ツクリのアトリエ 透き通る世界の錬金術士 作:アトリエはいいぞ
”終わらない、書類が……”
先生は頭を抱えていた。アビドス高等学校にまつわるごたごたを解決し、シャーレのオフィスに戻ってきた先生を迎えたのは先生の執務机を超えて、応接用の机やソファどころか床にまで膨れ上がった書類の山だった。
これはひどい、と慌てて解決に乗り出そうと現在めちゃくちゃに頑張っているものの、終わらない、終わらないのである。ほとんどは先生の承認が必要なだけの書類である。ハンコをおせばそれでよし、なのだが。量が量なのだ。
かといって、書類整理のために生徒を呼びつけるのもなあという先生としてのプライドが救助を拒否していた。如何せん、今は時期が悪い。
先生が今関係を持っている生徒は連邦生徒会の面々と、サンクトゥムタワーの奪還の際に知り合ったミレニアムのユウカ、トリニティのハスミ、スズミ、そしてゲヘナの風紀委員会の面々、アビドスの対策委員会、そしてツクリである。
そのうちシャーレに入部したのはツクリ、対策委員会、そしてゲヘナ風紀委員会の委員長のヒナ、これだけである。あくまでシャーレは部活、入部を希望しそして承認することで初めて所属することができるのだ。
それだけいるならだれかに手伝ってもらえばいいんじゃないかと思うかもしれないが、いかんせんその面々は大冒険の先に巨大な予言者と戦ったばかりである。休息が必要なのは先生として痛いほど理解していた。
「はいはーい、失礼しまーす。おー、これはひどい」
”ツクリ!?どうしてシャーレに?何か困りごとかな?”
「困ってるのはどこからどう見ても先生なんですけど?」
シャーレオフィスのドアが開いて、ひょこりと顔を出したのは128㎝の低身長、大きめのコートに白いミレニアムの制服、円の中に十字が浮かび、右上には六芒星が輝くヘイロー、蒼銀のショートポニーテール、菫色のたれ目の生徒、創路ツクリであった。
いよ、はっっと掛け声を入れて乱立する書類の山を躱していくツクリは小さい歩幅を活かしてちょこまかと動き、ようやっと先生の執務机の前にやってきた。座ってもなお先生より小さいツクリが目の前に来てやっと、先生は再起動する。
”よかったのかい?アビドスのみんなと一緒にいなくて”
「先生?忘れてるかもしれないですけど私はミレニアムの生徒ですよ。アビドスには月のうち1週間もいません。ゲヘナも同様です。私はキヴォトス中にいますから」
”そうなんだ。そういえば、あのビナーと戦ったとき、ヒナとホシノとツクリはずいぶんと息があっていたみたいだけど”
「あ、はい。そうですね、えーと、ホシノちゃんとヒナちゃんは、私の素材集めを手伝ってくれているからです。前々からお友達だったわけですね。それに錬金術は素材がないと何もできませんから」
目の前にある書類タワーの隙間から顔を出すツクリに先生は現実逃避とばかりに話題を提供して書類から目をそらそうとする。ツクリは確かにゲヘナ、アビドス、そしてミレニアムの生徒たちと息があった戦闘をしてれば疑問に思うかと口元に指をやりつつ答える。
実際のところ、ツクリが居なければホシノもヒナも面識を持つことはなかっただろう。ただ、ツクリのアトリエにやってきたときに出くわしただけの話。最初はお互いに借りてきた猫のように警戒しあっていたがのほほんとしたツクリを挟んでいたせいで警戒しあうのがばからしくなったらしくいつの間にか仲良くなっていたのだ。
「さぁて先生、この書類を期限順に片付けちゃいましょうか~~」
”うっ……見ないようにしてたのに”
「どこを見ても視界に入ってくるでしょうよこれは」
”助かるよ……”
生徒には情けないところは見せられぬ、と先生も腹をくくって書類の処理をしていく中で、ツクリは書類タワーを脚立に乗ったり、時折崩して埋もれたりしながら期限順にファイリング、それに不要な嫌がらせや落書きなどはこっそりと自分のかごの中に放り込んだ。錬金術に紙は必需品なのである。
「えー、温泉掘削の許可に、美食……あ~あの子たちですね。これはまとめて不許可です」
”いいのかい?内容を見もせずに”
「先生はご存じないかもしれませんがゲヘナのテロリストがテロを許可してほしいって言ってるようなもんです」
”キヴォトスは自由だね……”
「そりゃあもう」
正確にはキヴォトスではなくゲヘナがぶっ飛んで自由なだけなのだが、それはおいておくとしよう。1馬力が2馬力に増えたところで焼け石に水、かと思いきや意外とすいすい先生の仕事は進んでいた。
ツクリの書類餞別能力が高いのもあるが、書類の約半分が嫌がらせかどうでもいい依頼、もしくは連絡事項や、連邦生徒会の議事録など後で目を通せばいいものだったからだ。
一目見れば素材の本質をすべて見抜くツクリの錬金術士としての目は、書類整理にもどうやら生かされてるらしく、チラ見してはこれはこっち、あれはそっちと次々と書類を分別していく。期日が迫っているものだけが背伸びをしたツクリによって先生の机の上に置かれていた。
「はい先生、お腹すいてない?作ってきたから食べてよ~」
”美味しそうだね。ツクリは料理もするの?”
「これも錬金術だよ~」
いつの間にか書類をあらかた整理したツクリは、シャーレのオフィスの横にある給湯室にてこてこと入っていくと、大きなお盆に華やかな香りのするフルーティーという紅茶と大きなハンバーガー、芋がゴロゴロ入ったシチュー、それにお肉のローストを乗せて入ってきた。
「先生、なんだか顔色悪いよね~。朝ごはん抜いたでしょ。忙しい時のヒナちゃんそっくり」
”あはは、ツクリには何も隠せそうにないね。うん、忙しくてね。徹夜なんだ”
「むむ、寝不足はダメだよ先生。私もたまにやるんだけど錬金釜に落ちて茹でツクリになりかけたりしたんだから!ホシノちゃんが助けてくれたけども」
”………………私よりツクリが気を付けるべきじゃないかな?”
お盆が大きいせいかよたよたと入ってくるツクリ、仕事中とプライベートはわける主義らしく口調が緩くなっている。先生は苦笑いしながらもお盆に乗った食品をありがたくいただくことにした。
ふかふかのパンにジューシーなパティと野菜が挟まったハンバーガー、ねっとりとしてホクホクな芋がおなかにたまるシチュー、フルーツベースの甘酸っぱいソースと相性のいい肉汁が閉じ込められた肉のロースト。これらは先生にとってはシャーレに帰ってきてからほとんど初めてのまともな食事だった。
シャーレに帰ってからというもの仕事に忙殺されて食事はもっぱらエンジェル24というコンビニに売っている栄養補助食品で、限界まで仕事をして寝落ちをするという生活だったからか、異様にその食事が体に染みたのだ。
”ツクリは料理上手なんだね。ご馳走様、ありがとう。すごくおいしかったよ”
「えへへ、お粗末様でした。錬金術士は料理上手であれっていうのが不文律ですからね!」
実際にそんなルールがあるわけではないが、一説では錬金術は台所から始まったという話もあることだし単純にツクリのこだわりのうちの一つだろう。材料は結局錬金術からだけど、調理をしたのはかわりない。
”さて、午後からは依頼を片付けようかな。ツクリ、手伝ってもらってもいい?”
「もちろんですとも!というか、私が来なかったらどうするつもりだったんですか?」
”実は、連邦生徒会に所属している子に頼もうと思ってたんだ”
「あー、ヴァルキューレとかですかね。まあそこらへんが丸いのでしょうか」
シャーレに所属したいという生徒はまだまだ少ない。シャーレの知名度自体はおそらくキヴォトス全土に知れ渡ってはいるものの一体全体どういう組織なのか、何をしてくれるとかというのがまだまだ知られてなかったからだ。
ツクリは封筒が配られた時から興味津々だったので自力で調べたが、一般生徒からのお言葉によるとなんか撃ったら死ぬ先生っていうのがいるらしいから銃撃は控えとくかくらいの認識である。むべなるかな。
「それじゃ、行きましょう。最初の依頼はなんですか?」
”うん、近くでヘルメット団が騒いでいて困ってるから軽く注意をしてほしいって。他のも似たような依頼だね”
「おー、キヴォトスらしい物騒な依頼ですね。ん?ヘルメット団?この近くでですか?」
”そうだね。このあたりだよ”
先生はシッテムの箱の画面を操作して地図を見せる。ふむふむほうほうと頷いているツクリには何か心当たりがあるらしくぱちんと小さな手で柏手を打って頷いた。
「ではいきましょう。ぱぱぱっと終わらせて先生の睡眠時間を確保です」
”それじゃ、連邦生徒会の誰かにもついてきてもらって”
「ああ、いえいえ大丈夫です。多分話し合いだけで何とかなりますから」
では出発しましょう!と先生の手を掴んで歩き出すツクリとなされるがままの先生。話し合いは銃撃戦というのがデフォルトというのも先生はとっくの昔に知っていたのでまさかカイザーの基地の時のように爆弾を投げ込むつもりじゃなかろうなと背筋を凍らせたのだった。
「お、いたいた~。やっぱりキチキチちゃんたちだったか!」
「あれ?ツクリパイセンじゃないっすか。どうしたんすか?」
”あれ?しりあいなの?”
「えーとあんた誰?………………あっ!シャーレってのの先生か!ツクリパイセンとは知り合いっすよ!つってもあたしらが一方的に助けてもらっただけだけど!おいてめーら!銃下ろせ!んで何の用っすか?」
目的地に着いた先生とツクリを迎えたヘルメット団の面々の反応は予想以上に穏やかなものだった。向けられた銃は一瞬で地面に降ろされ、リーダー格らしいヘルメットの少女は尊敬しているような口調でツクリに話しかけるのだ。
「あたしらはキチキチヘルメット団!いや、実は何回か抗争に巻き込まれてボロボロにされて地面に捨てられたことがあるんすけど、ツクリパイセンはわざわざ治療してくれたんす!ホローポイントって痛ぇし跡が残るしでほんとつらくて……」
「相手はスケバンだったみたいなんだけど、やりすぎだったんだよ~。口の中に銃突っ込んでフルバーストなんてもう、見てられなくてさ。やり返しちゃった☆」
”つまり、君たちはツクリに助けてもらったってこと?”
「そうっす!ツクリパイセンったらあたしらボコしてたスケバンの溜まり場に一人で乗り込んで全員のしちゃったし!あたしらの怪我をきれいさっぱり直してくれたり!あとご飯くれたり!とっても優しくて大好きっす!」
「それで、キチキチちゃんたちにお願いしたいんだけど、ここら辺の住民から苦情が出てるみたいなの。どこか別の迷惑がかからない場所に移動してもらえないかな?」
”行く場所がないならしばらくシャーレの体育館を貸すよ。学校に馴染めないんだったら転校手続きとかも私の方でできる。私は生徒みんなの先生だからね。悩んでることがあるなら教えてほしいな”
「ほ、ほんとっすか……?じつはあたしら、みんな元の学校じゃいじめられっ子で、それでヘルメットで顔を隠してるんです。学校に、行きたくなくて……」
先生の温かい言葉に青いヘルメットをかぶった生徒が事情を説明する。先生は内心でヴァルキューレや治安部隊の生徒を連れてきていたらそのまま戦闘になってこの子たちの悩みを聞くことができなかったとツクリの顔の広さに関心を覚えていた。
よしよーし、とヘルメットを脱いでかがんだリーダーの頭を撫でているツクリと嬉しそうなリーダーを見て、先生は改めて20人はいるヘルメット団全員の聞き取り調査を決意するのだった。
「ありがとね、先生。あの子たちのこと面倒見てくれて」
”いいや、当たり前のことをしただけだよ。ツクリのおかげで銃撃戦にならなかったし”
「んー、それはたまたま知り合いだったから。ヘルメット団とかスケバンってああいう事情を抱えた子がたくさんいるみたいなの。私じゃどうしても何もできなくて……先生がいてくれてよかったぁ」
嬉しそうに両手を合わせるツクリに、先生は彼女のパーソナリティを少し理解した気がした。いわば、奉仕の精神。困っていれば助けてあげたい、銃撃戦の跡、気絶させられたものは大体放置されるが、ツクリは見て見ぬふりをしない。
だって、痛いのはいやでしょ。と本人は言うが、キヴォトスだとマイナー気味だ。ましてや敵対組織まで気を遣うことはなかなかできないだろう。ノノミが彼女のことをやさしいと評したが、その通りだと先生自身も直で感じていた。
あとものすごく料理が上手、と先生はおやつですと出されたカクテルレープというスイーツと香りのよいコーヒーのコンボに早くも胃袋を握られる感覚を覚えたのだった。
先生もワーホリ、ヒナちゃんもワーホリ、そして主人公もワーホリ。ジェットストリームアタックできそうですがしません。過労で死ぬ。
感想評価ありがとうございます。引き続きいただけると嬉しいです。それでは