「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)?」
イッセーがリアスさんの言葉に疑問を持って言う。
俺たちは部室でハーフヴァンパイアこと『女装ギャスパー』の今後について話し合っていた。
「そう。それがギャスパーの持っている神器の名前。とても強力なの」
今は、イッセー達の新米はギャスパーのことがわからないのでリアスさんが説明してくれている。
「しかし、そんな強力な神器を持った奴をよく部長の下僕にできましたね。しかも駒ひとつ消費だけで済むなんて」
イッセーの言葉に部長さんは一冊の本を出現させあるページを俺たちに見せた。
「『変異の駒(ミューテーション・ピース)』よ」
リアスさんがそう言うと木場が答える
「通常の『悪魔の駒』とは違い、明らかに駒を複数使うであろう転生体が、ひとつで済んでしまったりする特異な現象を起こす駒のことだよ」
「だいたい上級悪魔の十人に一人は持っているのよ。私は運よく一つ有していたの。それをギャスパーに使ったわ」
なるほど…、そういえばサーゼクスさんが、上級悪魔には一つ変異の駒があるんだよって言ってましたね。
「問題はギャスパーの才能よ」
「部長、どういうことですか?」
「彼は類希な才能の持ち主で、無意識のうちに神器の力が高まっていくみたいなの。そのせいか、日々力が増していってるわ。上の話では将来的に『禁手』へ至る可能性があるという話よ」
ふ~ん…。なるほど、なるほど…。だから、あの時リアスさんは『まだこの子がこれくらいの時の力をだしたなら動けるようにわなったわ。でも、流石にこれ以上は無理だけどもね』なんて事を言ってたんだね。
確かに『停止世界の邪眼』なら、どんなものでも時を止める事ができますもんね。それが、感情の高鳴りで神器の制御ができていないのなら、封印されてもおかしくありませんでしたね。
「…………うぅ、ぼ、僕の話なんてして欲しくないのに………」
俺の近くには段ボールが置かれておりその中にギャスパーがいる。
「私や朱乃は三すくみのトップ会談の会場打ち合わせをしてくるから。それと祐斗、お兄さまがあなたの禁手について詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい。つばさとイッセー達はギャスパーをお願いね」
「了解しました」
そして俺達でギャスパーの引きこもり脱出計画が始まるのだった。
「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだよ」
「ヒィィィッ!デュラダルを振り回しながら追いかけてこないでぇぇぇぇぇッ!」
夕方の時間帯でゼノヴィアがデュランダルを振り回しながらギャスパーを追いかけまわしている。ゼノヴィア曰く「健全な精神は健全な肉体から」らしく、ギャスパーを鍛えることに決めたらしい。
まぁ~、確かに悪魔に大ダメージを受けるデュランダルならば、逃げる以外ないですが、吸血鬼も光が弱点なので、たとえハーフだとしても、半分は吸血鬼の血が流れているから、当たると普通の悪魔と比べてダメージが悪魔と吸血鬼の影響で1.5倍になってしまいますよ?
まぁ、そのおかげで?ギャスパーも必死にトレーニングに励んでくれているからよしとするかな。
でも、危なくなったらさすがに止めなくてはいけませんね。それに引きこもりに無理やり何かをさせるのもいいことだし、ちょっとこのままにしておきましょうか。
「………ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」
「いやぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅ!」
小猫ちゃんはニンニクを持ってギャスパーを追いかけていた。
それにしても珍しいね、小猫ちゃんがギャスパーをいじめているなんて…仲が良いからかな?
「おーおー、やってるやってる」
そこへ、軍手をし花壇用のシャベルを持っているジャージ姿の匙がいた。
「おっ匙」
「よー、兵藤、つばさちゃん。引きこもり眷属がいるとかって聞いてちょっと見に来たぜ」
「ああ、あそこだ。ゼノヴィアに追い掛け回されているのがそうだぜ」
「おいおい、ゼノヴィア嬢、伝説の聖剣豪快に振り回しているぞ?いいのか、あれ。おっ!てか、女の子か!しかも金髪!」
「残念、あれは女装少年ですね」
俺が真実を教えると匙はガッカリして地面にたれていた。
「そりゃ詐欺だ!てか、女装って誰かに見せたいためにするものだろう?それで引きこもりって矛盾すぎるぞ。難易度が高いなぁ」
「それは俺も思ったよ。本人によるとかわいいからだそうだ。そういえば匙、お前見た感じ花壇の手入れしているような格好だけど仕事しなくていいのか?」
「ちょっと見に来ただけだよ。すぐに戻らなきゃならねぇし、それに今度魔王さま方もここにいらっしゃる。学園をキレイに見せるのも生徒会の『兵士(ポーン)』たる俺の仕事だ」
匙は胸を張って言った。でも、それって雑用じゃ…。まぁ、本人がいいのだから別にいっか……
「へぇ。魔王眷属の悪魔さん方はここに集まってお遊戯しているわけか」
俺たちは声のした方へ振り向くと浴衣を着た男性アザゼルがいた。
「アザゼル……ッ!」
「よー、赤龍帝。あの夜以来だな」
イッセーが逸早く反応する。
そう。いま俺たちの前にいるのは堕天使側のトップ、アザゼルだ。
俺以外の他の皆はアザゼルの登場に、この場の全員が構えをとる。イッセーと匙も神器を出現させる。
まぁ…、俺は別に構えをとるつもりはないですがね~
「やる気はねぇよ。ほら、構えを解きな。そこの人間の方がよくわかってるぜ。おまえたち下級悪魔くんたちが束になっても俺に勝てないのはなんとなくわかるだろう?まあ、コカビエルを倒したっていう人間ならどうか知らねぇけどな。それより、聖魔剣使いはいるか? ちょっと興味があったんだが」
全員構えを解くことない中、イッセーが答える。
「木場ならいないさ! 木場を狙っているならそうはさせない!」
「まったく……。おまえじゃまだ相手にならねぇっての。はぁ~、たく、めんどくせーな」
アザゼルは面倒くさそうにしていた。
「あっ…。アザゼルじゃん。お久しぶり~」
「おう、つばさ。直接会うのは久しぶりだな」
俺の言葉に全員がビックリした表情となる
「つ、つばさちゃん!?アザゼルの事を知ってるのか!?」
すると、イッセーが叫びながら聞いてきた。
「知ってますよ?てか、仕事の関係でちょくちょく会ってますしね。兄さんがこの堕天使の総督と友達ですからね。それに、兄さんはこの人だけではなくて、天使長に四大魔王様たちともお友達ですしね~」
俺の言葉にさらに驚かれた。まぁ、あたりまえか
「な!?ま、マジかよ……」
あはは~、まぁ~がんばれーイッセー。
「ふはは!それが結城家の人間だからな。それと………」
「そこで隠れてるヴァンパイア、『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろ?そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。五感から発する神器は持ち主のキャンパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」
アザゼルが木の裏に隠れていたギャスパーに向かって叫んだ。
「そしたら、そこの悪魔くんの『黒い龍脈』をヴァンパイアに接続して神器の余分なパワーを吸い取ってやれよ。それで発動すれば暴走も減るだろう」
「……お、俺の神器はそんなこともできたのか?今まで単にパワーを吸い取って弱らせるだけかと……」
それを聞き、アザゼルは呆れた様子でため息をついた。
「ったく、これだから最近の神器所持者は。自分の力をろくに知りもしないで振りかざす。そいつは五大龍王の一匹、『黒邪の龍王』ヴリトラの力を宿してる。まあ、これは最近の研究でわかったことなんだそいつは…どんな物体にも接続することができて、その力を散らすことができるんだよ。短時間なら、持ち主側のラインをほかの者や物に接続することだって可能だ」
それを聞いた匙は、少し考えるそぶりを見せていた。
「追加だが、それは持ち主の成長次第でラインの本数も増やせる。そうすりゃ、吸い取る力も倍々だ」
追加の情報を聞いた匙が固まってしまった。
「それとだが……一番早い方法として、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアに飲ませておけば力がついてくるさ。ま、あとは自分たちでやってみろ」
アザゼルはそう言い残して立ち去ろうとしたが、すぐ立ち止まってこっちを振り向いた。
「ヴァーリ――うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。さぞ驚いただろう?なーに、あいつは変わっているが、すぐに赤白ライバル対決をしようってわけじゃない。それに…、もし二天龍の戦いを始めようっていうのなら、そいつらが動くだろうがな」
アザゼルは俺に指を指しながら言った。
「確かに、俺達が動くでしょうね。だって、それで世界を壊されたらたまったもんじゃありませんもん」
「ハハハハ!ま、そう言うこった。これで俺は失礼するぜ。今度は三大勢力の会議でな」
そう言うと、アザゼルは今度こそこの場から去っていった。
「さって、とりあえず訓練再会しようか。突然の邪魔は入ったけど、情報も手に入ったことだ。試してみようぜ」
アザゼルが消え、緊張のとけたみんなにイッセーは指示を出しながら、匙にも協力してもらい訓練を再開した。
まぁ、なんだかんだいって、アザゼルは優しい人だから大丈夫ですよ?イッセー。じゃないと、神器の情報なんてなあんなにベラベラと言わないしね~。
そのあと、イッセーの血は飲まなかったけど、匙に力を吸収されながら訓練は続き、夜になるまで続いた。
これなら、また極度の引き篭もりに戻らなければ上手くいくだろうね。思ったより順調に進むかもしれないね。
とりあえず、頑張れ…ギャスパー………