怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第14話 ヴィラン狩り その2

 ヴィランによる炎攻撃に真っ先に反応したのは轟焦凍だった。

 生徒の集団の後方に向かって駆け出した後にマンダレイからの戦闘許可のテレパスが届く。

 

「許可が下りたなら……」

 

 轟焦凍が地面すれすれから天に向かって右手を掬い上げるように振るう。

 

「最大出力…………穿天氷壁(がてんひょうへき)!」

 

竜の咆哮(ドラゴンブレス)!」

 

 リュウマが放った二発目のドラゴンブレスと穿天氷壁が正面から衝突し、膨大な水蒸気が発生した。山道と森の中に立ち込める猛烈な水蒸気が生徒とヴィラン双方の視界を奪った。

 

 山道の両側の木々が燃える炎で照らされて、視界が完全になくなったわけでは無いが轟はヴィランの位置を見失ってしまう。

 

「くっ……、まずい」

 

 轟焦凍は焦りで顔を曇らせた。

 1発目のヴィランの炎攻撃で燃え上がった木々が燃え広がる様子を見せている。

 今すぐ氷を使って消火したいが、その隙を見せた瞬間にヴィランの火炎攻撃に襲われれば、自分と周囲の生徒が炎に包まれるのは間違いない。

 

「ちょっと借りるよ」

 

 場に不釣り合いなほど軽く声をかけてきたB組の物間が轟の手に触れる。

 

「そらあぁああ!!」

 

 山道の両側で炎上していた木々がたちまち氷に積まれる。

 その瞬間を狙っていたリュウマが、再び水蒸気の靄の中からドラゴンブレスを放つ。

 

「助かった」

 

 轟焦凍が出した氷壁が3発目のドラゴンブレスを完全に防ぎきったが、再び濃密な水蒸気が辺りを包むと同時にムーンフィッシュの歯刃が水蒸気の靄を貫いて襲いかかる。

 

「させるかあ!!」

 

 A組の切島とB組の鉄哲が両腕を交差させ、轟と物間の間に飛び出して、振るわれた刃を身体で受け止めた。

 

 ギャリリリリッ!! 

 

 甲高い金属音を響かせながらムーンフィッシュの歯刃を完全に防ぎ切る。

 

帑鹵(どろ)

 

 生徒たちの後方集団にムーンフィッシュの歯刃が襲いかかるのを待っていた而今が俺に向かって合図を出した。

 

「了解」

 

 俺は森の中に潜んだまま、両手を雄英高校の生徒たちの集団に向ける。

 そしてタイミングを図る。

 

 切島と鉄哲に歯刃を防がれたムーンフィッシュは、歯刃を地面や木々に突き立てながら木々の梢に舞い上がった。

 

「まずい! 上からくるぞ!!」

 

 ムーンフィッシュが上空から生徒たちに向かって雷雨のように歯刃を繰り出した。

 

「個性:小銭泥棒(ワンコインピッカー)

 

 目標を視界に入れたまま、個性を発動する。

 

 降り注ぐ歯刃の雨をA組とB組の生徒たちが各々の個性を使って防ぎ、弾き、躱している中、樹上を舞うムーンフィッシュに向かって腰のベルトからレーザーを放っていた少年の胸部が裂けて血飛沫が舞った。

 

 少年は信じられないという表情を一瞬浮かべた後、首がガクンと垂れ下がり、地面に倒れ伏した。

 周囲にいた生徒たちに少年の血が降りかかる。

 

「青山くん!?」

「青山っ!!」

「嘘だろ、青山ぁ!!」

 

 周囲の生徒たちから悲痛な声が上がる。

 

「……悪いな」

 

 だが雄英の生徒たちは知らないのだ。

 この襲撃の手引きをした裏切り者がまさにあの少年なのだ。

 

「スパイ退治完了」

 

 而今に向かって頷く。

 ここでこの少年を殺しておかないと、厄介なことに開闢行動隊による雄英高校合宿襲撃失敗の様子がこの少年を経由してオール・フォー・ワンに漏れてしまうのだ。

 漏れてしまうとオール・フォー・ワンは警戒して表に出てこなくなる。

 

 ヒーローであれば裏切り者の少年にすら更生する機会を与えるのかもしれないが、俺はヴィランだからな。

 オール・フォー・ワンのやり口は知ってる。きっと少年に同情の余地は山程あるんだろう。

 だが、この先もオール・フォー・ワンに情報を漏らし続けるスパイを生かしておくほど俺と而今は優しくはない。

 

「お゛ぉおお゛っ!!」

 

 黒い影を身に纏った少年が絶叫した。

 夜空よりも黒い影が急激に膨張し、常闇踏陰の憎悪と悔恨によって一気に巨大化して周囲を威圧する禍々しき巨人となって立ち上がった。

 

「オ゛オオオオッ!!」

 

 巨人(ダークシャドウ)が吠え、空気がビリビリと振動する。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おお! すげえな! なんだありゃ!?」

 

 森の中に突如現れた禍々しき巨人(ダークシャドウ)を見て、マスキュラーが嬉しそうな声をあげた。

 捕縛布を操りながらイレイザーヘッドも一瞬だけ山道の森の中に立ち上がった黒影(ダークシャドウ)を見て顔を顰めた。

 

 致命的に不味いことが起こったのを察してしまう。

 

「マンダレイ! ピクシーボブ! 生徒たちの支援に行ってくれ!」

 

 イレイザーヘッドの声と山道の様子から非常事態を察して二人が駆け出そうとする。

 

「あら、行かせないわよ?」

 

 広場から離れかけたマンダレイとピクシーボブがマグネの磁力で広場に強引に引き戻された。

 地面に引きずり倒された二人を見ながらマグネは黒影(ダークシャドウ)の禍々しい巨体を見上げる。

 

「……あの子もすごくいいわね」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 影で出来た巨大な腕が唸りをあげ、樹上を逃げ回っていたムーンフィッシュの身体をその巨腕で握りしめた。

 

「がッ!!」

 

 ムーンフィッシュの口から伸びる歯刃が何本も黒影の手を貫くが、黒影(ダークシャドウ)は意にも介さずムーンフィッシュの身体を地面に叩きつけた。

 

「ぐぉッ!!」

 

 伸ばされていた歯刃がへし折れ、地面に叩きつけられたムーンフィッシュがくぐもった悲鳴をあげた。

 その一撃で意識を刈り取られて脱力したムーンフィッシュに対する怒りが収まらないのか、黒影(ダークシャドウ)は気を失ったムーンフィッシュの身体を持ち上げ、振りかぶって砲弾のように広場に向かって投げつけた。

 

 弾丸のような速度で広場に着弾したムーンフィッシュの身体が、地面を何度もバウンドしバラバラになりそうな勢いで、乱戦中のマスキュラーと剛腕(ジ・アーム)、マグネ、そしてイレイザーヘッドとブラドキングたちの場所に吹っ飛んでいく。

 

「うおおおッ!?」

 

 イレイザーヘッドとブラドキングはマスキュラーらと戦いながらも生徒たちの方に意識を割いていたため、吹き飛んでくるムーンフィッシュの身体に真っ先に気が付き、辛うじて身を躱したが、血狂いマスキュラーと剛腕(ジ・アーム)、マグネは歯刃を剥き出しにした砲弾(ムーンフィッシュ)に躱す間もなく巻き込まれた。

 

「……個性:小銭泥棒(ワンコインピッカー)

 

 空気を切り裂く歯刃の軌道に合わせて俺は個性を発動した。

 マスキュラーの右目と剛腕(ジ・アーム)の頸動脈を個性で容赦なく抉り取る。

 

 マグネの方は俺が手を下す必要すらなかった。

 ムーンフィッシュの歯刃がマグネの腹部を貫いて背中まで抜けている。

 

 最早3人共戦闘続行不可能だろう。

 

「ついでだ」

 

 地面に叩きつけられ昏倒しているムーンフィッシュの脳幹を小銭泥棒で抉り取ってやった。

 全身の骨が折れてそうなムーンフィッシュが助かるとは思えないが念の為だ。

 

 ヴィラン連合の戦力は削れる時に削ってしまおう。

 

 

「──帑鹵(どろ)

 

 而今が俺の袖を引っ張った。

 そうか、もう時間か。

 

 俺は而今に向かって頷き、森の中で移動を開始した。

 ここからがオール・フォー・ワン接触計画の要なのだ。

 

 

 ヴィランのマスタードが放った毒ガスエリアを避けながら森の中を移動する俺たちの耳に銃弾の発砲音と爆発音が連続して聞こえてきた。

 

「ダメだよ、かっちゃん! 森に火が!!」

 

「うるせえ! 黙ってろデク!! 拳銃なんぞ振り回すチキン野郎をぶっ飛ばすんだよ!!」

 

 ……マスタードの方も方がつきそうだな。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜の森の中を慎重に進む俺と而今の前方に脳無が現れた。

 俺たちから離れる方向に向かって歩いている。

 

「……いたぞ」

 

 俺は而今に向かって頷く。

 

 脳無は肩に一人の女性を担いでいた。

 プロヒーローチームプッシーキャッツのメンバーの一人であるラグドールだ。

 彼女は意識を失ってるようだ。

 

 おそらく避難する生徒を誘導するために先頭を移動していたのでマスタードの毒ガスに真っ先にやられたのだろう。

 その彼女を脳無が拉致したのだ。

 

「……帑鹵、覚悟は良い?」

 

「…………」

 

 未来余地で視た。

 

 この合宿でラグドールのサーチの個性は雄英高校の生徒たちを記憶している。オールマイトの個性ワン・フォー・オールを継承した緑谷のこともだ。

 そのラグドールのサーチの個性が緑谷の記憶ごとオール・フォー・ワンに奪われ、決戦の場においてヒーロー側敗北の原因となるのだ。

 

 ……このまま眼の前の脳無を見逃すとその未来が高確率でやってくる。

 

 それを潰す唯一のチャンスが今だ。

 絶対に逃せない。

 

「ああ、而今。とっくに覚悟は決めている」

 

 俺は脳無の肩に担がれたラグドールを()()

 脳無は俺たちに気づくこと無く黒霧の回収予定地点に向かって進んでいく。

 回収予定地点には荼毘とMrコンプレスが待機しているはずだ。

 

 そこでラグドールはMrコンプレスの個性で圧縮され、ヴィラン連合のアジトに連れ去られる。

 

 このまま脳無の後ろについて行けば荼毘かMrコンプレスに察知されるだろう。

 悟られて千載一遇のチャンスを潰すわけには行かない。

 

「……悪いな、ラグドール。あんたの個性をオール・フォー・ワンに奪われるわけにはいかないんだ」

 

 

 脳無の肩に担がれ意識のないラグドールに向けて俺は手を伸ばした。

 そして発動する。

 

 

「個性:小銭泥棒(ワンコインピッカー)

 

 

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