【安価】お前らの考えた設定でVtuberやる   作:〆鯖(ハーメルン)

7 / 21
遅くなった上にまた短い
イッチのガワが徐々に近づいて来ましたよ
でもまた後から改稿するかもm(*_ _)m


お前かよ

 スレ民の勧めでボイスの練習を始めてすぐに思ったことがある。ーーーー演技、マジで難しい。フリー台本を使って録音してみたところ、物の見事に棒読みで凹んだ。これを売り物として出すのは無理があるし、なんなら配信でやるのも躊躇われるレベルだ。自分で練習しててもちっとも良くならなかったので、途中からスレ民を巻き込んで添削してもらっていたのだが、これがものすごいスパルタだった。聞き心地のいい声と喋り方をとことんまで追求させられた。

 

 ひいひい言いながら収録した甲斐あってボイスの売れ行きは好調。サンプル動画の再生回数や登録者数も順調に伸びているし、クラウドファンディングの成果も上々だ。この調子なら来週中には目標額を達成できるだろう。なので早めに立ち絵を描いてくれるイラストレーターさんを見つけて依頼しなければならないのだが、ここで問題が1つ。

 

「誰に頼めばいいのか全く分からん」

 

 イラストだけでなくLive2Dもお願いするとなると、ぐっと候補が限られる。出来れば他のVtuberさんのガワを作った経験がある人が望ましい。けど、Vtuber専門のイラストレーターさんにチャイナドレスで両性具有のノーパン人魚とかいうキワモノを持ち込んで大丈夫なんだろうか。ドン引きされたらどうしよう。おれの性癖じゃないんです。マジで。ホントに。信じて。

 

「どうすっかなぁ……うん? 何コレ」

 

 ぐるぐる考えながらツイッターを見ていたら、Vtuberで使ってるほうのアカウントにDMが来ていた。差出人のアカウント名は『くうねるはねる』。日産の昔のCMのもじりだろうか。

 

 

初めまして。ライブ配信、いつも楽しく視聴させてもらってます。自分は「くうねるはねる」といって、普段はゲームのイラスト描いたり同人誌作ったりしてる者です。いきなりでアレなんですけど、自分を両性具有ノーパンチャイナマーメイドえちえちメスおにいさんのママにしてもらえませんか?

 

 

「何の何がなんだって?」

 

 いや……Vtuber界隈では一般的にガワを描いた絵師さんをママと呼ぶのは知ってるけど……いくらなんでも字面が酷い。例のキャッチコピーの破壊力に目眩がする。いい加減ちゃんとした名前を考えないと、セクハラで訴えられかねない。こんなのの絵師に名乗り出るとは度胸あるなこの人。

 

 念の為にググってみたところ、彼(彼女?)は新進気鋭の売れっ子イラストレーターさんらしい。ゲームのイラスト、ラノベの挿し絵、自作漫画と手広くやっているようだ。見たところファンタジー系が得意なのだろうか。そんな人がどうしておれなんかに声をかけてくれるんだ?

 

 はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。でも今のところ他にアテもないし……。しばらく悩んだ末に、おれは恐る恐るDMに添付されていたチャットツールのリンクを開いた。

 

 

Vtuber(仮):こんにちは。両性具有以下省略のVtuber(仮)です。DMありがとうございます。

くうねるはねる:こんにちは! 改めて、くうねるはねると申します。一応イラストレーターやってます。

Vtuber(仮):ネットやツイッターでいくつかご作品を拝見しました。媒体によって雰囲気は全然違うのにどれもすごく魅力的で、その、すごいなって思います。

Vtuber(仮):そんな人がこんなコンプラ的にヤバい立ち絵描いていいんですか??? 何がとは言いませんがブランドとか大丈夫なんです???

くうねるはねる:ブランドって言っちゃってるじゃないですか(笑)

くうねるはねる:まだペーペーなんでそんな大層なもんありませんし、何ならもっとヤバい薄い本も出してるので大丈夫ですよ

くうねるはねる:駆け出し仲間です、よろしくお願いします(`・ω・´)

Vtuber(仮):いやいやいや

くうねるはねる:まあまあまあ

くうねるはねる:ところで、ディスコ入ってくれたってことは良い返事を期待してもいい感じだったり?

Vtuber(仮):まあ……ええ。こっちの業界のことはまだ全然分からなくて途方に暮れていたところですし。とりあえず詳しい話を聞かせてください。

くうねるはねる:OKです

くうねるはねる:今、通話しても大丈夫ですか?

Vtuber(仮):あ、はい。ドウゾ。

 

 

 

 反応も話も速ぁい……。おれはSNSで知り合った人と通話するのってかなり勇気がいるんだけど、若い子はそうでもないのかな。いや、まだ年下と決まったわけじゃないか。どちらにせよおれなんかとは比べ物にならない売れっ子絵師さんだし、失礼がないようにしないと。ドキドキしながら待っていると、すぐに着信がきたのでワンコールで出た。

 

 

「どうも、こんにちは! 総排出腔のものなんですけど覚えてます?」

 

「スッ……みません間違えました」

 

 

 ガチャ切りした。どうやら間違って変な人に繋がってしまったみたいだ。新進気鋭の売れっ子イラストレーターさんが、出会い頭に特殊性癖をカミングアウトしてくるなんてまさかそんな。うん、間違い電話に違いない。お願いだからそうであってくれ。

 

 まだバクバクしている心臓を押さえながら深呼吸していると再び着信が入る。今度は「くうねるはねる」と表示されてるのをちゃんと確認しながら、おそるおそる応答する。

 

「ど、どうもこんにちは。両性具有以下省略のVtuber(仮)です」

「んん"っ……どうも、くうねるはねる、です……っふ、ふふっ、んぬっふ」

「イヤあの、そんな必死で笑いを噛み殺さなくても」

「や、だってぇ、ボクも順番間違えた自覚はあるんですけどぉ、ふっふふふ。こんな絵に描いたようなドン引きとガチャ切りを披露されるとは思わなくて。そもそもディスコ使ってこっちからかけたのに『間違えました』ってどうやって、ぶはっ」

 

 完全にツボに入ってしまったらしく、電話の向こうからひいひい笑っている若い男の声が聞こえる。1本目と全く同じ声だ。やっぱりご本人だったのかぁ。そっかぁ。スレ民といい、おれの周りはこんなんばっかりかよ。

 

 

「……そろそろ落ち着きました?」

「ふふっ、ふーっ……はい。大丈夫です」

「薄々察してはいるんですが、あなたの口から説明していただいても?」

「もちろん。あと『くうねるはねる』は長いので、ボクのことはハネルと呼んでください」

 

 まず、ハネルさんは最初におれが立てたスレッド*1をリアタイしていたらしい。どころか安価にまで参加していた。1本目の電話の「総排出腔のものなんですけど」というのはそういう意味だ*2。つまりこの人のせいでおれは危うく哺乳類を卒業するところだった。

 

「イイじゃないですかぁ、エッチで」

「なにもよくないです……」

 

 その後の初配信からずっとハネルさんはおれを追っかけていて、ママになるチャンスを虎視眈々と狙っていたのだという。

 

「タダで描かせてください!!!っていうのが本音ではあるんですけどねー。ただこっちもイラストでお金もらってるので、そういう前例作っちゃうと後が面倒で。だから代わりにクラファンとボイスで課金させてもらいましたー」

「えっ」

「諭吉さん5人くらい」

「経済が……! 経済が空転している……!」

 

 ともあれ、やけにタイミングが良いDMの謎はこれで解けた。資金の集まり具合は配信でちくいち報告しているから、熱心な視聴者には筒抜けの状態だ。入れ替わりにこの廃課金勢(ひと)いったいナニモノなんだ、という疑問は浮上したけど。

 

「そういう訳なんで、是非ともボクに任せてもらえないでしょうか」

「Live2Dもお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよぉ。同業者の知り合いがVtuberの立ち絵を描いてるので、ボクもいつかやってみようと思って勉強してたんです。念の為、練習で作ったやつの動画送りますねー」

「わ、すごい。じゃあ……よろしくお願いします」

「やったー! 代金はこれくらいになりまぁす。適正価格ですヨ?」

「確かにVtuberの立ち絵としては平均的な値段だけど、人魚とチャイナの作画コストを考慮するとどう考えても足りない気が……」

「適正価格ですヨ?」

 

 押し問答の末、最初に提示された価格に手間賃を上乗せした額で決着した。勝った。さすがに大人としてこの辺をナアナアにすることはできない。仕事には正当な対価を支払うべきだ。その約半分が支払い先のポケットから出ている件については、もうどうしようも無いので見なかったことにする。

 

「あと、イッチさんって東京住みですよね。1回リアルで会えませんか?」

「……おれはアラサーのおじさんですよ?」

「出会い目的じゃありませんってぇ! ボクVtuberの立ち絵描いたことないし、実際にあなたが動かしたとき映えるガワにしたいので、本人を見てイメージを具体化したいだけです! そりゃ興味もありますけどぉ!」

「ああ、そういうことなら……」

 

そういう訳で、そういうことになった。

*1
1話『【安価】お前らの考えた設定でVtuberやる(1)』

*2
111:名無しのVオタク ID:/wK9RTnCI

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。