怠惰に生きたいだけのヴィランが全てを蹂躙する物語 作:名無し
「ぷはっ!」
路地裏で、周囲に誰もいないことを確認してオールマイトマスクを取った。
マスクを被って動き回るとか、まともに呼吸ができないじゃないか。
とりあえず脳無の1体は殺せた。
あと2体だな。
脳無を放ったヴィラン連合が見ていなければ、遠距離から
俺の個性がバレないようにいつでも殺せる相手と殺し合いを演じてるようなもんだ。見た目ほど凄いことをやってるわけじゃない。
いや、本当に超再生の個性の弱点突き止めるチャンスをくれたオール・フォー・ワンの間抜けさに感謝しかない。
今後、奴や死柄木弔のヴィラン連合が繰り出してくる脳無は俺にとって紙の兵隊と同じだ。
「ふっ……ふぅ……」
呼吸が落ち着いてきた。
さて、残り2体の脳無を探さないとな。
絶対にどこかで騒ぎが起こってるはずだ。
「きゃああああ!!」
早速か!
あっちだな!
オールマイトのマスクをかぶり直して俺は悲鳴の上がった方向へ駆け出した。
◇◇◇◇◇◇
「いやがった! 脳無!」
ん? 肌が黒くないな!?
もしかして脳無にも種類があるのか?
見つけた脳無は四つん這いで歩き回り、周囲の一般人に危害を加えている。
既に怪我人が何人も出ているみたいだ。
その暴れる脳無を止めようとしているプロヒーローがいるにはいる。
魚の背びれみたいなものが付いたヘルメットを被っているプロヒーローだが脳無を制圧できるような力は持ってないみたいだ。
まあプロヒーローはヴィランの無力化と拘束が仕事だからな。
脳無を無力化とか殺すよりも難しいはずだ。脳無相手にそんなことができる強個性持ちのヒーローなんて保須市にいない。
「だけどプロヒーローに目撃されるのはまずいな」
路地裏に隠れたまま、俺は
四つん這いの脳無の右肘から急に力が抜けて地面に突っ伏した。
いきなり右腕が使えなくなって脳無なりに混乱しているな。
「やっぱり……回復しないな」
そうじゃないかと思っていた。
黒い脳無と違って、あの脳無からは圧力や迫力といったものが感じられない。
あの脳無は弱い。しかも超再生もない。
超再生がないなら、路地裏に隠れたまま脳無の両手両足の腱と靭帯を抉ってやればあのプロヒーローでも脳無を拘束できるだろう。
だけど警察に確保された後に間違いなく検査される。
そして脳無の関節に正体不明の攻撃を受けていたってのが絶対にバレる。
「警察の中にもオール・フォー・ワンの手先になってるのが絶対いるよなぁ……」
なんたって悪の帝王だ。
やり口は而今から聞いてる。
「きゃああ!!」
くそ!
通行人の女性が捕まって身体ごと持ち上げられている。
「しゃあねぇえ! 俺はヴィランだからな!!」
オールマイトマスクを首元まで引っ張って路地裏から走り出す。
「オラァアア!!」
俺の絶叫を聞いてプロヒーローが振り返った。
今だ!!
女性を掴んでいた脳無がビクンと痙攣した後、ゆっくりと倒れ始めた。
俺はプロヒーローの横を駆け抜けて倒れかけている脳無に肉薄し、ナイフを振るって脳無の右肘を切り刻むと、そのままの勢いで脳無に体当たりする。
「
脳無の剥き出しの脳にナイフをぶっ刺した。
両手のナイフで刺して刺して刺しまくる。
「しゃあ!!」
証拠隠滅完了!
俺はそのまま走り抜けて向かいのビルの脇道に駆け込んだ。
プロヒーローならば俺を追うよりまずは女性の安否を確認するはず。
だけど脳無を殺すところを思いっきり見られたし警察に報告はされるな。
でも俺はヴィランだからな。
警察とヒーローに追われてこそのヴィランだ!
◇◇◇◇◇◇
「あー疲れた……」
アパートの扉を開けると中で而今が待っていた。
「おかえり」
「ただいま。避難しなかったのかよ」
「あなたが行って負けるわけないでしょう?」
「まあな」
脳無の超再生の弱点はもう分かっているんだ。ましてや超再生の無い脳無であればなおさら俺の敵ではない。
ただヴィラン連合の邪魔をする存在がいると死柄木弔にバレてしまっただろうな。
ナイフ振り回してた演技に騙されてそれほど脅威ではないと思ってくれれば助かるんだが。
オール・フォー・ワンが俺を脅威に思って表に出てこなくなれば暗殺できなくなる。
無理かな?
いや大丈夫だろう、死柄木弔バカだし。
「多分……俺の個性自体は上手く隠せたと思うんだけど、成り行きでプロヒーローの目の前で脳無を殺しちまった」
自分がやったことを而今に伝える。
脳無3体皆殺しにしたけど、頭が冷えてきた今は自分の行動が正しかったのか自信が持てなくなった。
「そうね。帑鹵の個性さえ隠し通せればオール・フォー・ワン暗殺への影響はないと思うけど、警察がどう動くかが問題ね」
而今は落ち着いてるな。
俺の存在が露見するのは絶対に不味いはずなのに止めようともしなかったし。
「とりあえず着替えたら? 服が血だらけになってるわ」
「ああ、悪い」
返り血で服が赤く染まってるのに全然心配されてないものちょっとモヤるんだな。素っ気ないと言うか。
いや確かに掠り傷一つ負ってないけどさ。
ちょっとくらい心配してくれても良いんじゃないか?
血の付いたシャツを着替えてると而今がTVをつけた。
「ああ、やっぱりトップニュースになってるか」
◇◇◇◇◇◇
TV画面に都市部で大暴れしている脳無3体が映っていた。
分かる範囲で火災が発生しているビルが4つ、破壊された自動車は無数。民間人はすでに避難を終えているみたいだが周囲を警察とプロヒーローが包囲している。
「LIVE中継!?」
画面の右上に『LIVE』の文字がある。
「バカな! 俺が脳無3体皆殺しにしたのに、まだいたのか!」
窓の外を見る。
この状況なら近くで黒煙が上がっていてもおかしくない。
「落ち着いて、
「保須市じゃない?」
「TVに映ってるのは仙田区よ。どうやらヴィラン連合は二箇所同時に脳無を放ったみたいだわ。私が未来余地で視たのは保須市の分だけだったみたい」
「……なるほど。これは……やられたな」
TVの画面の中で、黒い脳無が炎上する自動車を両手で持ち上げると、それを報道陣に向かっていきなり投げつけた。ガソリン燃料に引火して炎上してる自動車がカメラに向かってぶっ飛んできてる。
「うぉっ!」
思わず俺は部屋の中で躱す動作をしてしまうが、ぶっ飛んできた自動車は報道陣にぶつかる前に青い炎に包まれて瞬時に燃え尽きた。
「危険だ! マスコミは下がって!!」
ヒーローのサイドキックがマスコミを遠ざけ始めた。
「あの青い炎は……エンデヴァーが到着したのか」
TV画面に炎を纏ったエンデヴァーが現れた。
相変わらず不敵な面構えをしている。
そして現場に到着するや否や黒い脳無の一体に向かって突進すると、エンデヴァーはその太い丸太のような腕で脳無を殴りつけた。
まるで大質量のハンマーに殴られたように吹き飛んだ脳無がビルに衝突し、壁面にクモの巣状のヒビが走る。
「おぉ!!」
周囲を取り囲む警察官やマスコミ陣から歓声が上がる。
エンデヴァーに殴られた衝撃で脳無の腕の皮膚が弾け飛んでいた。
だが丸見えになった筋組織を黒い皮膚がたちまち覆っていく。
「チッ、再生か……ならば!!」
再びエンデヴァーが黒い脳無に向かって突進する。
それを見た脳無も弾かれたようにエンデヴァーに向かって走り出す。
脳無の足がアスファルトを抉り、破片を周囲に飛び散らしながらエンデヴァーと脳無が巨体が衝突し両手同士でがっつり組み合った。
「むおおおっ!!」
脳無の巨体と力勝負になっても全く引けを取らないエンデヴァーに対して再度周囲から歓声が湧く。
「喰らえ! 赫灼熱拳!!」
エンデヴァーの頭部から猛烈な勢いで噴き出した青い炎が脳無の頭部を消し飛ばす勢いで包みこんだ。
「おおおおおぉおおお!!」
エンデヴァーが吠える。
わずか数秒。
それで脳無の頭部が消し炭に変わる。
頭部を失った脳無の巨体がゆっくりと倒れていく。
「決まったな。さすがエンデヴァーだ」
脳無を倒すところが全国放映されたのだ。
狙ったのかどうか分からないけど、脳無のまさに弱点を突いた攻撃になった。
「これ、エンデヴァーが意図してなのか分からないけど、ヴィラン連合とオール・フォー・ワンにとってかなり痛いんじゃないかな? 脳無の倒し方が全国のヒーローに周知されたようなもんだ」
「おらああ!!」
突如TVから雄々しい女性の声が響き渡った。
ビルの屋上から飛び降りたヒーローが回転しながら残った2体の脳無の頭を立て続けに蹴り砕いた。
「今度はミルコか。相変わらず凄いな……」
俺はTVの前に移動して女性ヒーロートップ実力者ミルコをじっくりと観察する。
ミルコがくるりと空中で回転し、軽やかに地面に着地すると白いレオタードに包まれた彼女の肉感的な身体がブルンと揺れた。
「凄え」
「何が?」
氷のような声が隣から聞こえてきた。
「………………いや、えっと、その……そうだ。情報の共有の速さが凄いなって思っただけだよ」
「へー」
「み、見て分かるだろ? エンデヴァーはもちろん、ミルコも脳無のことを容赦なく殺しにかかってる。すでにヒーロー側、そしてきっと警察や公安にも脳無の情報が共有されてるんだ」
ちらりと而今を見る。
彼女はあまり膨らんではいない。
「……言い訳はそれだけ?」