ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士 作:アトリエはいいぞ
「ミレニアムプライスは、ミレニアム最大級のイベント。技術系のミレニアム生はこぞって作品を出展する。まあそんなことはわかってるよね。問題、というか私が気に食わないのはあなたたちの姿勢」
”姿勢……それは”
「さすがは先生、お気づきでしたか。まあアトリエであれだけ匂わせましたからね。不正行為で得たもので賞をかっさらおうとするなんざいい度胸してますねってことですよ」
「これに関しちゃあたしもこのチビに賛成だな。ルールってのはフェアにするために敷かれてるもんだ。品評会のルールさえ破らなきゃ何したっていいっつー根性がすでに土俵に上がれてねえ」
「だ、だって!G.BIBLEがなきゃ最高のゲームが作れないし!」
「別に真正面から頼めばよかったんだよ。G.BIBLEを解読したいからツール返してって。あなたたち、ユウカちゃんのこと敵か何かと勘違いしてない?ツール自体が合法なものなら条件付きで使わせる程度は融通効くよ」
創作とは、創るということは苦しいものだ。ゲーム開発部のように最高のゲームを作るためにG.BIBLEを使いたい、というのならばユウカとて融通を利かす程度はできる。
けど、ゲーム開発部はそれを選ばなかった。力で押し通り、奪いとるという手段をとったのだ。先生が、よほどのことでなければ止めないというのも理解したうえでだろう。
「私は正直、テイルズ・サガ・クロニクルが世間的に評価を受けなくても、実績として数えていいものだと思ってた。何でかって言ったら、あなたたちが心の底から作りたいと思ったものだと理解したから」
「あたしはそれに関しちゃしらねーけどよ。お前ら、ここまでやって作るゲームってほんとにお前らが作りたいもんなのか?廃部を回避するためでしかねーんじゃねーの」
「G.BIBLE……例えばそれが最高のゲームを作るためのレシピだったとしても、今のあなたたちが使っても面白いだけで中身は空っぽなゲームができるのがオチだよ。だって今のあなたたち、簒奪者であってクリエイターじゃないから」
かなりの言われたい放題だが、ゲーム開発部は言い返すことができない。生徒会襲撃、そしてG.BIBLEの略奪……まではいい。それまでだったら悲しいがキヴォトスにおいてはよくあること。反省部屋に後で入ればまあまあいいだろう。
ただ、たとえエンジニア部だとしても盗んだ部品を組み込んだ作品をミレニアムプライスで発表することはないだろう。やってもその部品をコピーして別物レベルまで改良したもので済ませるはずだ。クリエイターとしての誇りが彼女たちにはあるから。
「世紀のクソゲー、悔しいとは思う。だけど、私はこれを奪ってG.BIBLEを解読したあなたたちが作ったものが、評価を受けるとは思えないなあ。クソゲーとすら言われないんじゃない?」
「私たちが、創りたかったもの……」
「そ。今のあなたたち、心に愛は宿ってる?モモイちゃんがシナリオを、ミドリちゃんがイラストを、ユズちゃんが企画を作るとして、濁りのない愛を注げる?」
……できない、と3人は心の中で思った。だって、今だって後ろめたいから。鏡が必要だった、何のために?G.BIBLEを解読するために。じゃあそれはなんで?決まっている、ゲーム開発部を守りたいから。
ユウカに聞かなかった。だって、ゲーム開発部を潰す敵だとおもっていたから。でも、思い出してみればユウカは何度もチャンスをくれた。それなのに、私たちはいまユウカがいる生徒会を襲っている。
「まあG.BIBLEが必要なら使えばいいよ。でもさ、それはあなたたちが作りたいものを作り切った後に塗すスパイス程度でしかないはずなの。あなたたちはG.BIBLEに頼り切ろうとしてない?」
「それ、は……」
「とまぁ言いたいことは言い切ったのでここからはバトルパートだよ。それでも、どうしても。このツールが欲しいならかかってきなさい」
「っか~!やぁっと出番かまどろっこしい。話が長げえんだよツクリは。おら、構えろゲーム開発部、先生。ボーナスステージだぜ」
いつの間にかツクリの手には鏡ではなくいつものリボルバーが握られていた。背もたれに顎を乗せてけだるそうにしていたネルも嬉々として立ち上がる。ここまで言われてもなおG.BIBLEを求めるのならそれはそれでいいのだ。
ツクリはただおせっかいしに来ただけに過ぎない。選択するのはゲーム開発部だ。G.BIBLEを使えば受賞はできるはず。確実な受賞を取るか、自分たちの心の愛に震えるゲームを作ることに賭けるか。
”強敵だよ、気を付けて”
「勝てるわけない、勝てるわけないけど……ツクリ先輩と距離を詰めさえすれば……!」
「……両方。私たちは両方とる。G.BIBLEを手に入れて、私たちが作りたいものを作る。受賞できなくてもいい、全部やり切ってからじゃないと後悔するから……!」
「ユズちゃん……そう!そうだよ!私たちが作りたいゲームを作る!それをG.BIBLEでもっとよくするんだ!」
「なんだ、言えるじゃん。はい」
ぽいっとツクリは鏡を取り出して放る。あわわ、とミドリが何回かお手玉してそれを受け取った。きちんと自覚できたならツクリはそれでいいのだ。自分たちの愛を注ぎながらG.BIBLEを使う。一挙両得、欲張りだがクリエイターはそれくらいじゃないといけない。
「おーいそりゃねえだろツクリぃ。せっかく思いっきり暴れようとしてんだからさ」
「うそついちゃいけないよ~。一般生徒相手にネルちゃんが本気出すわけないじゃん。じゃれあいも無理なんだから適当なところで振り切らせてあげるつもりだったんでしょうに」
「あの、ツクリ先輩これ……」
「うん、その気持ち忘れないで。先輩なんだから啖呵切った後輩のことは信じるよ。ミレニアムプライスでその言葉が嘘じゃないことを証明して?あ、でも……そこの子ライオンは止めないから逃げるのは頑張ってね?」
「だぁれが子ライオンだ誰が!なんだったらお前に挑みかかってもいいんだぞアァン?」
親指でネルを指し示しながらそんなことを言うツクリとほんとに噛みつかんばかりにツクリに向かってガンをつける。ミレニアム最強の守護者相手に涼しい顔で煽りを入れるツクリに逆に顔が青ざめていくゲーム開発部。
「なはは、そうしたら自爆してやるから大丈夫。一緒に2か月くらい入院しようね~」
「これだからテメーはタチが悪いんだよ!手に持った爆弾そのまま相手に押し付けて爆発させるやつがあるか!投げろ!つーか気軽に自爆してんじゃねえ!」
”うん、ツクリは自分の体を大事にしようね?そのうち倒れ……目を合わせなさい”
「こいつぁ忙しすぎて寝るときはたいてい気絶なんだよ。倒れた回数なんざ両手両足の指の2週目までいってらあ。際限なく仕事受ける割には全く休みやがらねえ。気ままに旅してるように見えて基本的にゃ釜混ぜてるんだよ」
”シャーレの権限でツクリへの依頼は制限することにする。絶対”
「ああ、それがいい」
「そんな!?」
ぐっだぐだである。さっきまでドヤ顔と頼りになるオーラを醸し出していたはずのツクリは大真面目な顔で依頼の制限を大人と組織の権限を使って阻止しようとする先生とあきれ顔のやさぐれメイドのおかげで涙目になっていた。立派なワーカホリックなので逆にダメージを受けている。
「えーと、あの……」
「アァ、もういったいった。闘争の空気じゃねえし興も削がれたよ。気が変わらねえうちにな。ああでもよ、テメェらがやったことは掟破りの横紙破りだっつーのは心に刻んでおけよ。もう二度とするんじゃねえ。次やったら全員反省室じゃなくて病院行きだ」
「わ、わかってます!今後をやりませんぜったい!」
「……その、ツクリ先輩、ネル先輩……ありがとうございました」
「やめろ、あたしはC&Cの顔に今から泥塗るんだから礼なんて言うな。もう間違えんなよ。テメェはいつまでいじけてんだダボ錬金術士!」
「ぐぇっ!?ネルちゃん突っ込みが強烈……はいはい。まあ聞きたいことは聞けたからそれはそれでいいや。頑張ってよゲーム開発部!」
はい!と威勢のいい返事をして逃げていくゲーム開発部を見送るみぞおちにネルの強烈なトーキックを受けたせいで腹を抑えるツクリという間抜けな構図でツクリのおせっかいは終了した。
「んで、どうすんだいまから」
「とりあえずアリスちゃんがいなかったから反省室爆破かな」
「あァ、そうかい」
この夜、セミナー(主にユウカ)の悲鳴が響き渡り、反省室は木っ端みじんになったという。なお修理費その他はツクリのポケットマネーから出たのでユウカは何も言えなかった。その代わりにツクリを抱き枕にして寝たという噂だ。
「あなたから見て彼女、いえ、あれはどう見えるのかしら」
「疑問にはお答えできかねますね。誰のことを言ってるのか」
「……あなたたちがゲーム開発部に連れ帰った彼女のことよ」
「ああ、アリスちゃんのことですね。それは私個人としてですか、錬金術士としてですか」
「両方お願いするわ」
ミレニアムプライス当日、人払いをされたツクリのアトリエには一人……いや二人の人物が足を運んでいた。応接机の前でツクリの入れた紅茶を飲むのはビジネスOLという感じのスーツのような制服に身を包んだ女、調月リオ、そして隣で瀟洒にたたずむC&C番外、飛鳥馬トキの2名。
ゲーム開発部が受賞したという結果がテレビから聞こえてくるのに一安心したツクリは口を開く。
「それじゃ、私個人の方から。アリスちゃん自身に何かしら問題があるようには見えませんね。対人経験の少なさ、学習の短さからくる純粋さも外から見れば好印象。ゲーム開発部にいても問題ないはずですが?」
「そう。じゃあ、あなたの本業の視点で見ると?」
「不可思議の塊。神秘の集積炉といってもいい。頭がおかしいですよ、あんなもの作るだなんて。目的も不明、なのに明らかに戦闘を想定されてる。ロボにヘイローを浮かべてる時点で既存の技術じゃ無理ですね」
「おおむね私と同じ理解のようでうれしいわ」
何が言いたいのか回りくどい、とツクリは瞳を鋭くして目の前のセミナー会長……つまりはミレニアムにおける最高権力者を見つめる。隣でツクリをいつでも排除できるように足から力を抜かないトキのことは頭の隅に置いといて、ツクリは口を開いた。
「まどろっこしいですね。つまりはアリスちゃんがどうだというんですか」
「……もし、彼女がミレニアムどころかキヴォトスすら滅ぼしうる存在だとしたら、あなたはどうする?」
「そんなもんぶっ壊す一択……とでも言ってほしいんでしょう?可能性としては大いにありうるでしょうが、現状で判断するには性急すぎますね」
「その択があなたにあることが重要なの。いまはね」
つまりは、現状リオはアリスがキヴォトスを滅ぼしうるという情報をどこかでつかんではいるものの、確信レベルまでは至れていないということだ。だが、ツクリは知っている。この女、リオがどこまでも合理を追求する女だということを。
ここまでは前置き、ここからが本題。あくまで最低限の情報共有と認識のすり合わせをすますためのもの。
「それで?」
「私ともう一人、この存在について調べています。大方破壊に傾くので事前に話を通しておこうと思いましてね。アレを完全破壊する手段を開発してください」
「現状破壊するだけならすぐにできます。ですけど、絶対にやれません」
「それは、なぜ?」
アリス……正体不明のロボットであるがツクリにとっては粉々に破壊する程度であれば現状の手段でできなくもない。だが、今それを行えないのは理由がある
「破壊する、というのはありとあらゆる物事において最終手段です。壊した後で違いましたごめんなさいは通りません」
「情報不足だというのならその通りだわ。私の方でも確証は持ててない。それでも」
「それともう一つ。壊すことで発動するトラップがあるかもしれない。アリスちゃんには現状キヴォトスを滅ぼす意思は見えない。だけど、有無を言わさず壊した結果、それがトリガーになったら笑えないでしょう?」
その言葉にリオは言葉を詰まらせる。合理主義者であるリオは破壊することで発動するトラップの存在を否定しきれないからだ。ミレニアムにおいてそれは常套手段である。ヴェリタスも、エンジニア部もそのたぐいのトラップはよく使う。
「そして個人的な理由として一つ。創る者として、生み出されたものはできるだけ否定したくないんだ。存在するだけでそれが罪……そんなふざけた話はないでしょ」
「……ええ」
「もしも、もしもどうしても私に彼女を破壊させたいのなら確信じゃだめ。確定の情報を頂戴。たとえ誰が何をしても覆らない。アリスちゃんがキヴォトスを滅ぼすっていう確実な未来。それがあなたに提供できるなら、私も動く」
リオは、この段階で話をすることに不安を抱いていたが、清濁併せ呑むツクリの言葉にここで決裂しないでよかったと内心胸をなでおろした。リオにとってツクリのアトリエは未知しかない。何が飛び出してくるかわからないびっくり箱の中身だ。敵対したらただじゃすまない、そうしなくてよかったとリオは甘い紅茶を口に含んで、そっとため息をついた。