怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第13話 ヴィラン狩り その1

 俺と而今は奴らの後方に50mは離れた藪に潜んでいる。

 ここからなら気づかれることなく一方的に殺せる。

 

 俺はゴーサインの期待を込めて而今を見た。

 

「皆殺しはダメよ」

 

「ダメ?」

 

 アイツらは未来で人類社会崩壊の尖兵として活動し、数十億人が死ぬ切っ掛けを作る連中だ。

 生かしておく必要はないはずだが。

 

 アイツらに向けていた手を一旦下ろして而今に問い直す。

 

「皆殺しじゃなきゃいいのか?」

 

 念のために而今に小さな声で確認する。

 

「いいわよ。ただし彼らが合宿所にいるヒーローとその卵たちと戦闘になるように追い込んでね」

 

「……なぜ?」

 

 厳密に言えばヒーローとヒーローの卵は俺の敵ではあるが、俺の怠惰な生活を守ってくれる連中でもある。

 

「開闢行動隊に準備不足のまま雄英高校の生徒を襲わせたいのよ。そして失敗させるの」

 

 このまま俺たちが介入せずに傍観していると、油断しまくってる雄英高校の先生と生徒はヴィラン連合開闢行動隊の不意打ちを受けて、生徒たちに重軽傷者が多数発生する。更には一部生徒が誘拐までされてしまう。

 それを中途半端に微妙な感じに挫くとオール・フォー・ワンと接触できる未来がやって来ると藪の中で而今に説明されて俺は頷いた。

 

「……なるほど、分かった」

 

 かなり難しいが、要するにやつらを追い込めばいいんだな。

 

 今すぐ雄英高校の生徒を襲撃しなければならない状況にすればいいのだ。

 だが、殺しすぎればアイツらは襲撃を諦めて逃げ出すだろう。

 

 やつらが即時撤退を選択しない程度に様子を見ながら殺すしかないな。

 

 まずは一人。

 

「而今。まずあの鹿の角が生えたやつを狙うが、アイツはどんな奴だ?」

 

「彼の名前は鹿野鋭角。ヴィラン名はアントラーよ。個性はホーンエッジで頭部の角を自在に伸長させて尖った先端で攻撃する個性よ」

 

「なるほど……ちなみに犯罪歴は?」

 

「主に小中学生の女子児童を狙った強姦殺人ね。被害者は判明しているだけで87名。強姦後に被害者の全身を角で貫いて殺してるわ」

 

 聞くんじゃなかった。

 胸糞悪い。

 

「……遠慮はいらんってことだな」

 

 

 

「すまない、遅くなった」

 

 而今と今後の詳細な作戦を練っていると、黒い靄が広がり、その中から黒霧と二人の人影が現れた。妙な模様の入った仮面を付けて場違いなシルクハットを被った細身の男と脳無一体だった。

 

 黒霧はリーダー格っぽいツギハギの男と一言二言話すと、再び黒い靄を生み出し帰っていった。

 

 ……どうやらこれで開闢行動隊のメンバーが全員揃ったようだな。

 

 而今を見ると彼女も頷いた。

 

「……では始めるとするか。ヴィラン狩りだ」

 

 最初の獲物は鹿だ。

 

 俺たちに背を向けて立っている鹿の角を生やしたヴィラン(アントラー)に、俺は両手を向けた。

 

「死ね」

 

 俺は小銭泥棒(ワンコインピッカー)を発動した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「がっ!?」

 

 雄英高校の林間合宿所を見下ろせる高台に立っていたアントラーは胸に軽い衝撃を感じた。同時に激痛が走る。

 

 激痛に顔を歪めたアントラーがよろめきながら胸に手を当てると噴き出す熱いものを指に感じたが、それが何かを考える暇もなく急激な血圧低下で視界が暗転し全身から力が抜けていく。

 

「な……にが……?」

 

 何が起こったか訳が分からないままアントラーの身体はその場で崩れ落ちた。

 

「お、おい!?」

 

 たまたまアントラーの隣に立っていたリュウマが、慌てて崖から落ちかけたアントラーの体を支えた。

 そのリュウマの両手がべったりと血に(まみ)れる。

 

「──ッ!? 血!?」

 

 竜の頭をした男(リュウマ)の耳に、眼下の森から枝が落ちるガサッという音が届く。

 

「おいっ、おまえら! アントラーがやられた!!」

 

「何っ!?」

 

 開闢行動隊の何名かがリュウマと倒れたアントラーを振り返る。

 

「下から音が聞こえた! 森に誰かいる!!」

 

 致命傷を負って瀕死のアントラーを抱えたリュウマの目が恐怖で濁る。

 正体不明の襲撃者に対する恐怖に突き動かされて、リュウマは口を限界まで開いて眼下の森に向けた。

 

「喰らえ! 竜の咆哮(ドラゴンブレス)!!」

 

 謎の襲撃者が潜む森に向けて最強を自負するドラゴンブレスを放つ。

 

「バカ野郎! 勝手に何してるッ!?」

 

 いきなり眼下の森に向けて猛烈な炎を浴びせたリュウマを荼毘が制止しょうとしたが、もうすでに手遅れだった。

 

 崖下の森が一斉に燃え上がった。

 

 リュウマのドラゴンブレスは単なる炎ではなく可燃性の油と同時に射出されるため、一度ついた火は生木であろうと燃え上がらせてしまう。

 

「チィッ!」

 

 荼毘は胸から血を流して倒れたアントラーとそれを抱えたリュウマを忌々しげに見る。

 

 夜空は燃え上がる炎に赤々と照らされていた。

 合宿中の雄英高校側はこの火事にすぐ気が付くに違いない。

 

 いや、アントラーを殺ったのが森の中に潜んでいたヒーローならば俺たちの存在は既に雄英側に知られてたってことだ。雄英の合宿襲撃作戦が漏れていた? 

 だがヒーローがいきなり致死性の攻撃をしてくるなどあり得るのか? 

 

 荼毘の頭の中が猛烈な勢いで回転する。

 謎の襲撃者の正体は最早どうでもいい。

 考えなければいけないのは、雄英高校の合宿への襲撃を続行するか撤退するかの選択だ。

 

 だが、雄英高校の生徒やプロヒーローと会敵すらせずに仲間を一人殺されて逃げ帰れば、さすがに死柄木弔も呆れ返るだろう。

 かといってここで仕切り直して一時撤退しても雄英高校側の警戒はもう二度と解けまい。さすがにそこまでお花畑は期待できない。

 

 荼毘の決断は早かった。

 

「このまま準備無しで行くぞ。ぶっつけで襲撃計画を実行する」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

 ホッケーマスクを付けた巨漢が嬉しそうに叫ぶ。

 

「だが気を付けろ。アントラーを殺った謎の襲撃者がいる。あの炎の中で死んだかもしれんが他にもいるかもしれん」

 

「うるせえ! 暴れられるんならその謎の敵ごとぶっ潰すだけだ!」

 

 そう言って巨漢の男、血狂いマスキュラーは全身を筋肉繊維で覆うと、崖から勢いよくジャンプした。そして炎をものともせず森の向こうに姿を消す。

 残った開闢行動隊のメンバーも炎の包まれた森を避けて左右に散らばって姿を消していく。リュウマも抱えていたアントラーの死体を地面に横たえると、崖から飛び降りて仲間の後を追った。

 

 アントラーの死体を一瞥した荼毘もまた、脳無を従え眼下の森の中に飛び降りていった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「火事!?」

 

 木が焼ける匂いと音に気付いたイレイザーヘッドはすぐに窓の外を見た。

 補習を受けていた芦土や切島、上鳴、物間たちもすぐに窓のところへ駆け寄った。

 

「うわ! 山火事だ、やべえぞ!」

 

 合宿所から火事の場所まで距離があるが、放っておけばここまで延焼してくるのは間違いない。

 素人でも自然鎮火が期待できるような火の勢いではないのが分かる。

 

「おい! おまえら手分けして生徒たち全員叩き起こせ!」

 

「はい!」

 

 補習を受けていた生徒に指示を出したイレイザーヘッドは部屋を飛び出すと居住棟のプッシーキャッツの面々の部屋にむかって駆け出した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 合宿所の前の広場にプッシーキャッツのマンダレイ、ラグドール、ピクシーボブ、虎の4名とイレイザーヘッド、ブラドキング、そしてA組B組の生徒が集合していた。

 

「いいか? 山林火災で怖いのは火だけじゃない。燃えて巻き上がる粉塵と同時に一酸化炭素も発生する。防護措置なく迂闊に近づいて一息でも吸えば昏倒してしまう。状況が状況だ、そのまま死ぬことになる」

 

 相澤先生が生徒たちに向かって山林火災時の心得を述べている。

 

「今から呼ぶ生徒以外は集団を組んで反対方向に向かって避難を開始しろ。先導役はラグドールだ」

 

「はい!」

 

「そして消火活動に加わってもらうのは、A組の轟、八百万、B組の骨抜、吹出だ」

 

「はい」

 

「八百万、火災用の防塵マスクを作れるか? 一酸化炭素用だ」

 

「作れます、相澤先生」

 

「よし、人数分作ってくれ」

 

 イレイザーヘッドは真ん中に立っている轟に目を向けた。

 

「次に轟。燃えている森林部分を氷で遮れるか?」

 

 轟焦凍は遠方で広がり続けている森林火災の範囲を目算する。

 

「……広すぎて全部は無理です」

 

「分かった、できる範囲でいい。火災の南側を受け持ってくれ」

 

 ブラドキングが骨抜を見る。

 

「骨抜は燃えている森林の周りの木を地面に埋められるか」

 

「……半分くらいなら」

 

「十分だ。そして吹出、ジメっとした吹き出しを出して、湿度上げて延焼を防げるか?」

 

「やってみます」

 

「ピクシーボブ、土砂で火災部分を覆えるか?」

 

 手早く手堅く相澤先生とブラドキング先生が役割分担を決めていく。

 

 

 

 だがその時、煙が充満し始めた森を突っ切ってマントを付けた巨漢の男が広場に着地した。

 その衝撃で地面にひび割れが走る。

 

「よおしっ! 勢揃いしてるな雄英! 俺と遊ぼうぜ!!」

 

 血狂いマスキュラーは仮面を投げ捨て、嬉しそうに周囲を見渡した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ヴィラン!?」

 

「血狂いマスキュラーだとッ!?」

 

「消火活動は中止! 生徒は直ちに避難!! 俺たちは迎撃する!!」

 

 イレイザーヘッドは生徒に向かって叫ぶとゴーグルを装着した。

 マスキュラーの前後左右を虎とブラドキング、イレイザーヘッド、ピクシーボブとマンダレイが取り囲む。

 

 その隙にA組とB組の生徒がラグドールに先導されてマタタビ荘前の広場から山道に向かって移動を開始する。

 

「囲んだからどうしたって感じだが……まあいい。まずはお前らと遊ぶか」

 

 マスキュラーがにやりと笑いながら筋繊維を増殖させようと……。

 

「ん、出ねえ!?」

 

「我らを舐めすぎたな、犯罪者」

 

 虎が一歩踏み込んでマスキュラーに殴り掛かった。

 

「きゃあ!?」

「うわっ!」

 

 避難する生徒たちの方角からピンク色のガスが溢れ出した。

 先頭付近の生徒がバタバタと倒れていく。

 

「くっ、やはり複数のヴィランが」

 

「おいおい、多数で一人をボコるのはヒーローと言えんのかぁ?」

 

 森の中から両腕が異様に発達した禿げ頭の男が現れ、イレイザーヘッドに殴り掛かった。

 

「くっ! おまえは剛腕(ジ・アーム)!!」

 

「はっはぁ! ご名答! よく知ってるじゃねーかぁ!」

 

 イレイザーヘッドは捕縛布を繰り出して迎え撃つ。

 だがイレイザーヘッドがマスキュラーから目を離した瞬間、マスキュラーの全身をたちまち筋繊維の束が覆っていく。

 

「俺から目を離すとは舐めてんなあ、イレイザーヘッド!」

 

 ピクシーボブとマンダレイがマスキュラーの巨大な拳で二人まとめて広場の端まで吹き飛ばされた。

 

「はっはは、楽しいぜ!」

 

 高笑いするマスキュラーにブラドキングが血を浴びせかけ拘束しようとするが力任せに振り外される。

 

「ぐおっ!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 A組とB組の生徒がラグドールを先頭に山道で避難を開始した時、前方の木々の間から濃いピンク色のガスが勢いよく溢れ出した。

 ラグドールに続いていた生徒たち数名は溢れ出したガスに巻き込まれると地面にバタバタと倒れていく。

 

「いけない、毒ガスだ! みんなガスを吸うな!」

 

 A組の飯田が叫ぶと、先頭付近の生徒たちはガスから離れようとして後ずさり、後ろから来た生徒と合わさって団子状態になってしまった。

 

 その時、生徒たちの後方に現れた開闢行動隊のリュウマが、横なぎするようにドラゴンブレスを放ち、両側の木々と地面が一気に燃え上がった。

 生徒たちの後方に突破不可能な炎の壁が立ち上がる。

 

 前方を毒ガス、後方を炎の壁に阻まれて我慢できなくなった爆豪が、前方の毒ガスを爆破で散らして叫びながら突貫する。

 

「半分野郎! 俺は前をやる! おまえ後ろをやれ!!」

 

 イレイザーヘッドは生徒たちの退避路に炎が上がったのを目の隅に捉えた。

 ヴィランに対し完全に後手に回っていると内心焦る。

 

 どうみても強力なヴィランでプロヒーローを足止めしている。

 ターゲットは生徒だ。

 やむを得ん!

 生徒たちに自衛の術を──! 

 

「マンダレイ! 生徒全員に通達してくれ! イレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可すると!」

 

「分かった! いいんだね、イレイザーヘッド!」

 

 マスキュラーに吹き飛ばされたマンダレイは起き上がりながら生徒全員にテレパスを飛ばす。

 

『A組B組総員──! イレイザーヘッドの名に於いてヴィランとの戦闘を許可する!!』

 

 テレパスで伝えられた内容にA組とB組の生徒全員がこの事態の深刻さを改めて理解した。

 プロヒーローチームと雄英の先生の二人がいても生徒たちを守り切れないヴィランが襲い掛かってきているのだと。

 

 だが生徒たちが自覚すると同時にムーンフィッシュの歯刃が生徒たちの集団に襲い掛かった。

 

 




TIPS:帑鹵は山中でのキャンプ中、雄英高校がやってくるまで暇だったので小銭泥棒の個性を偽装する使い方を練習してました。話の構成上このエピソードを入れる場所がなかったので後書きの場を借りて。



 コ、コンと木を叩くような軽い音が響くと、目の前の木の幹に縦3cm、幅0.2cm、奥行き6cmくらいの細い穴が開いていた。

「ほら、できた」

 帑鹵が若干自慢気な感じで而今に話しかけた。

「ずいぶん器用ね?」

小銭泥棒(ワンコインピッカー)で抉る向きをコインを縦にして二回連続で抉るとこうなるのさ。どうだ? まるでナイフで刺された跡に見えるだろう?」

 帑鹵は手のひらの中にある2枚の木製コースターを而今に向かって放り投げなげた。
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