怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第38話 勇者たちの行進(ブレイブマンズ・レギオン)

 舞い上がった粉塵が収まり始めたあたりで、再び爆発によって瓦礫が空中に舞い上がった。

 オールマイトの視線の先でAFOが空中に浮かんで立っている。

 

 オールマイトの筋肉量には劣るが、傷一つないその素肌を見せつけるようにポーズを取ったAFOが高みから地上のオールマイトを見下ろした。

 

「クク……、なんとまあ傑作だな、これは」

 

 ゆっくりと瓦礫の上に降り立ったAFOが、拳を突き出したまま微動だにしないオールマイトを見て、含み笑いする。

 

「まさか、既に引退したロートルが再びヒーローごっこか?」

 

 AFOの視線がオールマイトの全身へと注がれる。

 さっきのパンチで残り火のほとんどを使い切っているとAFOは見抜いていた。

 トゥルーフォームにこそ戻ってないが、すぐに限界が来るのは間違いない。

 

「わざわざ僕に殺されに出てくるとは」

 

「勝ち誇るには、まだ早いぞ」

 

 オールマイトが拳を握りしめた。

 指の間からギチギチとその力の程を示す音が重く響く。

 

「強がりは止めたまえ。知らないとでも思ったか? 君の中には力の結晶たるOFAはない。与一もいない。君を殺さずに手加減する理由がもう僕にはないんだ」

 

 AFOの声に憐れみにも似た響きが混じる。

 

「継承者は雄英高校での君の生徒、緑谷くんだろう? 君を始末した後、彼のところへ向かうとしよう」

 

「──そうさせないために私は来た!」

 

 AFOの背中が盛り上がり木の枝のような突起が無数に生え始めた。

 さっきの一撃には驚かされたが、アレがオールマイトに残された全てだった。

 

 今のAFOにとってオールマイトは最早脅威でもなんでもない。

 道端の石ころより価値がない。

 

 背中に生えた樹状突起の先端が光を放ち始める。

 

 AFOの口角が持ち上がった。

 長い間楽しめる玩具だった。苦い思いを抱いたこともあったが、これを最期の余興と考えるなら悪くはない。

 

 一撃で粉砕し、その足で雄英学園を襲撃するとしよう。

 与一を再び己のものにできる。もうすぐだ。

 

 AFOは口元を緩め、この後の予定を組みながら一歩踏み出した。

 

 

 ドンッ! 

 

「PLUS ULTRA!! プロミネンスゥ! バァ────────ン!!!!!!!!!」

 

 目の前のオールマイトに意識に集中しすぎていたAFOは、ホークスの羽で加速し背後から迫るエンデヴァーに直前まで気づけなかった。

 

 不意を突かれ、エンデヴァーに抱きつかれたまま蛇腔市上空に一気に上昇し、そこでAFOはエンデヴァーと共に太陽と化す。

 

「や、やめッ!」

 

 止める間もなく、数千度の炎を噴き上げるエンデヴァーによって肉体が炭化していく。

 

 個性:超再生を上回る炎だ。

 全盛期の肉体を誇るAFOとて数千度の炎に耐えられるわけはない。

 

 

「どう……だ!?」

 

 エンデヴァーは遠のく意識をつなぎ留めながらAFOの状態を確認する。

 目で見る限りAFOの全身は炭化していた。

 

 プロミネンスバーンはエンデヴァーの持つ炎を全て出し切る技だ。

 炎を全て出し切って推進力を失ったエンデヴァーが上空から地上へ落下する。

 

 

 だが、地面に激突する前に炭化したAFOの額に生えていた角が光を放った。

 

 

 ドン! 

 

 二人の身体が地面の上でバウンドする。

 普通の人間ならばこの落下ダメージだけで死に至るほどだ。

 

 だが、立ち上がったのはAFOだけだ。

 

「やって……くれたな!」

 

 真っ黒に炭化した身体の表面からボロボロと表皮が剥がれ落ちる。

 だがその下からは筋肉質なAFOの肉体が現れた。

 

 憎々し気に全てを出し切り倒れたままのエンデヴァーをオールマイトの方に向かって蹴り飛ばした。

 

「各地で脱獄ヴィランが暴れているのに、サボりは良くないぞNo.1」

 

月堕蹴(ルナフォール)!!」

 

 いきなり頭上に現れたミルコがAFOの頭部に蹴りを食らわせた。

 白と青を基調にしたコスチュームに包まれたミルコの太ももの筋肉が盛り上がり、そのまま連続技に移る。

 

踵月輪(ルナリング)!!」

 

 地面に叩きつけられたAFOの身体が、そのまま右方向に蹴り飛ばされた。

 

「……貴様まで!!」

 

 蹴りで吹き飛びながら疑問が湧く。

 エンデヴァーにホークスにミルコ、ヒーローのトップ層がなぜ蛇腔市に集まっている。

 

「おりゃあああああ!!」

 

 蹴り飛ばされ宙を舞うAFOの上に暗い影が差した。

 

 刃渡り20m! 

 

 常人には扱えないバカげた武器をマウントレディが力任せに振り下ろした。

 AFOの肉体が地面に叩きつけられ、その圧倒的な質量の刃が肉体を両断した。

 

 地面が割れて土煙が盛大に舞い上がる中、AFOの上半身と下半身が左右に分たれて血と内臓が地面にぶちまけられた。

 

「──ッ!?」

 

 半分になった身体が地面を転がる。

 

 再びAFOの額に生えた角が発光する。

 

 超再生による自動治癒では連続攻撃をさばききれない。

 ほぼ瞬間的に元の身体を復元したAFOがくるりと身体を回転させて足から地面に着地する。

 

「驚いた。僕のところにこんなに集まってくるとはね」

 

 AFOの計算には無かった事態が発生している。

 

 顔を上げたその先に、オールマイト、エンデヴァー、ミルコ、マウントレディ、そして先ほどからうっとおしく空を舞っているのはホークスだ。

 

「……全国で脱獄したヴィランが暴れまわってるのに、市民の安全を守るのがヒーローなんじゃないのかい?」

 

 軽く揺さぶりを入れつつ何気なく角に触れる。

 小さくなっている。

 

 AFOの表情から僅かに余裕が消えた。

 

「──悪いが、付き合ってられん。これで終わりにさせてもらう」

 

 言葉と同時にAFOは膝を折り、右手を地面へと押し当てた。

 

 弔の身体から奪ったばかりの個性。

 弔の中の僕は弔と意識と混じっていたからこそ気づけていなかった真価。

 

 今こそ解き放ってやろうではないか。

 

「個性:崩壊、発条化、増殖、膂力増強、空気押し出し、光塵」

 

 ビキッ!

 

 指先に触れた地面から僅かに亀裂が走る。

 

 一拍遅れて、放射状に広がっていく。

 増殖、膂力増強、空気押し出しによって伝搬する速度が音速を超える。

 

 そして光塵が空中を舞い、加速しながら突風と化してAFOを中心に半径5kmに渡るドーム状の絶対崩壊圏を生み出した。

 

 瓦礫の隙間を亀裂が縫うように走り、割れたアスファルトを這い、残骸と化した街を蜘蛛の巣のように亀裂が覆っていく。

 そして光の塵が崩壊しながら全てを巻き込んで吹き荒れる。

 

「なッ──!?」

 

 崩壊と光塵の複合個性の発動。

 地を這う崩壊が対象の足場ごと蝕み、吹き荒れる崩壊の光の粒子が全てを塵に変えていく。

 

 エンデヴァー、ミルコ、マウントレディ──地に足をつけていた者は等しく亀裂に触れて巻き込まれた。

 

「ホークス、離れろ──ッ!」

 

 オールマイトの声が届く前に、離脱しようと空中を飛行していたホークスも光の奔流に飲み込まれる。

 

「あ──」

 

 羽根が光の中で塵となって散っていく。

 

 

 

 

「ハ! ハハハハハッ!!」

 

 全てが消え去った砂塵の中でAFOが高らかに哄笑した。

 全域が瓦礫の廃墟と化していた蛇腔市はすべてが塵に還り、視界を遮るものなく地平線が現れる。

 

「これで邪魔者はすべて消えた」

 

 オールマイトやエンデヴァーはもちろん、無視できぬ機動力を備えたホークスや個人戦闘力の高いマウントレディやミルコまで片付いたのだ。

 最早AFOを敵に回して日本を守れるヒーローはいない。

 公安や警察組織も瓦解するしかないだろう。

 

 勝利を確信し、余韻に浸るように両手を広げ空を仰ぎ見る。

 

 ……あの影はなんだ?

 

「──ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマァアアッシュ!!」

 

 不穏な気配を感じ、振り向いた瞬間、拳がAFOの側頭部にめり込んだ。

 不意打ちでの圧倒的な暴力に身体全体が弾け飛び、地面を何度もバウンドしながらAFOは混乱に陥った。

 

 そこへ真っ赤な炎の奔流が叩きつけられる。

 

「──プロミネンスバーン!!」

 

 業火がAFOの全身を焼き尽くし、追い討つように反対側からミルコの回し蹴りが叩き込まれた。

 

 三方からの連鎖攻撃に、AFOの巨体が炭化し砕けながら砂の中に突っ込んだ。

 

「バカ、な……ッ!?」

 

 崩壊と光塵で葬ったはずだ。

 やつらの肉体に亀裂が走っていく様をしっかりとこの目で見たのだ。

 

 ホークスに空中を運ばれてきたマウントレディがAFOの上空で巨大化する。

 

「ど、どうなってるんだ!?」

 

 そのままマウントレディの拳が砂に埋もれたAFOの身体を打ち砕く。

 

 角が発光し、すぐさま元の身体が復元する。

 

 目の前には何事もなかったかのようにオールマイトやエンデヴァー、ミルコ、ホークスの姿がある。

 

「殺した……はずだ」

 

 AFOの声が初めて動揺に揺れた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 蛇腔市から10km離れた郊外。

 避難民を乗せて次々とバスが出発する中、再び蛇腔市の中心部でドーム状の砂嵐が巻き起こった。

 

 簡易テントの並ぶ避難拠点の一角で、ラグドールが弾かれたように叫んだ。

 

「ブレイブマンズ・レギオン、第二陣も──消滅しました!」

 

 ラグドールの顔が険しくなる。

 個性:サーチ。

 見たものの位置と弱点が分かる。

 

 現在の蛇腔市中心に近づいて状況を確認するのは死を意味すると助言者からの言葉は共有されている。

 そこで遠方からでも状況をある意味把握できるラグドールが最前線のこの拠点に配置されているのだ。

 

「オールマイト、エンデヴァー、ミルコ、マウントレディ、ホークス……全員の反応が同時に消えました」

 

 ラグドールの声が震える。

 日本のヒーローの精鋭たちが数秒も持たないのだ。

 

 AFOとはこれほどのヴィランなのか。

 

「な、なんなのよこいつ……」

 

 ラグドールの報告を聞き、厳しい表情を浮かべていたヒーロー公安委員会会長が叫ぶ。

 

「第三陣突撃準備!!」

 

 そして背後を振り返る。

 

「もうそろそろ奴にネタは割れているとみていい。人数制限は解除。以降は100名単位で編成しなさい!」

 

「了解です!」

 

 公安委員会の職員やサポート要員が慌ただしく動き回る中、会長の視線の先には待機しているヒーローたちがいる。

 

 

 

 避難拠点である蛇腔市総合運動公園。

 その広場に万に近い数のヒーローが立ち並んでいた。

 

 1000人を超えるオールマイト、そして同じく1000人を超えるエンデヴァー、ミルコとホークス、それにマウントレディ。

 

 

「よっしゃ、追加でどんどんいくぜ!」

 

 分倍河原仁の両手から、また新たな分倍河原仁とオールマイトがドプンッと生み出され、列に加わった。

 増えたばかりの複製オールマイトが、隣に並ぶ千を超える自分を見て気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「お前たちはコピーだ! お前たちはコピー!」

 

 律儀に唱えながら、増殖する分倍河原仁が次々と複製を生み出しそれが連鎖していく。

 エンデヴァー、ミルコ、マウントレディ、ホークス──それぞれの複製も、既に100名単位で広場の各所に列をなしていた。

 

 張り切る分倍河原仁たちの隣で、セーラー服姿の美少女が拍手をしていた。

 ポニーテールがポヨンポヨンと弾み、大きな目をクリクリと動かして興奮しながら分倍河原仁に声援を送っている。

 

「仁くん、すごい! もう数えるのも無理なくらいいるじゃん!」

 

「へへっ、だろ? やればできるんだよ、俺」

 

 仁が得意げに胸を張ると、少女は瞳を輝かせながら大きく頷いた。

 ポニーテールに束ねた髪が揺れる。

 

 セーラー服少女から少し離れた場所で第5公安捜査課の課長が複雑そうな表情を浮かべて、自分の娘が親し気に話しかける分倍河原仁を見ていた。

 

「これならきっと、私が高校を卒業したらお父さんも結婚を認めてくれると思うよ?」

 

「ほんとか?」

 

「………………」

 

 その言葉を耳にした公安捜査課の課長が意味ありげにヒーロー公安委員会会長に視線を送る。

 会長が軽く頷いたのを見て、諦めたように父親である課長が項垂れた。

 

 公安課長の娘である菜々美はくすりと笑って、仁の背中をポンポンと叩いた。

 

「だから胸張って。仁くんは今、日本を救うヒーローなんだから」

 

 その一言に仁は照れ隠しのように鼻の下を伸ばす。

 そして複製された分倍河原仁たちの手のひらから自分自身とオールマイトたちが途切れることなく増殖していく。

 

「お前たちはコピー! お前たちはコピー!」

 

 律儀に唱える声の合間、菜々美は次々に生み出されるオールマイトの複製を見渡し、両手を握りしめて声援を送り続けていた。

 

「頑張れー! みんな頑張れー!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「よし編成完了──第三陣500名、突撃せよ!」

 

 公安委員会会長が声を張り上げた。

 無線機を握る手に力がこもっている。

 

「待て、やはり私も行くべきだ!」

 

 本物のオールマイトが、第三陣の自分の複製に交ざろうと踏み出しかけた足を、公安委員会会長の鋭い声が制した。

 

「ダメです、オールマイト」

 

「なぜだ! やつを倒すのは本来は私の役目なのだ。自分の複製を送り出しながらここで突っ立っていていいわけがない!」

 

「助言者の見立てでは、今のAFOに近づくものは全員確実に死ぬ。あなたもエンデヴァーもミルコもマウントレディもだ。本体の突撃は許可できない!」

 

 会長の言葉にエンデヴァーが眉を寄せる。

 

「それは絶対なのか?」

 

「そうです」

 

 エンデヴァーは広場を埋め尽くす自分自身の複製の群れを険しい顔で見渡した。

 その隣でミルコが腕を組み、悔しさを噛み殺すように目を伏せる。

 

 その一部始終を少し離れた場所で見つめながら、根津校長は片耳に端末を当てていた。

 

「──こちらの状況は以上だ、助言者さん」

 

 広場を埋め尽くすヒーローたちの軍勢を背に蛇腔市の方角に厳しい目を向けている。

 

「貴女の予知通り、複製を送り込んでも瞬殺されている。複製の耐久力は本物より劣るようだが、耐久力の多寡など意味を持たない範囲攻撃を繰り出している。完全な死地だ。オールマイトやエンデヴァーの本体が行こうが結果は変わらないだろう」

 

 通話口の向こうから返ってくる声に、根津校長は小さく頷いた。

 

「……そうか。分かったよ。我々のジョーカーの準備が整うまで突撃を繰り返すとしよう」

 

 建物の影が完全に消えた蛇腔市に向かって勇者たちが死ぬことも厭わず突撃していく。

 

「そうとも。我々は絶対にあきらめない」

 

 蛇腔市の中心部で個性:崩壊が吹き荒れる中、勇者(ヒーロー)たちが塵となって消えていく。

 それでも、次の勇者(ヒーロー)たちが絶えることなく前へと進み続けていた。

 

 勝利に向かって。

 

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