ちっぽけな私のヒーローアカデミア/シンカ設計図 作:マグネシウム
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」
決着の衝撃から静まり返ったモニタールームでぽつりと呟くように誰かが言った。
実際、飯田君と爆豪君にはこれといった怪我はないけれど緑谷君はどう見ても重症。お茶子も吐き気で苦しんでいるみたいだ。
あ、緑谷君が搬送されていく。
あの後、緑谷君は超パワーで5階までぶち抜いてお茶子を援護。発生した瓦礫を折れた柱を使って弾き飛ばすことで飯田君を攪乱。其の隙を突いて核兵器を確保した。……今思ったけど核兵器とかかなりアメリカンな設定してるなあ。
「凄かった……ね。」
「まあ、そうなんだけどさ。相澤先生風に言うなら“合理性を欠く”かなあ……とにかくもったいないよ。」
「え?」
透が困惑したような表情でこっちを見ている。私の力なら体が透明でも表情が判別できるみたいだ。
「残りは講評の時間に……ね?」
モニタールームにオールマイトがいないってことは、爆豪君を迎えに行ったってことかな。
さて、講評の時間だ。
◇
「まあ、今回のベストは飯田少年だけどな!」
「勝ったお茶子ちゃんや緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうなあ……分かる人!」
「はい。オールマイト先生。」
八百万さんに競り負け、私は選ばれなかった。
だけど、彼女がした説明は完璧だった。正直私じゃなくてよかったまである。
説明する度にグサグサ言葉で刺していくのは怖くもあったけどね……それだけの向上心があるってことかな。
オールマイトは言いたいことを全部言われたのかプルプルしていた。
「じゃあ続いての対戦コンビは……こいつらだ!Bコンビ『ヒーロー』!Iトリオ『敵』!」
お、私たちか。
「第二戦を始めたいが、ビルが半壊してしまったから場所を移すぞ!」
爆豪君が穴をあけて、緑谷君がとどめを刺したビルの隣に移動した。
「んじゃ、どうすんね。」
「至道さん、口調変だよ……?」
「あはは。ごめんね尾白君。じゃあ、おふざけはこのあたりにして作戦会議しよっか。」
「そうだね。まず前提だけど、俺らは『敵』チーム。つまり勝ち筋は“時間切れまで粘る”か“ヒーローチームの全員確保”。」
「うーん、なら時間切れ狙い、できれば確保でいいと思う。」
「どうして?」
「この訓練、キーは透だよ。」
「え、私?」
「うーんとね。私はこの訓練、ヒーローチームの妨害に徹するつもりなんだ。」
「え、どうして?」
「私は轟君を抑えなきゃいけない。彼の広域凍結は脅威だよ。それと障子君。彼も結構怖い。」
轟君は昨日のテストではまだ出力に余裕が感じられた。下手したらこのビル全体を覆えるかもしれない。
そして、障子君は……
「確かに力が強いみたいだけど……」
「透。私は、障子君の真価はそこじゃないと思う。彼の本領は身体機能の延長だよ。障子君、会話する時に口を出してたでしょ?じゃあ耳とかの感覚器官が出せないとは思えない。索敵もできると考えていいよね。」
正確な索敵範囲は分からないけど、透と障子君の1対1なら透明でもバレる可能性が高い。
「あ、そっか……」
「だから、防衛メインで私は轟君を、尾白君は障子君を攪乱する。透には遊撃をお願いしたいんだ。」
2対1を作ってどちらかを早く沈めて、もう一人を3対1に持ち込む。これが勝ち筋だと思う旨も一緒に伝えた。
「うん。わかった!」
「事後承諾になっちゃうけど尾白君もそれでいい?」
「理にかなった作戦だと思う。俺も賛成するよ。」
「じゃあ、核を置く場所を決めよっか。」
「無難に、最上階の階段から見て一番奥じゃない?」
「時間切れ狙いだから俺もそれでいいと思うな。至道さんは?」
「私も賛成。じゃあ、最後に各々の配置だけ決めて開始を待とうか。」
「相手の出方次第だけど、俺か至道さんが前衛。葉隠さんには核の近くで待機してもらって、より攪乱できている方に加勢して欲しい。」
「あーでも、ヒーローチームと戦う場所によっては透が間に合わないかも。透明化の利点を息を荒くすることで崩してはいけない以上、歩きで来てもらわなきゃいけないし……一緒に来てもらって、私たちが大きく攪乱して透の存在を隠すしかないと思う。」
「そっか、ごめん葉隠さん。」
「いやいや、全然大丈夫!じゃあIトリオ、頑張るぞ、オー!」
「オー!」
「お、オー!!」
こうして準備時間が終わり、第二戦が始まった。
◇
「いきなりかあ……合理的だけど、ちょーっと悪手かなあ。」
「至道さん⁉」
「轟君が動いた。私の領域外は全部氷に覆われちゃったから注意してね。二人とも。」
「ビル全体……凄い個性だな。」
「できるかもとは思ってたけど……これが推薦入学者かあ。」
そうだからこそ、開幕ブッパしかできないなんてそんなわけがない。
ッ!これは!
「轟君、障子君両方来たよ!警戒!」
ブッパが効かないとみるや否や作戦を変更してきたか。早いね。
そして……来た。
大量の氷が壁を突き破って迫ってきた。
でも、さ!
「甘いなあ!」
氷が効かないの察してるでしょうが!
迫る氷を触れずに力を加えて引きちぎるように破壊。向こうの轟君に押し出して氷の雨をお見舞いする。
轟君は返ってきた氷のつぶてを新たな氷の壁でガード。
ここで一旦、戦いが膠着した。
後ろでは尾白君が障子君を抑えてくれてる。
「どうする?氷じゃ私には勝てない。左、使わないの?」
轟君は右で凍らし、左で熱する個性。
なのにさっきから、右しか使っていない。愚策も愚策だ。
「あ”?」
まっずい。地雷踏んだか。
正直、このまま意固地になるなら勝つんだけど……どうする?
轟君を中心に冷気が荒ぶる。そっか。
使ってはくれないんだね。
迫る氷を、に力を加えて押しとどめる。
そして、そのまま轟君に向けて押し返した。
今のは
単一の異能としてはかなりの自由度を誇るそれを、私は氷の変形にも用いた。非効率だけどね。
轟君がガードのために出した氷も掌握して纏めて拘束具の材料にした。
左を使わない限り、絶対に出られないように固定をする。氷を新たに生み出す隙間もないようにガッチリと。
「じゃあ、障子君の方に行くからそこでじっとしててね。」
「こんの……」
「氷の掌握を解除するつもりはないから、頑張ってね~」
「てめえ……!」
ここまで発破をかけて使わない、か。先ほどからの荒れ具合といい、何か事情があるのかもしれない。後で謝りに行こう。
そう思いつつも、私は障子君と戦う尾白君と透の元に急いだ。
◇
結論から言うと、私たちは勝った。
障子君も3対1で押し切った。
講評も八百万さんからいい作戦だったとお褒めの言葉を頂き、無事に終了した。
いや、轟君の周りはあまりの空気の重さに吹雪を幻視するほどだったから、無事とは言えないかもしれない。
ともかく、第二戦はこうして幕を閉じた。
更に、第三戦、第四戦と続き、第五戦も問題なく終了。
もう、今日の授業のまとめに入っていた。
「緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!初めての訓練にしちゃ上出来だったぜ皆!」
「相澤先生のあとでこんな真っ当な授業……何か拍子抜けというか……」
「真っ当な授業も私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室にお戻り!」
そういうと、オールマイトはすごい速さで演習場を後にした。
その後、私たちはオールマイトの指示に従って、更衣室で制服に着替えてから教室に戻った。
放課後何も言わずに教室を出た轟君を見て、私は思わず追いかけてしまった。
「轟君、ちょっと待って!」
「なんだ。」
「さっき……」
「俺を、貶しに来たのか?」
「い……や、そうじゃないよ。君に、謝りたくて。」
「そうか。」
「さっきは、ごめん。君の事情を何も知らずに煽ってしまった。不快な気持ちにさせて、ごめんなさい。」
「俺も、すまねえ。左のことに触れられると感情を抑えきれねえ。」
「そう……なんだね。」
轟君は少し間を置いてから口を開いた。
「至道、だったか?聞きたいことがある。」
「なに?」
「お前は、なんでそんなに強いんだ?」
私は喉が渇くのを感じた。
「そんなに、つ、強いかなあ。私。」
「だってそうだろ。お前はあの時もっと簡単に勝てたはずだ。」
確かに、訓練開始と同時に終わらせることが出来たかもしれない。
でもそれは……!
「俺が左を使わなかったから、そんなんじゃねえ。お前は、何か隠してる。直接受けた俺だから分かる。」
まさか見抜かれた?この力が
「お前の『掌握』ってやつの正体。それを暴いて次は俺が勝つ。そんだけだ。悪いな。時間かけさせた。」
「あ、うん。……また、明日。」
「ああ。」
轟君は下駄箱へ向かっていった。
「ウィッチ、どう思う?」
「
「そっかあ。どうすんね。」
「それはお前が決めろ。我が王よ。」
私は壁に寄りかかって息を吐いた。
目を閉じる。
少しして誰かが通り過ぎていったのを感じて、教室に戻ることにした。
今日の授業の反省会だ。
マグネシウムです。
『シンカ設計図』第三話読了ありがとうございました。
今回、遂に個性ならざる力『
『シンカ設計図』ではこれ以降ルビ無しの異能も基本『
最後になりますが、よろしければ評価・感想よろしくお願いします。