いま私達はリビングに移動しそのテーブルにはリアスさんとディオドラ、顧問としてアザゼル先生、私ははしっこの席で座っています。
朱乃さんがディオドラにお茶を淹れ、リアスの傍らに待機する。
「リアスさん。単刀直入に言います。『僧侶(ビショップ)』のトレードをお願いしたいのです」
トレードとは…『王(キング)』同士で駒となる眷属を交換できるレーティングゲームのシステムのことです。同じ駒同士なら可能だそうです。魔王のアジュカさんいわく…です。
『僧侶』――つまり、アーシアかギャスパーのどちらかですね。まぁ、ディオドラの言う『僧侶』は……十中八九アーシアでしょうけどね。
「いやん!僕のことですか!?」
ギャスパーが身を守るようにするが、イッセーが頭をはたく。
「んなわけねぇだろ」
後ろで待機している二人は漫才染みたことをしていました。本当…、この子もずいぶんたくましくなったものですね。少し前なら「ヒィィィィッ!ぼ、僕のことですかぁぁ!?」と、悲鳴をあげながら段ボール箱の中に逃げ込んでいたと思います。これも冥界での修行の成果なのでしょう。本当良かったとお姉さんは思いますね。
私はディオドラが『僧侶』と言った瞬間から、アーシアがイッセーと途中で遅れてきたアリアさんの手を強く握っていたことに気が付きました。それほど『嫌だ』という主張が見てわかりました。
「僕が望むリアスさんの眷属は――『僧侶(ビショップ)』アーシア・アルジェント」
ディオドラは躊躇いなく言い放ち、アーシアのほうへ視線を向ける。その笑みは爽やかなものだ。
――やっぱり狙っていましたか。
「こちらが用意するのは――」
自分の下僕…眷属が載っているであろうカタログらしきものを出そうとしたディオドラへリアスさんは間髪入れず言う。
「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいたほうがいいと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気はないの。それはあなたの『僧侶(ビショップ)』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。――私の大事な眷属悪魔だもの」
真正面からリアスさんは言い切った。……当たり前なのですよ。アーシアはリアスさんの眷属悪魔であり、今はイッセーの家族の一員なんです。それをトレードなどで済ませるぐらいなら、初めから私が締め上げていますね。それほど家族というものは私の中では大きなものなんです。
「それは能力?それとも、彼女自身が魅力だから?」
しかし、ディオドラは淡々と訊いてくる。
そこへ、リアスさんが最高の一言を言い放った。
「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」
「――部長さんっ!」
アーシアは口元に手をやり、翡翠の瞳を潤ませていた。リアスさんが『妹』と言ってくれたことが心底嬉しかったのでしょう。
「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」
リアスさんは笑顔で言いかえす。最大限配慮しての言動でしたが、青筋を立ててキレているのは傍から見て一目でわかりました。
お見事!……と言いたいところですが、客人…それも他人の顔前なので我慢しましょう。
それでもディオドラは笑みを浮かべたまま。それが逆に不気味だ。
「――わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」
ディオドラは立ち上がり、アーシアの元へ近寄っていく。そして、当惑しているアーシアの前へ立つと、その場で跪き、手を取ろうとした。
「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」
余りにありがちな気障らしい言葉と共に、アーシアの手の甲にキスをしようとしていた。
ガシ!
いきなりイッセーがディオドラの肩を掴み、キスを制止させた。
「……」
無言で肩を掴む手に力を入れていくイッセー。すると、ディオドラは爽やかな笑みを浮かべながら言った。
「放してくれないか?薄汚いドラゴンくんに触れられるのはちょっとね」
イッセーの額右側に青筋が立ったのを見て、レイジ兄さまと私が止めようと動いたとき……
バチッ!
アーシアのビンタがディオドラの頬に炸裂した。アーシアはイッセーに抱きつき、叫ぶように言った。
「そんなことを言わないでください!!」
……あははは、あのアーシアがビンタをかますとは思わなかったですね。まぁ、おかげでイッセーやアリアさん、私と同じ家族思いでこういう輩たちが大っ嫌いな優子姉さま達を止める手間が省けました。ここで暴れられたら、確実にディオドラは死んでいたことだろうし、アスタロト家との問題にもなっていたでしょうね。
ビンタまでされても笑みを絶やさないディオドラ。ここまで来ると、不気味を通り越して危険に近い。てか…キモいです。
「なるほど。わかったよ。では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。そうしたら、アーシアは僕の愛に答えて欲し――」
「おまえに負けるわけねぇだろッ」
イッセーが面と向かって言い切った。流石に私が手を出すと、立場上それこそ問題発展に繋がるからてが出せませんね。
「赤龍帝、兵藤一誠。次のゲームで僕はキミを倒すよ」
「ディオドラ・アスタロト、おまえが薄汚いって言ったドラゴンの力、存分に見せてやるさっ!」
睨み合うイッセーとディオドラ。そのとき、アザゼル先生のケータイが鳴った。いくつかの応答のあと、アザゼル先生は全員に向けて告げる。
「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日取りが決まったぞ。――五日後だ」
「次に会う時はレーティングゲームで。アーシア」
「お前は俺が…俺達が絶対倒す!!」
そのあとディオドラは魔方陣で帰っていった。
その時私は回りに気づかれずにこっそりと魔方陣に通信機の魔方陣を繋げていた。これで何処にいるかわかりますね。
その深夜…何時も通りの進路でイッセーは悪魔稼業を頑張っていました。そこへ、私はスポーツドリンクを持ってベンチに座っていたイッセーに近づいた。
「いつもお疲れ様です。イッセー」
「つ…ツバキちゃん!? ど、どうしてここに?」
「いつも頑張っている皆様に差し入れをと思いましてあちこち動き回っておりました。最後がイッセーでしたので来たのですよ」
「おう、サンキューなツバキちゃん」
そう言ったイッセーはスポーツドリンクのキャップをとり、ゴクゴクと一気に半分まで飲み干したあと、一息ついていた。
「さて…と。いい加減に出てきてもらいませんか?お二人さん♪」
いきなり話しかけた私を呆然と見つめていたイッセーでしたが、気配が現れると咄嗟にベンチから立ち上がって後方の闇夜を睨めつけた。
「なーんだ、バレてたのか。おひさ赤龍帝、それと『黒き疾風の破壊者』いや…今は女だから『白銀の舞姫』だったか?」
そう、笑いながら言う美猴。
「うるさいです。美猴。」
「び、美猴!何でおまえが!」
「おいおい、そのネームは裏のモノだ。表の名で呼んでくれよ」
闇夜から現れたのは、ラフな格好の美猴。
「ま、相棒の付き添いでさ」
闇夜からもう一人姿を現す。
「二か月ぶりだ、兵藤一誠」
白ワイシャツ姿のヴァーリだ。
「ヴァーリッ!」
「待ってください。イッセー」
警戒を高めるイッセーに片手を出して制する。
「ヴァーリ、イッセーに何の用があってきたんですか?」
私は警戒を高めているイッセーの代わりにヴァーリに問いかける。
「レーティングゲームをするそうだな?相手はディオドラ・アスタロト、アスタロト家の次期当主」
「それがどうしましたか?」
「気をつけた方がいい」
はぁ…やっぱり。
「……どういうことだよ?」
警戒を少し解いて問いかけるイッセー。
「記録映像はもう見たのだろう?アスタロト家と大公の姫君の一戦だ。俺も盗んで見ているからな」
そう、ディオドラの帰った後にそのゲームの映像を見ていたのです。
試合はディオドラの勝ちでしたが、不自然なほどディオドラの実力は圧倒的で、あいつだけがゲームの途中から異常なほどの力を見せつけてアガレスのシーグヴァイラとその眷属を撃破していました。
ディオドラの眷属は奴をサポートするぐらいで、『王』自ら、孤軍奮闘、一騎当千の様相を見せていました。ちなみにディオドラは魔力に秀でたヴィザードタイプです。リアスさんを超える魔力のパワーでシーグヴァイラを追い詰めていたのです。
これを見て全員が訝しげに思った。ゲーム自体ではなく、ディオドラ本人のみに。ディオドラは急にパワーアップしたのです。それまではシーグヴァイラがかなり追いつめていたのでしたが、 急にパワーアップしたディオドラに逆転されていました。イッセーや他のメンバーが『実力をギリギリまで隠していた?』と考えていたようでしたが、それはありえません。いや、それをできる者はこの世界でもごく僅かです。私がディオドラを直接見た限り、ディオドラの中にある魔力の量は図り知れていました。確実にシーグヴァイラの方が上回っていたはずなのです。あの会場や数時間前のリビングでもそうでした…。
アザゼル先生はこの試合を生で観戦していたが、事前に得ていたディオドラの実力から察してもあまりに急激なパワーアップに疑問を感じたようてました。
リアスさんも同じことを言っていた。
「ディオドラはあそこまで強い悪魔ではなかった」
――と。
急激なパワーアップをする前のディオドラもある程度強かった。リアスさんより魔力量は多少劣る若手の悪魔なのだ。
しかし、試合の途中からディオドラは皆が驚くほどの力を発揮していました。
短時間であそこまで強くなれないことはないのですが、ディオドラはそのような事はしないでしょう。
私はこっそり映像をディスクにコピーして一旦自室にもどりハイドラとドラグーンと一緒にPCで確認していました。すると、ディオドラが急激なパワーアップをした瞬間、黒い影が一瞬、集中して見ていないと気づかないぐらいほんの0.3秒の部分に映っていました。
私はリアスたちグレモリー眷属以外の全員を私の部屋に召集させました。ちょうど悪魔稼業の最中でしたので、アザゼル先生も簡単に呼べました。
その時たまたま起きていた龍美…オーフィスが部屋に来て、その時に見たものを見て「これ…私の蛇」と言いました。その時に私達は『禍の団(カオス・ブリゲード)』に関わっていると確信しました。
「まあ、俺の言い分だけでは、上級悪魔の者たちに通じないだろうけど。キミ自身が知っておくぐらいはいいんじゃないかと思ってね」
イッセーとヴァーリの視線が重なる。
「……一応礼は言っておく」
イッセーがそう口にした時、闇夜に人影が――。私は『見えて』いたが、ヴァーリと美猴は予想外だったようで、そちらへ視線を向けていた。
ぬぅ……。
闇夜から姿を現したのは、プロレスラーと言っても間違いのない質量の筋肉に包まれた巨躯のゴスロリ漢の娘だった。頭部には猫耳がついている
たしか…イッセーが言ってたミルたんでしたっけ?
イッセーのお得意様でよく呼ばれているそうです。
現れた瞬間、ヴァーリが二度見をしていた。我が目を疑ったのでしょう。
そう言う私も二度見しましたけどね。だって覇気がスゴいんですもん。……それにしても、何処かで会っているような気がぁ…?……やっぱり気のせいでしょうか?
「にょ」
手をあげ、イッセーにあいさつをして、横を通り過ぎていく。
「頭部から察するに猫又か?近くに寄るまで俺でも気配が読めなかった。仙術か?」
ヴァーリが真剣な面持ちで美猴に訪ねた。その気持ちはよくわかります。ミルたんは見えていても気配を感じ取ることが出来ないことがあるみたいです。今だってそうですもん…。
「いんや、あれは……トロルか何かの類じゃね?……猫トロル?」
「ぶっ」
イッセーは何故か吹き出して笑った。何処に笑うようそがあったのでしょうか? よくわかりませんね。
そんな事を思っていると、ミルたんが私の横を通り過ぎようとしたとき…、ミルたんと私の視線が重なった。
そしたら――――ミルたんが固まった。
突然の事に少し『?』になる私。そしたら―――
「つ…ツバキ様!? ど…どうしてここに! 」
……とかなり驚かれた。私の方が驚きですよ。
「はっ! これは失礼いたしました!! 」
すると、ミルたんはいきなり私の目の前で騎士がやる様な、方膝を地面に下ろしもう方膝を上げる、服従のポーズをやっていた。
「ちょっ!? い…いきなり何ですか!貴方!……てか、誰でしょうか?」
私がそう言うと、ミルたんは驚愕した表情をしていた。
「わ…わからないのですか?」
「はい。わかりません。その様な魔法少女?に猫耳を着ている漢の人なんて…」
私がそう言うと、ミルたんは固まったあと、自信の服を見て変な表情をしていた。
「すみません! こ…これは趣味でして…。その、私の名前は…三木龍介と申します。」
……三木龍介? 三木龍介…三木龍介…三木…龍介………あっ!
「三木龍介って…あの、光輝兄さまの右腕の『赤き破壊僧』の三木龍介さん!? ちょっ!どうしたのですかその格好! 何時もの修行僧見たいな服装はどうしたのですか!! な…何故その様なわけのわからない服装何ですか!?」
え…えぇ!い…いったい何故こうなったのですか?本当にどうしたのですかぁぁぁ!!
「す…すいません。隠れて過ごそうと思えば目立たない格好がいいと思いまして…、この好きなアニメのキャラの服を着ようと思いまして、この格好でございます」
……?目立たない…格好?……………………目立ってるよね、この格好って…。
「ま…まぁ…いいでしょう。趣味は人それぞれですし、それに…そのぉ…格好というか、自分が好きならいいでしょう。自身の役目を出来ているのでとやかく言うのはやめます。ですので此れからも地球連邦軍として恥じない様頑張ってください。いいですね?」
「はい!了解いたしました!!」
そう言って敬礼したあと、また何処かに行ってしまいました。
でもまさか、あの超がつくほど仕事真面目なあの人がそんな趣味があったなんて…。本当に人って言うのはわかりませんよね…。
「つ…ツバキちゃん?ミルたんのこと知っていたのか?」
すると、イッセーが聞いてきました。
「え?…あ、はい。あの人は家の…と言いますか、地球連邦軍の中でもうちら兄弟姉妹を除いた幹部クラスの中でもトップクラスの実力を持った、仕事真面目な優秀な部下です。でもまさか、あの様な趣味があった事には気づきませんでしたし、もっともこの駒王町にいたことじたいビックリですけどね」
あはは、本当にビックリですよ。
「あ…そんなんだ。(だからあんなにも力が桁違いに感じたのか…)」
まぁ、いいでしょうか。今回はビックリしましたがこんなことでいちいち驚いていたら身が持ちませんものね…
「まあ、いいか。帰るぞ、美猴」
ヴァーリはそれだけを言い残し、美猴と共にこの場をあとにしようとする。
「…待ってください。そのことだけを言いに会いに来たのですか?」
私が訊くと、ヴァーリは笑って答えた。
「近くに寄ったから、未来のライバルくんに忠言をしにきただけさ」
「じゃあな、赤龍帝、『白銀の舞姫』。なあ、ヴァーリ。帰りに噂のラーメン屋寄っていこうや~」
それだけ言うと、ヴァーリは美猴を引き連れて闇夜へ消えていった。
本当に自由気ままな人達ですね。
「さて、イッセー。私は先に帰っていますね!ではさようなら~」
そう言い私はイッセーと別れたのでした。
イッセーと離れた町外れの森。私はそこに一人で来ていた。
「さて…、ハイドラ、ドラグーン。」
「「はっ」」
私が言うとハイドラとドラグーンが現れました。
「貴方達に伝えたい事があります。今から私は一人でディオドラ・アスタロトの尾行に行きます。そのため兄さま姉さま達にこの事は内緒にしておいてください。家にいるの優子姉さまやレイナーレと黒歌にもこの事は内緒にしておいてください。あと兄さま姉さま達には別の調査に向かったと伝えといてくださいね。決して尾行にいったなどと言わないでください。いいですか?」
「で、ですが主(マスター)!貴女お一人では危険です!ですから私のどちらかを…」
ハイドラが叫んでいますがそれを手で私は封じます。
「いえ、今回ディオドラは『禍の団(カオス・ブリゲード)』と関わりを持っている可能性が大いにあります。ですからあまり人を増やしたくないのです。幸い私はこういうものは得意ですので心配いりませんよ。それに、定期的に…というより一日に一回は連絡するのでそれまで待ってください。
ですがもし…、私に危険が及んだ様であればその時は協力を頼みます。まぁ、余程の事がない限りそんな事はないでしょうけどね♪
ですから心配しないでくださいね。ハイドラ、ドラグーン。」
「……わかりました。でしたら絶対に無茶だけはしないでください。いくら私達に主(マスター)に危険が及んだ時になる警告アラームがあるとしても、それは主(マスター)に危険が及んだ時ですので、あまりにも遅いのです。ですから絶対に無茶だけはよしてください。」
「そうです。ハイドラのいう通り無茶だけはよしてくださいよ。主(マスター)はいつもいつも無茶ばかりしますので此方はいつもハラハラしているんですから。ですから必ず無事に帰ってきてください」
「……えぇ、ありがとうございます。ハイドラ、ドラグーン。私はあなた方の様な心優しき仲間に出会えて心の底から嬉しく思います。
では…行ってきます。私がいない間、部隊の事を宜しくお願いしますね?」
「「了解!」」
「……うん。では次こそ行ってきます」
「「お気をつけて行ってらっしゃいませ!ツバキ様」」
私はハイドラとドラグーンにお礼をしてディオドラ・アスタロトの尾行しに飛んで行きました。
さて、ディオドラ・アスタロト。貴方の化けの皮を全て剥がせてもらいますね!!首を洗って待っててください!!!
三木龍介はミルたんの本名がいい名前が思いつかなかったので、友人に付けてもらった名前です。それを使いました~♪( ´∀`)