ちっぽけな私のヒーローアカデミア/シンカ設計図 作:マグネシウム
『神』はいない。いたとしても自由意志のないシステムか、酷く性格のねじ曲がった存在じゃないかと思ってた。
だって神様の作った世界はこんなにも不平等で悪意に満ちている。
こんなのあんまりだ。
そう思っていたのに。
私はその日『神様』に出会った。
◇
異能とでも呼ぶべき特異体質が現れてから百年以上経ち、社会も多様なヒトの在り方に適応したとされている。異能もいつしか“個性”と呼ばれるようになった。個性は今や世界総人口の八割が保有している。
そんな“超人社会”において異能がなかった時代であれば空想の産物だった1つの職種が脚光を浴びている。
“ヒーロー”だ。
そして私、『至道渚』は今日からヒーロー養成校に通う、新たなヒーロー候補生なのだ!
「はえ~大きいねえ。」
私は今日から通う教室のドアから教室をのぞいていた。バリアフリーに配慮された大きなドアは自由な校風に代表されるこの学校の広い門戸の現れだと思う。
それはそれとして……
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者の方々に申し訳ないと思わないか⁉」
「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」
生真面目そうな眼鏡君と爆発頭のヤンキー君が口論をしている。
なんだろこのやり取り。
これが国内トップの高校、その中でも倍率300倍を誇るヒーロー科の日常なのか。
私は信じたくなかった。
流石に門戸が広いにも限度があるように思うんだけど……
私が固まっていると、眼鏡君は私の方に近づいてきた。
え、なんだろう。私も説教されるのかな。
すると、眼鏡君は私の隣にいた男の子に対して自己紹介を始めた。あ、そっちね。
眼鏡君は、隣にいた男の子(もさもさ君と仮称しておく)に一方的にしゃべっていた。
見るからに気弱そうな彼には生真面目マシンガントークは厳しいものがあるみたい。
そこにもさもさ君の知り合いらしき少女が登場。
もさもさ君は顔を赤くしていた。女子への耐性なさすぎじゃない……?
ま、まあそろそろ席について入学式に備えな……きゃ?
「お友達ごっこしたいなら他所に行け。」
廊下から聞こえた声に振り返った。
そこには、ミノムシ……いや、寝袋に入ったおっさんがいた。おっさんが、いた!
「おい至道、なんで携帯を出してる。」
「いや、その格好と体勢は九割九分不審者でしょ。通報を……」
「その必要はない。」
え?
「取り敢えず座れ。このままでは少々、合理性を欠く。」
「あ、はい。」
妙に気圧されて従ってしまった。
「全員座ったな。じゃあ始めるが君たちが静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
ええ……
「担任の相澤だ。よろしく。」
すんごいくたびれた人だけどどうやら不審者ではないらしい。
「早速だが
初日から怒涛の展開。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
ってもうみんな動いてら。私も行かなきゃ。
「個性把握……テスト⁉」
グラウンドに出た私達を待っていたのは入学早々のテストだった。
「入学式は⁉それに、ガイダンスも!」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出ている暇ないよ。」
抗議の声を一声で封殺した相澤先生は、個性把握テストの説明を始めた。
纏めると、小中からずっとやってる体力テストを個性アリでやってみよう!という話らしい。
「至道、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
うお、私か。
「63mです。」
「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ。」
せっかちだなあ相澤先生は。そのまま示された円の中に入ってボールを手に取る。
……3つは安定しないし、2つかな。
「そーれ!!!」
いい感じじゃない?
今の最大出力で放ったボールは、思った通りの軌道で飛んでいった。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段。」
相澤先生が手元の機械で示した結果は534.3m。
うーん、もうちょっと飛んだと思ったんだけど……私だけならこのくらいでもおかしくないか。
振り返って皆がやいのやいのしてるのを見ていると、相澤先生がぶっこんできた。
「面白そう……か、ヒーローになるための三年間そんな心持ちで過ごすつもりなのか?」
相澤先生はまるで今決めたという風に続けた。
「トータル最下位の者は
「「「はああああ⁉」」」
「生徒の如何は
「最下位除籍って……初日に、いや初日じゃなくても理不尽過ぎる!」
そうだそうだー!
とは言えないかなあ。私的には。
「自然災害、大事故、身勝手な敵たち日本は理不尽にまみれてる。そういう
相澤先生は雄英の校訓で話を締めた。
「
第一種目は50m走。
ボールを飛ばす要領で自分を押し出して2.02。
一緒に走った障子君からはかなり驚かれた。
「物体を弾き飛ばすだけではないのか。凄いな。」
「私の力は出来ることの多さが特徴だからね。すごいでしょ。」
「ああ。」
障子君の個性は“複製腕”。肉体の器官を触腕の先に複製できるとのこと。
腕や口、耳を多用するらしい。
本人の膂力に加えて索敵能力まである凄い個性だ。
「じゃ、次に行こうか。」
第二種目は握力。
障子君は540㎏もの記録を出していた。
これは私も負けていられない。
「ふん!」
301㎏か……自分の記録に少し肩を落とした。
ちなみに、推薦入試組の1人、八百万さんは個性で万力を出していた。
ああ……私、物体を出すの不得手だからなあ。
思いつかなかった。不覚、不覚。
第三種目は立ち幅跳び。
これはもう楽勝パーリナイだ。
ボールを投げた時の感覚から工夫して真っ直ぐ飛び続けるだけでいい。
「至道、それいつまで飛べるんだ。」
「私の意識がある限り、ずっとです。」
限界はあるけれど、ただ自分を浮かべて動くだけなら底をつくことはない。
私の言葉を聞いて相澤先生は……
「
計測不能は∞って出るのかあ。
よし、次いこ。
第四種目は反復横跳び。
これも私自身を左右に押して数を稼げた。
第五種目はソフトボール投げ。
私はデモンストレーションでやったからやらんでもいいとのこと。
私は、改善できそうだったから無理言ってやらせてもらうことにしたけど。他の子が無限の記録を出していて少し対抗心が湧いてきたのが悪い。すみませんね相澤先生。
二投目の記録は633.2m。
まずまずかな。
自分の番が終わって一息ついていると、もさもさ君がかなり冷や汗を書いていたのが印象的だった。
彼はこのテスト中、個性を一切使っていなかった。
不可解な行動をする理由も分からず、そのまま彼を観察していると、もさもさ君の一人前。ヤンキー君が私を超える記録を見せていた。でも驚きはない。彼は
その才能は凄まじいの一言に尽きる。
ただまあ、今はもさもさ君かな。
円に入って……投げ……光った!けど一瞬でかき消えた。
ただ……今ので相澤先生の個性が分かった。
雄英の教員は全員プロヒーロー。
数多いるプロヒーローの中でも個性に直接干渉する個性は多くない。
中でも個性の強制停止なんてものは一人しか持ってない。
「 「抹消ヒーロー イレイザーヘッド。」!」
お、もさもさ君と被った。
イレイザーはアングラ系と呼ばれメディア露出が極端に少ない。
つまり知る人ぞ知るヒーロー。というわけ。
それを少ない情報から導き出すのは……もさもさ君はヒーローオタクなんだろうね。
相澤先生から何かを指摘されたもさもさ君は円へと戻っていった。
大方、個性に関してなんだろうけど。
ボールを構えて…… あれ、リリースが遅……ッ!
瞬間、突風が吹き荒れた。
もさもさ君が投げたボールは、遥か高くへと飛んでいった。
「すっごい個性だなあ……色々な意味で。」
もさもさ君の指は変色し酷い状態なのが一目でわかる。
恐らく、掌や腕に個性を込めればその部位が壊れることを理解して、壊れる部分を可能な限り小さくしたんだと思う。
すごいガッツだ。正直、怖くもあるけど……
皆が大記録を出していって最終種目も終了。
目立ったトラブルはヤンキー君がもさもさ君に襲い掛かったぐらいでそれもすぐ相澤先生に鎮圧されてた。
「じゃあパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。」
ただ、このままだともさもさ君は除籍に……
「ちなみに除籍はウソな。」
空気が固まった。
え、それなら。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽。」
皆も驚いていた。もさもさ君を始めとした数人はもう凄いことになっていた。怒りと驚きが最大限に達すると人間はああなるらしい。
八百万さんとかはそもそも初日から除籍なんてされるわけがない、って高をくくってたみたいだけど……
私は相澤先生がそんなことに配慮するとは思えないなあ。
最下位除籍を告げたあの時の目、アレは本気の目だったから。
まあ、終わった以上そこにこだわっても仕方ないし、緩くいこうか。
そして何より今日からここが私のヒーローアカデミア。
ここで私は……
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