【安価】お前らの考えた設定でVtuberやる 作:〆鯖(ハーメルン)
とても難産でした
次回はガワお披露目回の予定です
せっかくなのでノーパンタイツの官能小説スレ民視点でやろうかな
おれは若干コミュ障の気がある。ネット越しの配信やビジネスライクな会話は普通にできるけど、他人以上友人未満くらいの相手と話すときはどうしてもよそよそしくなってしまう。学生時代はそこまででは無かったはずだから、おそらく地元を飛び出して親しい友人がほぼ居なくなった弊害だ。
なので久しぶりの待ち合わせにドキドキしながら待っていたところを、背後からいきなり肩を叩かれて、心臓が止まるかと思った。
慌てて後ろを振り向くと、犯人らしき茶髪の青年がにこやかに笑いかけてくる。うわ、身長高いな。すらっとしたスタイルで羨ましい。ゆったりしたシャツとカーキ色のテーパードパンツがびっくりするほど良く似合っている。マスクで顔の半分は隠れているけど、雰囲気からしてイケメンだ。さぞかし女の子にモテるだろう。男のおれでもかっこいいと思うもん。そんな人がおれに何の用事だ。
「そこのかっこいいおにいさん、待ち合わせ中〜? ちょっとオレとお茶しようよ」
な、ナンパだ……! 絵に描いたようなナンパだ……! マスクと糸目の相乗効果で失礼ながらすごいあやしい!! テンプレ過ぎて逆にリアクションし損ねた。曖昧な笑顔を満更でもないと受け取ったのか、青年はさらっとおれの左腕を取ってさらに距離を詰めてくる。
「さっきから腕時計ちらちら見てるの可愛くてつい声かけちゃった。ね、まだ相手来ないんでしょ。そんなやつ放っておいてオレにしない? 奢っちゃうよ?」
「ええー……そういうのはちょっと、困るというか」
「じゃあ相手が来るまでで良いからさ! 近くにめっちゃ映えるカフェがあるんだよね。ホントすぐそこだし、オレとそこでお喋りしながら待ってても良いんじゃないかな〜」
「や、そうじゃなくて、あなたハネルさんですよね」
強引な割に紳士的な手をはらってそう言うと、茶髪の青年は薄く目を見開いて、それからてへ☆と首を傾げた。あざとい。
「大正解ー!! ごめんなさい。ちょっと悪戯しちゃいました〜」
「よ、良かった……当たってた……。心臓に悪いのでお手柔らかにお願いします」
「あはは、すみません。でも近くに良いカフェがあるのは本当ですよ。ボクのお気に入りです。なので打ち合わせはそこでしましょう」
「ああ、なるほど。分かりました」
本当はカフェに連れ込んでからネタばらしして打ち合わせを始めるつもりだったんだろうなぁ。電話のときから薄々気がついていたけどハネルさんはかなりお茶目な人のようだ。
「そういえばどうしてボクだって気づいたんです? 一人称も変えてたと思うんですけどぉ」
「声が同じだったので。それに、こんなオジサンにナンパする人なんていません」
「えー」
「ハネルさんこそどうしてあんな声のかけ方したんですか」
「『えっおれナンパされてる? ええ……待ち合わせ中なのに……どうしよう』みたいなシチュエーションに興味があって」
「次のボイスの参考にしますね」
「アッ、ありがとうございます!!」
雑談しながら5分ほど歩いて、案内されたのは、いかにも格式高そうな純喫茶だった。ステンドグラス越しに間接照明で明るくされたお洒落な調度品が見える。
「待って、待ってください。ここ明らかに上下ユ○クロで入っていい店じゃありませんよね!」
「大丈夫です、ボクもたまにランニングの途中ジャージで入ってコーヒーテイクアウトしたりします」
「そりゃアンタはイケメンだから良いでしょうけども……!!」
一応身綺麗にはしてきたけど、こんな渋いロマンスグレーがクラシック流しながらサイフォンでコーヒー淹れてそうな店に入るなんて聞いてない。この格好と顔面じゃ絶対に浮く。じたばた暴れるおれを見て、ハネルさんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ここなら長居しても大丈夫だし、個室あるから身バレも防げてちょうどいいやって思ったんですけど……すみません。先に確認すれば良かったですね」
……しゅんと垂れた犬耳と尻尾の幻覚が見える。そこまでしっかり考えた上で店を選んでいたとは。全然思い至らなかった自分が恥ずかしい。
「こっちこそ大人気ない振る舞いをしてすみませんでした。ここで打ち合わせしましょうか」
「! はい! いくつか案を描いてきたのでじっくり選びましょうね」
「おれファッションとか疎いので頼りにしてます」
店の中に入ると案の定クラシックが流れる中カウンターではロマンスグレーの素敵なマスターがサイフォンでコーヒー淹れてて緊張したけれど、個室に通されてしまえば他のお客さんの視線はないので少し落ち着いた。というかブレンドコーヒーの深みのある味わいに半強制的に緊張を解かれた。こんな上品で個室つきのカフェを知ってて、しかも明らかに常連らしいハネルさんって本当に何者なんだ。
「大した者じゃありません。ただの新米絵描きですよ〜」
「ハハハ」
「ウッソだぁみたいな顔やめてください。あとそんなに畏まらなくて大丈夫です。むしろ落ち着かない」
「はい。分かりま……じゃなくて、分かった。努力する」
「よーし。それじゃあさっそくお仕事しますか! 両性具有ノーパンマーメイドえちえちメスおにいさんの名に恥じないガワにしますからね」
「あのこういう場所でその呼び方はちょっと」
「照れてます?」
「どっちかというと世間様の目に怯えてます……。正式な名前は『詩蓮』に決まったので、できればそっちで呼んで欲しい、かな」
Siren(セイレーン)をローマ字読みして適当に中華っぽい漢字をあてた、安直と言えば安直な名前だけど、字面がきれいで良いと思う。例のキャッチコピーより全然良い。
「自分で考えたんですか?」
「いや、昨日の夜スレで決めた」
「ボクも参加したかった……!」
リアタイできなかったことを嘆きながら、ハネルさんは数枚のA4紙をテーブルの上に並べた。どれも正面からのラフ画だ。丈の長いチャイナドレスとロングヘアは共通しているけれど、髪型やシルエットの違いで印象が全然変わる。
「チャイナドレスと一口に言っても色々あるんだな」
「そうなんですよねえ。なので正統派からコスプレ寄り、ロリータと幅広く取り揃えてみました。どれが好みとかありますか?」
「いや……どれも良くて選べないや。先にハネルさんのイチオシを聞いても?」
「うーん、ボクならこれかな」
彼が指さしたのはチャイナドレスとマーメイドドレスを折衷したようなデザインのものだった。首から腰までは身体の線に沿ったチャイナドレスらしいシルエットで、腰から下と袖はふわっと広がっている。丈はギリギリ地面に着かないくらいの長さだ。
「やっぱり中華風人魚だから尾を金魚っぽくゴージャスにしたくて。となると裾が広がってるほうがやりやすいと思います」
「ああ、確かに」
「髪型はうなじが見えるとなるとやっぱりお団子かなー。でもなぁ」
ハネルさんはそこで言葉を切って、こっちをじーっと見つめた。視線に熱量を感じる……。お、落ち着かない。誤魔化すようにコーヒーカップを口許に運ぶと、彼はうっとりとため息をついた。
「はぁ〜良い。詩蓮さんは動きがゆったりしてるのでお姉さんみありますよね。優雅っていうか。ぜひとも揺れ物をいっぱいつけたい」
「その分の手間は」
「度外視です。詩蓮さんが許す限りボクとスレ民の願望を詰め込みます」
「そっかぁ」
なんだろう、この、感謝すべきなのに素直に感謝しにくい気持ち。思わず遠い目になってしまう。逆にハネルさんはペカペカの笑顔である。この短時間で体力の8割を彼に吸われたようだ。
「せっかく名前も決まったのでそれも絡めていきましょうか。蓮の模様のチャイナドレス……池や水辺の静かな雰囲気で……良いですねー。イメージ湧いてきましたよ。ちょっと作業してもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
反射的に頷くと、ハネルさんはやる気マンマンな様子でリュックからタブレットを取り出し、タッチペンを盛んに動かし始めた。おれには何の作業をしてるのか見当もつかないけど、そうやってタブレットを操ってると、とても仕事のできる大人という感じがする。でもこの人性癖がアレでおじさんをナンパしたんだよなぁ……。残念なイケメンとはこの事か。今も一気に手を動かしてはおれを眺めてにへらっと微笑む、という奇行を繰り返している。控えめに言って居心地が悪い。
「……あの、ええと、邪魔になりそうだしおれ帰りましょうか」
「まだ帰ったらダメです」
「外で待ってようか?」
「あっ今の録音しておけば良かった……かわいい……。じゃなくて、時間が大丈夫ならそこに居てくれると嬉しいです。この店はケーキや軽食も美味しいのでぜひどうぞそして食べてるところをボクに見せてくださいお願いします」
「ひえ……」
最後のほうはノンブレスだった。いつの間にか目が据わっててこわい。おれに気を遣って言ってる訳じゃなさそうだ。ハネルさんの意図は不明だが、それなりにお腹も減ってるし……。
焦げ茶に金の箔押しがされたメニューをめくり、軽食のページを開く。サンドイッチ、スコーン、シフォンケーキ。名前はどれもシンプルで、写真もないので想像で選ぶしかない。それが逆に期待を煽ってくれる。うーん、どれにしよう。どれもこれも美味しそうでつい目移りしてしまう。ああでも何となく甘いものが食べたいな。
しばらく悩んで、おれはようやく注文用のベルを鳴らした。
そして15分後、瀟洒な皿に乗って運ばれてきたそれを見ておれは息をのんだ。
「わ……!」
見るだけで濃厚な旨みを想像させる深い黄色。たっぷりと液を吸ってふくよかに焼き上げられた2枚重ねのトースト。表面についた艶やかな茶色の焦げ目はいっそ芸術品だ。仄かな熱で溶け始めたクリームがとろりとパンを伝う、コントラストがとても良い。ふんわり漂う甘い匂いに無意識に喉を鳴らしてしまう。食べなくても分かる。これ、絶対、美味しい。この見た目で不味かったらむしろ詐欺だ。これぞ正にフレンチトースト!という品がお出しされてしまった。
「いただきます」
いそいそと手を合わせ、一緒に出された小さなナイフで分厚いトーストに切り込みを入れる。切り口から卵液がじわっと染み出して、白い皿の上に少しだけ零れた。慌てて口に運ぶと、噛んだ瞬間、甘みと旨みを凝縮した液体がジュワッと吹き出す。適度に弾力のあるパン生地が歯を押し返しながらももっちりと受け入れる。それに、どこかから現れたピリッとした味が濃厚な甘みを引き立ててすごい美味しい。これは……コショウだろうか。
「あれ、クリームの味がちょっと違う?」
「ああ、それはクロテッドクリームですね」
「へー、これが彼の有名な……」
クリームよりは遥かにこってりしているが、バターに比べると軽やかな口当たり。それが卵液とは違う旨みを添えていていっそう深みを増している。パンの耳の部分が残っているのも良い。場所によって食感が変わって飽きが来ない。トースト、卵液、クリームがそれぞれを見事に引き立て合っている。そこに店長自慢のブレンドコーヒーが加われば、もう堪らない。そこそこの量があったはずなのにぺろりと食べきってしまった。
「ふぅ……ご馳走様でした」
「詩蓮さんはすごい美味しそうにご飯を食べますねえ。ボクも何か食べようかな」
あ。目の前に人がいるのにがっついてしまった。恥ずかしい。口元をナプキンで拭いながらメニューを差し出すと、ハネルさんはほとんど迷わず追加の注文をした。常連さんだから慣れてるのか。
「詩蓮さんと直接会えたおかげでほとんど固まりました。ボクはまだ作業しますけど、疲れたら帰っても大丈夫ですよ」
「いえ、邪魔でなければ付き合います。サンドイッチも食べてみたい」
「ぜひぜひ。絶品ですよ」
美味しいコーヒーとフレンチトーストの効果でさっきまでの居心地の悪さは消えた。2人で和気あいあいと話しながら、軽食を食べつつ立ち絵の準備を進める。久しぶりの人との食事が楽しくてついつい会話が弾み、店を出るころには最初のぎこちなさが嘘のようだった。
「いやー、長々と拘束してしまってすみませんねえ」
「とても楽しかったから大丈夫。次は一緒にお酒が飲みたいな」
「良いですねぇ。立ち絵の完成祝いはそれにしましょう。頑張るので期待しててください!」
「はは、よろしくお願いします」
それから1ヶ月半後、ついにおれのガワが完成した。