ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士   作:アトリエはいいぞ

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調合数増加は必須

「ん、ツクリ先輩、来てくれて助かった」

 

「いえいえ、気にしなくて大丈夫。先生とのあいさつも終わったし、そっちの相談は終わりましたか?」

 

 ビックゥ、と煽情的な制服を着こなす立体映像の少女、アコの肩が跳ねる。ぐりん、と顔だけ振り返って首をかしげるツクリはあくまでにこやかだが、内心ぐつぐつと怒りに震えているのはよくよく分かった。

 

 だって目が笑っていない。菫色の瞳は、まるで光を失ったガラス玉のようにアコと、後ろの風紀委員会を貫いている。ちなみに脅しなのはそうだが、本気で契約打ち切ってもいいと考えてたりする。一度で錬金できる数にも限りがあるのに、それが100個単位でくるのだ。1校くらいやめてもいいんじゃない?と思っていたりする。いい理由ができたかもしれない。

 

 ここはアビドス自治区、ゲヘナ近辺に接しているとはいえそれは事実。詳しい事情は知らないが、他の自治区にこんな大群を率いて侵攻するのは事前通達なしで、あるいはあっても大問題だ。国で言うなら国際問題、やばいなんてレベルではない。

 

 かといって、ミレニアムサイエンススクールという別の学校に通っているツクリが、アビドスとゲヘナの問題に割り込むのも実際にはおかしな話なのだが、錬金道具の供給はあくまでツクリが善意で行っていること。さじ加減はツクリ次第な以上、ギリギリ筋が通っている。

 

 対しての風紀委員会は退くも地獄進むも地獄という状況だ。ツクリや対策委員会の面々は知らないが、今回の派兵は便利屋を捕らえるというお題目のもとでシャーレの先生をゲヘナに拉致するというアコの独断行動であり、風紀委員会のトップである委員長の不在をいいことに行われた。

 

 退けば委員長からのお叱り、進めばゲヘナの中から錬金道具が消えうせる。傷の大きさで言えば後者が大きいが、だからといっても前者もごめん被る。いや間違いなく前者の方がいいのは間違いない。

 

 コツン、と音がした。ツクリの履いている硬質なブーツが立てた音だ。狼耳が生えた白い髪の少女、砂狼シロコの腰をかるくぽんと叩いたツクリは再び風紀委員の真ん前に立った。優雅さと高貴さの中に強かさを備えたトリニティや自由と混沌を愛するゲヘナの強者たちが放つそれとは違うプレッシャーが、ツクリから放たれている。

 

「ざ~~~んねん。時間切れ~~」

 

『は、はい?』

 

「アコ……どういうことかしら」

 

『ひ、ヒヒヒ、ヒナ委員長!?』

 

「委員長!?ということはゲヘナの風紀委員長!?」

 

 さっきまではなかった気配がいつの間にかアコの隣に出現していた。表情は乏しいが機嫌悪そうにその切れ長の瞳を細めるのは、ゲヘナ風紀委員会委員長、空崎ヒナ。時間切れ、といいつつツクリがひらひら見せているのは、モモトークというチャットアプリ、開かれた名前は空崎ヒナだった。さっきまで通話をしていたらしく電話の履歴も残っている。

 

「話は大方聞いた。アコ、あなた正気?ツクリさんが現れた時点で何をおいても謝罪して撤退すべきでしょう。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)に突っ込まれる隙どころじゃないわ。風穴があくわよ、風紀委員会に」

 

「さて、責任者が来てくれたことですし改めてお話しましょうか。その前に、ホシノちゃーん、でっておいでー」

 

「うっへー、どうしてわかるのさー。はいはーい、ごめんねみんなー、おじさんお昼寝してたら遅れてきちゃったよ~」

 

 うそつき、と心の中でツクリは考えていた。ホシノはおそらく、ツクリがアトリエから出てすぐにどこかに行っていた。アトリエに現れる前にも、何かをしていた。それを聞かないことがツクリがホシノと対等に接するうえで自分に課していたルールであったから、聞かなかったが。

 

 そして今、監視していたかのように現れた。ショットガンを片手に、折り畳み式の盾に手をかけるホシノはコンマ1秒あればすぐに戦闘態勢に移れるだろう。それを見るヒナは一瞬愛銃に手をかけてからすぐに離した。主題はすでに風紀委員会がどうするかに移っている。

 

「アビドス高等学校所属の生徒5名及びシャーレの先生にゲヘナ風紀委員会委員長、空崎ヒナとして謝罪をさせてもらいます。この度は、部下の独断によりアビドス自治区の自治権を脅かす行為をしたこと、誠に申し訳ありませんでした」

 

「うーん、そうして下手に出られちゃうとおじさんとしても素直にこらーっって言えないなぁ~でも~壊したものは弁償してよね~~。みんなは何か言いたいことあるかな~?」

 

「便利屋68は私たちが捕まえるわ。もう手出ししないで」

 

「わかったわ。アビドス自治区内に彼女らがいる限り私たちは自治区には入らないし武力にも訴えない。でもゲヘナに戻ってきたらその限りではないわ」

 

「それは……当たり前よね。うん」

 

 対策委員会のうちいの一番に口を開いたのは黒髪ツインテールの黒見セリカ、便利屋68とはさっきまでいた4人衆のことか、とツクリは思い浮かべて続けて、喧嘩っ早いとはいえセリカちゃんをここまで怒らせるとは何をしたのやらと身震いしていた。

 

 対策委員会と先生はヒナ及びゲヘナ風紀委員会の謝罪を受け入れた様子でほっと一息ついていた。なお、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)相手にもやったことがないほど深く頭を下げるヒナの姿に風紀委員会、特にアコは青を通り越して真っ白な顔になっている。

 

「さて、一件落着ばんばんざ~いと行きたいところですが、私としても今回のことには思うことがあります。錬金道具提供の契約のうちの一つ『ツクリの道具で他自治区への攻撃をしない』に抵触しかけています。何で発破用のフラムがそこにあるんですかね~~~?」

 

『こ、これにかんしては私はかかわってませんよ!?』

 

「ごめんアコちゃん、これ私。便利屋ってよく物を爆破するからがれき撤去のため積んできた」

 

『他自治区に行くときはおいていきなさいとあれほど……!』

 

「アコ、あなたが怒れる立場じゃないわ。二人とも反省文だけじゃすまないわよ。タヌキどもに謝る準備をしておきなさい。ツクリさん、迷惑をかけてごめんなさい。どんな沙汰でも受け入れる」

 

 ミレニアム生が作ったものが、外部への攻撃に使われる。それは一歩間違えば政治的な問題にかかわる。故に提供された錬金道具は有事の際を除いて自治区内だけで消費する契約になっていた。その契約をうかつにも忘れていたらしい銀鏡イオリは震えながら手を挙げて発言する。

 

 ゲヘナは自由だなあ、と怒りを通り越して呆れの段階に入りかけたツクリではあったが、ヒナの今一度の謝罪で気を取り直しておっほん、とわざとらしい咳込みを一つ。

 

「今回はギリギリ未遂ということで全契約の撤廃はなしにします。代わりにですが、道具提供の順番を一番最後に、それとヒナさんを数日貸してくれれば、チャラにします」

 

「わかったわ」

 

 ツクリが代わりにと言い渡した条件はゲヘナにとってはなかなかに痛手だった。空崎ヒナはゲヘナにおいては抑止力として大きな意味を持つ。それが数日不在になり、さらには枯渇しかけている錬金道具の提供が先延ばしになる。ダブルパンチだった。

 

 撤収、の一言で正気を取り戻した風紀委員会は武装を回収し慌てて撤収していく。大きくため息をついたヒナは先生に近づくと何事かをささやいて踵を返す。警戒を緩めたホシノが入れ替わるように戻っていった。

 

「ヒナ()()()。またおいで、ね?」

 

「うん、ツクリ」

 

 最後にツクリはヒナのことを友達としての呼び方で呼びかける。ヒナもそれには薄く微笑んで頷いて返した。ばいばーいと笑ってない笑顔ではなく本物の笑顔で風紀委員会を見送ったツクリは、改めて対策委員会と先生に向き直る。

 

「ではでは、私もお仕事が詰まってるのでこれにて!あ!先生もいつでもアトリエにいらっしゃーい、ですよ!といっても私のアトリエは移動してるので詳しい場所はホシノちゃんにでも聞いてくださいな!」

 

 ひゅーん、ぱし。と乗り捨てた空飛ぶ箒ことスカイフリーカーがひとりでに戻ってくる。若干爆発などですすけてはいるもののそれをぱっぱと払ったツクリは改めてそれにまたがる。

 

「困ったことがあれば~!ツクリのアトリエに!いつでもどこでも、お助けしましょう!だから先生!アビドスのこと、よろしくお願いしますっ!」

 

”まかされた。ツクリも困ったことがあったら、いつでもシャーレに来てね。私は生徒みんなの味方だから”

 

 その言葉にツクリはなるほどこれはホシノちゃんが不安になるわけだ、と得心顔をしながら頷く。ツクリはアビドスのことはアビドスで解決したいと直接的な支援を断られているので、彼女らを手伝うことができない。

 

 それにもの寂しさを覚えないこともないけど、ホシノのことをツクリは信じていた。もしも、もしもどうしようもなくなったら、必ず救けを求めてくれるはずと。

 

 そのことを信じて、虹彩異色の瞳に微笑んでから飛び立った。大きく手を振るツクリが見えなくなると対策委員会と先生は、すぐに顔を引き締める。問題は、終わってはいないのだから。

 

 

 

 

「こんばんは、ツクリ」

 

「いらっしゃーい、ヒナちゃん。ごめんねー、調合しながらで」

 

「ううん、構わない」

 

 どさ、ぽふ。たるに乗って錬金釜をかき回すツクリ。それに声をかけたのは、ぴっちりとゲヘナの制服に身を包んだ空崎ヒナだった。ヒナはアトリエにあるベッドに髪をほどき、上着を脱ぎ捨てて倒れこむ。

 

 夜も静まり返ったゲヘナのはずれに、アトリエを張りなおしたツクリはヒナが来ることを待っていた。ツクリの交友関係は多種多様。いろんな学校の上層部の生徒とは顔なじみだしモモトークも交換している。だからこそ、ヒナをあの場に呼べたのだ。

 

 それと引き換えに、ヒナに多大な心労をかけてしまうこともツクリは予期していた。アコのことはしらないが、ヒナは実質的に巻き込み事故にあっただけなのだから。

 

「疲れた、めんどくさい、眠い、甘えたい……」

 

「あはは、相当きてるねこれは」

 

「バカマコトにいろいろつつかれたから」

 

「あんまりマコトちゃんが言うなら私に言いなよ?言いくるめてあげるから、爆弾で」

 

「わたしのしごとがふえる……」

 

 なぜヒナがツクリのアトリエに来るのか。ここは、中立地帯だからだ。ツクリにへそを曲げられて道具を提供してもらえなかったら困る各学校はいつの間にか、ツクリのアトリエが張ってあったら銃を収めて通り過ぎるようになっていった。

 

 通りを歩けば不良が復讐に襲い掛かってくるヒナにとって、釜が沸く音と、かき混ぜる音、そしてツクリの緩い歌が響くアトリエは静かで、休むのにはもってこいの環境だった。ヘルメット団ですら、ツクリが作った道具で助かったことがある人間が混じっている。銃撃戦が当たり前のこの土地で即日退院するときは大体ツクリの薬を使用しているからだ。

 

 ツクリは深いことは聞かないし、追及もしない。ただ、いい匂いのする甘い紅茶……スウィーティーと、日替わりでいろんなお菓子が出てくるのは変わらなかった。

 

 ヒナは、どちらかといえばものぐさな性分だった。口癖はめんどうくさいだし、できれば仕事なんてしたくない。けど、職責と生来の几帳面さ、さらには責任感も強いため彼女が仕事を投げ出すことはない。

 

 それでも、彼女は一人の女の子だった。普通に友達と出かけたいし、おしゃべりもしたい。クレープをシェアしたい。そんな当然のことを考える、ゲヘナ最強という枕詞が邪魔をしているだけの女の子。

 

 ぽんぽん、と隣に座ったツクリが膝を叩くとヒナは吸い込まれるようにツクリのおなかに抱き着いた。すーっと息を吸うと、薬草のような安心する匂いとおひさまのような温かいにおいが混ざった不思議な香りがヒナを満たした。

 

 昼のゲヘナのことは間違ったことをしたつもりはない、だけど友達としては可哀そうなことをしたと思う。だから、アビドスから撤収して、ヒナのためにゲヘナにやってきたのだ。

 

 結んでたせいで癖になっているヒナの髪を手櫛で梳いているツクリは、ヒナより10㎝近く身長が低いのにもかかわらずよくよく様になっていた。

 

 スヤ、といとも簡単に眠りに落ちたヒナ。ツクリは苦笑しつつ、心身を癒す効果のあるそよ風のアロマという道具を焚いて、そのままゆっくりとヒナの頭を撫でていた。

 

 ゲヘナにしては珍しく、銃声が響かない夜の静けさは、ヒナの眠りを妨げることなく……ツクリの膝を盛大に壊したがヒナの快眠に比べれば些細な事、とツクリはリフュールパッドを足に張りまくりながら、慌てるヒナを落ち着かせるのだった。ゲヘナの朝はやっぱり、銃声と爆音が響いていたけど。




 キヴォトスのマンモス校上部とは取引の関係上面識がある系主人公。深いことは聞かないし、ただそばにいるだけだが、それが人を癒すこともたまにあるでしょう。

ミレニアムレンキンバクダンマ
攻撃は神秘or爆発。種別はspecial。単体ではヒナやホシノ、各学校のトップには遠く及ばないがこと屋外戦に限り錬金術にて規格外の力を発揮する。大体は爆弾のせい。準備をさせない時間が重要。逆にばっちり準備させると周辺地域が更地になる。何も残らない。市街地戦は火力に制限がかかるので苦手。屋内戦はただの置物と極端である。
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