スパロボ世界の胡散臭い教祖様 作:スカウトマニア
モガミ0号四機との実機試験を終えたイルムガルト──イルムはグルンガストを降りて、格納庫に併設されているガンルームで小休憩をとっていた。
そこにかつてPTXチームで組んでいた上司のイングラムが姿を見せた。イルムが今回、グルンガストと一緒に招聘されたのは、連邦軍でも貴重な特機乗りであるのに加えて、イングラムと上司と部下だった関係も一役買っている。
「ご苦労だった、イルム」
「いえ、アレくらいはどうってことありませんよ」
イルムは咥えていたエナジードリンクのチューブから口を離し、二階級上の相手に対しては気安い態度で答える。生真面目な軍人がこの場に居たら顔をしかめる程度では済まなそうだ。
「それで、モガミ0号の性能はどうだった。パイロットはかろうじて及第点といったところだが、お前とグルンガスト相手では勝ち目もないが、それは分かっていた話だ」
「ずいぶん俺を評価していただけていたようで。これで少佐でなく色気のある美女だったら、もっと光栄でしたが」
「ふ、貴様も変わらんな。リンとの関係があと一歩進まないのもその所為か」
PTXチームの同僚であり、マオ・インダストリーの社長であり、そして恋人でもあるリンの名前を出されて、イルムは訝しむ顔になった。彼の記憶ではこんな軽口を親しみを込めて口にする上司ではなかったのだ。
「耳に痛い話ですが、少佐、雰囲気が変わられましたね。なにかありましたか?」
「少しな。それで?」
「量産型の特機としてまずは求められている基本性能はあります。パーツ交換による換装機能を着けていたらコストも跳ね上がるでしょうが、それなしのモガミ0号ならグルンガスト弐式よりも調達しやすい。
特機に求められる役割を満たすなら大質量を活かすファイター・ガードか、PTにない火力を活かすガンナー・ガードが需要を満たすでしょう。俺ならファイター・ファーストを選びますがね。
それでケイテンのレッドブルはどうです? 少佐の目から見て採用はあり得そうなんで?」
「砲撃戦用の機体という意味では、マオ社が開発して採用を見送られたシュッツバルトと同じカテゴリーだが、あちらはダニエル社の実弾兵器のノウハウを得て、信頼性が高く安価な実弾系の武装で固めている。
ゲシュペンストと役割が重複していない事、シュッツバルトに大きく見劣る性能ではなく、コストは現実的。となれば採用の芽はあるだろう」
「そうなるとしばらくリンの機嫌は悪くなりますね。連絡するのは、ちょっと待つか……」
「それが賢明な判断だ」
イルムが溜息を吐くのを背中越しに聞いて、イングラムはガンルームを後にした。少しずつ、少しずつ、この世界の情勢は原点から離れ始めていた。
私は今、中国にあるウォン重工業の本社に伺っております。マウロ・ガット准将の仲介で軍需産業としては後進のウォン重工業ですが、どうやらマウロさんとは深いつながりがあるようで、わざわざ社長のリック・ウォン氏が出迎えてくださいました。
リックさんは現在、業界最大手のイスルギ重工からの買収が進んでおり、まもなく子会社として傘下に下ることなどを教えてくださり、ウォン重工業がイスルギとの新たなパイプ役を担ってくださるとお約束いただきました。
少しずつ、少しずつ私の活動は実を結び、地球圏の人々の心に安寧を齎し、支えとなって行きましたし、また軍部でも人型機動兵器の導入が前向きに進み、生産の停止していた量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの再生産、艦艇の刷新などのニュースが世間を騒がしています。
他にも地球連邦政府の過去の問題や過失に関する公式の謝罪が成されたり、現体制の樹立までの間に燻ぶった不平不満を可能な限り穏当な方法で解消しようとするなど、これまでにない政府の動きに人々は戸惑っているようでありました。
世界の流れが少しずつ変わってゆく中、イングラムさんとケンゾウ博士に協力し、αパルスの研究に時間の許す限り参加して、彼らが極秘に進めている計画に少しは貢献できていたと思います。
ケンゾウ博士の娘さんで、強いαパルス=念を持つ念動力者だというアヤ・コバヤシとも面識を持ち、確かに彼女の中に眠る不安定な強念を感じ取りました。
イングラムさんやアヤさんと接して、ケンゾウ博士の研究内容に少し触れる中で、私はあの御方に授けられた使命、剛力剛念の素質とは念動力を指すのではないでしょうか。
念それ自体は全人類が保有していますが、それを強念と呼ばれるレベルまで保有している人は全人類を見回しても数えるほどしかいないでしょう。
イングラムさん達がこの力を兵器として利用しようと考えているのならずいぶんと不安定なものに頼るのだなと心配になってしまいます。
かくいう私も全人類を強念者に導くにはどうすればよいのか、となるとすっかり頭を抱えてしまうのですが、いやはや。
イングラムさんからの依頼で念動力の素質があると思われる人々に、秘かに接触してほしいと頼まれたのもあり、布教活動の傍らでよければと私は了承しました。
アヤさんのように既に軍部に関わっている方は稀有な例で、ほとんどの方は市井の人々です。その中で所在が判明しているのは、特脳研の被験者だった過去を持つユキコ・ダテさんでした。
優れた念動力の持ち主だったそうですが、特脳研時代の過酷な研究内容によって体を壊し、念動力も失われたのだとか。
今は結婚した夫君を失い、一人でご子息を育てておられるそうですが、体調を悪化させて入院しているとのことです。もっと、こう、アフターケアをしっかりするべきです、と私は私情混じりにイングラムさんとケンゾウ博士に小言を零してしまいました。
元から教団は世界中の病院や孤児院にも寄付をしているのですが、ユキコさんの入院されている病院もそのうちのひとつでした。
表立って私が訪問しては騒ぎになってしまいますので、簡単な変装をして病院の中を邪魔にならないようにいたしました。
人類が宇宙に人工の大地を作り、世代を重ねる時代になっても治せぬ病や怪我はまだあるものです。この上、異なる星の者達との争いまで起きれば、この病院におられる方にもどんな悪影響が出るものか。
私は物悲しい気持ちになりながら、ユキコさんの病室の近くにまで来ました。特脳研時代の研究による後遺症のようなものですから、ケンゾウ博士が後で補償すると約束してくださったのは、せめてもの救いです。
ユキコさんに再び特脳研時代のように協力を求めるつもりはなく、希少な強念者の感覚を伺いたかったからです。事前に連絡を入れてユキコさんをお見舞いすると、確かに彼女から念動力の大部分は失われているようでした。
それでも元が強力な念動力だったこともあり、彼女の中にはまだ熾火のように強念が残っておりました。とはいえここで無理にそれを復活させても、ユキコさんのお身体に障りますし、あくまでお話を伺うだけに留めましょう。
脆い砂糖細工に触れるように優しくユキコさんに私の強念を共鳴させ、私に悪意と敵意が無い事を伝え、許された範囲で特脳研時代の記憶を共有いたします。
ああ、まったく、あどけない少女だったユキコさんに対し、当時のケンゾウ博士達はかくも過酷な実験を強いていたとは。それは身体を壊すのも当然というもの。先のアードラー博士達といい、どうにも見境の無い真似をなさる方が多い。
そのように私がユキコさんの過去に嘆きの念を抱いていると、病室に入ってくる二人の方がいらっしゃいました。
「おふくろ、今日の具合はどうだ?」
「おば様、お邪魔します」
ユキコさんのご子息リュウセイ君と水色の髪をした可愛らしい少女の二人です。少女はユキコさんと親しい間柄のようです。ここで予想外の事態が起きてしまいました。
新たに病室に入ってきたリュウセイ君達が、私とユキコさんの念の同調に共鳴してしまったのです。
とっさにユキコさんの過去の共有だけは防ぎましたが、私が人類の未来に危機感を覚えている事、そして確実に災厄が訪れる事など、どちらも漠然としたイメージではありましたが、リュウセイ君と後で教えていただいたクスハさんにも伝わってしまったのです。
唐突に伝えられた恐ろしいビジョンに二人が取り乱してしまい、ユキコさんを含めて三人を落ち着かせるのには随分と苦労してしまいました。
図らずもリュウセイ君とクスハさんも非常に優れた念動力の素質を持っているのが分かりましたが、イングラムさんにそのことを伝えると、まるで知っていたかのような反応をされたのが印象に残っています。
私が新興宗教の教祖とあって、リュウセイ君達には随分と警戒されてしまいましたが、イングラムさんとケンゾウ博士の仲介他、政府の公的機関も関係していると何度も説得を重ねて、とりあえずは納得していただきました。
ただこれから先、平穏が崩壊するビジョンを見てしまったお二人が、まだ二十歳にもならないのに思い詰めた表情を浮かべるのを見てしまい、私は苦い後悔の味を噛み締めました。
ダテ親子とクスハさんのフォローとケアが、私の使命の一つに加わる中、私は地球連邦政府の全面降伏派を切り崩すにはどうすればよいかと、その方策に頭を悩ませていました。
議員や将校の方々を通じて未だ降伏派が政府の主流であり、多くの力を有していると聞かされています。私とて異星の方々と対等な関係で手を携えられたら、どんなによいかと思うのですが、一方的な隷属とあっては首を縦に振れるものではありません。
降伏派の筆頭はEOT特別審議会の議長であり、大統領をも凌駕する権力を持つカール・シュトレーゼマン氏です。かの方の心変わりが無い限り、極めて乱暴な手段を用いない限り、民意をまったく伴わない全面降伏が採択されてしまうでしょう。
とはいえ相手は大統領以上の権力者、連邦政府の裏の支配者です。怪しい話が山盛りてんこ盛りの私に安易に会うような真似はしない筈。こちらも強引な手に打って出るか、それともその周りから切り崩してゆくべきか。
この頃になると私はあの御方を仮初にマハトマと呼ぶようになっていました。旧世紀の神智学者、オカルティストのヘレナ・P・ブラヴァツキーの提唱した偉大な魂、あるいは高次元の存在、またあるいは人間としての進化を終えた超自然的人物を指す言葉です。
あの御方には別の名前があるかもしれませんが、いつまでもあの御方と呼ぶのもどうかと思い、失礼かもしれませんがマハトマと呼ばせていただくことにしたのです。
思い悩む私に転機が訪れたのは、EOTI機関から秘密裏に接触があった事でした。かつてアイドネウス島に落下した隕石メテオ3。実はこのメテオ3が異星人の人工物であり、内部から回収されたデータによって、敵対的な異星人の存在を地球は知ったのです。
EOTI機関はこのメテオ3から得られた異星技術を研究する為の学術機関なのですが、総裁ビアン・ゾルダーク氏を筆頭に、どうやら異星人に降伏することに不満があるようなのです。
彼らと連邦内部の反対派が手を結べれば、異星人に全面降伏する事態を避けることも叶いましょう。そうして日本にある教団の支部で私はEOTI機関から派遣されてきた若き天才科学者と対面したのです。
緩やかなウェーブを描く艶やかな紫色の髪、妖しい気品を纏う美貌の持ち主にして、十指に上る博士号を持つ天才科学者シュウ・シラカワ博士です。
「お時間をいただきお礼を言いますよ、クロマー教祖」
来客用のソファに腰かけるシラカワ博士は私を値踏みするように、傲慢なまでの自信を伴って見ています。デスク越しに腰を下ろした私はかつてない緊張と共に、シラカワ博士と対峙していました。なぜなら……
「こちらこそ、EOTI機関は噂だけは知っておりました。異星人の存在が公表されていないこともあり、EOTI機関は存在そのものが市井の人々には内密にされているのでしたね」
「ええ。やはり貴方は色々とご存じのようだ。アウレウスレクス教団の動きは実に興味深い。単に貴方が通俗的な利益を追い求めているわけではなく、軍事企業同士を結び付け、議員同士に連携を取らせ、地球圏に戦う力を蓄えさせている」
「それが私にとっての使命であり、地球人類がその主権と尊厳を維持したまま未来を歩むのに必要だと考えているからです」
私の緊張はきっとシラカワ博士にも伝わっているでしょう。ただ、私の緊張が、EOTI機関の人間と対面しているからではなく、イングラムさん同様にシラカワ博士の魂に絡みつく邪悪を見たからだとは、気付いておられたかどうか。
イングラムさんの時はなんとか解放することが叶いましたが、果たしてマハトマに近しい気配を持つシラカワ博士を縛る力の主に通じるかどうか。
私は立ち上がり、シラカワ博士に魂の奥底へと視線を向けます。初めてシラカワ博士の口元から微笑が消えました。
「シラカワ博士、今、私の全霊を尽くして貴方の魂と自由を縛る悪意を討つ!」
「クロマー教祖、貴方はっ」
「破ァァァアアア!!!」
あれから更に研ぎ澄ました私の強念とマハトマより授けられた奇跡が、シラカワ博士と私の魂を接続して共有されます。そうして私の意識は暗転し、二人の意識が混濁して作り上げられた精神世界が作り出されます。
深く、暗く、冷たい暗黒の世界に、金色の瞳を輝かせる白い仮面のような顔が浮かび上がり、そこから髑髏と爬虫類とを組み合わせたような異形の存在が私を睨んでいました。
「貴方がシラカワ博士を縛る根源ですね?」
「我ノ傀儡ニ干渉スルノハ貴様カ。ソノ我ト相克ヲ成ス
なんと巨大で、なんと強大で悍ましい力なのでしょう。おそらくかの存在は不完全でしょうに、その威容の放つ重圧はマハトマを彷彿とさせるものでした。異形の言うようにどうしてか、マハトマを連想させるナニカがあるのです。
それでもマハトマとは違う。あの御方は真摯に人類の未来を憂いておられた。人類に未来を繋ぐ使命を私に授けられた。しかし、目の前のこの異形は違う。一たびこの世に出現すれば、無制限の破壊を齎すと確信できます。
現実世界で口にした通り、私の全霊をもってこの異形からシラカワ博士の魂を開放しましょう。そう意気込む私の目の前に新たな影が出現しました。
それは青い重厚な鎧をまとう騎士のように見えました。おそらく三十メートル近い巨大な機動兵器なのでしょうか。
機動兵器からシラカワ博士の声がしてきたことには驚きましたが、ここは私とシラカワ博士の魂が接続し、構築された世界なのですからシラカワ博士がいらしても不思議ではありません。しかし、あの機動兵器は?
「クロマー教祖、貴方は私の想像を超えた力の持ち主だったようです。我が主、ヴォルクルス様も驚いておられるようだ。しかし、無思慮に私の心の内に入った過ちは、その命で償っていただきます。このグランゾンの力でね」
グランゾン、それが機動兵器の名前のようです。シラカワ博士にとってよほど重要なのか、深いつながりのある機体なのでしょう。ここは精神世界ですから、もちろん実機ではありません。
あそこまで具体的にイメージできるほど、シラカワ博士はグランゾンを知悉しているのですね。ですが私もおいそれと負けてはいられません。私はまだ使命を果たしている途中なのですから。
「マハトマよ、どうか私の行いをご照覧あれ。シラカワ博士、参ります……ジュワッチ!!」
私は自分の魂の躍動に従い、右の握り拳を高々と突き出し、自らの内側から溢れる光によってグングンと巨大化してゆきました。そうして私は四十メートル近い、白銀の滑らかな体に赤いラインの走る巨人へと変わっていたのです。
OG世界だとネオ・グランゾンよりカドゥム・ハーカームの方が強いんですかね?
私の中で、魔装機神Fで中ボス相手にネオ・グランゾンが大破していたこともあって、絶対無敵みたいなイメージは崩れていまして。