ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士 作:アトリエはいいぞ
「ぐるこんぐるこん、ぐるこんこーん」
ぐつぐつと煮えたぎる釜、大きなオールのようなかき混ぜ棒、まるで魔女がヒヒヒと邪悪な笑いを浮かべながら悪い薬を作っているような光景に、似つかわしくない小さな影があった。
白を基調に、青のラインが入る制服、同じく白のコートに身を包んだ彼女は、おおきなたるに乗って小さな体で大なべの中身をかき混ぜている。彼女がそのまま落ちて煮込まれてしまいそうなほどの大きな釜の中は神秘的な色が次々と移り変わっていた。
「かーんせー!これで、救護騎士団に頼まれたリフュールパットは終わりだね。あとは……ティーパーティーから頼まれた紅茶の調合……いやそれは普通にお店で買うべきだと思うの」
少女が釜の中からひょいっと取り出したのは、大判の湿布が何枚か。今まさに草やらなんやらを煮込んでいたはずなのに、いつの間にかそれらの物体は跡形もなく消え去って、湿布に変わっていた。
「いやー、いつ見ても不思議だねぇ。錬金術、だっけ?おじさんびっくりだぁ」
「うわっ!?ホシノちゃん!?いつの間に?!」
「ツクちゃんがぐるこーんって歌ってる合間に~」
「声かけてよ~~も~~」
ツク、そう呼ばれたたるの上にのっている少女は
すとっとたるから飛び降りたツクリは、とてちてと音をたてそうな歩き方でホシノの横の棚、その引き出しの中から分厚い封筒を取り出した。ホシノもそれを見るとクッションを放して立ち上がる。
「はいっ、今月のアトリエのお家賃ね」
「おお~~……多すぎない?」
「売り上げの5%、そういう約束でしょ?」
「おじさん固定でいいとおもうんだけどな~~」
「もう、アビドスは余裕ないんだから受け取るの!利子払うのでいっぱいいっぱいなんでしょ!?」
ぷんすこ、と両手を振り上げるツクリを少しだけ見下ろす形になるホシノ。二人がいる地区は、アビドス自治区。荒廃した建物と砂漠化が進行しているその土地に、ツクリのアトリエはあった。
学園都市キヴォトス。数千の学園がそれぞれ自分の自治区を構える超巨大な学園都市。ミレニアムサイレンススクールに通うツクリと、アビドス高等学校に通うホシノ。学校が違えば敵同士もあり得るという殺伐とした超銃社会。それがキヴォトス。
なぜ、アビドスの土地にミレニアムサイレンススクールの生徒が建物を借りているか、はどうでもいい理由なので割愛するとして、同い年の二人は単純に仲が良かった。ただ、それだけの話である。
「うへ、それ言われるとおじさんは弱いよ~。じゃあ、ありがたくいただくね。ツクちゃんは売れっこだねぇ」
「ミレニアムだと錬金術っていう過去の学問は嫌われているけど、必要な人は意外と多いんだよ」
「じゃあなんで錬金術士はふえないんだろね?」
「科学のほうが便利だからでしょ」
「それ言っちゃうのは身も蓋もないな~」
錬金術、それすなわち神秘の技法。素材と素材を掛け合わせ、新たな道具を作り出す古から伝わる古い技術だ。最新最高の科学技術を旨とするミレニアムサイレンススクールの中においては異端、それが創路ツクリだけが所属する部活「錬金部」である。
科学ではなく神秘を。神秘と神秘を混ぜ込んで、より強い神秘に変える錬金術はキヴォトス全域においてもう絶滅していた。ただ一人、それに魅せられたツクリを残して。
キヴォトスに住む生徒たちはみな大なり小なり神秘といわれるものを体に宿している。頭の上に浮かぶ光の環、ヘイロー。銃弾が直撃しても痛いで済む耐久力。個人差があるものの兵器と比較できる身体能力。
神秘とはなにか……それはつまり……
「釜の中にいろいろ放り込んで混ぜるだけで道具ができちゃうなんて神秘だよね~」
「ね~~」
当人と周りの認識としては大体こんなものである。パワードスーツをはじめとして科学力が異常発達したキヴォトスにおいて、釜になんか入れて混ぜたら道具ができた程度で驚いていたら始まらないのだ。道端で起こる銃撃戦レベルの驚愕度なのだろう。
ただ、作られた道具は有用だった。先ほど作っていた湿布、リフュールパットは貼るだけで擦り傷切り傷程度ならすぐに治癒し、1日あれば骨折をも治すことができる。内服薬もなんでもござれ。爆弾だって作れる。それどころか建物丸々だって錬金術で作れるのだ。
「見た目ただのテントなのに中身はこーんなに広くて快適なんだもん。これ売ればもっと儲かりそう」
「うーん、素材をそろえるのがめんどくさ、もとい大変だから量産は考えたくないなあ」
「うへ~。おじさんは想像したくないなぁ~」
「えへへ……素材集めだけで1か月くらいかかるけど一緒に来る……?」
「遠慮しとくよ~。その絵とフラスコの中でしょ~?」
ソファに座った二人はお互いにもたれかかりあいつつたわいのない話を繰り広げる。ホシノが目線で指示した奥の部屋に掛けられている見事な油彩画が幾枚かと、不思議な光を称えたフラスコ。それにツクリが頷く、ホシノはそれで余計にやる気をなくしたらしく、ぐでっとツクリの膝に寝転んだ。
「先生、来たんだ」
「シャーレの?」
ぽそ、とホシノが呟いた言葉に少し目を見開くツクリ。キヴォトス全域を統括する連邦生徒会が突如立ち上げた連邦捜査部S.C.H.A.L.E……通称シャーレと呼ばれる組織に関連することだった。
先生……学園都市だから珍しくないと思われがちだが。キヴォトスにおいて教師は存在しない。学校の授業はすべて映像。学校を運営するのも生徒。つまり、大人はごく限られたところにしか存在しえない。
そして、キヴォトスはそこだけですべて完結している社会。自治区同士で交易をおこない、食料を集め、技術を発展させる。シャーレは、自治区を飛び越えてあらゆる生徒の相談に応じることができるというキヴォトスの中で特権を得ていた。そして、そこにいるのがキヴォトスの外からやってきた先生だ。
「ホシノちゃんがそうなるってことは、先生はホシノちゃんからしたら胡散臭いわけだ」
「うへ~、お見通しだぁ~」
「そんで、決定的にアレじゃないから切り捨てられないでいる、と」
「……うん。ブラックマーケットにまでついてきてくれたし。銀行強盗にも協力してくれた」
「うーん、それだけ聞くと悪い大人だな~」
ホシノとツクリは2年近く親交があるが、ホシノは決定的な本心を見せたがらない上に、大人に対してある種のアレルギーを持っていた。いや、そこだけは完全に人間不信だと言っていいだろう。ツクリが砂漠で見つけた彼女は、誰かの片腕を抱きしめて、見開いた目から涙だけを流していた、心が壊れてしまった少女だったから。
何があったのかは知らない。何が起こったのかも知らない。言わせていない。ただ、悪い大人に騙されて、すべてを失ってしまった少女だった。ツクリにできたのは、ただそばにいて、一緒に食事をし、一緒に眠っただけ。
失ったものの代わりにはなれない。なるつもりもない。ただ、生きてほしかった。たとえそれが地獄だとしても。ツクリのエゴは、ホシノという少女の砕け散った心をいつしか歪ながらも形を取り戻させていた。
「アビドスには、時間がない。9億の借金も、カイザーグループの取り立ても。わかってる、先生が最後の希望だって。けど、こわい。今度は、後輩たちが」
「はいストップ」
「もごっ!?」
「悲観論と楽観論両方飲み込んで行動できるのはホシノちゃんのいいところ。でも、わかってるでしょ、私は味方だよ。他の誰が裏切っても」
卓上にあったクッキーをホシノの口につっこんでツクリはホシノの言葉を止めた。まだ会ってない人物をイメージだけで悪くとらえたくなかった。それに、アビドスを延命させるだけならツクリがいくらでも尽力するつもりでもあった。悲しいことに外部生なツクリには、アビドスの問題を取り除くことはできないが、助力だけはできた。
「じゃあ、見に行こうかな。シャーレの先生。ホシノちゃんが信じても大丈夫って太鼓判おしたげる」
「ダメだったら?」
「爆弾で吹き飛ばす」
「うへー。ツクちゃんおじさんのこと言えないんじゃない?」
「じゃ、行くけどホシノちゃんはどうする?」
「ん~~、おじさんはまだここにいるよ~」
そう、と反対側を向いて寝転がったホシノに返事をしてツクリは立ち上がった。両腰に革のガンホルダーをつけて、そこに6連装のマグナムリボルバーを2丁、さらには背負いひもをつけた単発中折れ式のグレネードランチャーを肩にかけて、ホシノを置いてアトリエをでるのだった。
「さーってどこかなどこかな~?」
キヴォトス広しといえども箒にまたがって空を飛んでいるのは創路ツクリくらいのものだろう。当然これも錬金術で作った空飛ぶ箒である。
目指すはアビドス高等学校。ツクリが今アトリエを張っているアビドス自治区を超える必要がある。アビドス高等学校の生徒数は5人、先生も学校に寝泊まりしているらしいのでそこを目指すのが一番可能性が高い。
「ありゃ?あの制服は……ゲヘナ?うわうわうわ何人いるの仰々しい。ん?んん~~?囲まれてるの対策委員会のみんなじゃん!?あの大人の人が、先生かな?」
ツクリの眼下に広がっているのは、見知らぬ大人の男性を守るように戦うアビドス廃校対策委員会の4人と、見知らぬ4人、そしてゲヘナ学園の制服を着た大隊だった。
知り合いが攻撃を受けている。それだけでツクリが動くには十分な理由だった。中折れ式のグレネードランチャーをガコッと開いて中に氷をそのまま固めたような爆弾、レヘルンを詰め込む。そしてそのまま、箒から飛び降りてゲヘナの大群の後方に向けてそれを放った。
『な、なんですか!?ってこれは!』
「おお、おーおーおー。イオリさんにチナツさんではありませんか。それに、アコさんも。ゲヘナがアビドスで何をしているんですか?」
『こ、こここ、これはですね!?ゲヘナ近郊の見回りを風紀委員として』
「こんな大群でですか。それはそれは、大変ですねえ。それはそれとしてなんですけど、ぜひとも私のお友達を襲っている理由をお聞かせ願えますか?」
「ツクリ先輩……!」
”先輩?あの子もアビドスの生徒なのかい?”
威嚇射撃の爆弾で、退路は氷漬けにされてふさがれている。そして、ゲヘナの風紀委員、戦闘で指揮官格だったイオリ、チナツ、そして立体映像のアコと呼ばれた少女たちはサーーッと顔を青ざめた。キヴォトスただ一人の錬金術士、創路ツクリを怒らせてはいけないとキヴォトスにいる生徒は口をそろえて言う。なぜなら―――
「リフュールパットが200枚。リフュールボトルが50本、生命の蜜が20個、フラム、レヘルン、クラフト、ドナーストーンが10個づつ……さらには細々とした資材等々……ぜーんぶ、納品しませんよ?」
『そ、それは契約違反では……!?』
「いえ、契約そのものを打ち切ると言っているのです。もちろん違約金はお払いします。ただ、ゲヘナ全域において私が錬金道具を提供することは二度とありません」
錬金術はツクリしか使えない。正確には才能があり、修練を積めば使える人間はいるかもしれないが、現状はツクリただ一人の独占市場。耐久力はあっても生傷が絶えないキヴォトスにおいて、即効性のある治療薬、条約に引っかからない爆弾などは喉から手が出る程欲しい。それを提供できるのが目の前の錬金術士なのだ。
故に、この脅しが通用する。ツクリの道具は、市場に出れば瞬く間に完売する。先んじて契約を結んでいたゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、そしてヴァルキューレ、連邦生徒会は安定供給を約束されているが、それがなくなると……パワーバランスの崩壊すら招きかねない。
完全にゲヘナ風紀委員会の動きが止まったのを確認したツクリは、くるりと振り返る。いつの間にか姿を消した知らない4人のことは頭の隅から追いやり、廃校対策委員会の面々の体のあちこちに被弾の跡があるのを見て顔をしかめてから、懐から出した青い薬、エリキシル剤を振りまく。
すると何もなかったかのように廃校対策委員会の4人の傷が疲労も残さずすべて治癒する。それを確認したツクリは満足げにうなづくと、そのまま男性……シャーレの先生のところまで歩み寄った。
「ミレニアムサイレンススクール3年生、錬金部所属。創路ツクリだよ。錬金術士をやってるんだ、よろしくね」
”私はシャーレの先生だよ。よろしくね、ツクリ。助けてくれてありがとう”
ホシノよりもかなり小さい背丈のツクリに先生は腰を折って挨拶をした。差し出された手を握ったツクリは、まずまず悪くない人なんじゃないかと、彼を心の中で評すのだった。
こういう冒頭が書きたかった。できたとは言ってない。現状次話は未定です。アトリエシリーズ素敵やん?神秘あるやん?神秘って言ったらブルアカやん?ってなったらいつの間にか窯で混ぜていた。これが結果。基本は不思議シリーズと秘密シリーズから引っ張ってくる予定。以下設定
創路ツクリ 17歳 ミレニアムサイレンススクール3年生
身長128㎝ 体重 かるい 身長が小さいのは複製のし過ぎで縮んだから。最近はジェムを開発したのでそっちに乗り換えたらしい。武装は錬金銃2丁と爆弾を詰め込んで発射するグレポン。錬金レベルは圧倒の50。カンスト。時空操作も思いのまま。身に秘める神秘は少ないものの、他の神秘を掛け合わせてでかくする錬金術のせいでいろんな意味でアンタッチャブルになってる。