古典部の夏紀行 Travelogue of summer 作:wade
夏。高校野球の県予選が終わり、今はそろそろ全国大会の組み合わせが発表されそうな8月初旬である。太陽は年々その輝きを増大させているらしく、今年も猛暑に次ぐ猛暑の嵐。もはやクーラーその他の冷房機器なしでは、到底人類は夏を越せないようなレベルにまで来ているといえるだろう。
だからといって、夏休みの定番イベントが取りやめられることはない。夏祭りや花火大会、海水浴にプール、それからキャンプ等々…。
最も、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーとする折木奉太郎にとって、それらはどうでもいいことだった。普段通り、必要最低限の力で一日一日を消化して行く。それが奉太郎の揺らぐことのない目標であり、願いでもあった。だが、高校に入って古典部に入部したこと。そこで、ある人物に出会ったことで、奉太郎はそのモットーを少々変えなくてはならない状況に幾度となく遭遇させられた。
間違いなく確実に、奉太郎の人生は変化しつつある。
この調子で行けば、二学期もどんなことが待ち受けているのか、想像することは難しくない。
だからこそ、夏休みくらいはいつものように。それが、奉太郎のささやかな望みだったのが…。
ガタンゴトン…ガタン…。
現在、折木奉太郎は何故か電車に揺られていた。さらに言うと、彼が座るボックス席にはもう
3人、おなじみのメンバーがいた。横には、中学時代からの友人である福部里志。何種類かの旅行ガイドブックを片手に、真剣な眼差しでマーカーを走らせている。その正面には伊原摩耶花。奉太郎とは小学校時代からの腐れ縁で、いわゆる幼馴染というやつだが、実情はただの知り合いであり、それ以上でもそれ以下でもない。今は、隣にいる古典部のもう1人の女子と楽しそうに話している。その女子、すなわち奉太郎の前の席には、普段以上に好奇心旺盛に見える古典部部長、千反田えるが瞳を輝かせていた。おそらく、今回の企画を1番喜び、楽しみにしているのは間違いないだろう。
夏合宿。里志の言葉を借りればこれはそういうものらしい。だが目的不明、普段の活動でも何をやっているかよく分からないこの部活に、一体何の合宿が必要なのか。
省エネ主義を掲げる奉太郎は勇猛果敢に立ち向かった。だが、その意見はあえなく却下された。
3対1。多勢に無勢。勝負は始まる前から決していたのである。
とはいえ、今回の夏合宿騒動には奉太郎自身にも多少の責任があったと言わざるを得ないだろう。
窓の外がだんだんと見知らぬ情景に移り変わっていくのを眺めつつ、奉太郎は数日前の出来事を回想し始めた。