当方は小説、アニメ見ていないので、
細かいところは把握できておりもはん。
司波達也との奇妙な邂逅を終えたハマーン・カーンは、
第一高校の入学式が行われる講堂へと足を向けていた。
身にまとうのは、エンブレムのない制服。
八枚花弁─ブルームの証は、そこにはなかった。
二科生《ウィード》。
それは、「落ちこぼれ」の烙印を意味するものだ。
「…ふむ、ウィードか。面白い」
ハマーンの口元が、かすかに笑みの形を描いた。
自らの力に疑いなどない。
一科生とて、我に劣る道理はない。
それでも「あえて」この位置に置かれた意味。
意図か、あるいは運命の悪戯か。
だがどちらにせよ、
この「下から見上げる景色」はハマーンにとって、退屈ではなかった。
講堂に足を踏み入れると、光と影のように分かたれた二つの席。
前列には整然と座るブルームたち。
そして後列には、どこか沈んだ空気を纏ったウィードたち。
その一角に空いた一席。
ハマーンは、静かに腰を下ろした。
──その隣にいたのは、司波達也だった。
彼は、ちらりと視線を向けるも、特に反応は見せない。
だが、その瞳の奥には確かな「警戒」が灯っていた。
(この少年…先ほどとはまた違う目をしているな)
ハマーンが思考を巡らせていると、隣から声が届く。
「えっと…私、柴田美月って言います。よろしくお願いします」
二つに結んだ髪、控えめな雰囲気──
だが、その瞳には澄んだ真っ直ぐさが宿っていた。
ハマーンは、戦場では決して見なかった「柔らかなもの」に触れ、
僅かに眉を上げる。
「ハマーン・カーンだ。よろしく頼む。」
すると、美月は彼女のピンク色の髪に目を留め、ふわりと微笑んだ。
「とても素敵な髪の色ですね…」
「ほう…お前も、なかなかの目を持っている」
その言葉に、美月は顔を赤らめ、小さくうつむいた。
その様子を、隣の達也が一瞬だけ目を細めて見ていた。
「へぇ…あんた、ずいぶん余裕そうね」
快活な声と共に割り込んできたのは、千葉エリカ。
ショートヘアを揺らしながら、ニヤリと笑ってハマーンを見つめる。
「達也くんと並んで座って、美月ともすぐに仲良くなってさ。
なんか企んでる?」
その瞳には、好奇心と、ほんの少しの挑戦心。
「企んでいる?…それがどうした?」
ハマーンは冷静なまま返し、鋭い視線でエリカの気配を探る。
(なるほど、この娘…只者ではない)
鍛え抜かれた武人の気配。
それを、ハマーンの感覚が見逃すはずもなかった。
「へぇ、面白い。私は千葉エリカ。よろしく、ハマーン♪」
軽やかに手を振るその仕草には、無邪気さと、計算が交錯していた。
やがて、壇上に立つ新入生代表が現れる。
眩いほどの存在感。
八枚花弁のエンブレムを輝かせ、静かに歩む少女
司波深雪。
「新入生代表、司波深雪です」
彼女が放つ魔力の波動は、講堂の空気を一瞬で変えるほどの
威圧感を帯びていた。
(…あれが、坊やの妹か)
ハマーンの隣では、美月が目を見開いていた。
羨望と、戸惑いと、かすかな憧れ。
複雑な感情が、その小さな肩にのしかかっている。
エリカは、腕を組みながら無言で深雪を見つめていた。
その視線には、競争心と評価の色が混じっている。
そして、達也。
彼は深雪を静かに見上げ、その瞳には柔らかな光が宿っていた。
(なるほど…妹か。しかし、「ただの妹」ではないな)
ハマーンは静かに呟いた。
「この妹は…使い道がありそうだな」
入学式が終わり、生徒たちが講堂を出ていく中──
ハマーンは人混みを縫って、達也に再接近する。
「坊や。また会ったな」
その声に、達也と深雪が同時に振り返る。
深雪の瞳が、ハマーンの制服にエンブレムがないことを確認し、
わずかに目を細めた。
「あなたは…?」
「私はハマーン・カーン。お前の兄と、
これから親しくさせてもらうつもりだ」
その一言に、深雪の表情が一気に凍りつく。
達也も、妹の前に出るように一歩踏み出し、無言で警戒の色を強める。
「今日の挨拶、実に見事だった。司波深雪」
その賞賛に、深雪は一瞬戸惑いながらも、
「…ありがとうございます。ですが、どういうご関係で?」
と深雪は問いかけるが、ハマーンは臆することなく返答する。
「なに、先ほど会ったばかりだが…
貴様の兄を、我が配下に加えたいのだ」
その一言が、場の空気を一変させた。
「お兄様を…?」
深雪の声が低くなり、達也の背から殺気が噴き出す。
達也が深雪の前に出てハマーンに問う。
「ハマーン、その意図は…何だ?」
「坊や。お前はもっと評価されるべき存在だ。
ならば、我がカーン家の下で働く方が、より力を発揮できる」
「断る」
達也は、即答した。
短く、冷たく、そして決して覆らぬ意志を込めて。
「そうか…しかし、私は諦めんぞ」
ハマーンは、微笑すら浮かべてそう告げた。
その余裕と自信は、達也にとって初めて出会う種類の「脅威」だった。
ウィードの立場、達也との関係。
美月の純粋さ、エリカの挑発的な好奇心──
そして、深雪という絶対的な存在。
この学園での生活は、予想以上に興味深いものになりそうだ。
「……いいぞ。この世界、悪くない」
ハマーン・カーンは、静かにその瞳を細めた。
──彼女の物語が、今、動き出す。