怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「やったな、さすが私だ」
スーツを着た知らない男が私の前で上機嫌でタップダンスを踊っていた。
周りには何もなく、ただ白い床だけが地平線の彼方まで続いている。
そしてそのスーツの男性が床の上でさっきからパカパカと靴を鳴らして喜びを表現している……らしい。
私は言った。
「あなた誰?」
「私か? 私は君だ」
痩せてるけど大柄で芯の強さを感じさせるその男性は眼鏡に触れながら短く一言。
それで説明が済んだと思ったようだ。
言葉が足りないと思うんだけど。
改めて見直すと緑がかった髪に一房の金髪。
たしかに髪の毛は私に似ている。
もしかしたら目つきの鋭さも似ているかもしれない。
でもこの人は壮年の男性で私は十代半ばの少女だ。
この人は私ではない。
「
「オールマイトは死んでないわ」
「もちろんだ。オールマイトが死なないように私たちが尽力したのだから。そして
どこか話が噛み合ってない。
というかここ夢の中じゃないの?
でも普段視る未来余地の夢とは違う。
近いけど何かが違う。
だけどこの白い世界の地平線の彼方で揺蕩っている暗雲は──アレは未来の暗示のはずだ。
私にとっての暗い未来が強い可能性として存在している。
「アレはこの社会が滅ぶ未来の可能性だと思う。あなたにも見えてるはず」
タンッ!
私の放った言葉で男性がようやく踊るのを止めた。
「そのようだな。……だが、私の未練はオールマイトだけだったのだ」
スーツ姿の男性の身体が透き通り始めた。
「すまない、私はもう消える。本来はとっくに死んだ身だ」
全てをやり切った男はどこか満足そうな微笑みを浮かべた。
「私の個性の予知と
スーツ姿の男性がゆっくりと首を振った。
「ヒーローとしてこの世界の未来が気にならないわけではないが、最後に残った私の
悲しそうに寂しそうに、そして何とも言えない優し気な顔で手を差し出してきた。
私は無言で差し出された手を取った。
「さらばだ」
そう言ってスーツ姿の男は消えた。
◇◇◇◇◇◇
ピー、ピー、ピー。
保須市総合病院の病室でバイタル監視モニターに変化があり、看護師が慌てて担当の医師を呼び出していた。
長い間意識の戻らなかった患者に変化が現れたのだ。
「せんせぇー!! 患者の意識が!」