怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第10話 特別捜査本部

 ── 保須警察署 ──

 

 

 刑事課の会議室には普段とは種類の違う緊張感が漂っていた。

 

 壁際のホワイトボードには、3体の脳無と謎の男の写真が貼られている。

 会議室内にはテーブルと椅子が並ベられ、十数名の警察官と私服刑事が席に着いて中央に立つ塚内警部に視線が向けられていた。

 

 塚内警部は保須警察署の所属ではないが、ヴィラン連合はすでに警察の広域捜査の対象となっており、今回ヴィラン連合が放った脳無3体が保須市中心街区で暴れた事件について協力するために管外からやってきたのだ。

 

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」

 

 塚内は静かに口を開いた。

 

「先日の脳無3体が引き起こした一連の傷害罪、器物損壊罪、騒乱罪について、整理した内容をまず共有します。三茶、説明を」

 

 塚内警部の隣に控えるように立っていた猫のような見た目の玉川三茶が会議出席者に配布した資料の説明を始めた。

 彼は若手ながら堅実な調査や地道な捜査をすることで塚内警部をサポートしている。

 

「まず被害者についてですが、死者7名、重傷者12名、軽傷者42名、合計61名。被害車両につきましては………………」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……分かった。被害の報告についてはその辺でいい。重要ではないとは言わないが今日の会議の主題はそれではないだろう?」

 

 髪を整髪料できっちり固めた桐生刑事が顔を顰めつつ、被害について詳細を述べ始めた玉川三茶を止めた。

 

「そうですね」

 

「誰が名付けたか知らんが、脳無と言われてるあの異形体。アレ、本庁の科研が3体とも持って行ってしまったが情報開示はしてくれないのか?」

 

「そう、同じことを思ってた。現場に情報を下ろしてもらわないと困るんだが」

 

「保須だけじゃない。仙田区の脳無の件、私も後でTVで見たんだがね。エンデヴァーやミルコも躊躇いもなく脳無と呼ばれてる異形体を殺処分してるじゃないか。アレ、ヒーロー側には情報開示済みなんだろ? でないとああはならんよ」

 

 会議室が一気に雑然とした雰囲気に変わる。

 

「お静かに」

 

 塚内警部が挙手しつつ、統制の失われた会議を鎮める。

 

「とりあえず脳無について開示が許可されてる情報を共有します」

 

 塚内警部が手で合図すると、会議室の照明が落とされ、プロジェクターの映像が壁に映し出された。

 

「まず、一番最初に確認された脳無についてですが、これは先月ヴィラン連合を自称するヴィラン組織が雄英高校を襲撃した際に用いられました」

 

 壁に黒い肌をした巨体の脳無が映された。

 

「メディアで報道されましたので皆さんご存じでしょう。オールマイトが撃退して文字通り殴り飛ばしたわけですが、雄英高校の施設から400m離れた雑木林で死体の形で発見されたので回収しています」

 

 プロジェクターの映像が切り替わり、検死結果と死柄木弔自身が喋ったこと、それにオールマイトのコメントが記載された画面が表示される。

 

 ──────────────

 ・名称:改人脳無

 ・個性:ショック吸収

 →オールマイトのパンチがほぼ無効化された

 ・個性:超再生

 →雄英高校生徒の個性で凍結させた手足が割れてそこから完全再生

 ・肉体由来(非個性)のオールマイトに匹敵するパワー

 

  死因(活動停止理由):脳内出血の痕跡有り。オールマイトのパンチか墜落時の衝撃によるものと思われる。

 ──────────────

 

「ヴィラン連合のリーダーは死柄木弔。死柄木弔がこの異形体を『脳無』と呼称していたため、我々もそう呼んでおります。そして回収した死体の検死の結果、脳無の正体が人間であることが判明しています」

 

「……まあそうだろうな」

 

 容姿が不気味であろうと少なくともヒト型ではあるのだ。

 ただ、雄英高校の脳無だけではなく、保須と仙田区に現れたどの個体も脳が剥き出しになっているのは明らかに不自然で人工の匂いがすると皆は感じていた。

 

「だから改人か……」

 

「その死柄木弔が情報戦を仕掛けるようなタイプでないとしたら、文字通りの意味で人間を改造したと捉えていいのか? 本庁の見解を教えてくれ」

 

「皆さんの推測と同じ見解です。脳無は人間の死体を素体に改造された改造人間です」

 

 会議室の中がざわつく。

 

「死体?」

 

「いや、動いてるじゃないか」

 

「当然の疑問とは思いますが、では電気で動くロボットは生きていると表現しますか?」

 

 騒然とし始めた会議室の中で塚内警部が落ち着いた声で説明を続ける。

 

「電気とモーターで動く身体、それを制御する配線類、その全てを包む金属製の身体を持ったロボットという形態を、動力は筋肉、その動力源は糖分、信号伝達は神経系、カルシウムでできた骨格をたんぱく質の肉体が覆い、動力となるエネルギー源を血管が運ぶという形に変わったと思えばいかがですか?」

 

「それは……暴論すぎないか」

 

「……人格はどうなってるんだ?」

 

「仙田区のものも含めて確保した脳無7体は全て頭部を損傷して活動停止しているので、推論になりますがおそらく自我と呼べるものは残ってないというのが現在の見解です」

 

「人格がない、死体を材料にしたロボット……つまり我々は脳無を「モノ」として扱っていいということかね?」

 

「その通りです。ただ材料となった死体の……元の人間に対する敬意もしくは尊重する気持ちを持たなくていいと考えているわけではありません」

 

「綱渡りみたいな解釈だな」

 

「……これをマスコミに情報提供すると詭弁だと警察は勿論、対応に当たったヒーローが攻撃される材料にならんか?」

 

「本部では『なる』と考えています。なのであくまでこの情報開示は非公式なものです。ご理解願います」

 

「ちょっと教えて欲しいんだが。その最初の1体だけではなく、今回暴れた脳無の目撃者や対応したヒーローからこの脳無が複数の個性を使っていたと聞いているが事実か?」

 

「事実です。雄英の個体も仙田区の個体も複数の個性を使用しているのを確認しています」

 

 塚内警部が会議室内を見渡しながらそう答えた。

 玉川三茶が発言内容を補完する。

 

「保須市で暴れた3体の脳無についても対応したプロヒーローと目撃した市民から、脳無が複数の個性を使っていたと証言が取れています」

 

「じゃあ今までの全ての個体が複数個性持ちということじゃないか?」

 

 質問した刑事が顔を顰めた。

 会議室内にいる他の刑事や警官も深刻な表情に変わり室内のざわつきが大きくなる。

 

 

「…………まさか、ヤツ(AFO)なのか?」

 

 会議室で一番後ろの席に座っていた定年間際(ベテラン)の刑事が漏らした言葉が会議室を静まり返らせた。

 

「それについては開示が許可されていません」

 

 表情を変えずに塚内警部が答える。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「一旦休憩にしよう」

 

 誰かが言った言葉に全員が賛成し、会議室に集まっていた刑事と警官が外に出ていった。

 コーヒー、タバコ、なんでもいいが気分転換が必要な内容だった。

 

 

 塚内警部と玉川三茶だけになった会議室で、プロジェクターが保須市の中心街区を映した動画が再生されている。

 駐車場の入口を映している防犯カメラ、コンビニ内の防犯カメラで屋外が映っているもの。

 警察から録画データの提出をお願いして、それを継ぎ合わせたものだ。

 

「被害は保須市より仙田区の方が何倍も大きいんだよな」

 

「強力なトップヒーローがたまたまいた仙田区だからこそ、超再生の個性を持った脳無を撃退することができたんですよね。塚内警部、これ偶然なのでしょうか?」

 

「示威行為だよ。仙田区でなんとか撃退はしたが、被害者数は重軽傷者合わせて3桁を超える。建築物の被害も大きい。トップヒーローが対応してこれだけ大きな被害になってるんだ。しかも保須市と仙田区の事件を見れば脳無が量産可能な兵隊だってことが分かる。ヴィラン連合の名前が表はもちろん裏にだって十分に響き渡ってるだろうね」

 

 塚内警部が大きなため息をついた。

 

 壁に映されている動画では、身体つきから10代後半と思われる青年がオールマイトマスクを被って脳無に突っ込んでいくシーンが流れていた。

 

 距離が離れているのを拡大しているので画像は荒い。

 

「何者なんでしょうか、この青年」

 

「分からん」

 

 少なくとも扱いに困るのは確かだ。

 だが、保須市の被害が最小限に食い止められたのはこの青年の働きによるものだ。

 

「少なくともヒーローではない。オールマイトのマスクを被って正体を隠す必要はないからな」

 

「でもナイフ二本だけで脳無を倒してますよ、ほら。黒いタイプの脳無の弱点を的確に狙ってます」

 

 黒い脳無は超再生の個性を持っている。

 それを一対一で個性も使わずナイフだけでほぼ瞬殺しているのだ。

 塚内警部は初見の時、目が点になって開いた口が塞がらなかった。

 

 トップクラスのヒーローであるエンデヴァーやミルコと同じように、この青年は脳無を圧倒している。しかもなぜか脳無の弱点を知っている。

 

 脳無の情報開示はヒーローの中でも一部にしか行われていない。

 

「やはりヒーロー関係者か? 顔を隠す理由は…………資格がない、からか?」

 

「塚内警部、それ正解ではありませんか。ヒーロー科の学生であれば辻褄が合います」

 

「ヒーロー科の学生がトップヒーローと同じ戦闘力がある……かなぁ」

 

 強い個性があればあり得る。

 例えば雄英高校に入ったエンデヴァーの息子さんとか。

 だがこの青年はそもそも個性を使っていない。

 

「うーん……」

 

 動画で一般人の女性が脳無に捕まったシーンが流れ始めた。

 プロヒーローのマニュアルがそれを制圧しようとしているがマニュアルの個性は脳無に有効ではない。

 

 そこへ躊躇いもなく突っ込んでいく青年。

 

「──もしかしてヴィラン連合と敵対してるヴィラン?」

 

「違うでしょう。明らかに女性を救けるために突っ込んでいってますよ」

 

「……だよな」

 

 

 

 

 

 二人のとりとめのない会話は会議の休憩が終わるまで続いた。 

 

 

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