイジ兄さんも熱く燃えてるじゃないのさ。
――そんじゃ、俺も少しは殺る気を出しますかね〜。
『オォォオオオオォォォオオ!!!!!』
サマエルが薙ぎ払うように腕を振ってくる。しかし俺はそれを紙一重で避けて――
「たりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
ズドンッ!!
俺はカウンターで、サマエルの拳を俺の拳で合わし、振り払う力を倍にして打ち返した。
『オオオオォォォオオオォォ――』
ズズーーン!
その衝撃は凄まじく、サマエルはそのまま仰け反り、地面に倒れた。
「な、なに!?」
近くでまた曹操の驚愕した声が聞こえてきた。
「――曹操!サマエルの制御が効かなくなった!すぐに封印する!!」
ゲオルグの叫びが聞こえる。
どうやら俺のカウンターに対して暴走状態と化したらしい。サマエルがゲオルクのいうことをきかなくなっているようだ。
俺との相対でサマエルの舌から解放されていたオーフィス。神速でオーフィスを奪取したレイジ兄さんは、龍巳のもとにオーフィスをおく。
『オォォォォォォオオオオォォォ……』
サマエルは苦悶に満ちた呻き声を発しながら、魔方陣のなかへ消えていく。そして、その魔方陣も消滅していった。
俺の体は徐々に闇が消えるように解呪して元の博麗の巫女服の姿に戻った。狐面は顔からとり、頭の右側に付ける。
「――くぅ」
やはりその反動は大きいため、俺は片膝を床について呼吸を整えていた。
龍巳の傍にいるオーフィスは曹操に視線を向ける。
「我の力、奪われた。これが曹操の目的?」
曹操は愉快そうに笑む。
「ああ、そうだ。オーフィス。俺たちはあなたを支配下に置き、その力を利用したかった。だが、あなたを俺たちの思い通りにするのは至難だ。そこで俺たちは考えを変えた」
曹操が聖槍の切っ先を天に向ける。
「あなたの力をいただき、新しい『ウロボロス』を創りだす」
「――ッ!……そうか!サマエルを使ってオーフィスの力を削ぎ落とし、手に入れた分を使って生み出す――。……新たなオーフィスか」
血を吐きながら言ったアザゼルの言葉にうなずく曹操。
「その通りですよ、総督。我々は自分たちに都合の良いウロボロスを欲したわけだ。グレートレッドは正直、俺たちにとってそこまで重要な存在でもなくてね。それを餌にご機嫌取りをするのにもうんざりしたのがこの計画の発端です。そして、『無限の存在は倒し得るのか?』という英雄派の超常の存在に挑む理念も試すことができた」
「……お見事だよ、無限の片方の存在をこういう形で消し去るとはな」
「いえ、総督。これは消し去るのとはまた違う。やはり、力を集めるための象徴は必要だ。オーフィスはその点ではすぐれていた。あれだけの集団を作り上げるほどに力を呼び込むプロパガンダになったわけだからね。――だが、考え方の読めない異質な龍神は傀儡かいらいにするには不向きだ」
「……人間らしいな。実に人間らしいいやらしい考え方だ」
「お褒めいただき光栄の至りです、堕天使の総督殿。――人間ですよ、俺は」
曹操はアザゼルの言葉に笑みを見せる。
ゲオルクが満身創痍のイッセーたちに視線を向けた。
「曹操、いまならヴァーリと兵藤一誠をやれるけど?」
「そうだな。やれるうちにやったほうがいいんだが……。どちらもあり得ない方向に力を高めているからな。将来的にオーフィス以上に厄介なドラゴンとなるだろう。だが、最近もったいないと思えてなぁ……。各勢力のトップから二天龍を見守りたいという意見が出ているのもうなずける。――今世に限って、成長の仕方があまりに異質すぎるから。それは彼らに関わる者も含めてなんだが……データとしては極めて稀な存在だ。神器(セイクリッド・ギア)に秘められた部分をすべて発揮させるのは案外俺たちではなく、彼らかもしれない」
そこまで言う曹操は…輪後光と七つの球体を消失させ、禁手(バランス・ブレイカー)を解除する。俺を一瞥して、踵きびすを返し、ロビーをあとにしようとしていた。
「やっぱり、止めだ。ゲオルク、サマエルが奪ったオーフィスと結城翼の力はどこに転送される予定だ?」
「本部の研究施設に流すよう召喚するさいに術式を組んでおいたよ、曹操」
「そうか。なら俺は一足早く帰還する」
……二人はこの禁術の力を把握しきっていない。取られたのはオーフィスの力だけであって、俺の力は0.1%たりとも取られてはいないからね。
それに、それがなくても力は奪われない。結城家の巫女にして博麗の巫女の結界の力、そんでもって神龍(ドラゴン・マスター)舐めんなよ?
帰ろうとしている曹操に、ヴァーリが全身から血を垂れ流しながらも立ち上がって問いかけた。
「……曹操、なぜ俺を……俺たちを殺さない……?禁手(バランス・ブレイカー)のおまえならばここにいる全員を全滅できたはずだ……。女の異能を封じる七宝でアーシア・アルジェントの能力を止めればそれでグレモリーチームはほぼ詰みだった」
一旦足を止めた曹操が言う。
「作戦を進めると共に殺さず制御する縛りも入れてみた……では納得できないか?正直話すと聖槍の禁手(バランス・ブレイカー)はまだ調整が大きく必要なんだよ。今回のそこの二人との戦いでも多くの欠点があったんでね。だから、この状況を利用して長所と短所を見極めようってね…。それと、グレモリーの眷属が全滅しようと、そこの結城家メンバーは全滅しないと思っているからね」
「……舐めきってくれるな」
「ヴァーリ、それはお互いさまだろう?キミもそんなことをするのが大好きじゃないか」
曹操がヴァーリにそう言った。しかし、肩の息は荒く、体が少し震えていた。……相当、ダメージが食らったようだね。
曹操が自身に親指を指し示す。
「赤龍帝の兵藤一誠。何年かかってもいい。俺と戦える位置まで来てくれ。将来的に俺と神器(セイクリッド・ギア)の究極戦ができるのはキミとヴァーリを含めて数人もいないだろう。――いつだって英雄が決戦に挑むのは魔王か伝説のドラゴンだ」
……俺って、その数人に入っているんだろうから…魔王かドラゴンになるのか?……あ、神龍(ドラゴン・マスター)だから、ある意味ドラゴンなのかな?
曹操がゲオルクに言う。
「ゲオルク、死神(グリムリッパー)の一行さまをお呼びしてくれ。ハーデスは絞りカスのオーフィスのほうをご所望だからな。……それと、ヴァーリチームの者がやってみせた入替転移、あれをやってみてくれ。俺とジークフリートを入れ替えで転移できるか?あとはジークフリートに任せる」
「一度見ただけだから、うまくいくかわからないが、試してみよう」
「さすがはあの伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」
「……先祖が偉大すぎて、この名にプレッシャーを感じるけども。まあ、了解だ。曹操。……それとさっき入ってきた情報なんだが……」
ゲオルクが何やら険しい表情で曹操に紙切れを渡す。それを見た曹操の目が細くなっていく…。
「……なるほど、助けた恩はこうやって返すのが旧魔王派のやり方か……。いや、わかってはいたさ。まあ、十分に協力はしてもらった」
……そのやり取りのあと、ゲオルクは魔方陣を展開させてどこかに転移していった。
曹操が俺たちのほうを振り返る。
「ゲオルクはホテルの外に出た。俺とジークフリートの入替転移の準備中だ」
あぁ…あのフェンリルとヴァーリを入れ替えた転移法のことね…。
曹操は俺たちに告げる。
「まあいい。ひとつゲームをしよう、ヴァーリチームとグレモリーチーム、それと結城家。もうすぐここにハーデスの命令を受けてそのオーフィスを回収に死神の一行が到着する。そこに俺のところのジークフリートも参加させよう。キミたちが無事ここから脱出できるかどうかがゲームのキモだ。そのオーフィスがハーデスに奪われたらどうなるかわからない。――さあ、オーフィスを死守しながらここを抜け出せるかどうか、ぜひ挑戦してみてくれ。俺は二天龍に生き残って欲しいが、それを仲間や死神に強制する気はさらさらない。襲い来る脅威を乗り越えてこそ、戦う相手に相応しいと思うよ、俺は」
それだけ言い残し、曹操はこの場を去っていった。
「やれやれ。威勢のいい餓鬼だ。俺のあんな程度の攻撃であそこまで息がきれていてはまだまだ相手にならんな」
隣で光輝兄さんが┐(´д`)┌といった感じでバカにしていた。
そんな余裕な光輝兄さんを見てその場にいた全員が苦笑したのだった。
今回はいろいろありましたね! ちなみに、アストラルは白猫プロジェクト、ルウシェさんの力ですね! 詳しく知りたい人はググってみてね♪
あと今回新しくでた、『無想天生・災禍』のモデルは『東方二次創作 東方幼霊夢』から『先代の博麗の巫女ことかーちゃん』が使う無想天生をイメージモデルにしました! これも、詳しく知りたければググルが良い!
痛い!? ご、ごめんなさい! だから石を投げな――うきゃーー!? 刃物はダメだよ!?
……ぜぇ、ぜぇ、ゴホゴホ。
そ、それでは、また次回まで、バイバ〜イ♪