怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「今日、保須市が脳無3体に襲われるわ」
朝、俺の部屋で目を覚ました而今が開口一番そう言った。
「なんだって!?」
ここが?
俺の住んでる街が襲われるだと?
目が覚めたばかりの俺に最悪のニュースだ。
勘弁しろ。
「いや待てよ、おかしくないか? 未来でこの街が脳無に襲われるのって死柄木弔がステインに対抗してじゃなかったか?」
ステインを殺す時に而今に説明された元々の未来では確かそうだったはずだ。
そのステインはヴィラン連合に加入する前に俺が殺したんだから、死柄木弔とステインは出会っていない。つまり死柄木弔は脳無でこの街を襲う理由がないはず。
「未来が変わったみたいね。いえ、違うわね。予想していた未来に変わらなかったみたい」
その而今の言葉を聞いて、無い頭で考える。
「あー……ヴィラン連合の仲間集め、か」
そうだ。
変わる前の未来ではステインがヴィラン連合に加入して、そのヴィランとしての悪名をヴィラン連合は仲間集めに利用したのだ。だがそのステインはヴィラン連合とは無関係のまま死んで、ステインの信念を拡散することになった例の動画もない。
つまりヴィラン連合は現状では雄英高校を襲撃してオールマイトに敗北したという程度の知名度しかないのだ。
仲間を集めるにはパンチが足りない。
「正解よ。未来余地の夢の中で連中は仲間集めに苦労しているようだったわ」
「はぁ……ろくでもねえな。俺たちこんなに凄いヴィランだからみんなおいでってか」
「で、どうするの?」
「当然妨害するさ」
俺の住んでる街で暴れられて堪るか。
「でもね? この予知って昨晩の未来余地で初めて知った未来なのよね」
「それが?」
「禁じ手や派生する未来を未来余地で調べる時間がないのよ」
「あー……」
未来余地で視た未来は変えられる。
未来を変えるような行動を取った場合、未来は不透明なものに変わる。
その不透明になった未来に対して、重ね掛けするように未来余地で夢を視ることが而今にはできる。
だけど今回はその時間がない。
ヴィラン連合の放った脳無の邪魔をしたら変わった未来がどうなるのか分からない。
「最悪、
「…………多分、ね」
俺の個性:
「ちなみに俺が妨害しなかった場合はどうなるんだ?」
「ステインに対抗するために脳無を繰り出した本来の未来では、ステインのヒーロー殺害の二波目を警戒してNo2ヒーローのエンデヴァーが警戒して巡回していたわ」
「そのNo2は今は当然いないよな。ステイン死んだし」
「それにワン・フォー・オール継承者の緑谷出久とその指導者グラントリノもいない」
「…………もしかして脳無に対抗できる強力なヒーローがいない?」
「少なくとも地元のヒーローの中にはいないわね」
「ということは応援要請がかかって周辺の強力なヒーローが駆けつけてくるまで脳無はやりたい放題か」
「未来余地の夢の中で市の公共施設、重要な商業施設やビルが十数棟は炎上してたわ」
「頭痛ぇ」
「決断するなら早めにね? あと10分後に市の中央区で始まるわよ」
「うっそだろ! 朝っぱらからやるのかよ!!」
慌てて跳ね起きる。
「テロは通勤時間帯にやるのがもっとも効果的だから、ちゃんと計画を練ってきてる」
「クソっ! チンピラ弔、成長してやがる!! 而今! お前は危ないから安全なところに避難してろ!」
俺はタンスを開けてできるだけ特徴のない服を選んだ。
そして服の下に二本のナイフをホルダーごと隠して俺は部屋を飛び出した。
◇◇◇◇◇◇
そのまま市の中心部へ向かって駆けながら途中でコンビニに入った。
妨害するのに素顔は絶対に不味い。ヴィラン連合の連中は間違いなく脳無の活躍をビルの屋上とかから観察してるはずだ。
「いらっしゃいませ」
「これお願いします」
とりあえず普通の花粉症用マスクを買ってコンビニを飛び出した。
すぐに包装を剥がしてマスクを装着する。
これで顔の半分は隠れた。
更に市の中心部に向かって走ると別のコンビニが見えてきた。
たしかここのコンビニだったはず。
「いらっしゃいませ」
「これお願いします」
俺はオールマイトのマスクを買った。
パーティグッズ用の頭全部を覆うやつだ。
このコンビニは繁華街に近いだけあって品ぞろえが違うのを覚えていた。
そのままビルの影に隠れて買ったばかりの包装を破る。
ごめん、オールマイト。
罪を被ってくれ。マスクだけに。
「HAHAHAHAHA!!」
笑い方はこうだっけ?
なんか違う気がする。違ってたらオールマイトファンにぶち殺されそうだ。
いかん。俺のテンションがおかしいかもしれん。
酸素不足か?
時計を見るともう而今が言ってた時間だった。
そろそろ騒ぎが起きる。而今の未来余地は絶対に外れない。
◇◇◇◇◇◇
ドォッ!!
いきなり火の手が上がった。
クソ!
初っ端から飛ばしすぎだろ!
黒い靄から現れた黒い脳無が道路を走っていた市バスを片手で掴んでぶん投げやがった!!
「中の乗客がっ!!」
バスは道路を何回か転がりながら道路脇の消火栓にぶつかって止まった。
バスの中から悲鳴とうめき声が聞こえてくる。
酷すぎる、中で何人か死んだだろ。
思わず駆け寄りかけて踏みとどまる。
「──ッ! 違う! 俺はヒーローじゃねぇ!!」
だが代わりにあの上顎の無い脳無を一秒でも早く殺してやる!!
オールマイトマスクを喉の下まで引っ張って、目の穴から黒い脳無を睨み付ける。
「いくぞ! クソったれ!!」
絶対にどこかからヴィラン連合の連中が見ているはずだ。
脳無の右脚のアキレス腱を1円玉サイズで抉り取ってやると、脳無の上体が傾いた。
そのまま俺は正面から突進する。
俺が脳無の懐に入ったあたりで切れたアキレス腱がつながった。
「クソっ! やっぱり超再生持ちかよ!!」
脳無が振り上げた右手が俺の死角から襲い掛かって来る。だが俺には
駆け寄った勢いのまま前転して、脳無の股の間をすり抜けながら俺は両手のナイフを振るった。
もちろんド素人の振るナイフの刃なんぞ脳無の足には全然届いていない。
だけど脳無の両足のアキレス腱には500円玉サイズの穴が穿たれ、同時に膝下の靭帯にも穴が開く。下半身の支えの無くなった脳無は振り下ろした手の勢いのまま前方に倒れた。
「喰らえ!」
脳無の脳幹に
脳無の黒い巨体が痙攣した。
断末魔の痙攣だ。どこから見てるか知らねえが、遠くからじゃ判別出来ねえだろ。俺はそのまま脳無の背中に飛び乗って、脳無の剥き出しの脳にナイフを二本突き立てた。
「オラァッ!!」
そのまま抉って抉って抉り倒す。
「ッし!!」
証拠隠滅完了。
横転したバスの中にどれだけ死傷者が発生しているか気になる。
だけどすまん。それは俺の役目じゃねえ。
あと数分もすればきっとヒーローがやってくる。それに警察とか消防だって。
だからすまん。
俺はヴィランだからな。
その代わり残り2体の脳無を絶対にぶっ殺してやるよ。
俺はオールマイトのマスクを押さえつつダッシュで路地裏に駆け込んだ。
─ 保須市 ビル屋上 ─
「おいおい嘘だろ? 脳無が瞬殺されたぞ。クソ、オールマイトめ!!」
「いや弔、あれはオールマイトではありません。被り物です」