怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
──ギイイィ。
重い鉄の扉が軋むような音を立てて開いた。
数年ぶりに浴びる外の光は冬の初めということもあってか、やけに弱々しく感じられた。
エンディングは模範囚だった。
刑務所の中では奇妙なほど従順で大人しく、指示に逆らうようなことも態度を荒げるようなこともなかった。
囚人服を脱ぎ7年ぶりに私服に袖を通すと、エンディングは誰に見送られるでもなく、誰に出迎えられるでもなく刑務所の門をくぐった。
自由。
刑期を終え、罪を償い終わったヴィランは市民に戻り自由となる。
だが、そんなものに何の価値があるだろう?
何も持っていない空っぽの男の心に唯一あったのは焦がれるような想いだった。
「エンデヴァー……あなたに殺されたい」
◇◇◇◇◇◇
あの日。
7年前のあの日。
エンディングは
何も自分のものにできず、守るべき何かも得られず、手には何も持たず、胸の裡も空っぽのままエンディングは自分を終わらせるために何かに突き動かされるように個性を使って周囲に向かって攻撃を開始した。
別に誰かを積極的に傷つけたいわけでもなかった。
ただ、自分の
気づけば制圧されていた。
一瞬だった。
白線を剥ぎ取った跡のアスファルトに顔を叩きつけられ、振り下ろそうとしていた子どもは瞬きする間にエンデヴァーが抱きかかえていた。
視界は燃え盛る炎で埋め尽くされ、エンディングはようやく自分の
「──これだッ!」
生まれて初めて人生に目標ができた。
この傲岸不遜な炎に焼かれることで自分の人生が
刑務所の壁の中で来る日も来る日もエンディングはその瞬間が来るのを夢想していた。
できるだけ早くエンデヴァーに会いたい。
そのためにも刑務所の中で極めて模範的に務めを果たした。
「──まずは情報収集だな」
刑務所の中にいても外部の情報が完全に遮断されるようなことはない。
刑務所とは更生施設なのだ。社会復帰を不可能にして再犯させるように追い込むのが目的の施設ではない。
制限はあるがTVのニュースも見れるし、限定的ながら新聞も読める。
とは言ってもネットにアクセスなんかはできないし、当然エンデヴァーの個人情報なんかも集められるわけはない。
だが、そんな刑務所の中にいても入ってきたオールマイトの引退ニュースは衝撃的だった。
周りにいるのはアイツもコイツも
刑務所中が文字通りどよめいた。
もちろん俺が一番衝撃を受けたのはエンデヴァーがNo1になったことだ。
自分の
我がことのように嬉しかった。
◇◇◇◇◇◇
「……欲しい情報が見つかんねェな」
図書館の無料ネット端末で情報を探し新聞記事を漁ってもロクな情報が集まらない。
裏の情報屋も使ってみたが金がかかった割に結果はいまいちだった。
刑務所の刑務作業で得た金銭などたかが知れている。手持ちの金は少ない。
あまり時間はかけられない。
もちろんエンデヴァーの所在は分かっている。
ヒーロー事務所所在地は公開されている情報だ。
行けば会えはするだろう。
罪を償い終え、刑務所から出所した。一区切りついた今、当時のことを改めて謝罪したい──と言えばまず会える。
だがそこで襲い掛かっても秒で取り押さえられるだけだ。
捕まえたヴィランのお礼参りなど日常茶飯事だ。
だからこそヒーローの自宅の情報は伏せられているし、エンデヴァーが油断などするはずがない。
「……だが、それじゃあダメだ。それじゃあ俺を殺してくれない」
ヒーローは余程のことがない限り殺しは選択しない。
オールマイトが引退しNo1ヒーローとなったエンデヴァーならなおさら殺しは避けるだろう。
それに自分程度のヴィランなど制圧するのはエンデヴァーなら容易い。7年前の焼き直しだ。
だが最近のニュースを漁っていると、脳無という人工的に作った怪物をエンデヴァーが焼き殺しているのがヒットした。
「そうか、人形なら殺せるのか」
俺も中身のない人形みたいなものだ。
だとしたら殺してくれるかもしれん。
だがチャンスはおそらく一回だ。
希望的観測で賭けに出るわけにはいかない。
殺さないと制圧できないほどの……脳無のような強さを今から身につける?
バカバカしい。
不可能だ。
「……もしくは憎悪か。ヒーローであることを止めたくなるくらい憎んでくれたらあるいは」
カツン。
足音が耳に届き、背後に不気味な男が立っているのに気付く。
どうすればエンデヴァーに殺したいほど憎まれるのか深く考え込んでいたせいで気づくのが遅れた。
「お前か? エンデヴァーのことを調べて回ってるってやつは?」
そいつは不気味な容姿をしていた。
ここが人通りのない夜の裏通りだったら、エンディングですら悲鳴を上げそうなほどだった。
顔面の皮膚は継ぎはぎだらけで、おまけにその皮膚が酷く爛れていた。
生きているのが不思議な、まるで死人のような見た目のくせに昏い強く炎を宿した瞳。
どこかで見た顔のような気もするが思い出せない。
だが危険な匂いのする男だ。
「……誰だ」
「アンタがエンデヴァーを調べて回ってるって聞いてな。手伝ってやるよ」
荼毘と名乗った男はそう言って嗤った。
その声には自分と同じ種類の熱が籠っていた。
「……貴様が俺に手を貸すメリットは何だ?」
「俺もエンデヴァーには思うところがあってな。アンタがヤらかせば俺にとっても都合がいいのさ」
そう言って荼毘が差し出してきたのは一枚の写真と
写真には大学生くらいの青年が写っていた。
エンデヴァーの次男で夏雄というらしい。
「他にも渡せる有用な最新の情報が山ほどある」
メモリ媒体を差し出してきた。
「そいつを使えばエンデヴァーは嫌でもアンタの
荼毘の目の奥で昏いものが燃え盛っていた。
覗き込めば目が焼かれそうなほど眩しい。
ああ、なるほど。
道理でどこかで見覚えがあるはずだ。
この男は他ならぬ自分に似ているのだ。
エンデヴァーの炎に焼かれて人生を終えたいと渇望しているのだ。