怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「おぉおおおおお゛っ!?」
俺は絶叫しながら布団から跳ね起きた。
「はっ……はっ…………はっ…………」
床に手を付いて肩で息をする。
乱れていた呼吸がゆっくりと戻っていく。
周りを見渡せば真っ暗だった。
あ、俺の部屋かここ。ってことはまだ深夜か。
「夢……か……」
そうか……現実じゃなかったか。
いや、良かった。とんでもない悪夢だった。最悪の気分だ。
違うな。
夢を視させられたのか。
「視たのね?」
俺の叫び声で目が覚めてしまったのだろう。
「……あぁ、視た。アレが未来……なのか?」
「そうよ。このまま貴方が何もしなけれは確実に訪れる未来」
「俺のせいみたいに言うなよ。悪いのは悪の帝王とか悪の魔王とか自称してるオール・フォー・ワンなんだろう?」
夢を視させられる前に基本的なことは事前に口頭で教えてもらった。
未来の映像だけを視てもそれでは分からないことが多すぎるからと。
学校で教えてもらった超常黎明期の暗黒時代に、個性を使って暗躍していた強力で凶悪な奴がまだ生きていて、今も社会を転覆させようと画策していること。
この女はそれを教えておいて、わざと俺のせいみたいにあて擦るような言い方する。
性格が悪い。
俺の視た夢の中では、いや……未来ではヴィラン共が後先考えずに暴れまわり、都市が、街が破壊されていく光景で埋め尽くされていた。目が覚めた今も凄惨で悲惨なソレが俺の脳裏に刻み込まれている。
女子供が崩れた瓦礫の下敷きになって、隙間から流れ出た血で水たまりができるんだ。
誰も彼もがパニクって怯えて、逃げ惑うやつもいれば、周りにいる人間に襲いかかってるやつもいた。
恐怖が伝染病のように
そしてそれを煽り立てて加速させるヴィランども。
……訳が分からねぇよ。あいつらなんでこんなことするんだ?
そういう光景が街の一部だけで収まらない。
郊外の広い範囲に渡って建物が破壊されていき、道路も寸断され、使われた個性で地面は抉られ、水道管は破裂し、あちこちで電線は切断されていた。
行政はもちろん、警察、消防だって動いていたのは最初だけだった。
すぐに機能しなくなって、そしてヒーローたちは諦めて活動を止めていった。
そんな社会になれば流通だって死ぬ。
食料は手に入らない。
蛇口をひねっても清潔な水は出ない。
暖房も冷房もない。破壊された都市部では薪や炭だって手に入らない。
後先考えない
病気になって死ぬヴィランも大勢いた。
病気になっても診てくれる医者はいない。麻酔薬や抗生物質、ステロイドなんかどこにもない。
社会インフラを破壊してしまったら、その社会インフラで生かされていた人間を待っているのは死だ。
そんなの当たり前だろうに。
「……なぁ、未来のあいつらってバカなの? 社会を壊したヴィランの連中、最終的にほぼ全員飢えと病気で死んでたぞ?」
「そうよ、ただの自殺ね」
「俺たちは虐げられていたって怒鳴りながら暴れまわって何もかも破壊して、周りを巻き込んで死ぬってさぁ?」
俺も頭は良くないがあいつらよりは賢いぞ?
世界が破滅した未来でまともに生活できていたのは悪の帝王とかいうオール・フォー・ワンの周りだけだ。ただそいつらも現代文明社会の再建なんか目指してなかった。中世どころか原始時代みたいな生活をしながらギリギリ生きているだけだった。
もしかしたら連中の中に農業の技術を持っていたやつがいたかもしれないが、燃料も肥料も農薬も手に入らないのだ。
現代の農業技術は農薬と肥料と農業機械があることが前提のものが多い。
肥料も農薬もない農業なんて、一から手探り状態だ。それで失敗すれば飢える。
……結果として未来のヴィランどもは「自分と同類以外の異物を排除して自分らしく生きられる社会」を作り上げ、社会を再構築し損ね、そして食料生産に失敗し、強力な個性を持っていたヴィランも、飢えと病気で死んでいった。虫歯だって放置すれば死にかねないのに奴らの社会には歯医者などいない。
悪の帝王オール・フォー・ワンとやらが集めていた強力な個性の中には現代社会を再構築する個性や、食料生産系の個性は含まれていなかった。
世界中でヴィランどもが暴れまわった後で文明の再建は行われず人類は破滅に向かっていた。
「ははっ…………笑えねぇ」
あんな低能どもが未来で社会を破壊して日本にいた1億人以上が死んでしまう。
世界では数十億人が死に絶えていた。
俺の腕にすがりつく而今を見る。
こいつ一人だけがこの最悪の未来を視ていたんだ。
不安だっただろうな。
◇◇◇◇◇◇
ちゃぶ台に近所のコンビニで買ってきた弁当を置く。
2人分だ。
「いただきます」
二人して手を合わせて朝飯を食べ始める。
朝と言うには早すぎるが、アレから寝れなかったんだから仕方がない。
「……で、信じてくれたようね? 私の個性『
「ああ……」
熱い味噌汁をずずっと啜る。
インスタントだけど、腹が温まると気分も若干良くなってきた。
「で、あのクソッタレな未来を俺なら変えられるというんだな?」
施設で育ったせいか、俺は他人の嘘に敏感だ。初対面だろうと嘘の匂いは分かる。
そして而今からは嘘の匂いがしない。
「ええ、未来には二種類あるの。変えられる未来と変えられない未来。あなたに視せたのは変えられる未来よ」
「変えられない未来ってのもあるのか?」
「ええ、あるわ。未来予知の個性を持ってる人は極稀にいるけど、大抵は変えられない未来しか視ることはできないわ」
「ふーん」
どこか得意そうな雰囲気を漂わす而今から類推すると、変えられる未来を視ることができる而今の個性は普通よりも強力なのだろう。
箸を動かしながら訊ねる。
「それでどうやればあの未来を変えられるんだ?」
俺は現代社会を捨てて原始時代の暮らしなんぞしたくないからな。
俺は働かずに寝て暮らす今の怠惰な生活が気に入ってるんだ。それを脅かすやつは全て敵だ。
「暗殺よ」
「……単純だな」
「なんかテロでは社会は変わらないとか、歴史は変わらないとか昔は言われてたらしいぞ?」
我ながら皮肉っぽいとは思うが、この女もどこか皮肉屋というか理屈屋の面がある。
強気な女を言い負かすと気持ちいいよな?
だからジャブを打った。
別に悪意はない。
「何言ってるの? テロで歴史が変わるのを夢で、未来余地で視たばっかりでしょ?」
そうだった。
強気な女に言い負かされるのって気持ちいいよな?
「はっ……そうだったな」
「強力な個人によるテロに誘発されて社会不安が表面化して暴動に繋がってるのよ。だからその元凶を殺せば、今の社会の警察やヒーローの動きで抑え込めるわ」
「起爆スイッチ役を殺したところで、不満が溜まってる連中はそのままでいいのか? ケアが必要なんじゃないか?」
もちろん俺はそんな面倒なことをするつもりはないが、俺の言葉に而今は肩を竦めただけだった。
まあな。
宗教じゃあるまいし、そんなの自分自身の心の中で解決することだしな。それにいつだって人生は平等じゃない。施設で育った俺よりも恵まれてた連中が未来で暴れていたのを視たし、個人の問題だ。
自分は他の誰よりも不幸な目に遭っているって嘆きながら負の感情だけを溜め込んでいた連中。それを暴発させるのさえ、オール・フォー・ワンに誘導されて……流されてやったとことん腐った連中。
ケアする価値もないってことか。
「まあいいか。分かった、単純に行こう。俺の未来を奪う元凶の連中をヴィランだろうがヒーローだろうが皆殺しにしようじゃないか」
そうだとも、物事は単純にやろう。
俺の怠惰な生活を脅かす連中を皆殺しにすれば俺は楽に生きれるのだ。
「……こうなると未来余地で分かってたけど、殺すのに躊躇いは無いのね?」
「無いな。もう腹は決めた。何人殺すことになるのか知らんが、1億人が死ぬよりはマシだろ?」
未来のあの光景を視たせいか、俺の中で価値観が変わったのが自覚できる。
あの連中を放置してたら中世の暗黒時代のように文明は退化して人間が滅びかねない。
なにより俺の怠惰な生活が二度と帰ってこない。
而今が箸を置いた。
物騒な会話をしながら弁当は完食しやがったな、こいつ。
神経が太くて実に良い。
「じゃあこれからの予定とターゲットを教えるわ。忙しくなるわよ?」
「オーケーだ」
「私が貴方のサイドキックって認めるわね?」
「……分かった」
こうして俺は佐々木而今という女と組んでバカどもを皆殺しすると決めた。