怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第39話 核

「あっちー」

 

 ナベなんとかいう空港を出ると夏の熱気でむせ返るようだった。

 あまりの温度差に身体がついていけない。

 

「おい、着いたぞ而今」

 

 端末を取り出して而今と連絡を取る。

 

「東? このまま走って海岸まで行け? 大急ぎ? マジかよ」

 

 むせ返るようなこの熱気の中を海岸までランニングかよ。

 あー、もう仕方ねーな。

 

 小さなバッグを背中に背負ったまま100m走のように全力で海岸まで走る。

 

 割と田舎の町で平屋建てが多く、おまけにこの時間だ。

 多少車が走ってるのを見かけるだけで、空港から離れると途端に人気が無くなっていく。

 

 AFOの影響なのか、飛行機を乗り継ぐ都市部では治安が悪化していたがここではまだ呑気な雰囲気が漂っている。

 

 きっちり区画整理された道を500mも走ると波の音が聞こえ始めた。

 海岸には人っ子一人いない。

 

「まあ……ガハッ、ハァハァハァ、流石にこの時間だとな、いないよな」

 

 見られて困るもんじゃないが、見られて落ち着くようなもんでもない。

 人がいないのはいいことだ。

 

 早速事前の打ち合わせ通りバッグから包帯を取り出し腕に巻きつけていく。

 心臓の鼓動が激しいままだ。

 

 巻いておかないと俺は出血多量で確実に死ぬらしい。

 全くとんでもない話だ。

 

「而今、俺だ。準備はできたぞ」

 

 端末を耳に当てつつ空を見上げる。

 

 月が輝く中、見たこともない星空が満天に広がっていた。

 こんな状況じゃなきゃ、寝転がってゆっくり観賞したい気分だ。

 

 だが、今からやるのはこの美しい星空とは真逆の血なまぐさい人殺しだ。

 

「え? 今すぐやれ? あー、分かったよ」

 

 端末から人使いの荒い声が響く。

 而今の声に焦りが滲んでいるのが分かる。

 

 相当に分が悪いようだ。

 

 誰一人いない砂浜に膝をつき、両の手のひらも同様に砂浜に押し付ける。

 

「ふぅ────」

 

 一度深呼吸する。

 

 俺の出来次第で日本の、そして世界の運命が決まる。

 緊張するなって言う方が無理だ。

 

「じゃあやるか! 個性:小銭泥棒(ワンコインピッカー)!」

 

 個性を起動すると遥か彼方に奴が()えた。

 目を凝らさないとはっきり見えないくらい遠いがちゃんと見えている。

 

「あれ?」

 

 これ変質してない元のAFOじゃないか?

 どうなってんだ!?

 

「おい、而今! AFOが変だ! 元に戻ってる!」

 

 疑問をすぐに而今にぶつけるとすぐに答えが返ってきた。

 

「はぁ? 変異したAFOはもう消えた? いいからそのAFOを殺せ? おい! いくら何でも説明不足だろ!?」

 

 信じらんねぇ。

 説明してる時間がないと怒られた。

 なんで俺が怒られるんだよ。

 

 あいつ、目覚めてからやたら横暴になってきたな。

 惚れちまったのは早まったか?

 いやまぁそれは今更か。

 

 而今が時間がないというならきっとその通りなのだ。

 殺るか。

 

 個性:小銭泥棒(ワンコインピッカー)を起動したまま感覚を伸ばす。

 元のAFOなら指が届く。

 だが、さすがにこんな距離で届かせるのは初めてだ。

 

 普段なら視界の届く範囲でやってるから、何も意識する必要などなかった。

 いっそのこと、手を向けなくとも発動はできた。

 

 だが今は手の位置を調整しないとまず指が届かない。

 

 調整のために砂浜についた右の手のひらを1mmほど右にずらす。

 左の手のひらを右上に0.5mmほど移動させる。

 

 AFOの位置が変わったので今度は左に0.1mmほど動かす。

 奴の位置が変わる度に二度三度と微調整を繰り返す。

 

 ダメだ。

 キリがない。

 

「おい、而今! やばい! AFOが派手に動き回りすぎて狙いが定まんねぇ!」

 

 こんな微調整が必要になるとは思いもしなかった。

 いや、距離を考えれば当然なのかもしれないが、このままじゃやつを殺れない。

 

「え? 全員突撃(バンザイアタック)させるから3分後に全力でやれ? おい、突撃ってなんだ?」

 

 くそ!

 而今の応答が無くなった。

 

 そんなにやばいのかよ。

 

 その時だという合図も何も無いから、目を凝らし全力で集中し続ける。

 もし見逃したら世界の終わりだよ、くそったれ。

 自分のためとはいえ、胃が痛くなりそうだ。

 

 ワンコインピッカーの視界の先でいきなりAFOがダンプカーに跳ね飛ばされたかのようにきりもみ回転しながら大きく移動した。

 

「なんだ!?」

 

 今度は逆方向に地面をバウンドしていく。

 その途中で100tのハンマーで殴られたかのように向きを変える。

 

 視界の先でまるでピンポン玉のように目まぐるしく跳ね回るAFOの身体に俺の絶望感が増していく。

 

 こんなの絶対に合わせられねぇ!

 

 

 と、何かに押さえつけられているかのように地面にめり込んで動きが止まった。

 

 合図もくそもなにもない。

 これか!?

 コレなんだな!?

 

 間違ってても知るか!

 

「いけッ!! 個性:ワンコインピッカー、バーストォ!!」

 

 全力でぶん回せ!!

 

 初っ端からAFOの大脳皮質の一番奥の部分をむしり取って投げ捨てる!

 指先の動きが鈍い。半年使ってなかったブランクが出てる。

 

 やばい!

 もっと早く!

 もっと早くだ!!

 

 回復されたらAFOがまた動き始めてしまう。

 

 激痛と共にすぐに腕に巻いた包帯に血が滲み始めた。

 個性を限界を超えて酷使する反動だ。

 

 痛みで不意に閃いた。

 

 そうだ!

 小脳だ!

 運動を司る部分!!

 

 ここを最初に抉れば奴は動けなくなるはずだ!

 

 イケイケイケイケ!!

 

 奴の脳を毟って毟って毟りまくり千切った脳片を途中で手放し投げ捨て回転をあげる。

 

 腕の包帯で血が噴き出すのを止められなくなってきた。

 べっとりと血塗れの包帯から所々血が溢れ出している。

 

 超回復で治癒していく速さを上回る速度で脳をスライスしながら毟り取り、即座に投げ捨てる。

 

「──ッ!?」

 

 いきなり回復しやがったぞ!?

 而今が言ってたのはこれか!

 

 やばい!

 もっと回転速度を上げないと奴の回復速度の方が早い!?

 

「くそったれぇ!! 速度を上げろ! ワンコインピッカー、バーストォオオオ!!」

 

 押し負けて堪るか!

 俺の怠惰な暮らしのためにお前は邪魔なんだよ!!

 

 腕から血が噴き出し始めた。

 溢れた血が砂に吸い込まれていく。

 

 意識がふら付く。

 

 まずい!

 まずいまずい!!

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「この……攻撃はッ………奴か!」

 

 巨人化したマウントレディ3人に地面に押さえつけられながら、AFOは脳が抉られていくあの時の感覚を再度味わっていた。

 

 この脳への直接攻撃は自分を殺しきれると既にAFOは経験している。

 そのうち狙ってくるとは思っていたが今来たか!

 

 最悪のタイミングで合わせてきた、やはり公安の処刑人。

 こいつをなんとかしないと、ここで再び死ぬ羽目になる。

 

「死ね!」

 

 崩壊と光塵を合わせて放つ。

 

 AFOを抑え込んでいたマウントレディ3人の巨体に亀裂が走り、砕け塵に還っていく。AFOの側は即死の範囲攻撃圏内だ。だが死ぬことを恐れてないのか、次から次へと巨体を利用した質量攻撃を仕掛けてくる。

 

 奴を探す。

 周りを見渡してもマウントレディとホークス以外に誰も見当たらない。

 地平線まで見渡せるのにだ。

 

 視認できないほどの遠距離からの攻撃!?

 

 いかん、これは反撃できないタイプの攻撃なのか。

 

 倒れかかってくるマウントレディに向かって再度崩壊と光塵を放つ。

 

 額の角が常時発光し続けている。

 そして徐々に小さくなり続けている。

 

 AFOの顔に焦りが浮かぶ。

 

 崩壊の連続使用はこの身体では反動が厳しすぎる。

 今も連続して脳が毟られ続けている。

 

 ここまで厄介だったとは!?

 

 一方的にやられるだけで、このままでは逃れられぬ二度目の死が訪れる。

 

「グッ!?」

 

 身体がマヒした。

 小脳を抉られたか。

 

 陰湿すぎるぞ。本当にヒーロー側の人間なのか。

 思考が完全にヴィランだ。

 

 炎を両足から噴き出し四方八方から突進してくる100人のエンデヴァーに身動きできず倒れ伏したまま崩壊と光塵を放つ。

 

 ダメだ、脳が継続的に損傷を受け続けている。

 身体が動かない。

 明らかに身体の動きを司る部位を狙って攻撃を加えてきている。

 

 退却するしかない!

 認めろ! 態勢を立て直さねば敗北する!

 

 この場を離れるためには、移動と攻撃を兼ねる……ちくしょう!! 地平線を埋め尽くすほどのオールマイトの群れが土煙を上げ、ソニックブームをまき散らしながら音速で向かってきてる!

 

 AFOの顔が一気に蒼褪めた。

 

「この僕がッ! 尻尾を巻いて逃げださねばならんとは!」

 

 脳が傷つき個性の繊細な制御など不可能、体も動かせない。

 取れる手段など最早ない!

 

「オオオオッ!! だが、そちらも無事では済ません! 全因解放!!」

 

 制御の全てを投げ捨て、保有するすべての個性因子を解放する。

 個性の性質も方向性もただ一点に向ける。

 

 ボボボボッ!!

 

 まるでマスターピースの増殖する肉体のように、AFOの身体が猛烈な勢いで歪に膨れ上がっていく。

 

 全ての個性を発動して、その出力をもって周りのハエをすべて叩き落してこの場から退却するのだ。

 無数のオールマイトたちがやってきてる方向は既に把握している。

 

 あるのだろう?

 そこに拠点がッ!

 

 人体の枠を超えて、最早生物の範疇からも外れたような、無数の個性が無秩序に肉体を備えたような醜悪な見た目になり果てる。

 

「させん! ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマァアアアアアアッシュ!!」

 

 1000人を超えるオールマイトたちが残り火の全てを注ぎ込んで宙に浮かびかけたAFOを地面に叩き落とした。

 

 核に匹敵する威力が一点で炸裂し巻きあがる砂塵が成層圏近くまで舞い上がっていく。

 

 醜悪な肉塊が砕かれ削られ吹き飛んだが、それも即座に巻き戻しで元通りになっていく。

 

 そこへ次から次へとマウントレディが巨体を揺らしながら駆けつけてAFOの膨らんだ巨体にタックルをかましていく。

 

「あぁあああああッ!」

 

 マウントレディ数千人に群がられて無理やり全因解放したAFOの肉体を力任せに地面に縫い付ける。

 動きの止まったAFOの巨体に数え切れぬほどのエンデヴァーが群がった状態で、マウントレディを巻き込んでの全員同時プロミネンスバーンを放つ。

 

 その瞬間、地表に小さな太陽が生まれた。

 何もかもを飲み込む炎が太陽のプロミネンスのように荒れ狂う。

 

 

 

 

「…………この……くそどもが…………」

 

 全因解放を無理やり食い止められたAFOがガラス状の地面に転がったまま脳を抉られ続けていた。

 光を放つ額の角が消失しかけている。

 

 身動きできないまま、近寄ってくるヒーローたちを崩壊で消し飛ばし続けていたが、このままではジリ貧だ。

 

「僕に……奥の手がないとでも思った、か?」

 

 額の角が消失すると同時に、AFOの左右の側頭部が不意に盛り上がった。

 皮膚を突き破り、鋭く尖った先端がねじくれながら巨大化していく。

 

 メキ……メキメキメキ…………。

 

 前方に突き出すような形状に変形した巨大な角が眩い光を放つ。

 

「おまえたちは知らないだろう? ストック型の個性は個性を燃料に()べればエネルギーが回復するのだ!」

 

 有用な個性をただの燃料にすることに苦痛を覚えつつも、生き残るために必要な手を打つ。

 

「これだけの! エネルギーがあれば!!」

 

 AFOの二つの巨大な角から強烈な光が発せられた。

 

 今も毟られ続けている脳の欠片に自我と意識の全てを乗せる。

 神野で敗北した時の光景が蘇る。

 

 毟られ投げ捨てられたその先で脳片から身体を巻き戻すのだ。

 強引すぎるが最早それしか方法が残されていない。

 

 ここから離脱して脳を毟り続ける奴の傍で巻き戻って即座にカウンターアタックをかけるのだ。距離さえ潰せばどうにでもなる。

 

 そうだとも、奴さえいなければたとえオールマイトたちが万の軍勢で来ようと負けはしない。

 

「そうだ、僕が勝つんだ!」

 

 奴さえいなければ自分の勝利は疑いようがない。

 

 次から次へと無限に現れ続けるオールマイトやエンデヴァーたちを最期に視界に収めた後、AFOは決意と共に自分の肉体を捨て、抉られたばかりの脳片に意識を乗せた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ピピピ♪

 

 携帯端末が鳴っていた。

 意識を無理やり引き戻して応答する。

 

「…………なんだ、而今」

 

「AFOの身体が倒れたわ、帑鹵(ドロ)

 

 端末から而今の声が聞こえてきた。

 周囲の砂浜を血で染め、気を半分失いかけながら辛うじて声を絞り出す。

 

「ああ、そうか……やっぱりな」

 

 急に抵抗が無くなったのだ。

 まず超回復とは違う正体不明の治癒能力が急に消えた。

 

 超回復だけの抵抗ならばあとは押し切るだけだった。

 頭が無くなれば立ってはいられないだろう。

 

「まだ反応はある?」

 

「ちょっと待て、()直す…………ああ、まだAFOは生きてるな」

 

 ワンコインピッカーの視界でまだ奴の存在を()ることができる。

 

 だが。

 

「ぶふっ!! ぶはははははっ!!」

 

 思わず笑ってしまう。

 端末の向こうで而今も笑っているのが聞こえてくる。

 

「まさに、ざまぁだ! 而今、奴の反応が弱くなってきてる。もうそろそろ死ぬな」

 

 波の音を聞きながら砂浜の上で寝返りを打つ。

 満天の星空を見ながら勝利の喜びが、奴に勝った喜びが湧き上がってる。

 

 この作戦の肝は奴の勘違いを利用したこのハメ技にあったのだ。

 

「しっかし、ここまでしなきゃ勝てないなんて本当のバケモンだったな」

 

 星の瞬きを眺めながら端末の向こうの而今の息遣いを感じている。

 

 海からの夜風が気持ちいい。

 地球の裏側のブラジルの夜風も悪くないな。

 

 ワンコインピッカーの視界の中でAFOの反応がどんどん弱くなっていってるのにニヤつくのを抑えられない。

 

 俺のワンコインピッカーで毟り取ったものは俺の手のひらに現れる。

 最初のAFOとの対決の時、俺の周囲に奴の脳片をばらまいて捨ててたのはそれだ。

 

 奴も見ていた。

 

 だが……あの時それでは勝てなかった。

 だから俺は毟り取る回転数を上げるために、毟り取ったものを手元まで引き寄せる前に途中で投げ捨てた。

 

 それが回転数に特化した俺のワンコインピッカーバーストだ。

 

 あの時、投げ捨てた場所は俺とAFOを結ぶ中間地点だった。

 

 今日も同じだ。

 俺とAFOを結ぶ中間地点に投げ捨ててやった。

 

「ぶっ……ぶふふっ!! だめだやっぱり笑っちまう! 奴は驚いただろうな!!」

 

「でしょうね」

 

 而今の声が耳に心地よい。

 

 日本の蛇腔市にいたAFOとブラジルにいる俺を一直線で結んだ中間点とはつまり地球の中心、内核(コア)だ。

 

 溶けた鉄とニッケルの塊だ。

 温度は6000度、圧力は360万気圧。

 

 生きるにはかなり不自由な場所のはずだ。行ったことは無いけどな。

 

 そして──ワンコインピッカーの視界の中で奴の反応が消えた。

 

「すげー粘ってたけど……死んだ、な」

 

「やったわね、完全勝利よ」

 

 而今の声も嬉しそうだ。

 俺もようやくケリがついて嬉しさもひとしおだ。

 

 でも……実は俺も出血多量で今まさに死にかけてるような気がする。

 周りの砂に俺の血が染み込んでまるで惨殺死体みたいになってる。

 

 ……だんだん寒くなってきたぞ。

 

 大丈夫なのか?

 真夏の海岸で寒く感じるって超やばくね?

 

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