怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第30話 融合

「──オォオオオオォッ!!」

 

 両手を握りしめ、仁王立ちした治崎が天に向かって吠えていた。

 着ていた服は内側からの圧力で弾け飛び、ボロ切れと化した残骸が体の一部に纏わり付いている状態だ。

 

 吠える治崎の姿に荼毘の顔が引き攣っていた。

 

「冗談だろ……こんなことまでできるのかよ」

 

 残った3体の脳無たちが気圧されて後退(あとずさ)っている。

 高度な思考ができないニアハイエンド脳無ですら今の治崎に脅威を感じているのだ。

 

 

 ぐむ……。

 ぐもも……。

 

 治崎の身体が膨れ上が(バンプアップ)っていく。

 無から有を生み出す超再生の個性が機能して、あるべき姿へと回復していっているのだ。

 

「こいつは……ヤベェ」

 

 治崎から放たれる圧倒的な存在感が周囲の空気をビリビリと振動させている。

 

 露出した治崎の皮膚はまだら模様で黒く変色しており、特に顔面はまるで歌舞伎役者の隈取りのように禍々しく彩られていた。

 

「……藪を突いたら出てきたヘビが龍に化けやがった」

 

 ドクターから渡されたファイルには治崎の個性は治癒系と書かれていた。

 

 個性:オーバーホール。

 分解し再構築する個性。

 

「ドクター、これのどこが治癒修復系個性だってんだ」

 

 触れるだけでなんでも分解し、生物無生物問わず自在に作り変え、そして遂には分解した脳無を取り込んで自身の身体と融合すらやってのけたのだ。

 

 脳無の黒い肌がまだら状に治崎の皮膚を覆い、その皮一枚内側で筋肉が完成に近づいて行っている。

 そして周囲に放たれる強者特有の空気感。

 

「なんなんだ、こいつは!」

 

 ヴィラン連合リーダーである死柄木弔の個性:崩壊も強力な個性だと思ってはいた。5本の指で触れたものを何でも壊し、塵にする防御不可能な強い個性。

 

 だが治崎の個性は明らかに死柄木弔の上を行く。

 

 更に治癒能力まで兼ね備えているのだ。

 脳無によって叩き潰して肉塊になったのが一瞬で元に戻っている。

 即死したはずの老人が何もなかったかのように生き返っている。

 死者が蘇っているのだ。

 

 文字通りの意味で奇跡だ。

 めちゃくちゃだ。

 

 こいつが医者だったら、世界中の医者の頂点に立ち、最重要人物として世界中に名前が轟いていてもおかしくない。

 なんでこんなところでヤクザなんてやってるんだ!? *1

 才能の無駄遣いだ、道を間違えすぎだろう! 

 

 荼毘が自分のことを棚に上げて内心で叫ぶ。

 

 オーバーホールという個性を過小評価しすぎていた。

 自分との相性の悪さから脳無の力技で押し切ろうとしたら、その脳無との人体融合(キメラ)までやってのけやがった。

 

 漂ってくる強者の気配は、信じられないがあのAFOより格上のものだ。

 取り込んだ脳無が持っていた増強系の個性もまず間違いなく己のものにしている。

 

 おまけに周囲の地面やコンクリートでもどんな物質でも再構築を応用して攻撃に転化できる環境・創造系個性でもある。

 

「なんでもありかよ、こいつ」*2

 

 すでに治崎の身体の大きさは3mに達している。

 見上げるほどの大男だ。

 オールマイトの1.5倍だ。

 

 盛り上がった筋肉がまるでボディビルダーのようで、どこか歪ではあっても傷一つ無い。

 吠えるのを止めた治崎が手を拡げたり閉じたりしている。

 両肩から生えたもう一対の手も同じ動作をしている。

 

 荼毘はいつでも最大出力で炎を放てるように構えた。

 治崎が余裕をかましている今、不意打ちを仕掛けた方がいい。

 

 それは分かっている。

 だが。

 

「焼き尽くせ……るか?」

 

 脳無の弱点はすでに日本中の人間に知られている。

 だがそれでも脳無の兵隊としての価値は減ってない。

 

 規格外のパワーとスピート、そして回復力を誇る脳無の弱点をつけるヒーローの数など両手の指で数えられるくらいしかいない。

 

 そして荼毘はトップヒーロー(エンデヴァー)と同じく単独で脳無に対抗できる力がある。

 弱点が同じなら、TVカメラの前でエンデヴァー(父親)がやったように最大火力で頭部を焼き尽くせば倒すことができる。

 

 

 ──だが。

 

 

 荼毘は首を横に振った。

 ここまでだ。

 

 気に食わないこの男に絶望を味あわせてから殺してやりたかったが、命を掛けるほどではない。

 壊理は既に確保済みなのだ。

 

「撤退だ」

 

 残った3体の脳無に支持を出そうとして、壊理を抱えている脳無に目を向ける。

 次の瞬間、脳無の1体に抱きかかえられて荼毘は空中にいた。

 

「な、なにが!?」

 

 強力な加速度に逆らいながら首を地上に向けると、壊理を抱きかかえていた脳無が治崎に首を掴まれて持ち上げられていた。

 

 バツンッ! 

 

 脳無の身体が分解され、壊理の身体が落下する。

 その身体を治崎は肩から生えている両手を使って自然な動作で受け止めた。

 

「……あと2体」

 

 粉々に分解された脳無の肉体が血煙を上げながら治崎に取り込まれていく。

 

「嘘だろ……更に取り込みやがった」

 

 荼毘の首がゆっくりと横に振られた。

 目に映っている光景が到底信じられなかった。

 

 目の前で人を超えた魔人が生まれようとしているのだ。

 

 

 ボコォ! 

 ボコボコッ!! 

 

 2体目のニアハイエンド脳無を取り込んだ治崎の身体が一気に大きくなる。

 脚と手が伸び、胴体の厚みが増す。

 既に頭の位置は二階建ての屋根の上だ。

 

 そして筋肉の増殖が始まった。

 

 体の各部の大きさに相応しくなるように筋肉の自己増殖が始まり、脚と腕の筋肉が肥大していく。

 そして肩甲骨の間からもう一対の腕が現れた。

 

「これは……ダメだ」

 

 最早荼毘がどうにかできる存在ではない。

 

 どういう理屈なのか分からないが、さっきの治崎の動きは取り込んだ脳無よりも速かった。

 荼毘には影すら追えなかったのだ。

 

 その治崎が壊理をそっと地上に下ろしている。

 あの巨体を違和感なく動かしている。

 

 壊理の確保などもう二の次だ。

 もはや全力で逃走すべきだ。

 

 

 フッ! 

 

 唐突に治崎の姿がかき消えた。

 あれほどの巨体が残像すら残さずに。

 

「うぉおおおおおおッ!!」

 

 荼毘が本能的な恐怖とそれに負けない直観に従って最大火力で蒼炎を真横に薙ぎ払った。

 

 ドォッ! 

 

 鋼鉄すら溶かしきる超高火力の荼毘の個性が、夕焼けに赤く染まる空に真っ青で長大な炎の翼を生み出す。

 

 

 その炎の翼を手折るように治崎の巨体が荼毘と脳無の真横に姿を現した。

 荼毘の炎に焼かれたはずの身体には火傷の痕すらない。

 

 オーバーホールの個性を使うまでもなく、超再生2個分の個性がコンマ以下の時間で治癒させているのだ。

 

 治崎の三対の腕が同時に振りかぶった。

 

「くッ!!」

 

 防御もできない。

 触れられたら即座に分解されるのだ。

 

 躱すこともできない。

 ここは空中なのだ。

 

 バツンッ!! 

 ドォッ!! 

 

 

 夕焼けを浴びて一塊りになった影から煌めくような蒼の炎がジェットのように噴き出し、影が二つに分かれた。

 

 影の一つが地上に落下して、ゴロゴロと転がり破壊された塀にぶつかり止まった。

 もう一つの影は空中で体積を増しながら地上に足から着地する。

 

 

「……あ」

 

 荼毘は朦朧とする意識を必死につなぎ止め塀にもたれながら正面を見上げた。

 治崎が荼毘を見ながら薄い笑みを浮かべている。

 

 下半身が熱い。

 刺すような痛みと馴染みのある燃えるような熱さが下半身を包んでいる。

 

 首から力が勝手に抜けて治崎を見上げているのが無理になった。

 

 下がった視界には腹から下が無くなった自分の胴体が見えた。

 千切れたはらわたがはみ出している。

 

「ハ…………ハハ…………ゴフッ!」

 

 荼毘の口から乾いた笑い声が漏れる。

 

 なんだ、俺……こんなところで死ぬのか。

 何も為せずに……、何者にも成れずに、復讐すら叶わずに。

 

 ゴロンと体が横に倒れた。

 立て直そうにも腕に力が入らない。

 

 視界に再び入った治崎がゆっくりと歩いて向かってきている。

 

 トドメを刺す気か。

 

「……お父……さん」

 

 あぁそうか。

 不意に漏れた言葉にようやく荼毘は自覚した。

 

 なぜこいつがこんなに気に入らなかったのか。

 エンデヴァーに雰囲気が似ているのだ。

 

 壊理に感情移入していたのも当然だ。

 あの子は自分だったのだ。

 

「コイツ……を……」

 

 最後の力を振り絞り腕を持ち上げる。

 意識が混濁してきた。

 

 何をしようとしていたんだったか? 

 

 

「そう……だ……復……讐、を…………俺の……炎を…………お……父さ……」

 

 

 荼毘にゆっくりと近づいてくる治崎が死の使いのようだった。

 

 ドスッ、ドスッ。

 

 巨体が一歩足を進める度に地面が揺れている。

 

 だが何の前触れもなくその治崎の膝が内側から爆裂して関節の骨がむき出しになった。関節の内側で筋肉と繊維がまるで生き物のように蠢いている。

 

 治崎の顔が驚愕に歪みバランスを崩して、ズズンと音を立てて地面に倒れた。

 

 

*1
それはそう

*2
ほんとにそう




1話のみ更新です。
多分、治崎と脳無の融合を長編小説で描写したのはこの作品が初めてのはずです。
まあヒロアカはハーメルンだけでも3000作品以上あるので全部調べたわけではないですが。


追伸。
治崎融合脳無は他に先駆者がおられたようです。
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