ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士   作:アトリエはいいぞ

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錬金術はクソゲーではない

「こ、ろ、し、て……」

 

 まさかロボットが死を懇願するとは……と恐れおののくツクリ。それも無理はない、なぜならゲーム開発部部員偽装作戦の第一段階として始められたのはアリスとモモイが名付けたロボットのしゃべり方の矯正であった。

 

 その矯正のお手本として用いられたのがテイルズ・サガ・クロニクル……先生調べで今年のクソゲーランキング1位の作品である。開発者を横に据えてのプレイであるが、内容が正直頭に入ってこない出来であった。

 

 まず、理不尽。ユーザーフレンドリーとは対極に位置するストロングスタイル。まさか画面の指示を無視しなければならない場面が多々存在し、魔物がこちらを確殺する手段しかないという戦闘バランス。シナリオはいろんなものを詰め込んでしっちゃかめっちゃか。後ろで見ていた先生とツクリですら拷問のようなダメージを負っている。

 

 ただ、一つ伝わってくるのは……ゲームとして破綻はしていないということだ。バグをはじめとした不具合は一切ない。これを完成形として作りこまれているのがよくわかる。

 

 先生と顔を合わせたツクリは微笑んで頷く。万人には受け入れられなかったかもしれない、それでもそのゲームの中には情熱と夢と、そして努力の跡が刻み込まれていた。これ以上は無粋だろう。

 

「まさか開発者が隣にいるとはいえ3時間でトゥルーエンドまで持ってくとは……!ねえねえ、こういうこと尋ねるのは恥ずかしいんだけど、どうだった?面白かった?私たちの作ったゲーム」

 

「…………面白い、説明困難……論理思考中……まるで、夢を見ているような、別の世界を旅しているような、もう一度……!」

 

 たどたどしくも、ずいぶんとなめらかになった話口調でアリスは必至に語彙を探している。クリアまでの三時間で総計130回ほどの論理思考のエラーからのリブートを繰り返してショートでもしてやしないかと心配だったが問題なさそうだ。

 

 ガチャン!どたどたどたっ!と慌てた様子でロッカーが開く。そこから出てきたのは長い長い赤髪の少女。おでこがまぶしいその少女がゲーム部部長のユズのようだ。

 

”あれ、ツクリ。どこに行くんだい?”

 

「ユウカちゃんたちセミナーのところに行ってきます。手伝うって約束しましたから。また危険なところに行くならモモトークで連絡してくださいよ。まあもう、大丈夫でしょうけど」

 

”うん、わかった。いてくれてずいぶん助かったよ。ありがとうツクリ”

 

「いえいえ、今後ともごひいきに~と。またね、先生」

 

 ユズが思わずといった様子でアリスの手を掴み、ありがとうとお礼を言っているのを尻目にツクリはゲーム開発部の部室のドアを開けて、伸びをしながら出て行った。その後ろ姿は、すがすがしさに満ちていた。

 

 

 

 

 

「はぁ~~~やっぱり錬金術をやってる時間が一番落ち着くな~~」

 

 地獄の書類整理を行い、やっとアトリエに帰ってきたツクリは至福の表情で久しぶりに見るような心持ちのまま思う存分錬金釜をかき混ぜていた。実際やったことといえば戦闘&戦闘(書類)なので本分に帰ってきたのも事実である。目の下のクマは元気の証である。寝ようよツクちゃ~~んという幻聴が聞こえてきているが気のせいであろう。

 

「テレレーン!アリスが現れました!コマンドを選択してください!」

 

”ツクリ、ちょっといいかな”

 

「あれまずいぶんと変わりましたね。伺いましょう……なんですか?」

 

「その……私たち、あれからもう一度廃墟に行って、G.BIBLEを手に入れてきたの!だけど、ヴェリタスのみんなでも解けない暗号で守られてるらしくて……」

 

「うんうん、それで?」

 

 もう一度先生と廃墟に行った、のあたりで若干ボルテージが上がったツクリの言葉にうすら寒いものを感じながらモモイの言葉を引き継ぐのはミドリ。

 

「どうも、ヴェリタスが所持していたツールなら解けるみたいなんですけど、セミナーに押収されちゃったみたいなんです。なので」

 

「シャキーン!緊急クエスト発生です!アリスはツクリにクエスト[生徒会襲撃]へ協力を要請します!協力しますか?」

 

「しません」

 

 断言である、それもばっさり。あまりのバッサリ具合にゲーム開発部の全員はフリーズ、アリスに至っては予想外すぎて目の電源が落ちている。その中で、先生は驚きつつもツクリの目の奥にある感情を感じ取った。そこにあったのは失望と呆れであった。

 

「……とりあえず、聞かなかったことにしてあげます。先生、どうして止めないんですか?……いえ、止められないんですか。まあそれはいいでしょう」

 

「ど、どうして……ツクリ先輩ならきっと協力してくれるって思ったのに……」

 

「まず一つ、そのツールは生徒会が不正に押収したものですか?」

 

”……いや、ヴェリタスの子が不法行為に使ったから”

 

「なるほど、そして二つ目。なんでミレニアムプライスに向けてゲームを開発してないの?」

 

「そ、それは!G.BIBLEがないと最高のゲームが作れなくて、ゲーム開発部を守れないから……!」

 

「それで最後に3つ目。ミレニアムプライスに出す作品がそういうのでいいの?」

 

「……?アリスは理解できません。ゲーム開発部を守るためにはG.BIBLEが必要なのです」

 

 ここまで言って気づかないか、とツクリは内心でどうしたものかと頭をひねる。たとえテイルズ・サガ・クロニクルの周りの評価がクソゲーであっても、そこには製作者の魂があった、愛があった。情熱があった、創作者としての叫びがすべて込められていた。これこそが私たちが作るゲームだと胸を張っていたのだ。

 

 今のままではたとえG.BIBLEの中身を手に入れて最高最強のゲームを作ろうが、そこにあるのはすべて錬金術で失敗した灰以下になる、むしろ灰はまだ使い道がある分ましかもしれない。できるのはそう、面白いだけで中身は空っぽのゲームだ。

 

 今のゲーム開発部は、創造者、クリエイターとして欠落してしまっている。ツクリであったらそんな手段で部を守ろうと、いずれはバラバラになるだろうと考える。

 

 そう……今のゲーム開発部は努力の仕方を根本から間違えている。そしてそれは指摘されて気づくものでなく、自分たちで気づくべきものだ。クリエイターじゃない先生にはわからない、創り出すものとしての誇りを取り戻してほしいとツクリは願う。

 

 確かにキヴォトスにおいては力で物事を解決することは往々にしてある。あるにしても短絡的すぎる。生徒会を襲う?この件に関して生徒会は何も悪くない。当たり前に仕事をし、ルールを守ろうとしているだけだ。

 

 気づけ、気づけ、気づけ。破滅的な一歩を踏み出す前に。それを、それをしてしまったのならあなたたちがこれから何を作ろうとクソゲーランキング1位以下の文句がずっとついて回るのに、気づけとツクリは切に願う。

 

「ふ、ふんっ!いいもん!ツクリ先輩がいなくたって私たちはG.BIBLEを使ってミレニアムプライスで受賞をするんだから!絶対にゲーム開発部は守り抜いてやる!」

 

「あっ!お姉ちゃん!ごめんなさいツクリ先輩、失礼します!」

 

「ドゥーン、ツクリを仲間にするのに失敗しました……」

 

”ごめんね、ツクリ。お邪魔しました”

 

 怒って出て行ってしまったモモイを追いかけるミドリ、アリス、そして先生。慌てて頭を下げていくユズにツクリは声をかける。

 

「ねえ、このままで、いいの?」

 

返答は、無言での会釈だった。

 

 

 

 

 

 さてさてどうしたものか、とツクリは頭をひねる。ゲーム開発部、エンジニア部、ハッカー集団ヴェリタス……この3つが一塊になって生徒会に襲い掛かる……さすがにユウカちゃんでも分が悪い。だから、セミナー直属と言っていい特殊部、C&Cに依頼したようだ。

 

「んで、こんなところで高みの見物ってわけか。錬金術士さんよぉ」

 

「ん、まあそうかも。ごめんねネルちゃん。ミレニアムの外にいたのに」

 

「構わねえよ。お前のモモトーク無視すると後が怖ぇ。リオ会長の方から依頼はほぼほぼキャンセル入ったしな」

 

「はぁ、あのリオ会長が、キャンセル。いやしかし、派手にやるなあゲーム部のみんな。先生がいるから戦闘能力あがってるし」

 

 そこかしこから爆発音やら何やらが聞こえてくるここはミレニアム生徒会、セミナーの差押保管室。ゲーム部たちが求める鏡、というのはここにある。というか今ツクリが手で持って弄っている。

 

 ツクリの隣でけだるげに椅子に座るのは、メイド服の上にスカジャンという奇抜なファッションに身を包んだやさぐれメイドだった。彼女はネル、C&Cのリーダーにしてミレニアム最強を誇る生徒。アビドスにおけるホシノ、ゲヘナにおけるヒナと同じポジションにいる生徒だ。

 

「説教のためだけにあたしを呼びつけるのなんざお前くらいだよ。まぁ確かに、窮地にたってんのにチートコード求めて生徒会襲うなんざ確かに気に食わねえが」

 

「G.BIBLEの中身が何なのかは私も知らないけどね、あくまでそれはプラスアルファでしかないはずなの。今のゲーム部は、プラスアルファを主軸にしようとしている。逆転現象真っただ中ってわけ」

 

「ハッ!!上っ面だけ取り繕うくらいならまっとうなクソゲーでも出してくれた方がまぁだ印象良いぜ。必死さだけなら評価対象だな」

 

 彼女ら二人がここにいるのはユウカに協力を求められたから、ではない。ネルは本来不在のはずだったし、ツクリに至っては静観するつもりだった。ただ、創る者として一言ぶちまけてやらないと気が済まなくなったから、錬金術でピッキングをして屋上からこの保管室へ侵入したわけだ。

 

 ネルに至ってはミレニアムの外にいたのだが、何らかの依頼がキャンセルになったのをついでにツクリが捕まえたのである。前衛のネル、後衛のツクリ。そして目的の鏡と呼ばれるツールはツクリの手の中。

 

 ミレニアムの中でもナンバーワンの実力を持つネルと、本体はそこそこでしかないが後衛にすると反則的な能力を発揮するツクリ。たとえ先生が居ようとゲーム部とエンジニア部とヴェリタスがまとめてかかってこようと、鏡を奪うのは不可能だろう。

 

「しかぁし、派手にやってくれんなぁオイ。あたしが先に迎えに行っちゃダメなのかよ」

 

「爆破は私の専売特許なのに。ダメに決まってるでしょ。ネルちゃんにエンカウントしたら誰もここまで来れないじゃん。大方派手にやってるのはゲーム部以外ってかんじかな?そもそもみんな戦闘は本職じゃないんだし」

 

「てめーもそうだろうが反則野郎。味方にしたら頼もしい癖に敵に回したらそれ以上に面倒癖えんだよ。この前の模擬戦でビルごとあたしらを埋めたの忘れねーからな」

 

「お褒めに預かり光栄ですぅ~。それにちゃんと生き残るようにしたじゃーん。ネルちゃんたちがいる部屋丸々補強して下敷きにしても問題ないように。私が真正面からC&Cに挑んでも勝てるわけないし」

 

「前提から全部ひっくり返す奴があるかよ。そうじゃねえと歯ごたえねえけどさ」

 

 まさに雑談、ユウカをはじめとして生徒会もゲーム部たちも必死になって目的を果たそうとしてる中、我ら関係なしと微妙に爆発などで揺れる押収物品たちに囲まれて仲睦まじげに話していると、キィィ……きわめて静かに保管室のドアが開いた。

 

「やった!あとは鏡を見つけるだけ……えっ!?」

 

”ツクリ……!”

 

「そ、それに美甘ネル先輩……!」

 

「おーおーおー、待ちくたびれたわ。やってくれたなぁええ?ゲーム開発部?」

 

「はろはろ~、先生。みんなもちょっとぶり~。あ、銃は構えておいてもいいよ?私たちは生徒会側ではないけど、先生たち側でもない第3勢力だから。こういう展開好きでしょ」

 

「す、好きだけど今起こってほしくなかった!」

 

 アリスを囮にしてセキュリティをすべて突破してきたゲーム開発部にとっては、まさか隠しボスが待ち構えてるとは思いもしなかったであろう。ラスボスは何とか振り切ってきたはずだったからだ。愛銃を弄るネルを見たミドリは思わず自分の銃を強く握りしめた。

 

”ツクリと……君はネルだね。君たちの目的は?”

 

「は~~、先生ってのは各学校の生徒を全員把握してるだなんて聞いちゃいたがあながち間違いでもねえのかもなぁ。あたしはおまけだ。用があるのはこっち。ああ、別に襲い掛かってくれてもいいぜ?勝てる気ならな」

 

「なはは~。テイルズ・サガ・クロニクルを見た後はこれなら大丈夫って思ってたんだけど、どーも変な方向に行ってるからねえ。先輩からおせっかいを焼きに来たのさ。結局気づけなかったみたいだし」

 

「気づけなかった……?」

 

 思わず首をかしげるモモイ、思うところがあるのかユズは目をそらした。なんだうすうす感づいてるんじゃんとツクリは表情を柔和なものから厳しいものに変えて一言放った。

 

「――――ミレニアムプライスを、舐めるな」




 創作者としてはクソを量産しようが心一つあればいいぜっていうのがツクリさんの主張です。あとゲーム部は真正面から頼め。いきなり奪えば全部するな

 ではまた次回に。感想評価よろしくお願いします
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