古典部の夏紀行 Travelogue of summer   作:wade

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部室にて

奉太郎は、約束の時間ほぼちょうどに部室に着いた。

中へ入ると、既に奉太郎以外の古典部メンバーが揃っていた。

 

「お久しぶりです」

 

「やあ」

 

「ふん」

 

笑顔1名、ニヤケ顔1名、曇り顔1名といった感じである。

誰がどの反応かは説明する必要ないだろう。

 

「で、一体何の用なのよ福ちゃん。それに折木…」

 

伊原摩耶花は男子メンバー2人にジト目を向けた。

どうやら、福部里志は古典部を召集した理由をハッキリと伝えていなかったらしい。

サプライズ演出とはいかにも里志のやりそうなことだと、奉太郎は小さく息を吐いた。

 

「それがね、なんと我らがホータローが素晴らしいプレゼントをこの古典部に持ってきてくれたんだよ」

 

「プレゼント…?」

 

「プレゼントですか?」

 

福部里志はどこぞのテレフォンショッピングの司会者のような調子で続ける。

 

「さしずめ、季節外れのサンタクロース。あわてんぼうのホータローってわけさ」

 

注目が一気に奉太郎へと集中する。

 

「妙なあだ名をつけるな、俺は煙突を覗いて落ちたりせんぞ」

 

「中身は一体何なんでしょう…折木さん、私気になります!」

 

「うっ…」

 

千反田えるの屈託のないまっすぐな視線が奉太郎を直撃する。

…全く…無駄にハードルを上げるな里志…。千反田の目の色が変わったじゃないか…。

…まあまあ、そう怖い顔しないでよホータロー。

2人の無言の応酬が済んだところで、

 

「ったく…ほら、別に大したものじゃない」

 

奉太郎は机の上に持ってきた物を広げる。3人がそれを一斉に覗き込んだ。

 

「えーっと、これって…」

 

「切符…でしょうか…?」

 

「ご名答。でもただの切符じゃなくて、普通電車なら一日乗り放題の特別切符だよ」

 

「あぁ、あたし聞いたことあるわ。確か漫研の子もこれ使ってどこかへ行くとか言ってたような」

 

「私は知りませんでした…。でも一日乗り放題ということは、上手く使えばいろんな場所に行けるということですか?」

 

「その通り。北は北海道、南は九州までね」

 

「それは…素晴らしいです!」

 

千反田えるの目の色が、また一段階と輝きを増すのを奉太郎は感じとった。

まあ、貰い物とはいえ反応が良いというのは悪くない。

 

「でも、何で折木が?まさか自腹で買ったとかじゃないわよね?」

 

「そんなわけあるか、姉貴が手違いで購入したらしくてな。期限も近いし使ってくれと送られてきたんだ」

 

「あぁ、そういうこと」

 

とりあえず役目は終わっただろう、一段落着いたと感じた奉太郎はおもむろに立ち上がった。

 

「あれ、ホータローどこへ行くんだい?」

 

「どこって、約束の物は届けたからな。後はお前達で適当に…」

 

「あはは、何言ってるんだよホータロー…今から、目的地を話し合おうっていうのに」

 

「ん?なんのことだ…?」

 

「何のことって、この切符1人じゃとても使い切れないからみんなで使おうって話でしょ?」

 

「はっ…!」

 

奉太郎は自分がやっかいな状況を作り出したことに今更ながら気づいた。そして既に手遅れなことにも。

 

「いや、それは…」

 

「8枚、ということはつまり4×2枚。ほら、ちょうど古典部全員の往復分じゃないか」

 

福部里志がわざとらしくウインクする。

 

「だ、だが…旅行ならこの間温泉に行ったばかりだろ…!」

 

「うーん、じゃあ合宿だよ。古典部夏合宿。僕の記憶が正しければまだ行われてないはずだよ?」

 

「くっ…」

 

話し合いで里志を言いくるめようとするのがいかに厄介で面倒だということを、奉太郎は改めて

認識した。こうなれば、僅かな可能性に賭けるしかない。

 

「確かに行われていないが…みんなだって予定があるだろう…

なあ、伊原…?」

 

千反田はさっきの反応から行く気満々なのは間違いない。

だが、伊原なら…もしかすれば…。

 

「いいじゃない、みんなで合宿。ね、ちーちゃん」

 

「はい、ぜひみなさんで行きたいです!」

 

ゲームセット、もといゲームオーバーである。

 

「てことは折木。あんた、この8枚を丸々あたしらに押し付けるつもりだったとか?」

 

「お、押し付けるなんて…そんなつもりは…」

 

「へー、じゃあどういうつもりだったの?」

 

妙に生き生きとする伊原摩耶花に、奉太郎はたじろぐしかなかった。

 

「いや…その…俺みたいな人間に使われたら…この切符が可哀想だと…」

 

「ふふっ、なによそれ」

 

奉太郎は自身の体温が急上昇するのを感じた。

 

「そんなことありません!この切符たちは絶対折木さんに使ってもらいたいはずです!根拠はありませんが…絶対です折木さん!」

 

「わ、分かったよ…分かった…」

 

奉太郎は千反田えるとの距離を何とか保ちつつ、再び席に着いた。

 

「よし、決まりだね。じゃあここからは千反田さんにお願いしてもいいかな?」

 

「はい!」

 

千反田えるは満面の笑みを浮かべつつ、高らかに宣言した。

 

 

「それではさっそく、古典部夏合宿の企画会議を始めます!」

 

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