怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語   作:名無し

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第06話 間引き ステイン

「ぐぁっ!!」

 

「弱い……ハァ……」

 

 静かに燃えるような目をした男が路地裏で刀を手にため息をついた。

 ボロ切れのようなマフラーを首に巻き、目を包帯のような長いバンダナで隠した男の名はステインといった。

 

「ターボヒーローインゲニウム。偽りのヒーローよ」

 

 刀を口元に近づけ、刃に付いた血をステインはざらついた舌で舐め取った。

 

「ぐっ……!? か、身体が動かない」

 

「チームIDATEN、数十名ものサイドキックを雇い人数頼みでヒーローの真似事をし、おまけに弱い……ハァ……」

 

 ステインはいっそ憐れむような目でインゲニウムを見下ろした。

 

「おまえもまた本物のヒーローではない」

 

 うつ伏せに転がっているインゲニウムをステインは足で踏みつけた。

 

「保須市での一人目。まずは腐った社会への警告となってもらおう」

 

 ステインは静かに刀を振り上げ……

 

 

 

 ガタッ! 

 

「……ハァ、誰だ」

 

 路地裏の角から二人の人影が見えた。

 

「いけない! こっちへ来るな。こいつはヴィランだ! すぐに逃げるんだ!」

 

 地面に倒れたままターボヒーローインゲニウム、飯田天晴は路地裏に迷い込んできた一般人と思しき二人連れに叫んだ。

 

「消えろ。偽物のヒーロー以外に用はない」

 

 だがその男女二人連れはインゲニウムの叫び声を聞いても逃げようとしなかった。

 

「……ヒーローか? ならば粛清の対象だ」

 

 ステインが身体の向きを変えて男女二人連れに向き合った。

 

「──子ども?」

 

「悪いな、ヒーローじゃない。ただのヴィランだ」

 

 ステインの血走った目が細められ、対する男の目もステインをどこか見定めるように目を(すが)めた。

 

「ヴィランを名乗るなら子どもであっても粛清の対象だっ!!」

 

 刀を構えると、ステインは一息に二人連れの懐に飛び込んだ。

 目にも止まらぬ程の速さで振るわれた刀を男はナイフで受け止めた。

 

「ぐっ!? な、ん……だ?」

 

 ヒーロー殺しステインの身体がふらつき、地面に片膝を付く。

 女連れの男は片手をステインの方に向けていた。

 何かをしたのは間違いない。

 

「何を……した……ハァ……ハァ……」

 

 ステインの目がどんどん霞んで見えなくなっていく。

 血圧が急速に失われていく感覚。

 

 ドンッ!! 

 

 ステインは目と意識が霞む中、自分の胸にナイフが突き立てられたのを感じ取った。

 ステインが今まで散々贋物のヒーローに突き立ててきたように、肉体に金属の刃がねじ込まれる感覚。

 

「カハッ!」

 

 ステインが口から血を吐いた。

 

「俺は……まだ……終わらん……」

 

 体の中心から熱が消えていく。

 

「……俺が……ハァ……この腐った社会……を……浄化……しな……けれ……」

 

 地面に倒れ込んだヒーロー殺しステインの胸から流れ出た血が地面を赤く染めていく。

 今まではヒーローの血で染めていた地面を、今度は、そして最後は自分の血で赤く染めていった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それでターゲットはこいつか?」

 

「そうよ、ヒーロー殺しステインと呼ばれているヴィランよ」

 

 俺の部屋で而今が携帯端末を操作してネット上のヴィランの情報を画面に表示させた。

 

「ほら、こいつ」

 

「ほーん。悪そうなやつだな」

 

 画面には17人を殺害と書かれていた。

 悪そうではなく、れっきとした大量殺人犯だった。

 

 俺は視線で而今に説明の続きを促した。

 

「こいつは未来でヴィラン連合に取り込まれて、稀代の煽動者(アジテーター)となるの」

 

「アジテーター?」

 

「社会で燻っていた不安や怒り、諦観なんかを抱えた市民やヴィランに方向性を与えちゃうの。一部のヒーローまで影響を受けるわ」

 

 俺は寝転がったまま顎に手を当てて考えた。

 

「なんかすげー演説でもするのか? そういうタイプには見えないんだが」

 

 未来余地で視させられたオール・フォー・ワンは一目で分かる巨悪だった。

 生かしておいては、確実に俺の平穏な生活が脅かされると確信できるほどの雰囲気を放っていた。

 

 だが而今に見せられた画面に表示されたヴィランの似顔絵画像にはそんな大物の雰囲気はなかった。

 稀代のアジテーターというと前時代でのヒトラーという独裁者が市民を扇動する演説が有名だったと俺も歴史で学んだ。

 

「信念に燃えた原理主義者ね。ただ、タイミングと世相とが妙に噛み合っちゃったのね。だから心の弱い人は中てられてしまったの、不幸なことにね」

 

 どうしようもないねとばかりに而今は肩を竦めた。

 

「扇動される方が悪いんじゃね?」

 

「扇動された結果にヴィラン連合が便乗して、そしてその結果数十億人が未来で死ぬのよ」

 

「その破滅する未来をステインは望んでいたのか?」

 

「いいえ」

 

 否定した而今の目を見る。

 

「ステインが望んでいたのは既存の社会を壊すことであって破滅ではないわ。壊すのと破滅は全然違うし、ステインの本当の望みは既存の社会を壊した後に本物の英雄(ヒーロー)が中心になった社会の再生だったわ」

 

 俺はしばらく而今を見つめた後、笑った。

 

「俺の望みは現状維持だ……どちらにせよ相容れないな」

 

 なんだか而今も影響を受けてそうだな。

 『だった』とか過去形で言ってるし未来で何か見てきたのかね?

 

「踏み台として利用されて…………かくて世界は破滅へと向かった、か。で俺たちはその前にステインを殺してしまえ、か」

 

 世界は乱暴者ばかりだ。

 

「近い内にヴィラン連合がステインの勧誘に動き始めるわ」

 

「それはいつだ?」

 

「3日後ね。ちょうど雄英高校の体育祭がある日よ」

 

「あーあれか」

 

 TVで中継されるから俺も見たことがある。

 なかなか凝ってて面白いんだよな。

 

「分かった。ステインを殺そう」

 

 俺がそう言うと、而今は鞄の中からメモ帳を取り出した。

 びっしりと小さな文字が書き込まれている。

 

「私が未来余地で視た中で一番日付が近いのは、保須市の路地裏でターボヒーローインゲニウムが襲われる事件ね」

 

「保須市か……って、この街じゃねーか」

 

「今地図を出すわ」

 

「待ってくれ。地図で確認するのもいいが、未来余地でステインを視せてくれないか」

 

「どうして?」

 

「視て確認したい」

 

「それは1回分の未来余地を使ってまで必要なことなの?」

 

 而今は1日1回、寝ている時に未来余地を使うことができる。

 もうすでに視た未来を俺に視せようとするのは、未来予余地1回分の無駄遣いと言いたいのだろう。

 

「ああ、必要だと思う」

 

 似顔絵画像ではピンとこないのだ。

 

 夢の中で視たならばどこかに妥協点が見つかるかもしれない。

 駆け足で世界の背中を押そうとしてるステインに、そんなことをしても世界が躓いて転ぶだけだと気づいてもらえるかもしれない。

 

 もちろん視たとしても結果は同じかもしれない。

 

 

 まあ、俺はヒーローじゃないからな。

 だめなら簡単に説得は諦めるけど文句は言わないでくれ。

 

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