怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第12話 山中キャンプ

「…………っ!」

 

 朝、目が覚めたばかりの而今の目つきが怖い。

 

「どした?」

 

「ついに掴んだわ」

 

 そう言って而今は額を手で押さえ深刻そうな表情を浮かべている。

 

 ここしばらくトゥワイスだけに未来余地を使用していたからな。

 トゥワイスの未来の可能性を探るために重ね掛けをするのでかなりの日数を費やした。

 

 もちろんトゥワイスはトラウマが無くなればたった一人で国を落とせる最強の個性でヴィラン連合で彼より重要な人物はいない。その未来を間引けたので無駄ではなかったと思うが時間がかかりすぎた。

 

 外ではもう蝉が鳴き始めていた。

 

「それで俺は何をすればいい?」

 

「そうね、今日はとりあえずリサイクルショップ回りをしましょう」

 

「リサイクルショップ?」

 

「新品で揃えたらお金がかかるでしょ?」

 

「あ、ああ……そうかもな?」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「荷物はちゃんと積んだわよ?」

 

「……ありがとう」

 

「帑鹵がバイクの普通免許持ってて助かったわ。実際ほんと詰むところだったわ」

 

 ゴロゴロするのが好きな俺でも偶には遠出とかしたい時もあるからな。

 16歳になった時に普通二輪の免許を取得して400ccのバイクも買ったんだ。

 ちゃんと洗車もしている。

 

 その俺のバイクに今は大きなリアボックスが取り付けられ、更にはパンパンに膨らんだサイドバックまでぶら下がってる。

 なんか夜逃げするみたいだな。

 

「なあ? ほんとに山の中でキャンプしなきゃダメなのか?」

 

「ええ、ダメよ。現場で介入して、ようやくか細い糸を手繰り寄せられるのよ」

 

「俺、キャンプしたこと無いんだけど?」

 

 俺は重大な事実を告白した。

 キャンプ経験のない男がキャンプの場でどれほど役に立たないかあまり考えたくはない。

 

「私もないわ」

 

「Oh……」

 

 最悪じゃないか。

 キャンプ未経験者が二人で初めての山中キャンプだ。

 未来余地に頼らなくても未来が視える。

 

「ほら、いいから出発よ」

 

 大きなリュックを背負った而今がヘルメットを被って俺を手招きしている。

 

「……山の中で初心者のキャンプとか絶対地獄になると思うんだが」

 

 愚痴りつつバイクのエンジンをかける。

 ずしりとした重みが伝わってくる。

 

 この重さでツーリング200kmか。

 

 だが而今の未来余地で視た未来は絶対に当たる。

 だからまあ俺が愚痴ってるのは形だけだ。

 散々見た未来ではオール・フォー・ワンはかくれんぼが大好きだった。表に出てくる機会などそうはない。

 チャンスが来たならば、必ず掴んで殺ってみせる。

 

「出発!!」

 

 元気よく而今が叫んだ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 比較的通行量の多かった関越自動車道から藤岡ジャンクションで上信越自動車道に入ると車の数がめっきり減った。

 途中でSAの看板が見えてきた。

 

「おい、而今。休憩しなくて大丈夫か?」

 

 ヘルメット内に仕込んだインカムに向かって喋ると背中に抱き着いてる而今から返事が来る。

 

「大丈夫だから、このまま長野まで行って」

 

「了解」

 

 

 いくつものトンネルを通過しつつ、時々風景が開けた地形に変わる。

 そういえば長野に来るのは初めてなので知らなかったが、意外と山ばっかりじゃないんだな。

 

 バイクで高速道路をかっ飛んでいくうちに東京の刺すような日差しが消えて、高地特有の匂いが鼻をくすぐり始めた。

 

「──インターが見えた。ここで降りるぞ、而今」

 

「分かったわ」

 

 長野のインターで高速を降りて、近くのスーパーの駐輪場にバイクを停める。

 

「ぷはっ」

 

 ヘルメットを取って深呼吸する。

 ああ、空気が違うな。

 

 バイクのエンジンがキンキンと音を立てる中、両腕をぐるぐると回して凝り固まった筋肉をほぐす。

 

 駐輪場から店舗を見上げる。

 結構大きなスーパーマーケットだ。ここでキャンプの食料品を買い込むのだ。

 

 而今と二人で入り口から入ると、店舗内は冷房が良く効いていた。

 まずは保存のきかない1日分の生鮮食品とそれ以降に食べる保存食を買っておくか。

 

「そういえば聞いていなかったが、而今。そもそもどれくらい必要なんだ?」

 

「分からないわ」

 

「なんで分からないんだよ。未来余地で視たんだろ?」

 

「周りに日にちが分かるものが何もないのよね。帑鹵? あなた森の中の夢を視てそれが何月何日だって分かるの?」

 

「……たしかに無理だな」

 

「しょうがないから、雄英高校の毎年の合宿日程を調べたの。例年と同じスケジュールなら大体明後日くらいから合宿が始まるのよ。なのでとりあえず1週間分くらいの食料を用意しておきましょ」

 

「分かった」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あれか?」

 

「そう、アレがワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのマタタビ荘よ。雄英高校の林間学校の強化合宿が行われる場所」

 

「ふーん」

 

 道路側の開けた場所にバイクを停めて遥か遠く山の麓あたりを眺める。

 崖から見下ろした先には結構大きな建物が見えた。

 

「で、俺たちはどこにキャンプをするんだ? 雄英の生徒が来るまで待つんだろ?」

 

「近づきすぎて万が一にも視認されたらアウトよ。このあたりは彼女たちの私有地だからね」

 

「難しいな。どこか渓流の近くで水を確保できる場所じゃないと」

 

 結局そんな都合のいい場所はなく、俺たちがキャンプの拠点に選んだのは尾根を一つ越えた場所だった。

 

「それでテントってどうやって組み立てれば良いんだ?」

 

 少し開けた平らな場所にシートを敷いて、その上にテント本体を広げながら被せた。

 テントは迷彩柄だ。

 

「ほら。この輪っかにこの棒を通すのよ?」

 

「お、おお……」

 

「ほら、持ち上げて!」

 

「こ、こうか?」

 

「そのままじっとしてて。ペグ打つから」

 

「ペグって何?」

 

「もう黙ってて!」

 

「き、キレんなよ而今」

 

 スーパープロMAX最強蚊取り線香というのを近くの木の枝に引っ掛けて吊るしてるおかげなのか、近くに虫が寄ってこない。

 

「じゃあ、私が炭ストーブ組み立ててるから帑鹵は水汲んできて」

 

「おう、分かった」

 

 携帯型浄水フィルターと折りたたみ式タンクを持って俺は渓流まで移動して水を汲んだ。

 水は透明なので煮沸すればそのまま飲めそうな気もするが、万が一食中毒になって俺たちが山の中で倒れたら未来は終わる。

 

 そんなバカバカしい理由で未来が終わったらやってられん。

 

 浄水フィルターを通して水を10Lタンク一杯になるまで汲んでテントまで戻ると火起こしはすでに終わって、炭の赤い炎がストーブの全面ガラスから見えていた。

 

「おお……初めてでもなんか割と上手くできるもんだな……ってそれはなんだ?」

 

 携帯型の太陽光発電パネルを枝に吊るす而今を見て聞いてみた。

 

「電源の確保よ。携帯端末が使えなくなったら暇つぶしもできないでしょ?」

 

「まあそうだけどさ」

 

 なんかほんとにキャンプに来ただけみたいな雰囲気だ。

 まあ私有地の山に入り込んで勝手にキャンプする超マナー違反キャンパーだが。

 

「俺、暇つぶし用のアイテムとか持ってきてないけど?」

 

「帑鹵は尾根から望遠鏡で見張る役目よ。あなたに暇はないわよ」

 

「マジかよ」

 

 もしかしたらちょっと楽しいのかもって思ったのに。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 プッシーキャッツのマタタビ荘を一望できる高台にヴィラン連合の開闢行動隊が集まっていた。

 月明かりの中、大小様々な体格のヴィランが集まり、強い気配を発していた。

 

「疼く……、疼くぞ……、早く行こうぜ……!」

 

 黒いローブを纏った巨漢の男が堪りかねたように喋っていた。

 顔には安物のホッケーマスクを付けていたが、声には暴力を振るうのを待ち焦がれている響きがある。

 

「まだ尚早。それに、派手なことはしなくていいって言ってなかった?」

 

 逸る巨漢を宥めるように学ラン姿の男が横から口を挟んだ。頭部にはヘルメットと防毒マスクを被っていて顔は見えないが、声からするとまだ少年のようだった。

 

「ああ、急にボス面始めやがってな」

 

 高台からマタタビ荘を見下ろしているツギハギだらけ男がリーダーへの不満を口にした。

 

「今回はあくまで狼煙だ」

 

 暗闇から残りの人影が姿を現した。

 

「虚ろに塗れた英雄たちが地に堕ちる、その輝かしい未来のためのな」

 

 両腕が極端に肥大した禿げ頭の男が仮面の巨漢の男の隣に並んだ。両腕にガントレットのようなものを装着している。

 

「ああ、俺も早くコレを使ってみてえな。ヒーローの卵共を殴り飛ばしてぇよ」

 

「そうだ、早くやらせろよ。ワクワクが止まんねえよ」

 

 仮面を付けた男が中央の爛れた皮膚をツギハギしたような男に向かって喋る。

 

「黙ってろよ、このイカレ野郎共。まだだ……、決行は10人揃ってからだ」

 

 ツギハギ男の目には復讐に蒼く燃える炎が揺らめいていた。今まで待ち続けたこの男は待つことに慣れていた。待つほどに憎しみが炎に焚べられ青い炎が燃え盛る。

 

「おまたー」

 

 暗闇の中から更にヴィランが現れた。

 赤髪ロン毛の髭面の男に、全身を拘束服に包まれ口だけがむき出しになった男が不気味につぶやき続けている。

 

「仕事……、仕事……」

 

 そして伝説の竜のような頭部を持った男。

 さらにその背後から、頭部に二対の鹿のような角をはやした男が現れた。

 

 中央にいるツギハギだらけの男が揃い始めたメンバーを見て顔を愉しげに歪ませた。

 

「威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ」

 

 ツギハギ男は眼下のマタタビ荘を右手の掌に乗せるように手を伸ばす。

 

「やるなら経験豊富な少数精鋭。まずは思い知らせてやろう、てめえらの平穏は俺達の掌の上だということを」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……ということを言ってるわ」

 

「ふーん」

 

 而今の解説を聞きながら俺は山中の藪の中に潜みつつアイツラに手を伸ばした。

 

「で、皆殺しにして良いのか? もう見た(・・)からいつでも殺れるぞ」

 

 同じ藪に潜んでいる而今に俺は静かに問いかけた。

 




 歴史が変わったせいでヴィラン連合開闢行動隊メンバーが変わっています。
 ステイン殺害、トガヒミコ殺害、トゥワイス公安管理下のため、オリジナルヴィラン3名が代わりに開闢行動隊に入っています。
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