怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「ちょっと待って」
ヒーロー公安委員会会長は思わず部下の報告を遮った。
目を押さえ、首を左右に何度も振りながら深呼吸をする。
そこまでしてようやく報告を受ける覚悟が決まった。
「……いいわ、もう一度最初から報告しなさい」
ポーカーフェイスを意識ながら目の前の部下に再度報告を促した。
「はい。二日前、神野区で発生した個性による大規模災害の死傷者の中にオール・フォー・ワンと思われる死体が含まれておりました」
「言い間違いではなく?」
「はい」
「聞き間違いでもなく?」
「はい」
会長は天井を仰ぎながら椅子の背もたれにもたれかかった。
「ああ……なんてこと」
呻くような言葉が口から洩れて、弱気はそこまで。
次の瞬間勢いよく立ち上がって腕をビシッと横に振る。
同時に人を殺せそうな鋭い眼光を飛ばす。
「すぐに緊急会議の準備に取り掛かりなさい! 首席調査官以上の現場職と課長以上の役職を全員招集するのです!」
「ぜ、全員ですか?」
「全員です!」
「は、はい!」
「あと! オールマイト、いえ雄英高校と
「分かりました!」
◇◇◇◇◇◇
── 3時間後 ──
機密を保つために外部の会場を借りるわけにはいかなかったので、公安本部の建物内の会議室とオンライン会議を並行する形で緊急会議が開かれた。
資料の配布は行われない。
オンラインで接続している参加者には個別のIDが振られ、双方向でデータの記録が取られている。
オンラインで出席していても怪しい動きがあれば即座に遮断される。
「職員、並びにプロヒーローの皆様。緊急の会議招集に応じて頂きありがとうございます」
壇上で公安委員会会長が演説を始めた。
背後のプロジェクターにはドローンによって空から現在の神野区の様子が表示されている。
災害から二日経った今も報道陣のヘリコプターが周囲を飛び交っていた。
「先日の神野の市街区域で発生した大規模災害について至急皆さんに周知する必要が生じ、この会議を開いています」
プロジェクターの画像が変わり、大規模な崩壊が発生したエリアの端に建っている低階層の雑居ビルが映った。二階から上が崩れてしまっているので元々何階建てだったのか映像からは分からない。
「まだ詳細については分析中ですが、神野の大災害はこのビルから発せられた衝撃波により引き起こされました。可燃物、爆発物によるものではなく、非常に強力な個性により引き起こされたのが判明しています。そして建物の2階にこの甚災を引き起こしたと思われる
公安委員会の会長の言葉に会議室が一瞬ざわめいた。
「完全に倒壊したビルは12棟。半壊したビルは29棟。現在判明している死傷者数は2577名。行方不明者数に至っては全体像すら見えていません」
「……改めて聞くと酷いな。大災害クラスじゃないか」
「黎明期以降では最大級じゃないか?」
「職員も何名か巻き添えを食らったと聞いたが……」
「しかしこの規模の破壊を齎せるヴィランか……」
会議室内からいくつも溜息があがる。
だが古株の職員の中には顔を蒼褪めさせているものも何名かいた。
「お静かに」
会議室内が静まり返った。
オンラインで会議に出席しているプロヒーローもマイクをミューとしているのか反応はない。
「ヴィランが倒れていたと仰いましたか?」
いや、ただ一人オンライン会議の中で雄英高校のIDが振られた参加者から発言があった。
会議出席者の過半数は声の持ち主が雄英高校の根津校長の声だとすぐに察した。
「そうです」
同時に会議室内のざわめきが大きくなった。
校長の質問によって会議の出席者にも事態が飲み込めたのだ。
倒れていた人物を一般人ではなくヴィランと呼び、災害を引き起こしたと断定。
それほどの力の持ち主が倒れていたという事実。
何らかの争いが、戦いが神野であったのだと。
つまりこの大災害級の破壊は都市破壊を目的とした個性行使などではなく、戦いのただの余波であり巻き添えになっただけで、しかもその破壊を行った強力なヴィランが敗れたという事実だ。
では誰に敗れたというのか?
「倒れていたのはオール・フォー・ワンですか?」
根津校長が更に質問を重ねた。
瞬間、会議室が驚愕に包まれた。
公安職員、課長級以上ともなれば当然のように全員がオール・フォー・ワンを知っている。
「そうです」
公安委員会会長の静かな肯定に会議室が沸騰した。
「バカな!」
「オール・フォー・ワンはやっぱり生きていたのか!?」
「奴が負けた? あり得るのか!?」
「待て! 倒れてるってどういう状態だ? まさか死体で!?」
「おい! もしかして戦ってた相手ってオールマイトなのか!?」
「まさか、長野の襲撃事件と関係してる?」
本部の建物が地震で揺れていると錯覚するほどの騒ぎだ。
公安委員会会長が再び同じ言葉を繰り返した。
「お静かに」
だが今度はそう簡単に鎮まったりはしなかった。
出席者にとってまさに驚天動地の出来事だったからだ。
「……すまない。話題に上がっているオール・フォー・ワンという
オンラインで出席しているエンデヴァーの声だった。
騒がしくなった会議室の中でも彼の声はよく通った。
会長はオンライン画面に表示されている雄英に視線を向けたが、根津校長、そして画面の向こうで共に会議に出席しているはずのオールマイトが発言する気配はなかった。
彼らが説明する気がないことを察して会長はため息をついた。
オンラインで会議に出席しているエンデヴァーや他のプロヒーローに向かって口を開く。
「オール・フォー・ワンとは個性黎明期から生き続けている非常に強力なヴィランの名前です。公にはされていませんが5年前にオールマイトと戦い、両者重傷を負ってその後活動が途絶えたので死亡した可能性と傷を癒すために深く潜伏しているかどちらかだと思われていました」
オンラインで会議に出席しているプロヒーローの何名かから絶句したような雰囲気が伝わって来た。
「100年以上前ではないか……いやそういう個性なのか」
「単に長生きするだけの個性が神野の災害を起こせるわけがないだろ」
「5年前というと、一時期オールマイトが活動を停止したあの時か……」
AFOを知らない世代のヒーローが不規則に発言し、会議室に設置されたスピーカーから困惑している複数のプロヒーローの発言が垂れ流しになる。
「オール・フォー・ワンは他人の個性を奪う個性を持っています。奪った個性を使用できるし、全く別の人間にその個性を与えることもできます」
プロヒーローたちの呟きがスピーカーから洩れてくる。
「待て、それが事実なら強力な個性をため込んで際限なく強くなり続けるのではないのか?」
「いや、それだけでは済まないはずだ。この個性社会で個性を奪い、与えられるのであれば神にも等しい。裏社会で信奉者が山ほど生まれ、組織化されれば……」
AFOを知らないプロヒーローに一定の理解が生まれた頃を見計らって公安委員会会長が後を継ぐ。
「そうやって世界中の裏社会に強い影響力を発揮していたのです、5年前まで。それを打ち砕いたのがオールマイトです。ですね?」
「概ねその通りです」
雄英高校のオンライン画面からオールマイトの声が会場に響く。
「ほとんど相打ちの状況で生死の確認はできませんでしたが、やっぱり生きていたのですね」
「そうです。そして先日の神野災害で死亡が確認されました」
「……」
「オールマイト、あなたも思うところはあるでしょうが、公安委員会はこの事実をマスコミを通じて大々的に公表する予定です」
会長の言葉に会場が静まり返った。
「公表しない方が良くはないですか?」
同じ雄英高校の画面からイレイザーヘッドの声が異論を唱えた。
「いいえ。オール・フォー・ワンはとても悪辣なので公表した方が良いのです」
「………………なるほど。合理的ですね」
「あなたもよろしいですか、オールマイト」
「元々決定権は公安委員会にあります。私が口を挟む問題ではありません」
「結構」
首の向きを変え、会場に設置されたカメラに向かって公安委員会会長が問いかけた。
「他のプロヒーローの御意見を伺いたい」
「あー、これから大変忙しくなるんで割り増し手当は頂けるんですかね?」
場にそぐわないふざけた様な質問はホークスのものだった。
公安委員会会長がジロリとそちらのモニターを一瞥すると簡潔に答えた。
「考慮します」
一通りプロヒーローからの質問や意見に対して返答した公安委員会会長は、最後に再び雄英高校のモニターに目を向け最後の爆弾発言を行った。
「そしてオールマイト、我々はあなたの引退を強く推奨します」
爆弾は見事大爆発し、収拾がつくまで長い時間がかかった。
※トラストワーシーリスト
公安が管理している情報漏洩の恐れの低いプロヒーローリスト。ヴィラン検挙実績と職員による内偵でAFOやヴィランとの繋がりがないと証明済のプロヒーローたちのリスト。
原作には具体名は登場しませんが公的組織であれば当然あってしかるべきリスト。ヴィランと癒着しているヒーローがレディナガン、そしてホークスによって内々に処分されているので、適当な名付けですが用意しました。