怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「荼毘、説明しろ」
ヴィラン連合がアジトに使っているバーで死柄木弔が機嫌の悪さを隠そうともせず荼毘に詰問口調で問いかけた。
「聞き直されても言うことは同じだ。雄英高校林間合宿襲撃計画は失敗した。襲撃に参加した開闢行動隊の中で戻ってこれたのは俺とMrとマグネ、そして脳無1体だけだ。他の連中は捕まったか……死んだ」
荼毘に同じ説明を繰り返されて死柄木弔の顔が歪んだ。
バーには無傷の荼毘とMrコンプレス、そして腹部に重傷を負ったマグネ、それに黒霧がいる。
マグネは床に横になって黒霧が腹部にタオルを当てている。繰り返される荒い息がマグネが予断のならない状況にあることを教えてくれている。
「死柄木弔、そんな話より一刻も早くマグネを医者に診せるべきです。これ以上手当が遅れれば彼女は死にます」
黒霧が床から弔を見上げながら注進する。
マグネの腹部の出血がひどく、あといくらも持たないのが素人目にも分かる。
だが死柄木はそんなマグネを一瞥しただけで荼毘を睨みつける。
「襲撃前の集合場所でいきなり攻撃を受けてアントラーを殺られたってどういうことだ?」
「どうしたも何も、起こったことをそのまま伝えただけだ」
「……雄英高校側に襲撃計画が漏れていたのか?」
死柄木が荼毘のツギハギだらけの皮膚を不穏な目で見つめ、荼毘はどこか死柄木を見下したような目で見返した。
「雄英側に漏れたとしても、初手から致死攻撃をしてくるとは思えないな。アントラーは心臓を一突きされて死んだんだ」
「雄英でなければ、では誰だ? ヴィランか? 俺たち以外の見知らぬヴィランが横槍を入れてきたってことか?」
「……かもしれん」
Mrコンプレスが顎に手を当ててあの時のことを考える。
荼毘の言う通り、ヒーローがヴィランに致死性の攻撃をするのは特殊な場合だけだ。
だが、それなら攻撃を仕掛けてきたのは誰なのだ。
ヒーローではありえない。だがヴィランでもあり得ない。
死柄木弔をリーダーとしたヴィラン連合はまだ小さな組織だ。漏らす奴も漏らす先もない。
死柄木弔の疑問はもっともなのだ。
「それでどっちがその別口のヴィランのスパイだ? 荼毘か? Mrコンプレスか?」
死柄木弔が剣呑な雰囲気を隠さなくなった。
目に見えるほどのどす黒い殺気を放ち、両手を構える。
死柄木弔の手に掴まれれば身体は数秒で崩れ去ってしまう。
その殺傷圏内に荼毘とMrの二人が入った。
「……邪推のし過ぎだ」
「仲間同士で争ってどうする」
「弔、止めるのです」
三人の静止の声を無視して死柄木弔は顔を憎悪で歪めながら一歩前に進んだ。
「オールマイトのせいで大規模なヴィラン組織は日本から無くなったが、裏に潜んでいる連中が俺たち以外にいてもおかしくない」
死柄木が右に立っている荼毘を見た。
視線だけ向きを変えてMrコンプレスを見る。
「どっちが俺たちを売った?」
「弔、お待ちなさい」
「それとも二人揃って俺を売ったか?」
黒霧が立ち上がって弔と荼毘の間に立った。
「弔」
死柄木の濁った目が黒霧を見つめた。
死柄木弔の片手が黒霧の肩に置かれた。
指は一本持ち上げられている。
「…………」
死柄木が一歩後ろへ下がり、カウンターの丸椅子に腰掛けた。
バーの中の空気が僅かに弛緩する。
「先生」
死柄木弔が壁際の棚に置いている端末のモニターに向かって話しかけた。
『なにかな?』
若干のノイズの後、モニターのスピーカーからすぐに返事があった。
スピーカーの向こうにいる男の声にはどこか楽しんでる響きがあった。
「マグネが重傷だ。ドクターに診てほしい」
「いいだろう。仲間を大切にするのはいいことだ、死柄木弔。ドクターのところへ送ろう。黒霧」
「はい」
黒霧の靄が広がりワープゲートを作り出した。
そこから白い脳無が2体姿を現して、マグネをタンカに乗せると再びゲートの中に戻っていった。
『これでマグネは大丈夫だ。安心すると良い』
その言葉を受けて荼毘とMrコンプレスは少し雰囲気を和らげた。
仲間になってあまり時間が経ってないとしても仲間は仲間だ。
「──黒霧」
バーがしばしの間沈黙に包まれ誰も身動きもしゃべりもしない時間が経過した後、モニターの向こうで先生と呼ばれている男が黒霧に呼びかけた。
「ゲートを繋いでくれ。僕がそちらに行こう」
「え、先生?」
死柄木が訝しげな表情を浮かべた。
自分の師であるオール・フォー・ワンがこのアジトに顔を出すなど極めて稀だったのだ。
『そう不思議でもないさ。僕が個人的に荼毘に頼んだものを受取に出向こうというだけだ』
◇◇◇◇◇◇
「帑鹵! 急いで!」
「分かってる!」
森に潜むのを止めた俺と而今は深夜の山道を全力で走っている。
月明かりと、遠くの山火事の炎が頼りだ。
俺も普段から走りこんで体力を付けておくべきだったか。
而今は少し前から筋トレとランニングを始めていた。
筋トレ後、鏡の前でポーズを取って自分の腹筋とか太ももを触ってるので何してんだコイツと思ってたが、なるほど今この時のためだったのか。言ってくれれば俺だって一緒にランニングくらいしたのに。
「ぜはぁ……ぜはぁ……ぜはぁ……」
「フッフッ、フッフッ、フッフッ、フッフッ、フッフッ……」
酸素が足りなくて死にそうになりながら山道に止めておいたバイクにようやくたどり着いた。
余計な荷物になるリアボックスとサイドバックは既に取り外してある。
そのバイクに跨ってエンジンをかける。
深夜の山の中、遠くで鳴り響いているのはサイレンか。
きっと消防車が山道を走ってきてるんだろうな。
而今にヘルメットを渡す。
俺自身もフルフェイスのヘルメットを被り、グローブとプロテクターを装着する。
これからすることを考えれば気休めだが。
而今がリアシートに座った。すぐに俺の腰に腕を回してぎゅっと抱きしめてくる。
「ふーー」
俺は深呼吸した。
これからの1時間が勝負だ。
世界の運命がかかっていると言っていい。
ガチンッ!
クラッチレバーを引いてギアを2速に入れる。
小さく息を吐き、ハンドルを握る手に力が入る。
そして俺と而今を乗せたバイクは山道を風を切って走り始めた。
◇◇◇◇◇◇
「くぉっ!!」
高速道路を時速150km以上でかっ飛んでる。
時速120kmを超えたあたりから受ける風圧が完全に別物だ。
ハンドルに伝わってくる振動も普段と違う。
「頑張って帑鹵」
暴風の中掠れ気味な而今の声がイヤホンから聞こえてくる。
「分かってる。覚悟はとっくに決めてるって言っただろ?」
深夜の高速道路を速度制限を完全に無視して爆走しているのだ。自殺行為なのは理解してる。
だがここで命を賭けねば間に合わない。
通行車両が少ないのが救いだ。
バイクの操作を少し間違えるだけで俺と而今は簡単に死ぬ。
張り詰めた神経を少しでも和らげようと、無線でつながった而今にインカムで話しかける。
「なあ、而今。襲撃された雄英高校は最終的にどうなるのか見届けなくて良かったのか?」
「仕方ないわ、見届けていたら間に合わなくなるからね」
「まあそうだが……」
「襲撃で拉致った人間に二日経ってから『早速だが』なんて話しかけるような狂った時間感覚を相手に期待するのはバカよ」
「まあそうなんだが……って何の話だ、それ?」
前方の車が近づいてくるのを体重移動で躱す。
風防で防ぎきれない風圧が腕にかかる。
「こっちの話よ……それでラグドールのいる方向は分かる?」
「ああ、
「そう、開闢行動隊が黒霧のゲートで撤収したのね」
「みたいだな」
「未来余地で視た未来より撤収時刻が早いわ」
「……奴らを殺しすぎて撤収判断が早まったか?」
「かもしれないわ。帑鹵、急いで。多分未来余地で視た未来とは変わってしまってるわ」
「これ以上スピードを出せってか……」
腰に回されてる而今の腕に力が入った。
「まあ……しょうがねーか。そもそも俺の我がままのせいだしな」
俺の我がままを受け入れてくれた而今の体温を背中に感じる。
俺はスロットルを開けて更に加速した。
前方に見えていた車がまるで対向車線を走る車のように近づいてくる。
俺はラグドールを