ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士 作:アトリエはいいぞ
「やあやあ皆の衆。助けに来たよ~~」
「ツクリ先輩っ!わあああんよかった~~~!」
「ツクリ先輩……来てくれたんですね……!」
「むぐ、セリカちゃんアヤネちゃんどうしちゃったの?」
”そういえば、ツクリとみんなは学校が別なのに仲がいいみたいだけど、どうしてなの?”
アビドスの校舎、砂だらけの屋上に着陸したヘリの中からふりふりと手を振りながら現れたツクリの姿を見た対策委員会の面々はわぁっと声をあげてツクリを完全に囲んでしまった。
ホシノよりも10㎝以上背が低いツクリはそれで完全に隠されてしまった。それに対策委員会の1年生である涙腺が決壊した黒見セリカと奥空アヤネに両脇から抱き着かれて完全にあっぷあっぷの状態だ。
先生は、それを微笑ましく見守っていたが、不意に襲ってきた疑問がそのまま口に出た。キヴォトス歴はまだまだ短い先生でも他校同士対立してることもおかしくないこの学園都市で、ここまで他校の中身に食い込んでる生徒は珍しいのではないかと。
「ん、その疑問は最も。ツクリ先輩はある意味特別。借金返済のお金の半分はツクリ先輩からでてる」
「正確には、先生もご覧になったツクリ先輩のテント……アトリエですね。アビドスに張れるようにする代わりにお家賃を払ってくれてるんです」
「ぐすっ、ツクリ先輩の売り上げの5%……額にすると平均で500万クレジットくらいでしょうか……」
”500って、つまり月に1億売り上げてるのかい?”
「あはは、それは個人での話だけどね。契約している学校からの売り上げも含めればざっと3億はいくよ。これが私をミレニアムが放してくれない理由なんだけどね」
ツクリの錬金道具は、理由は割愛するが原価がかかっていない。故に手間賃だけとって二束三文レベルで売ろうかとも考えていたのだがそこに待ったをかけたのがミレニアム上層部。
貼るだけで1日あれば骨折をも治せる湿布、飲むだけでありとあらゆる外傷を治癒する内服薬、多種多様、高性能な爆弾、つけるだけで力がみなぎるアクセサリー……こんなものが安価で漏れれば市場は大混乱に陥る。
故に市場経済、特に医薬品、医療機器、ついでにミレニアムの各部活の発明品、あと上層部の胃の平和を守るためにツクリの作る錬金道具はどれも高額に設定された。
それを不満に思っているツクリではあったが、他人の生活がかかってると思えば納得はしている。彼女にとっては瀕死の重傷でもたやすく治癒するエリキシル剤ですら道端でやられて倒れてるヘルメット団でも見かければ振りかける程度の扱いなのだが。
「だから、ツクリ先輩はアビドスにとっては恩人。他校の生徒なのに、わざわざ家賃って形で借金を返すのに協力してくれてる」
「まあ私が一括で返しちゃおうか?って提案したらホシノちゃんからだめ~~って言われちゃって。落としどころとしてそうなったんだけどねえ」
キヴォトスの学生は自立心が強い。自治区の問題は自治区の人間が解決するのが当然の帰結だった。それに、ホシノとしてもそんな安易な方法で解決したくもなかったのだろう。アビドス2年生の一人十六夜ノノミの個人資産で借金を返さなかったのと同じ理由だ。
”優しいんだね、ツクリは”
「そうなんですよ~!ツクリ先輩は、とっても優しいんです!しかも小さくてラブリー☆」
「それ関係ないと思うよ?私の錬金術は、誰かを助けるためにあるんだからね。私がたくさんいればもっと道具が安定供給できて、手の届かない値段じゃなくなるんだけどなぁ~~」
ずびずびと不安だったのか涙ぐんでる1年生二人を両手で撫でているツクリ、背の小さささえなければ非常に絵になっただろう。小学生に甘えている女子高生のような絵面から先生はそっと目をそらした。
「ほら、それよりもいこう?ホシノちゃんを助けにさ。もー、私に何も言わないなんて……耳元でクラフト爆発させてやる」
「ホシノ先輩が穴だらけになっちゃうからやめてあげて!?」
”ツクリの爆弾は物騒なのしかないのかな!?”
見るからに痛そうなとげが生えた爆弾を片手に暗い笑みを浮かべるツクリ、どうやらホシノが自分に何も言わず姿を消したことに相当お冠のようだ。信頼していたのが自分だけだったと思ってしまっている現状、無理のない話であるが。
「さ、雑談はこのくらいにしてさくさくっとホシノちゃん助けちゃおう。うへ~~ごめんなさい~~って聞くためにね」
「ん、先生。行こう」
”わかった。皆!目的地はカイザーPMCの前線基地だ!”
先生の音頭に、生徒たちは力強く返事を返した。
”さて、基地前には来たんだけど……当然ながら見張りがいるね”
「ん、ならば正々堂々正面突破」
「あれ?ツクリ先輩は?」
”え、さっきまでそこに……ってもう向こうにいる!?”
カイザーPMCの基地までやってきた一行、岩の隙間に隠れて機会をうかがっていたが、いつの間にか抜け出したツクリは入り口に立っている機械仕掛けのPMCたちに向かってそのまま堂々と歩いて向かっていた。
当然ながらとまれ!と声をかけられてアサルトライフルを向けられるが、ツクリが歩みを止める様子はない。杖を背負い、砂の大地を踏みしめるツクリ。PMCたちは無いはずののどをごくりと鳴らしてアサルトライフルを発砲しようとトリガーを引く。
その瞬間!ドガガガガガンッ!と音をたてて見張りPMC二人の銃が跳ね上げられ、眉間とボディーアーマーに守られていた左胸に風穴があいた。ツクリの右手には腰だめに構えられたリボルバーが撃鉄に左手を添えた状態で煙を吐いていた。
ファニングショット、トリガーを引いたまま撃鉄を連続で操作することでリボルバーを連射する技術。当然ながら銃も、弾丸もツクリ特性の錬金武器である。じゃらん、と50口径の薬莢をまとめて地面に捨てたツクリはスピードローダーで再装填を済ませ、さらにざわつくPMCの閉ざされたゲートを超えて基地に大きく手を振ってぽいっと何かを投げ入れる。
ドグワァァァァン!と基地の中で大爆発が起こり、内側からゲートが吹っ飛んだ。ぽかーんと口を開ける対策委員会と先生を尻目に、爆発で吹き荒れるコートを翻して一行の方に向き直ったツクリは、ちょいちょい、と手のひらでもう安全のハンドサインをしていた。
「つ、ツクリ先輩ってあんなに強かったんだ……?」
「たいてい爆弾投げ込んで終わりでちゃんと銃を使ってるの見てませんでしたねそういえば……」
「ツクリ先輩にはあの銃大きすぎると思ってたんですけど、ちゃんと使えるんですね☆」
「ん、持ってる武器を使いこなせるのは当たり前」
そういえば、ツクリがきちんと戦うところを見ていなかった対策委員会の面々は爆弾はともかくリボルバーの連射と命中精度に驚いていた。大抵ごたごたがあるときはホシノが盾を構えて突っ込み敵をひきつけ、ツクリが爆弾を投げ込んで終了だったからだ。
ウーウーとサイレンが鳴り響く。さすがにここまで派手にやれば気づかれて当たり前ではあるが、内側から爆発でこじ開けられたゲートを超えると、ありとあらゆるものがハリネズミのようになっていた。
倒れふすPMC、装甲車、建物に爆弾……クラフトに含まれていたトゲが見事に刺さっていたのだ。先端恐怖症の人間が見れば泡を吹いて倒れるだろう。
「ホシノちゃんはあっちだっけ?」
”そ、そうだね。ヒナがやりすぎないようにって言ったのはこういうことだったのか……”
「え、今のでやりすぎ?持ってきた爆弾の中じゃ威力低い方なんですけど」
”………………”
思わず先生もぽかーんである。自己申告していたがビル10棟消し飛ばすというのも建物ごと吹っ飛ばすというのもどうやら比喩表現ではなく本気でできることらしい。
ツクリは爆心地にむかうと何かを拾い上げる。そこにはなぜか先ほど投げ込んだクラフトが新品同様のピカピカ具合でそこにあった。あれ?と首をかしげる一堂にああとツクリは説明をする。
「このクラフトはあと5回使えます。納品してたり売ってる爆弾は意図的に品質を落として使用回数と威力を落としてますけど、自分で使う分はそんなの関係ないので」
「前々から思ってたけどツクリ先輩ってどこかぶっ飛んでるわね……」
「そんなことを言うセリカちゃんはこうだぞ~~~」
「ぎゃあああ!?そ、それ投げないで投げないで!?」
失礼だな、とツクリは手に持ったクラフトを振り上げて小走りでセリカを追いかける。起爆した時の惨状を知っているセリカは顔を青くして悲鳴を上げ逃げ回っていた。
”と、とにかくホシノのところにすぐ行こう!”
先生の号令でふざけていた全員は顔を引き締める。遠くでは榴弾砲の炸裂音と、かすかに聞こえる戦闘音が響いている。どうやらトリニティとゲヘナの両方も戦闘を開始したようだ。
「ちょいさー!」
どかーん、と紅蓮の炎がPMCを包む
「ほいさー!」
炸裂した氷の結晶が増援を氷漬けに
「ていてーい!」
吹き荒れる風が紙のようにPMCをどこかに飛ばして
「はいなー!」
いきなりの落雷が強化装甲車を丸こげに変える。
「ねえ、私たち必要?全部ツクリ先輩でよくない!?」
「ん、まだ一発も撃ってない」
”あ、あはは……”
まるで魔法を使っているかのような光景だ。増援が来れば爆弾を投げ、起爆したら炎、氷、風、雷のいずれかがさく裂してPMCたちを鎧袖一触で吹き飛ばしている。
フラム、レヘルン、ルフト、ドナーストーン。それぞれの爆弾を投げ込む、進むだけのピクニック状態になってしまっている。当然ながらからくりがある。それは、破壊をまったく気にしなくていいことだ。
例えばこれが市街地戦や屋内戦だったらツクリは爆弾の使用を制限しなければならないし、威力の大きなものはそもそも使えなくなる。ただ、こと屋外戦に限ってはゲヘナ最強のヒナや、それに匹敵する強さを持つ小鳥遊ホシノに並ぶ。それが錬金術士、創路ツクリだ。
”この辺りにホシノが閉じ込められてる場所があるはずだけど……”
「この周り、学校?」
「砂漠の中心部に学校、ということはもしかして」
「ああ、そうだ。ここは本来のアビドス高等学校の本館。好き勝手しているようだな……先生と、創路ツクリィ……!」
「お?おお!思い出した!錬金道具を優先的によこせって要求してきたカイザーの理事さんじゃないですか!」
目標の座標に到着した一行を待ち受けていたのは豪華なスーツに身を包んだロボット……カイザーPMCの理事だ。憎々し気な機械音声は、今にも舌打ちをしそうである。
ザッザッとツクリがめちゃくちゃやったりゲヘナ風紀委員会にやられたりトリニティの榴弾砲に巻き込まれなかったPMCの残り全兵力が集結する。今更恐れるものもないとツクリは爆弾を仕舞い、杖を手に取った。
「彼女のもとに行きたければ私たちを振り切っていけばいい。最も、創路ツクリさえいなくなれば崩れ去るだろうが」
「おお~~、高く買ってくれて嬉しいからとびっきりのサプライズをあげちゃおうかな~せぇの「そこまでよっ!!」――――ありゃ?」
ツクリが杖を振ろうとした瞬間、高らかに声が鳴り響きPMCのそばで爆弾が爆発する。まだ私なにもしていないとツクリが首をかしげる。ツクリの爆弾とは違う機械的な火薬の匂いに紛れて現れたのは、便利屋68の面々だった。
「べ、便利屋の皆さん!?」
「こっそり助太刀しようと思ったけど、なんだか大変そうだったから直接助けることにしたわ!」
「ごめんね~、大事な場面に割り込んじゃって~~」
「お、お邪魔しますぅ……」
陸八魔アル、浅黄ムツキ、鬼方カヨコ、伊草ハルカ。便利屋68のことはヒナから愚痴交じりに聞いていたし、あの風紀委員との小競り合いの時にもチラ見していたけど、ツクリにとっては真正面から見るのは初めてだ。
ここは私たちに任せなさい!と高らかに言い放つアルと、その号令に応じて銃器を構える便利屋の面々を見たツクリの感想は
(なんか!できる女って感じ!いいな~~~!)
これである。物を完璧に複製する代わりに代償に身長が縮んでいく複製の錬金術を使いすぎて背が縮んだまま戻らなくなったツクリにとっては、すらっといいプロポーションを持ちつつクールでビューティに見える陸八魔アルは一瞬で憧れに美化された。実態はともかく。
「あ、あら?なにかしらあなた?」
「あ、私こういうものです。いつかご依頼をさせてもらえませんか?」
「あらこれはご丁寧に」
名刺交換である。敵地のど真ん中で。呆れて声も出ないカイザーPMCのすきをついて弾丸をばらまいた対策委員会は後詰を便利屋に任せて強行突破。シロコがツクリの首根っこをひっつかんで砂漠の砂塵の向こうに消えていく。
「ぷ、ぷくく……かっこよく登場したのに……台無し……!」
「こ、こんなはずじゃなかったのよ!ってこの名刺!創路ツクリ!?本物!」
「社長、気づいてなかったんだ。正真正銘、創路ツクリだよあの人」
「な、なななな……!なんですって~~~~!?」
アルちゃんにはこれを言わせたい。ただそれだけ。皆さん評価ありがとうございます。嬉しくて泣きそうになってますはい。実はアビドス編で完結しようと短編で始めたのですが思ったより構想が膨らんだので連載に切り替えたいと思います。
評価、感想をくださるとモチベが高まるのでもらえると嬉しいです。それではまた。