怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
雄英高校の敷地から少し離れた雑木林の中。
地面に倒れたままの黒い改人脳無は無反応だ。
而今が俺の隣で時計を確認した。
「警察が来るまであと1時間位しか無いわ。
そう言って而今が俺を見た。
「分かった、そう急かすなよ。実験再開だ。個性:
俺は両手で個性を発動した。
ぬるっとした感触の肉片が俺の両手に現れ、脳無が胸を押さえて苦しみだした。
脳無の心臓の右心室と左心室それぞれに500円玉のサイズの大穴を同時に開けてやった。
普通ならもちろん致命傷だ。
脳無の痙攣がさっきよりも激しい。
体内は心臓から噴き出した血液で血袋と化してるはずだ。
だが、痙攣は30秒ほどで収まって1分が経過する頃には脳無は平静に戻ってしまった。
「──だめか」
心筋の肉片を而今のジップロップに投げ入れた。
大穴一つと大穴二つ、回復時間にほぼ差はなかった。
「これを繰り返すのか。正直あまり気分の良いもんじゃないな」
たとえ脳無が相手でも、殺す実験とか趣味が悪すぎる。
「殺人が好きな人を私は選ばないわ。だけどいざとなれば躊躇わない人が必要だったの。
「……。個性:
脳無の喉に大穴を開いた。
血飛沫が舞った後、口からではなく喉から呼吸が始まった。
そしてその穴は見る見るうちに塞がった。
「あ、そうなるのか」
肺の収縮で呼吸が行われるのだ。喉に穴が開いてもすぐに治るのであれば空気の出入り口が口から喉に変わるだけだ。
普通の人間相手ならともかく超再生個性持ちの脳無相手だと意味のある攻撃にはならないのか。
いや待てよ?
いっそ死に直結しない部分を積極的に試してみるか。
「ここならどうだ……個性:
両の手のひらに筋肉とはまた違う感触の、汁気たっぷりのモノが現れる。
同時に脳無が両手で顔を覆って苦悶の声を上げた。
だが、これは30秒ほどで同じく治ってしまった。
「うん、眼球潰されても死なないよな……」
「直接戦うのなら視界を奪うのは効果があるだろうけど……オール・フォー・ワンと直接戦闘して勝てるヒーローはいないと思うわ。たとえオールマイトでも超再生の個性を手に入れたオール・フォー・ワンには厳しいんじゃないかしら」
「前に戦った時はオールマイトが勝ったんだろう?」
一般には出回ってない情報らしいが、俺は而今から教えてもらった。
「5年前に戦った時はオール・フォー・ワンは超再生の個性を手に入れてなかったのよ。それでほぼ相打ち。オールマイトは肺に大怪我を負いながら辛うじて勝ったけど、次やれば多分オールマイトが負けるわ」
「そうか? 夢で視たオール・フォー・ワンも生命維持装置付けてたしベストコンディションには程遠いだろ」
「もう雄英高校の生徒にオールマイトの個性を引き継いでいるのよ。これからどんどん弱くなっていくわ。そして未来で負けたわ。視たでしょ?」
「視たけどさ。外骨格強化スーツみたいなの装備してたから、教えてもらうまで彼がオールマイトだと気づかなかったよ」
「その未来にならないように、ほら頑張って」
「分かったよ」
俺は肩をすくめた。
◇◇◇◇◇◇
「個性:
──両足の腱、靭帯、両腕の腱、肝臓、膵臓、肺……脳無を文字通り穴だらけにしても致命傷にはならなかった。
「どんだけだよ、超再生の個性。何処であろうと治っちまうじゃねーか」
俺の愚痴に而今は首を横に振った。
「治るにしてもかかる時間が違うのが分かったでしょ? 心臓とか大動脈に穴を開けた時に治るのが明らかに遅かったわ」
「ああ、心臓とその周りが比較的弱点ってことは分かったけど、最終的には治っちまうよな?」
而今が無表情の脳無の前で考え込む。
「そこにヒントがあると思うのよ。血流が治る速さに関係している…………血流量が減ると治りが遅くなる…………」
「つまり大量の血液を必要とする臓器ってことか? 肝臓とかか? でも抉ったけど効果なかったしな」
「血液……酸素? 脳!? そうよ、まだあそこを試してないわ」
而今が顔を上げて脳無を指差した。
指先はまっすぐに脳無の頭部を指していた。
「いや、あんなに剥き出しになった部分がちゃんと弱点でした、とかある?」
本来は硬い頭蓋骨の中に収まって大事に守られている臓器が脳だ。
もちろん普通の人間でも弱点だけど、脳無はおそらくマッドサイエンティストみたいな狂った人間の手で強化された改造人間だ。
工業機械なんかが合理性に基づいてデザインされているように、戦う兵隊としてデザインされた改造人間である脳無の弱点が剥き出しの脳でしたとかありえるのか?
心臓に大穴が何個も開いても治っちまうのに。
「いいから試しなさい!」
「キレんなよ。分かった、試すよ。個性:
脳無の脳を
「おおぉ!?」
いきなり脳無が仰け反って暴れ始めた。
近くの樹木が振り回された脳無の腕に当たって易々となぎ倒される。
「危ない! 脳無から離れろ而今!!」
だが而今は一歩右に移動しただけで、暴れのたうち回る脳無から離れない。
「観察中!」
観察中って!?
本気かよ!
脳無の指先が掠るだけで而今のような女の子には余裕で致命傷になりかねない。
「ッ!!」
「危ねえ!!」
脳無の右肩の関節周りの腱を4つ
而今に向きかけた脳無の右手がダランと垂れ下がる。
「下がれっ! 而今!!」
それでも下がらない而今の為に、脳無の両手両足の関節周りの腱を連続で抉り続ける。そういえば
俺の手のひらに骨片交じりの肉片がたちまち山盛りになっていく。
やがて脳無は暴れようにも両手両足が動かないので芋虫のように転がり始めた。
タンッ!
ようやく而今が後ろに飛んで脳無から距離を取ってくれた。
「──っぷぅ!! おい、危ないだろ而今! 死にたいのか!」
俺が怒鳴りつけたのに、而今は満面の笑みを浮かべて俺を見た。
「
◇◇◇◇◇◇
脳無の真っ黒い巨体がビクンと大きく痙攣すると静かになった。
「あ、死んだかな?」
俺の手のひらの中に脳無の脳をスライスしたような肉片が何枚か乗っている。
「再生は……しないわね」
「弱点は脳で決まりか。脳の表層ではなくそれも脳幹部の中心部を走る血管が一番ダメージが大きそうだ」
差し出されたジップロックに脳無の脳片を入れる。
而今はキュっと蓋を閉めた。
もう開ける必要はないからな。
「弱点が分かれば脆いな……」
雑木林の中で横たわった脳無に外傷は無い。
脳無の遺体が警察に確保された後、検死されることを考慮して両手両足の腱が治ってからトドメを刺した。
「なあ……人間を改造して脳無を作るんだよな?」
「そうよ」
「誰が作ってるんだ?」
「まだ私の未来余地には引っ掛かってないから分からないわ。でもきっとオール・フォー・ワンに近い人間でしょうね」
「……そうか」
俺は血にまみれた自分の手のひらを見た。
「………………まあ俺はヒーローじゃないからな」