スパロボ世界の胡散臭い教祖様 作:スカウトマニア
私が使命に目覚めたきっかけは、地球連邦政府の統治に不満を持つテロリストが起こした爆破テロでした。
クリスマスで賑わうショッピングモールの一角で起きた爆発は、私を含む無辜の市民を巻き添えにして多くの死傷者を出しました。
犯人達は地球連邦政府発足に至るまでの軋轢を批判し、自らの大義を高々に宣伝しましたが、巻き込まれた私としては納得できるものではありません。
ただ、そこで私は邂逅したのです。その後の私の、そして地球人類の運命と未来を左右するあの御方と。
意識のはっきりとしない白い空間の中で、あの御方は黄金に輝く人型のように見えました。そして私に使命を授けられたのです。
“大いなる試練が訪れる。試練に打ち勝ち、生き残るのだ。剛力剛念の力を持つ知的生命体となる種子を求めよ”
あの御方がおっしゃることの全てを理解できたわけではありません。ですが、御方が人類に訪れる試練を憂い、生き延びることを願っておられるのは分かりました。
私は死の淵で使命を授けられたのだと思います。あの御方に代わって人類の未来を残す為の助けとなる使命を。
病院で数か月に渡る昏睡状態から回復した後、私は驚異的な回復を示してすぐに日常生活へと戻ることが叶いました。
これもあの御方によって授けられた力の一端なのでしょう。これまで私には視えていなかったものが、聞こえていなかったものが分かります。それは人の心の声であり、おぼろげながら未来らしいビジョンでありました。
人型の巨大な兵器が恐ろしい威力の武器を使いながら、争う光景。信じがたい異形の生物が地球各地で跋扈する光景。
地球で、コロニーで、宇宙で、いくつもの兵器が、何人もの人々が、無数の悪意がこの地球圏を飲み込むのです。
私は自宅でビジョンを見た瞬間、恐ろしさに震えました。これほどに恐ろしい未来が人類に待ち受けていることを。私の力がどこまで役に立つのか。本当に私は使命を果たせるのか。
ですがこのまま何もしないわけにも行きません。私が何もしなくても人類は未来を切り開けるかもしれませんが、今から私が行動することで一人でも多くの命を救えるかもしれないのですから。
私は決意を新たに、残りの人生を使命に殉じるべく行動を始めました。
「憎しみを忘れろとは言いません。ですがなにも知らない人々に、そして新たな世代に憎しみを引き継がせるのが本当に正しいことでしょうか?
隣に立つ人の手の温かさを忘れないでください。貴方の優しさが誰かを救い、誰かの優しさが貴方を救うのです」
私が説法を行う講堂には多くの方々が集まってくださいました。あれから私は御方に授けられた力を使い、不治の病や大きな怪我を負った方に手を差し伸べて、ささやかながら救いとなりました。
時に路上で人々の団結と旧世代から続く憎しみと軋轢の連鎖を断つべく説き、カルトの新興宗教のようだと自嘲したものです。
あの御方から授けられた力──安直ですが、“奇跡”が無ければ、私はよく発足しては廃れて行く新興宗教のインチキ教祖にすらなれたかどうか。
奇跡のおかげもあり、私と志を同じくしてくれる方の数は順調に増えて行きました。私がテロ事件に巻き込まれた際の臨死体験で使命を授けられた、というバックストーリーもある程度は助けになったでしょう。
少しずつ私の立ち上げた「アウレウスレクス」教団、ラテン語で金色の光を意味する教団は、地球圏各地で信徒の方々を増やしていったのです。
私自身、布教活動を積極的に行い、マスメディアからの取材にも応じました。話題作りのネタ扱いも少なくありませんでしたが、今は一人でも多くの方の心に、我々の存在を止めおいていただくことが大切ですから。
一方で政財界への接触も少しずつ行っていました。とある議員が好感度稼ぎに、私の遭遇したテロ事件の被害者をお見舞いしたことをきっかけにして、私の同志になっていただいたのです。
あの御方から授けられた奇跡には、他者と心を繋ぎ意識や記憶を共有するものがありました。
私の垣間見た膨大な戦火の記憶とソレに対する恐怖、不安、抗う意志を、議員の方も白目を剥きながらも受け入れてくれたのです。私はこれを“教化”と呼んでいます。
残念なことに地球連邦政府の過去の失策によって、今も地球圏には多くの火種が残っています。私の遭遇したテロ事件がそうだったように、それを利用して犯罪行為に手を染めて、利益を得ている方々も居るでしょう。
大いなる試練を乗り越える為には、人類同士の不和や内輪もめに人的資源や時を浪費するべきではありません。私はなんとしても政財界や軍部にも伝手を得る必要があるのです。
幸い同志となってくださった議員の方を皮切りに、少しずつ人類救済の輪は広がっていました。私はダニエル・インストゥルメンツ社、ケイテン・カンパニーをはじめ、軍事企業の一部と関係を持ち、上層部の皆さんと同志になることが出来たのです。
私の見た未来の中では人型機動兵器同士の戦いが行われていました。少しでも早く地球産のそれらを開発し、数を増やすことが人類を守る事にきっと繋がるでしょう。
そしてある日のことです。布教活動に勤しんでいた私はさる政府筋からの依頼を受けて、政府の施設を訪れたのですが、そこで銃を手にした黒服の方々に囲まれて拉致されてしまったのです。
不幸中の幸いだったのは私が予感に従って一人で訪れた為、巻き添えになった方がおられなかったことでしょう。そうして私は目と耳を封じられ、手かせを嵌められた状況でどこかへと運び込まれました。
ベッドの上に寝かされ、四肢を拘束されてから目隠しやイヤホンが外されて、ベッドそのものが垂直に立ち上がりました。
白い光に眩しさを感じながら目を開くと、正面のガラスの向こうに白衣を着た研究者らしい人々と、リーダー格らしい老人と老婆の姿がありました。
彼らが私を攫った主犯格のようです。部屋には私以外に人影はなく、手術用のロボットアームなどの機械だけがベッドの周囲にあるきりです。
「ふぇっふぇっふぇ、カルトの教祖と言う割には、案外素直に捕まったもんじゃな。人を騙すのには慣れていても、悪事には疎いか」
マイク越しに私をあざ笑ったのは童話の中の魔女のような老婆でした。傍らに立つ顔に金属の補助具を埋め込んだ老人が、老婆に続いて口を開きました。
「迂闊である分には楽に済んでよかったわい。アウレウスレクス教団教祖のクロマー・クカモネじゃな。お前の教団にも教義にも興味はないが、近ごろ、急激に勢力を伸ばしているその原動力には大いに興味がある。
愚昧な民衆共だけでなく、どす黒い欲望に塗れた軍事企業や政治家共までもが、お前に感化されて唯々諾々と従っておる。その原因たるヒーリング能力、それを調べさせて欲しくてのお」
「素直に言ってくだされば喜んで協力しましたのに。なぜ、あのような手荒い真似を。随分と手慣れておられる様子ですが」
「ひぇっひぇっひぇ、なあに。お前という貴重なサンプルを狙っておる者は数多い。かくいうわしとこのアギラも同じ口でなあ。
他の連中に先取りされるよりはと、今回に限って手を組んでお前を大急ぎで確保したのよ。手荒い真似はそれだけお前の貴重さを買っておるからこそよ。巧遅よりも拙速を重んじたのじゃよ」
老婆の傍らに控えた青年が罪悪感に顔を背けるのが見えました。どうやらこの老人と老婆はこの手の誘拐に慣れ切っているようです。これまでとこれからの行いに対して、微塵も罪悪感を抱いていません。
私の起こす奇跡は教団の規模が広がるのに合わせて、知れ渡っています。ほとんどの方は信じていませんが、自身が難病を抱えている方や身内におられる方が一縷の望みをかけて私を尋ねることも珍しくはありません。
「いずれ私の力を求めて、どなたかから接触があるのは知っておりました。同志となってくださった方に、そちらに詳しい方が居られたからです。
考えられるのは特殊脳医学研究所か、パイロット養成機関とは名ばかりのスクールという特殊な機関が筆頭だと、教えていただきました。貴方達はアードラー・コッホ、それにアギラ・セトメですね?」
「わしらのことを知っておったか。姿をくらまされる前に捕まえられてなによりじゃ。なあに、わしらはお前の身体に、とりわけ脳に興味があるでな。それ以外は安心せい」
「アードラー、ワシの研究テーマを知っていて、その発言なら看過できんぞ。人間の持つ感情の力を調べる為には、こやつの精神を完全に破壊されてしまっては都合が悪い」
「分かっておる。言葉の綾というものよ。そうじゃな、まずはストックを確保する為にクローンの培養とこやつの奇跡で治癒したという検体の確保を……」
私は人知れず涙を流していました。あの御方に授けられた共感能力が、彼らのこれまでの行いを私に垣間見せたからです。彼らは、ああ、どうしてあそこまで人の心を捨てた所業が出来るのでしょう? 彼らも確かに人の子であるというのに。
「ひょっひょっひょ、なにを泣いておる? 我が身に降りかかる苦痛を想像したのか? 安心するがいい。お前という犠牲によって、わしの研究は確かに一歩前進する。
このアードラーの大いなる研究の礎となれる栄誉は、滅多には手に入らんぞ。むしろ感激し、感謝してわしに礼を言って欲しいくらいじゃ」
私は次々とあふれる涙をそのままに、教化能力をかつてないほど強く発しました。
「主よ、どうか人間をお許しください」
私の教化により心から生まれ変わったアードラーやアギラにより、拘束から解放された後、私は彼らの研究テーマとして確保されていた人々とも面談し、彼らを教団の運営する病院と孤児院で引き取ることとなりました。
彼らの治療にあたってはあの罪悪感を覚えていた青年、クエルボに委ねます。彼がアギラ達の悪行に加担していたのは紛れもない事実ですが、被験者の中には彼を慕っている子が少なからずいた為です。
かねてから悪行を重ねていたアードラーとアギラの所業は、教団を通じて広く世間に知れ渡り、地球連邦政府の信頼を損なう事態となってしまいました。
大いなる試練に備えた人類の一致団結という私の目的にはそぐわない行為かもしれませんが、これもまた政府の膿み出しと思えば必要なことでしょう。
これまでの地球連邦政府の過ちを認め、過去の因縁と軋轢の解消に努めることが、将来的に一致団結して大いなる試練を乗り越える為に必要になると私は予感していたのです。
アードラー一派に拉致された事件からしばらく、ダニエル社やケイテン社を始めとした軍事企業が人型機動兵器開発に向けて業務提携を結び業界がざわつく中、私は地道に人脈を増やすべく布教活動を重ねていました。
大いなる試練は星の海を越えてやって来る。太陽系から出ることも叶わない今の人類にとって、途方もなく困難な試練となることでしょう。
そうして私が今日の説法を終えて降壇すると、秘書から私に客人が来ていると連絡がありました。正式に地球連邦軍に身を置く方で、身分は確認できていました。イングラム・プリスケンという男性の方です。
私はもちろん、快く応じました。アードラーと違ってきちんとアポイントを取っておられましたし、断る理由はありません。私はこれが大きなターニングポイントであると気付かぬまま、イングラムさんとの面談に赴くのでした。
客室で待っていたのはサングラスに黒服のSPを連れた、青い長髪の美青年でした。少佐の階級章を付けた彼、イングラムさんを一目見た時、私は稲妻に撃たれたような驚きに襲われました。
“あかん”
彼の全身に絡みつく見えない鎖と禍々しい悪意の念は、私がかつて見たことの無いほど悍ましい代物で、私は反射的に彼をどうにか救えないかと行動していました。
「破ァアアア!!!」
「なにを、貴様!?」
私が客室に入るや否や挨拶もせずにイングラムさんに向けて両手を突き出し、ありったけの浄化の念を送ると、イングラムさんの形相は悪鬼のそれとなり、魂を縛る悪意が彼の背後に悪魔の如く現れます。
凄まじい抵抗でした。複数の目を持つ仮面の悪意は私の念に対抗し、こちらの精神を破壊しようとしてきましたが、これまで使命に目覚めてから精神的な修行を重ねてきた成果と、多くの人々の信頼と使命に対する覚悟が、私を支えてくれます。
苦悶の表情を浮かべてイングラムさんが膝を着いた時、あまりの事態に呆然としていたSP達が私を拘束しようと動き出しました。
懐に忍ばせていた拳銃を取り出さなかったのは、私との平和的な接触が今回の任務だったのを忘れていなかったからでしょう。
「うっ」
念を振り絞った私は全身を襲う疲労に抗えず、冷たい汗を流しながら膝を着きました。SPの方達が私を拘束しようと手を伸ばした時、私と同じように膝を着いていたイングラムさんから制止の声が掛かります。
「待て、俺なら大丈夫だ……」
「し、しかし、少佐。顔色が……」
「俺なら問題ない。少し眩暈がしただけだ。……クカモネ教祖、貴方には礼を言わねばならんか」
「人の、魂を縛るなど、尊厳に対するこの上ない侮辱、でしょう。ただ、少し、疲れました」
微笑を浮かべるイングラムさんに私も微笑み返し、そしてそのまま意識を失ってしまいました。ああ、あの御方の御心に少しでも添えていたならよいのですが。
主人公は徹頭徹尾、善意の人です。それは間違いありません。
ダニエル・インストゥルメンツ ゲシュテルベン、ガーダイドなどを開発した会社。
ケイテン・カンパニー バルトール事件前にコンペ落ちしたブル・トレロを開発した会社。