【安価】お前らの考えた設定でVtuberやる   作:〆鯖(ハーメルン)

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お待たせしました、小説パートです
久しぶりの掲示板じゃない文章だったので難産でしたがなんとか投稿まで漕ぎつけました
正直最後のほうはやっつけ仕事なため後から若干改稿するかも……


おれの『個性』の作りかた

 

 物心ついた時から音楽が好きだった。テレビの中のスターに憧れて、練習に練習を重ねて、彼らの歌を彼らと全く同じように歌うのが好きだった。

 

 両親の反対を振り切って、歌手になるために上京してからもう10年以上。大手から無名までたくさんの事務所のオーディションを受けたけど、嬉しい結果が返ってきたことは1度もない。箸にも棒にもかからないとはこのことだ。今日もまたひとつ連敗記録が伸びた。何が足りないのかは分かりきっている。

 

『何というか、君の歌には "個性" というものがまるで感じられないな』

「………………っ、はぁ〜〜」

 

 まあ分かっていても修正できるかは別問題なんだけどな! "個性" って、なんだそれ。どこに行ったら買えるんだ。明らかに芽がないと分かっているのに、オーディションとバイト漬けの生活を続けている自分の往生際の悪さに呆れてしまう。

 

 もちろん趣味にお金を費やせるような余裕なんてないので、気晴らしはもっぱら酒とネットサーフィンだ。ちびちびと晩酌しながら音楽に関するネット記事を漁る時間が唯一の癒しである。

 防音だけが取り柄のクソ狭い部屋で、いつも通り缶ビール片手にスマホをいじっていたら、一風変わった記事が目に入った。

 

「えーと……『推すなら今! 人気急上昇中の音楽系Vtuberまとめ』?」

 

 普通ならCDのジャケ写だとか、音楽家の顔写真などがあるべき場所にキラキラしたイラストが並んでいる。髪や服の派手な色彩がちょっと目に痛い。

 

「人間の動きをカメラで取り込んで、こういうイラストに反映することで、絵を生きてるみたいに動かす……?」

 

 知らない間に技術はずいぶん進歩しているんだな。妙に関心しつつ、1番上の女の子の欄に埋め込まれていた動画を再生する。

件の女の子が踊るポップなアニメーションと共に、まだ初々しさの残る歌声が流れ始める。聞いたことのない歌だ。動画の説明によると彼女自身をモチーフにしたオリジナル曲らしい。可愛らしくて明るい曲調は聞いているだけで元気になる。曲の最後まで聴き終えて、おれは迷わず次の動画を再生した。今度はおとこの娘だった。

 

 

「はー、良かった……」

 

 胸の底から込み上げる満足感にほう、と息をつく。結局あの記事に載っていた動画を端から端まで見てしまった。画面の見すぎで目が痛い。体を伸ばすと関節がぱきぱき鳴った。

 

 それにしても良かったな。優劣をつけられないくらい全員良かった。

 

 この記事で語られているのは最近人気が出始めたVtuberばかり。駆け出しなのもあって、言ってはなんだが技術的には物足りない子が多い。けれど丁寧な編集や熱の入った歌声からは感情が直に伝わってきたし、何より曲と歌手の個性が素晴らしく噛み合っていた。儚げな雰囲気だとか、小悪魔そのものの容姿・言動だとか、それぞれの武器を駆使して曲を盛り上げ、活き活きと輝いていた。まさに水を得た魚、スポットライトの下の()()()という感じだ。

 

『何というか、君の歌には "個性" というものがまるで感じられないな』

 

 ーーーーーおれにも、彼らみたいな()()()()()()個性があれば、何か違ったんだろうか。

 

「は、ははっ。なんだそれ……ばっからしい」

 

 曲の余韻に浸っていた胸の内に、別の感情がじわりと広がる。

 個性は1種の才能だ。目立つ外見、特徴的な声、魅力的な振る舞い、ドラマチックな人生。生まれつきの資質だからこそ貴重で価値がある。持ち合わせがないなら諦めるしかない。今まではそう思っていた。でも彼らはどうだ?

 

 容姿はイラストだから好きに造れる。本当の経歴を話す必要はない。というか設定からして悪魔とか雪女とか、嘘というよりフィクションだ。イラストと同じく作り物だ。

 

 それが個性として認められるならおれのこれまでの苦労は何だったんだよ。どういうわけか無性に笑いが込み上げてきて、おれはひーひー言いながら4畳1間をのたうち回った。多分アルコールで情緒がどうかしていた。

 

「あっははは、けほ、ごほっ。はー……きっつ。このVtuberってやつ、どうやってやるんだろう」

 

 そして頭のネジも何本かすっ飛んでいた。どうしてその流れで『自分もやってみよう!』みたいな考えになるんだ。そもそも事前知識もなしに無謀すぎる。案の定、テキトーに設定を練っている段階で行き詰まった。正気なら諦めたり出直したりすべきシーンだ。だけど正気ではなかったので、頭のおかしいアイデアを思いつき、実行に移してしまった。

 

「ダメだ、全然出てこない。掲示板でVtuber好きな連中に聞いてみる……いや、いっそ丸ごと考えてもらうか。安価形式にすれば人は集まるだろ」

 

 

 あとはご存知のとおり。最悪でもアラサーが歌手目指してコンビニバイトしてる現実よりはマシだと思っていたんだが、スレ民の性癖を甘く見すぎていた。気がついたら社会的にヤバい属性をてんこ盛りにされて、立ち絵もないまま初配信をやることになっている。

 ちょっとした出来心がどえらいことになってしまった。衝撃ですっかり酔いはさめた。まさに今、1番酒の力を借りたいのに。現実は非情だ。気を紛らわすために配信設定のスレを見ると、深夜とは思えないほど賑わっている。

 

 

121:名無しのドーラ ID:EChZKSsT6

よし、これで準備は整ったんじゃないかい

 

122:名無しのドーラ ID:1bBvQQIIJ

イッチはマイクと設定をチェックしな!

手が空いてるやつは元スレに知らせるんだ!

 

123:名無しのドーラ ID:G1r2vvqq9

配信が始まっても気を抜くんじゃない

トラブルに備えて何人かこっちに残っておきな

 

124:名無しのドーラ ID:AwUWSHQ6I

配信を始めたら戻れないよ

覚悟の上だね?

 

 

 ……いや、そんなネタふりされても困るんだが。おれは機械工見習いじゃないし、覚悟なんてあるわけないだろ。本音を言えば今すぐ失踪したい。ここまで来て逃げるのはさすがに無いからやるけどさ。

 配信開始まであと少し。ただ待っていると胃が捻じ切れそうなので、声を作るのに集中する。ちなみに安価で決まったCVは「あー様とさやさやを足して×2した声」だった。どんな声だよ。えっちで落ち着いた声を求めてることしか分からないぞ。

 あー、そろそろ始めなきゃ……。深呼吸をひとつして、配信開始をクリックする。

 

 

「こんばんはー……えー……両性具有、ノーパンチャイナマーメイドえちえちおにいさん(仮)でーす……」

 

 主に心情的な理由でところどころつっかえながらも挨拶すると、コメントが一気に盛り上がった。

 

:見に来たぞイッチ!!!

:テンション低いなイッチ

:声エッッッ

:もっと腹からメス声だして

:パードゥン?

 

「いやだって、これ実際に口に出すの想像以上にキツいというか………アンコールやめて。もう2度と言わない」

 

:えー

:あと100回は聞きたい

:マイク近い? 吐息いいね

:今北産業

:立ち絵ないけど事故?

 

「マイクが近いのは机と部屋が狭いせいです。え待って、スレ見てない人も来てる?」

 

:時間あったから他所でも告知しといたぜ b

:スレ民に手抜かりはない!

 

「ち、小さな親切大きなお世話……!」

 

 ヤバい。こうなった経緯を知らない人からすれば、おれはただのVtuberを名乗るド変態だ。ネット越しとはいえそんな冤罪を被るのはゴメンだ。

 

「ええと、立ち絵は今のところ存在しません。とりあえず何も言わずに概要欄のリンクを踏んでください。スレ遡ったら大体分かると思うので。お願いします」

 

:必死の早口で草

:いま「踏んでください」って言った?

:エロボで「踏んでください」頂きました

 

「や、違っ……確かに言ったけども! そういう意味じゃないからな!? ったく、もう」

 

 出だしからグダグダだ。コメントのイジりに付き合っていたら朝になってしまう。

 

「えー、一応この配信の趣旨について説明しますね。内容は、ざっくり言うとデビュー配信兼飲み配信兼カラオケ配信になります。これから軽く自己紹介をして、間にお酒と雑談を挟みながら2、3曲歌おうと思っています。えっと、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです」

 

:モチのロンよ

:まずは自己紹介か

:公式設定読むアレね

:フリップある?

 

「そんなものはない。なんでか台本は用意されてるので、掻い摘んで読み上げるよ」

 

 危ういワードがこれでもかと盛り込まれたスレ民謹製の台本を色々誤魔化しながら読んでいく。途中からもはや官能小説になだれ込んでいるんだが。誰が書いたんだこれ。

 

「ーーーというワケで、ガワも何も無いけどとりあえずデビュー配信することになったんですよね」

 

:それはVtuberじゃなくてただの顔出しなし配信では?

:綺麗な船ダナー

:niceboat.

 

 もちろんフリー素材である。こっちもスレ民がいつの間にか用意していた。曲に合わせてカラオケ映像っぽい画がいくつか準備されているので適当に映しとけばいいらしい。画像えらびのセンスが古いのはご愛嬌。

 

「とりあえず自己紹介はこんなもんだけど……他に何か聞きたいことはある?」

 

:どこ住み?

:パンツ何色?

 

「パ……パンツは、履いてない……っていう設定なんでぇ……。家は場所は言わないけどボロいアパートです。吸音材のせいで狭い部屋がさらに狭くなってる。隣は空き部屋だから騒音対策さえすれば歌ってもいいってさ」

 

 この辺の緩さと家賃の安さが決め手で入居を決めた。住み始めてもう5年くらい経つか。このくらいの情報で住所バレすることはないだろ、多分。

 

:歌!

:待ってた

:セトリはよ

 

「おぉ、いい食いつき。じゃあおれが歌える曲で権利関係が問題ないの読み上げるから、その中の好きなやつをコメントでリクエストしてくださーい。テキトーに人気そうな曲をアカペラで歌うんで」

 

:テキトーww

:ついったでアンケくらいとれやwww

:たまにすごい古い曲混じってて笑う

:引いて止めてゲットワイルドとか最近の子は知らんのよ……

:なつい

:久しぶりに聞きたい

 

「シティーハンターが人気そう? それにしようかな」

 

 エンディングテーマの始祖とも言える名曲は、アニソン好きとして当然おさえている。いつもなら主人公そっくりに歌うところだけど、今日はCV縛りがあるからなー。ちょっと歌い方を変えるべきか。

 

:えっマジで?

:懐かしいなぁ 俺リアタイしてたよ

:オッサンに刺さる選曲

:むしろもっこりダンスやれ

:立ち絵できてからやれ

 

「あのエンディングは後ろ姿がカッコよすぎてずるいよね……。もっこりダンスはしません。じゃあ……1曲目、いきます」

 

 念の為マイクに顔を近づけて、控えめな声で歌う。どうしても吐息が入ってしまうが、タイミングに気をつければ「色っぽくて大人っぽい声」というスレ民の願望を叶えるのに一役買ってくれるはずだ。高音はわずかに掠れさせて、曲のスピード感を殺さない程度にしっとりと。

 

「〜〜~♪………ふぅ。やっぱ名曲はいつ歌っても良いよなぁ」

 

:ほんそれ

:歌うまっっ

:耳が蕩けりゅぅ

:正直オーディション落ちまくりって言ってたから舐めてた どちゃくそ上手いじゃん

 

「んふふ、ありがとー」

 

 コメントで寄せられた素直な賞賛に、胸があったかくなってふわふわした気分になる。思わず上がった口角を誤魔化すようにビールを舐める。1曲歌ったら緊張はすっかり解けてしまった。

 

:そういえば何の酒飲んでるの?

 

「お酒はね〜、今飲んでるのは缶ビール! お〜じい自慢の〜♪ってやつです。つまみはゴーヤとツナを味噌マヨで和えたやつ」

 

:うちなーんちゅかよw

:料理できる勢か

:ゴーヤ苦いから無理

 

「料理は好きだけど、凝ったものは作れないぞ。男飯だけな。ゴーヤは薄切りにして塩で揉んで、茹でたあと冷水にさらしたらかなり苦味が抜けるから、苦いの無理な人はぜひやってみてくれ。今回はそこに水気をきったツナ缶とマヨネーズ、味噌、白ごまを入れて和えて冷やしました。ゴーヤは今が旬だからね〜、安かったしシャキシャキの食感とツナ味噌マヨのまろやかな旨味が絡み合って相性最高! 冷蔵庫でしっかり冷やしたから、濃い味付けなのに清涼感があってビールにぴったりだわ」

 

:ツマミ食レポ

:めっっちゃ美味しそう

:あ^〜、いけませんお客さま! この時間帯に飯テロは困ります!

:明日ゴーヤ買ってやってみよ

 

 

 そんな雑談も織り交ぜながら歌っていたら、あっという間に時間が過ぎて、空が白み始めたぐらいの頃に、おれの初配信は和やかな雰囲気のまま終わったのだった。




感想・評価・ここ好き等、高評価ありがとうございます
嬉しすぎてひとりでニヨニヨしながら眺めています
更新の励みにもなるので、良ければぜひ感想などよろしくお願いいたします




以下裏設定語りという名の蛇足

先日感想で「設定と言いながら髪・目の色や顔の特徴が全然決まってない」という旨のご指摘を頂きました。
それについてはいくつかの理由があります

まず作中のスレ民が詳細な外見を決めようとしなかった理由は、彼らの大半が自分のセンスに自信がなかった(オイ)のと、視覚的なイメージであるガワを基本文字媒体のスレッドで、しかも安価で決めたら絶対事故ると思ったからです。例えば一口に「緑」と言っても水色よりの薄緑から黄緑、真緑、モスグリーン、ダークグリーンなど色々ありますよね? そういった部分をリアルタイムで共有できないのに、外見の細かい設定を詰めるのは難しいのではないかということです。なのでスレ民はチャイナ・ロング・マーメイド・えちえちといった大まかな方向性だけ示してイッチとイラストレーターに丸投げしました。イッチはVtuberど素人なのでそこまで考えが回りませんでした。

メタ的な理由としては(作者が画伯なので)挿絵もない状態で髪の色とか目の色の安価をとってもグダグダ感が出てつまらないというのがひとつ。もうひとつはとある理由で「Vtuber」という存在が出来上がるまでの過程をできるだけぐちゃぐちゃにしたかったからです。雑に言うと「設定と魂だけあってガワも何もない(細かい設定すら存在しない)状態でVtuberとして初配信」というのがやりたかったので、あえてその辺はスレでは決めませんでした。

イッチのガワ周りのことはそのうちパパーンᐠ( ᐛ )ᐟと出てくる予定なので、このまま放置はしないつもりなのでご安心ください。以上蛇足でした。
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