怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第03話 USJ襲撃

「始まったかな?」

 

「始まったわね」

 

 雄英高校の訓練施設となっているUSJが一望できる高台から、而今(じこん)と二人して超高倍率双眼鏡を使って施設(USJ)を覗いている。

 

 これから雄英高校の生徒たちがヴィランに襲撃される事件が発生するのだ。

 そのヴィランたちを率いるのは死柄木弔という男でオール・フォー・ワンの後継候補の一人だ。

 

 襲撃が行われるのはUSJという建物の中だが、自然光を取り入れる仕組みでほぼガラス張りの巨大建築物(ドーム)なので、斜め上に位置するこの場所からならほぼ全体が見渡せる。

 

 俺と而今が双眼鏡で見守る中、雄英の生徒たちと引率の教師が施設内の広場に集まっているところでソレは始まった。

 施設の中央の噴水のあるあたりで黒い靄が闇のように広がると、その靄からヴィランが現れたのだ。

 

 一人、二人、三人、四人……ヴィランが黒い霧の中から歩み出てくる。

 ぞろぞろと緊張感もなく黒い霧の中から歩いて出てきている。

 

 その様子を双眼鏡で見ながら首を(かし)げた。

 

「……いや、変だろ。俺が言うのもアレだけど、あいつら雄英に襲撃しに乗り込んでるのに周囲の確認もしないわ、だらけた雰囲気で舐めプかましてるわ。なんだありゃ?」

 

「バカだからよ」

 

 而今が身も蓋もないツッコミを入れてきた。

 

「いや、そうだとしてもさ? 雄英の1年生を引率してるオールマイトを襲撃するつもりで来てる連中なんだよな?」

 

「未来余地で読み取った内容では確かにそうだったわね」

 

 No1ヒーローであるオールマイトの名前を知らない奴などいない。そしてオールマイトの強さを知らない奴もいない。動画サイトを漁れば、過去のオールマイトの活躍がいくらでも出てくるし、なんなら現在進行形で毎日のようにTVのニュースで彼の活躍シーンがリアルタイムで報道されているのだ。あらゆる増幅系個性を圧倒するそのパワーとスピード、そしてその極まったタフネスが映像の形でお茶の間に送られ続けている。

 

 あそこにいるのは、そのヒーローの頂点であるオールマイトと対峙するつもりで襲撃に参加したヴィランたちのはずだ。

 

「……バカだとしても限度があるだろ」

 

 俺の呆れた声に而今が反応する。

 

「バカに限度なんて無いのよ、知ってるでしょう?」

 

 而今は可愛い顔して辛辣なセリフを吐いた。

 

「まあそうだけどさ」

 

 バカはバカだからバカなのだ。

 それは知ってる。

 だけど毎回嘘だろ? って言いたくなる。

 

「それに捨て駒にはバカの方が都合がいいのよ」

 

「捨て駒?」

 

 俺と同じように双眼鏡を覗いている而今に聞き返した。

 

「もちろん彼らは自分たちが捨て駒であるなんて自覚はないでしょうけどね。でも少し目端の利くヴィランはこの作戦に参加もしてないわ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。少し頭が回るならこの作戦はオール・フォー・ワンが無数にばらまいてる布石にの一つに過ぎないってことに気づくのよ。上手く行っても行かなくてもどちらでも構わない程度の扱いでしかないってね。だから自分の力量すら分かってない頭の悪い下っ端ヴィランしか集まってないの。自分たちが捨て駒であることすら気づけないようなおバカさんたちしかね」

 

 而今の個性(未来余地)で俺は未来のことを夢で視た。

 だが、而今が見た全ての未来を俺も夢で視たわけではない。

 

 而今が幼少時から視続けた未来の全てを俺が一晩で視えるわけがないし、そもそも他人に夢の形で未来を視せるのは而今の負担が大きいらしい。

 

 この人間社会が未来で崩壊に至るまでに世界中で起こった事件とか、もしくはもっとほんの些細な事件や事故が未来の世界で起こっていたはずだが、その全ての事象を視る必要があるかというと俺は無いと思った。

 

 破滅に至る大部分の一連の事件ついては而今から口で説明を受けている。

 而今とは未来の知識についての大きな格差があるが、必要なら今のように聞けばいいだけの話だ。仮に而今が嘘をつけば俺には分かる。

 

「だけど、その捨て駒を率いているのが死柄木弔だろ? 未来でオール・フォー・ワンの後継者となり、全てを破壊するんじゃないか」

 

「その未来を知ってるのは私たちだけよ、帑鹵(どろ)

 

「……あぁそうか。そうだったな」

 

「送り出したオール・フォー・ワンですら死柄木弔が、彼こそが真の後継者になるってことを()()知らないわ」

 

 無数に用意している後継者候補たちの中の比較的有望な一人。

 現時点での死柄木弔の位置づけはそうだった。

 

 なまじ未来を知ってると現在の状況とごっちゃになるな。

 

「これで潰れたら潰れたで構わないってわけか」

 

 彼女がそれ以上喋らないので俺も双眼鏡を覗きこんだ。

 

「おっ? 誰か飛び出したぞ?」

 

 双眼鏡の先で雄英側から一人飛び出した。包帯のような細い布を身体に巻き付けた男だ。学生じゃないな、引率役の教師か?

 舐めプかまして油断しまくってるとはいえあれだけ多数のヴィランに向かって真正面から挑みやがった。

 

「いいね、あの教師」

 

 わざわざ正面から飛び込んだのは注意を自分に引き付けて生徒たちを守るためなんだろうな。

 俺の性格とは対極だが、別に嫌いじゃない。

 

「あの人は雄英高校教師のイレイザーヘッドよ。プロのヒーローね。彼は見ただけで相手の個性の発動を防ぐの」

 

「そりゃすごい個性だな」

 

 この個性社会では紛れもなく強個性だ。

 双眼鏡の向こうでは、その教師が細長い布のようなものを振り回して、たった一人で多数のヴィランを圧倒し始めた。

 

「いやいや、本当にすごいな」

 

 見た相手の個性を消せる個性とか確かに凄い。

 だけどどう考えても支援タイプの個性だ。

 なのに前衛として活躍できるって一体どうなってるんだ?

 

「……ああ、なるほど」

 

 見ていると分かった。

 急に個性が使えなくなって戸惑っているところにつけ込むのか。

 

 ヴィランのほとんどは生まれ持った個性頼みの暴力に慣れきって、地道に格闘技の修練をしているやつなどほとんどいない。

 個性が使えなくなった途端、動きが素人以下に成り下がる。

 

 ……というのは理屈では分かるが、近接戦闘で多数のヴィランを相手に圧倒してるんだ。

 あの教師が肉体と戦闘技術を極限まで鍛えてなけりゃ、ああはならんだろう。

 

「さすがプロヒーローってやつか」

 

帑鹵(どろ)。予知内容を教えたから分かってるでしょうけど、私たちが介入しなくても最終的には雄英側が勝つから手は出さないでね」

 

「分かってる」

 

 この後の展開も大凡は聞いている。

 俺の怠惰な生活のためにはここでヴィランの連中に勝たれては困るわけだが、俺たちの今日の目的は雄英を影から支援することではない。

 

「おっ?」

 

「動いたわね」

 

 入口雄英の生徒の背後に再び黒い靄が湧き出した。

 あれが黒霧、ワープゲートの個性の持ち主。

 この先に起こる一連の事件の最大のキーパーソン(重要人物)

 

 双眼鏡で黒霧を観察して穴が空くほど()()

 

「……おい、生徒たちがワープで飛ばされちまったぞ? 本当に大丈夫なのか?」

 

「問題ないわ。飛ばされた先も施設内だし、そこで待ち受けてるヴィランもチンピラに毛の生えたような連中だから心配無用よ。未来余地でもほぼ生徒たちが完勝してるわ」

 

 割と投げやりな感じで而今が説明してくれた。

 

「別に心配などしていない」

 

「あらそう?」

 

 俺はヴィランであってヒーローじゃないし、ましてや彼らの味方でもない。

 心配する理由がない。

 

「だけどさ、ヴィラン連合だっけ? 改めて思うけど連中すげー雑だな?」

 

「それらしく襲撃計画を組んでるように見えるだけで、勝率を上げるようにとか、勝てるように対策を練ってるとかそういうの欠片も考えてないからね」

 

「まあ……なぁ……」

 

 はっきり言えば雑魚ヴィランを集めてただ奇襲してるだけだしな。奇襲以外はただの力押しの脳筋戦略ってやつだ。

 而今でなくともヴィランどもの雑さに呆れるわな。俺も呆れてる。

 まあ未来でもあいつら雑だったしな。

 

「帑鹵! 本命が動き始めたわ。アレが今回のターゲットよ!」

 

 慌てて双眼鏡を構え直す。

 俺たちがいる場所からは運悪くガラス壁の光の反射でよく見えなかった位置にいた奴が、動き出したお陰で見える位置に出てきた。

 

「アレか! 死柄木弔(しがらきとむら)とその横の不気味な黒い奴」

 

 顔と体に無数の手を貼り付けた男の隣に、脳がむき出しになったような黒い肌の巨漢が姿を見せている。

 素体となる人間に薬物を投与し、DNAまでいじくり回して、そこにオール・フォー・ワンが複数の個性をぶち込んで作りあげた改造人間のようなもの……だったか。

 

「そう、アレが改人脳無よ」

 

「生きている死体……だっけ?」

 

「そうよ。ほとんど知性がなくて簡単な命令しか聞かないけど、ショック吸収と超再生の個性をオール・フォー・ワンから与えられてる対オールマイト用の刺客」

 

 その脳無にイレイザーヘッドが捕まってしまった。

 脳無とやらは見た目通りの異形パワー系か。

 素の筋力で押さえられてしまったら、いかに個性を消せるというあの教師でも勝ち目がないな。

 

 組み伏せられて馬乗りされてる。

 このままだとあいつ死ぬな。

 

「帑鹵、手を出さないで。未来余地ではイレイザーヘッドは死なないわ」

 

 俺はいつの間にか改人脳無に向けていた手を下ろした。

 

「ああ? すまん、つい……」

 

 双眼鏡の先で、改人脳無がイレイザーヘッドを甚振り始めていた。

 

 脳無は自律的に動かないということはこれも死柄木弔の命令か?

 つまり遊んでる。雄英に奇襲をかけておいて、もしかして勝つ気がない?

 

 違うか、ただのバカなんだな。

 

「なあ而今? 本当にあいつらが、いや死柄木弔がこの社会を壊す元凶の一人なんだよな? ただの頭の悪いチンピラにしか見えないが?」

 

「視たでしょ? 彼は未来でも頭は悪いままよ。ただやっかいな個性を覚醒させてしまっただけの壊したがりの子供よ」

 

「…………ほーん」

 

 双眼鏡で死柄木弔を()()

 敵地で緊張感もなくだらけた雰囲気を垂れ流してるのがここからでも見て取れる。

 世の中の何もかもを舐め切ってやがるな。

 

「なあ、死柄木弔を今殺したらダメなのか? 簡単だぞ?」

 

 ダメ元で而今に聞いてみた。

 

「ダメよ」

 

「……やっぱダメか」

 

「分かってると思うけど、死柄木弔はオール・フォー・ワンにとって大事な駒の一つよ。だけどいつでも捨てれる捨て駒の一つでもある。今死柄木を殺してしまうと、この先オール・フォー・ワンが表に出てくる機会が激減するの」

 

「のんびりと次の駒を探すターンに逆戻りか」

 

「それに私たちの存在が露見する可能性が高くなるわ。私たちは暗殺を計画してるのよ? それを忘れないで」

 

「……あいよ」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 施設の入り口の扉がいきなり吹き飛んだ。

 轟音がここまで聞こえてきそうだ。

 

「来たようだ」

 

「オールマイト……」

 

 而今が小さく呟いた声が耳に入ってきた。

 なぜか今の而今の表情を見たくなった。

 そんな声だった。

 

 次の瞬間、広場にいたヴィランが何名か吹き飛んだ。

 倒れていたイレイザーヘッドがいつの間にか抱きかかえられて、おまけに3名の生徒まで救出を終えていた。

 

「速過ぎる……」

 

 あれで瞬間移動の個性じゃないんだよな。

 さすがNo1ヒーローだ。

 

「……いいえ、以前よりスピードは落ちてるわ」

 

 而今がまた呟いた。

 俺に向かって話しかけてるんだよな?

 

 そして、オールマイトと黒い改人脳無が戦闘を開始した。

 

 

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