ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士   作:アトリエはいいぞ

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神秘の力は割と万能

「えーと、三つ子トーンを触媒に、黄金樹の葉3つと、蒸留水でゼッテル作って、あとは特性を移して……これを中和剤に」

 

 ぐるぐる、くつくつ。大きな錬金釜の中は煮立ち、沸き立ち、素材の黄金の葉と極限まで高められた純度の蒸留水が入れ物ごと輪郭を溶かして溶け合う。最後に大きくツクリがぐるりと混ぜ棒をかき回すと、釜の中から羊皮紙のような紙が出来上がる。

 

 ここはツクリのアトリエ、小さな小さなアトリエの主は毎日錬金術に精を出している。錬金術は、素材がどうなりたいかを叶える技術だ。ツクリが手に取れば、素材はこうなりたい、ああなりたいと声を上げる。

 

 紙になりたい素材から、紙を作る。さらにその紙からまた別のものへ。神秘は神秘を累積し、錬金を重ねるごとに強い神秘を宿していく。そして、素材が持つ特性。簡単に言えば、素材が得意なことを選別して受け継がせる。

 

 爆発力を高めるのが得意な素材、良く燃えることが自慢の素材、人間の潜在能力を引き上げる素材、ツクリにかかれば、それらの願いはすべて叶う道具に変じる。

 

 紙から中和剤を作り、さらにその中和剤を材料にして爆弾を錬金したツクリは、それをごとっと机の上にひとまとめにして錬金釜の火を落とした。

 

「つかれたー。そういえば、ホシノちゃんどうしてるかな?ちゃんと先生と仲良くしてるかなー?」

 

 スイスイ、とスマートフォンの画面をスクロールしてモモトークの会話画面を開く、どうかなー?という雑な短文を打ち込んで、はふぅ、ゆるーい笑顔でたるのうえに座るツクリ。

 

「ククッ、素晴らしい。これが神秘をより強い神秘に変える錬金術……そしてそれを唯一操る創路ツクリですか」

 

「……不法侵入ですよ?」

 

「これは失礼。あまりにも濃い神秘があるものですから、惹かれてしまいました」

 

「いろんな人に出会ってきましたけど、お化けにあったのは初めてですねぇ」

 

 いつの間にか、アトリエの中にはおかしなナニカが出現していた。ロボットが闊歩し、生徒に羽が生え、角や獣の耳があり、獣人も珍しくないキヴォトスにおいてなお異質に見える存在。

 

 仕立てのいい黒のスーツを慇懃に着こなし、先ほどツクリが作った爆弾を興味深そうに手に取るのは、異形頭の大人だった。黒い靄は全身を包み、真っ黒の頭に白の罅が奔るナニカ。とっさに錬金銃を手に取る。

 

「お化けとは、言いえて妙と申しますかなんといいますか……ええ、ええ。私のことはどうぞ黒服と。創路ツクリさん、あなたをスカウトしに参りました」

 

「スカウト?」

 

「ええ。神秘と崇高に手をかける我ら探究者の集い、ゲマトリアにです。あなたの錬金術は、その資格がある」

 

「胡散臭いな~。セールスお断りってアトリエに貼っておこうっと」

 

 ごと、と爆弾を置きなおし、両手を広げてゲマトリアなる組織について語る黒服。熱がこもるそれに対してだんだんと白い目になるツクリ、完全に詐欺師を見る表情だ。

 

 ツクリの錬金術は、そりゃあもう狙われる。現状各学校は牽制状態だけど引き抜きの交渉がないわけじゃない。ミレニアムほど研究に打ち込めないので大体断るのが常だが。

 

 今度は大人からのスカウトときたかぁ、と有名になったものだと勝手に納得するツクリ、彼女は知らないがこの黒服、ツクリが錬金に没頭している間にホシノを詐欺同然に騙して監禁し、ついでに先生と舌戦を繰り広げたばかりである。そして懲りずにスカウト活動、面の皮厚いなんてレベルじゃない。

 

”だめだよ、ツクリ。その大人を、黒服を信用してはいけない”

 

「おやまぁ先生、これはこれは、嫌われたものです」

 

「ツクリから離れなさい」

 

「ヒナちゃんに、先生?アビドスにいたんじゃ……」

 

”事情が変わったんだ。ホシノがそこの黒服に騙されて、監禁されている”

 

 アトリエに入ってきたのは、空崎ヒナとシャーレの先生。まだゲヘナにアトリエを構えていたのはツクリだが、ヒナだけならともかくアビドスにいた先生がいるとなると話が変わる。

 

 ホシノが騙されて監禁されていると聞いた途端にツクリの目が据わった。彼女は、性分的には争いを好まないが、キヴォトスにおいて我を通すのに必要なのは力であるというのも理解している。故に、戦闘行動に躊躇いは一切ない。たとえ自分のアトリエだろうと躊躇なく爆弾を起爆するだろう。

 

「嫌われたものですねぇ……当たり前の話ですが。先生も来た事ですし私はこれにて」

 

「よくわかんないけど、ホシノちゃんに何かしてたら建物ごと吹き飛ばすからそのつもりで」

 

 状況は飲み込めなくても、ホシノがピンチだということはツクリにも察せられる。その敵が目の前で靄に飲み込まれるように消えていった。逃げられた、苦し紛れの宣戦布告をのどを鳴らして受け流されて。

 

”よかった、ツクリが無事で。探してたんだ、ツクリのこと”

 

「ツクリ、あなたモモトーク見なかったでしょう。錬金に夢中で。アビドス大変だったみたいだよ」

 

「うん、今気づいた。連絡用の方すごいことになってる」

 

 ツクリはスマートフォンを二つ持っている。一つは仕事の依頼なども含めて事務関係、いろんな学校の組織の生徒たちをひとまとめにした連絡用のスマートフォン。

 

 そしてもう一つは、小鳥遊ホシノ、空崎ヒナをはじめとして、ツクリが本当に心を許した生徒だけが知っている連絡先、私用のものだ。どちらも錬金に夢中になるとすぐにすっぽかしてしまうのが悪い癖なのだが。

 

 さっき送ったモモトークには連絡がつかない、既読すら。どうやらホシノは、ツクリに何も言わずにことを動かしたらしい。お互いに深いことには突っ込まない、その暗黙のルールがいつの間にかホシノからツクリへの『助けて』すら奪っていたようだ。

 

”事情は把握してくれたと思う。ホシノを助けたいんだ、協力してもらえないか?”

 

「うん、いいですよ。開始はいつ?準備してすぐアビドスに行きます」

 

「風紀委員会、といっても私とチナツ、イオリだけだけど、装甲車を出すわ。相乗りしていって」

 

”……いや、ツクリには対策委員会と一緒についてきてほしい。ホシノはきっと、君も待っている”

 

「それなら、アトリエごといった方がよさそうだね」

 

 シャーレの権限、学園を超えて生徒を登用し、事態の収拾を図ることができるあらゆる権利を飛び越えるそれは、学園間で結ばれた条約をも踏みつぶせる。ミレニアム生のツクリにとってはまさに、傍観者から当事者になれる魔法だ。

 

 ツクリはポケットから古めかしい意匠の鍵を取り出す。アトリエの片隅にあるコンテナにそのカギを差し込んで開け、いくつかのものを取り出した。

 

 翼を広げたような装飾、輝く結晶を先端につけた杖と、今着ているミレニアムのコートではない色鮮やかなコート。そしてサイドポーチ、山ほどの爆弾。コートを着たツクリは最後に、シャーレができると発表された時に連邦生徒会から配布されたピンクの封筒。

 

 これは、シャーレに所属すると決めたときに使えと説明されたものだ。自らのプロフィールをいわゆる履歴書のような形にまとめたもの。これを、自らの意思で先生に譲渡することで、複雑な一切合切を無視してシャーレに所属できる便利アイテム。

 

「はい、先生。これの意味は分かるよね?」

 

”もちろん。だけど、受け取るのは君が初めてかな。なにせ私は、シャーレができてすぐにアビドスに来たから”

 

「うわー、書類たまってそう。ヒナちゃんはどう?」

 

「今はまだ、遠慮するわ。もちろんアビドスの件は協力するけど……少し忙しくてね」

 

 シャーレは、扱いとしては部活らしい。既にひとりぼっちの部活動である錬金部にいるツクリだが、どうせミレニアムにはほとんど帰らないし、どこにいようと関係ない。シャーレに間借りしてしまうのもいいかも、とコツンと杖と地面が触れて鳴る音が彼女を正気に戻す。

 

「その格好ってことは、ツクリは本気ね。カイザーの基地が消し炭になるわ」

 

「そりゃあそうだよ。アビドスが砂漠でよかった~。市街地だったら……ビルが10棟潰れるかも」

 

”お、お手柔らかにね……?”

 

 創路ツクリは錬金術士である。彼女はあくまで創る者であり、戦う者ではない。それでも、空崎ヒナも、小鳥遊ホシノも、各学校の強者たちは口をそろえてこう言う。

 

[創路ツクリを敵に回したくはない]――――単体ではけして彼女らには及ばない創路ツクリだが、だからといって彼女らに勝てる手がないということではないからだ。強者の喉元に食らいつくための道具を彼女は無数に用意できる。

 

 ミレニアム生としての姿ではなく錬金術士としての姿に着替えたツクリ、ヒナ、先生はアトリエから出る。ツクリはぽんっとアトリエを叩く。するとテントの形をしていたアトリエはシュルシュルと縮んでいき、ツクリの手のひらサイズのミニチュアに変わってしまった。

 

”えーと、これは……”

 

「先生、ツクリのやることにいちいち驚いていると心臓がなくなるわ。ツクリは錬金術士、キヴォトスにおいて失われた神秘を行使するもの。びっくり箱か魔法使いとでも思っておけばいいわ」

 

「びっくり箱?あるよ?ほらこれ」

 

”ちなみにこれは?”

 

「夢がぎっしり詰まってて、時々震えて、人形の寝床な爆弾」

 

”……素敵だね”

 

「今のを翻訳すると、神秘がぎっしり詰まってて、震えるほど威力が高くて、直撃した相手の力が抜けて人形のように横たわる爆弾、かしら」

 

”予想以上に物騒だ!?”

 

 びっくり箱、と言われたツクリは意趣返しとばかりに包装されたプレゼントボックスをててーんと取り出す。陽気なおもちゃ箱という名の爆弾に込めた特性を説明するとヒナがそれを先生に翻訳し、先生はそれにドン引きになる。

 

 ここだけの話、実はツクリのアトリエに来る前に先生はゲヘナ風紀委員会に直談判をしに行ってるのだが、紆余曲折ありなぜか銀鏡イオリの足を舐めるという行為をばっちりヒナに目撃されていた。

 

 ヒナがアトリエについてきたのも、ツクリに先生が変なことをしないかという監視名目である。悲しいかなキヴォトスに来たばかりの先生には信頼がなかったのだ。

 

 ヒナが見る限り、先生は誠実な人間であった。ツクリのことだから、小鳥遊ホシノが監禁されていると聞けば即断即決で助けに行くことは容易に想像できた。

 

 ツクリは、深入りしてこないものの、懐に入れた人間にはどうしようもなく甘い性分だった。こちらから事情を話さない限り、ツクリは何も聞いてこない。それでも、大切に思ってくれることはヒナ自身、よく理解していた。

 

 キヴォトスでは学校間の政治的バランスが最重要視される。いろんな学校に知己がいるツクリにとってはこれはしがらみだった。なにせ、困ったことがあっても容易に介入できないからだ。

 

 ミレニアム内だったらツクリもどうにかこうにかできなくはない。エンジニア部の部費の前借りの保証人だの、セミナー会計に仕事が終わらないと泣きつかれても、よくわからないアヴァンギャルドな機械部品の調合なども二つ返事で受けれた。

 

 ただ、今までアビドスの借金問題を解決できなかったように、他自治区となると話は変わる。その地区の問題はその地区の人間で解決する、他自治区の介入は弱みを晒すことになる――――キヴォトスの弱肉強食の理論のせいで介入できなかった。

 

 シャーレに入部すればそれらはすべて解決できる。だからツクリは、封筒と書類が配られた時点で即決ですべて記入し封筒を完成させていた。まさかこんなに早く渡すことになるとは思っていなかったのは事実だけど。

 

「それじゃ、先生。私は準備があるからここで。ツクリ、あまりはしゃがないようにね」

 

”協力、案内ありがとうヒナ。またね”

 

「ヒナちゃん、むこうでね」

 

 ヒナは風紀委員会に戻り準備を整えるため、その場を去っていった。ビルの合間を蹴り上げて飛び越え、屋根伝いにジャンプしてゲヘナの校舎に消えていくのを見守り、ツクリは先生が乗ってきたらしいヘリコプターに一緒に乗り込む。

 

 自動操縦らしいヘリは勝手に立ち上がり、ローターを回して飛び立つ。どうやら先生はトリニティの方にも救援要請をしていたらしい。牽引式の迫撃砲を使った支援をしてくれるとのことだ。

 

「先生、電話先はティーパーティーの誰かですか?」

 

”うん、ヒフミがナギサっていう子につないでくれたんだ”

 

 なるほど、とツクリはひとつ頷いてモモトークを立ち上げ、ナギサ……桐藤ナギサのトーク画面にツクリ製の爆弾を使うのならのちに倍にして返すと連絡を入れる。ツクリ製の爆弾が雨あられと降り注げばさすがの相手も困るだろう。

 

 眼下には、すでに砂漠が広がっていた。元マンモス校だけあってアビドスの土地は広い、ツクリは杖を片手にアビドス校舎につくのをひたすらに待っていた。




 ミレニアムレンキンバクダンマ
キヴォトス全域を行動範囲とする生徒。ゲヘナシロモップ、アビドスオジサンモドキとよく行動を共にしているのを観察できる。不思議な力を持ち、道端で倒れこんでいる人間や銃撃戦に巻き込まれたものを見かけるとそのまま治療してしまう。
また、心がひどく傷ついた生徒を見つけるとミレニアムレンキンソバヨリソイという変種にかわり、寄り添う姿も目撃される。センセイオンナタラシには割と過保護であり、隙あらば爆弾を渡している。
ミレニアムレンキンソバヨリソイの近くには高確率でゲヘナシナシナシロモップとアビドスオジサンユメモドキの姿も確認される。
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