原神世界に聖剣が混入しました   作:Haganed

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酷暑の存在がとても鬱陶しいので初投稿です
皆さんも熱中症には気を付けて行動してください
私は暑がり且つ寒がりなので対策しないとキツイです




嘘に噓を重ねて

 目覚めた聖司は急いで体を起こし、自身の肉体や顔などに触れたあと周囲を見回して何処にいるのか確認する。視界には作業部屋とかしたアカツキワイナリーの一室が映っており、きちんと原稿も存在していた。ようやく戻ってこれたのだと安堵したのも束の間、表紙が届くであろう時間帯にあの事が起きたために慌てて部屋を出て大声で確認した。

 

 

表紙は!?

 

「どおっふぁっ?!」

 

「「セイジ!?」」

 

 

 部屋から飛び出してきた聖司の声と姿に驚いて彼の方を見たディルックと蛍の2人とパイモン。聖司はそのまま階段を降りて3人のもとまで急ぎ、慌てた様子で表紙のことと、どれほど眠っていたのかを訊ねた。

 

 

「おいディルック、表紙は? あと俺はどれほど眠っていた!?」

 

「落ち着け! 表紙は届いている。あと君が意識を失っていたのは確認できる限りでは3時間ほどの筈だ。それより、眠っていたのか君は?」

 

「あぁいや眠っていたというのは語弊だな、うむ。俺が意識を失っていたのは、3時間程度なのだな?」

 

「一体何があったの?」

 

「そうだぞ! 突然意識が無くなって、まるで死んだみたいな感じになってたんだぞ!?」

 

「それについては後で説明する。今は製本作業に移らねばならん、それで表紙は?」

 

「おまっ、人が心配してたのに本優先かよ!?」

 

「悪いな、容体については特に何ともないのだ。執筆に充てられるのは約18時間弱、今から最低4冊分の現行の書き出しと表紙の取り付けは可能。ならば俺は残りを済ませてくる!」

 

「っておい! 表紙はどうするんだよ!?」

 

「1時間半もあれば十分だろう! ではな!」

 

 

 そのように言って急いで部屋に戻っていき、聖司はまた執筆作業に勤しむ。特に変わった様子の無い彼に呆れながらも3人の間で安堵の溜め息が漏れ出たためか、顔を見合わせて困ったように笑って聖司の執筆を待つこととなった。

 

 そうして待つこと16時間程度、残っていた4冊分の原稿も書き終わり、最低ラインをに突入したことで早速製本作業に移ったのだが、そこでもまた聖司の異質さを物語る出来事が起きた。一応製本作業にはワイナリーのメイドも参加しての作業になったのだが、聖司の製本速度だけ異様に早かった。

 

 なぜか30秒以内に1冊というペースで作り上げているため、その手際の良さに変な対抗心を燃やしたメイドの1人と競争する形になり、2人だけで40冊分の製本作業を殆ど終わらせるといったものになったのである。参加していたはずの蛍と他のメイドは唖然としてその2人を見ていた。

 

 その光景を見ていたパイモンはその様子をこのように語る。

 

 

「アイツら、本当に人間かよ?」

 

 

 かくして、作戦の為に必要なものは揃い、この新作であるエッセイ本を流布する準備は整った。あとはこの作品を使って、偽の枢機卿が来ざるを得ない状況を作り出すのみ。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 偽物のカルヴィンは、悠々自適にその席を満喫していた。モンド城内部に潜入し、嘘を操る能力をもって人々に嘘を信じ込ませ、本物に成り代わり中枢を支配する。何とも簡単すぎる仕事であったとほくそ笑む。

 

 とはいえモンド城の陥落には内部の協力も必要であったため、必然的にファデュイの面々との接点を作っておく必要があった。妥協しなければならない点ではあったが、その妥協あってモンドを手中に収められたので、偽カルヴィンは良しとした。

 

 とはいえ、気になるのは風魔龍の討伐に関しての報告。ファデュイには策があると言っていたが、あの風魔龍には今同胞が潜んでいるため上手いことガワだけを殺してくれれば操ることも出来る。人間であるため、あまり期待はしていないが、良い方向に働いてくれれば御の字と言った考えを偽カルヴィンは思い浮かべた。

 

 それはそれとしてだが、今日の城内は何やら騒がしい雰囲気があったが、特に何も変わらないだろうと考え、職務に手をつけず爪を削っていたところに、部屋の扉がノックされる。

 

 

「枢機卿、いらっしゃいますか? 至急、お目通しをしてもらいたいものがありまして」

 

 

 答えないわけにもいかないので、ひとまず部屋へと入るように誘導した。入ってきた男は一時期、偽カルヴィンの方針に反対していた人間であったが、今や従順な下僕の1人である。そんな男は、どこか憤りを見せながら偽カルヴィンにある1冊の本を見せた。

 

 見れば、その本の題名には【モンドという国】というタイトルが書かれており、その著者は神官 聖司という人間である事が分かった。だが偽カルヴィンがその本を一瞥して理解できるのはそこまでであり、特段興味を示すようなものでも無い。

 

 

「何だ? 忙しい私に本を読めというのであれば、即刻部屋を出ていけ。身支度の邪魔だ」

 

「いいえ、枢機卿。貴方に報告したい事というのは、この本の内容になります」

 

「内容?」

 

 

 男は簡潔にその本の概要を偽カルヴィンに伝えた。この本の内容にはモンドの特徴とも言える自由の国に対する批判ばかりが綴られているのである。モンドに住まう人々の人間性や、宗教、政治への批判などが所狭しと記述されており、モンドという国の必要性にまで言及している。

 

 こんなものが城内で見つかったと騎士団から報告を受けた男であったが、そのあとこの本が城内の至る所で発見され、この内容を見たモンドの民衆がこの本の筆者である神官 聖司への非難が行われている事を伝えた。

 

 

「今やこの本の筆者によって、城内は一時的な混乱状態となっています。西風騎士団や冒険者協会が暴動にならぬよう抑えていますが、いつまた国民感情が爆発するか定かではありません。この者を呼び出し、この本を城内に広めさせた理由を問い質し、然るべき罰を与えなければなりません」

 

 

 偽カルヴィンにとって、この報告内容は手をつける理由も無かった。放置していても特別問題にはならないし、何よりファデュイへの介入のしやすさも上がる。放置という判断を出そうとしたところで、ノックもせずファデュイの人間が部屋に入ってきた。

 

 

「なっ、キサマら礼儀を弁えんか無礼者! 今枢機卿へ報告を」

 

「良い。で、どうしたのだ同志よ? 何か不便でも?」

 

「どうもこうもあるか! 風魔龍退治に赴いた奴等が、何者かの襲撃を受けて重体で帰ってきているんだぞ!?」

 

「なんだと────?」

 

 

 その報告は偽カルヴィンにとって寝耳に水であったために、城内の混乱などすぐに頭から消え失せた。ファデュイが懐からある1冊の本を机に叩きつけるようにして出し、その本のタイトル【モンドという国】の文字列を見た。

 

 

「これは……」

 

「救助した隊員の傍にこの本が置いてあった! 内容は兎も角、この本の筆者が襲撃に関わっている可能性が高い! 今すぐこの筆者を我々の前に連れてこい!」

 

 

 この話を聞いた偽カルヴィンは、激昂しているファデュイの頼みを無視することは出来ない。なにせ協力関係を築き上げたのは自分自身、何より優先的にゴマをすっておかなければならない相手でもある。この頼みを断れる道理など、今の偽カルヴィンには無かった。

 

 

「わかった、この本の筆者を必ず君らの前に連れ出そう」

 

「枢機卿! 国民への対処は!?」

 

お前はその程度の事など、気にする男では無い 。分かったらこの本の筆者を探し出せ」

 

「────了解しました」

 

 

 最初に報告に来ていた男は部屋を出て、本の筆者である神官 聖司を探すために動き始めた。そうして著者を探して、おおよそ1時間程が経った頃合に神官 聖司は発見される。否、発見というのは少し語弊がある。

 

 本の著者である神官 聖司本人が、モンド城に続く石橋を堂々と渡り歩き、城内に入る様子が複数に目撃されたのだ。その光景に住民たちもより一層騒がしくなり、聖司を見つけたファデュイの面々は捕らえようと取り囲む。

 

 危機的状況ともいえる中で、聖司本人は冷たい表情を崩すことなく、傲岸不遜にも彼は“枢機卿を出せ”と言ってのけた。あろう事か、大聖堂前の風神像広場という神の御前と呼ぶべき場所で、不敬を働いたのである。

 

 ファデュイの面々は捕らえるために襲いかかったが、溜め息を1つ吐き心底面倒くさそうな反応をすると、1名の突進を受け止めその人物を投げ飛ばした。ご丁寧に複数人を巻き込むように投げ飛ばされたことで、一気に包囲網は瓦解し、ファデュイの足が止まる。

 

 そうして聖司はまた、同じことを繰り返した。“枢機卿をこの場に出せ”と、何度も繰り返し大声でそう言った。そんな状態が続いたファデュイは、1人のデッドエージェントを投入し沈静化を計ったものの、上手くいかずのらりくらりとその手をすり抜けていく。

 

 やがてその攻防が続くうちに、デッドエージェントが放った攻撃が風神像に当たり傷が付けられた。

 

 

「なぁファデュイよ、聞いても良いだろうか?! 今先程、モンドの風神像を傷付けたが、協力関係にある国の重要物に破損を加えて良いものだろうか?!」

 

「何をごちゃごちゃと……お前が逃げ続けているから偶然当たっただけ、俺の攻撃は偶々当たったそれだけだ!」

 

「だが破壊行為という事実は残る! 俺を捕まえた後でその問題に対処しなければ、あとで痛い目を見るのはお前達だろう?! エージェントという割には、今後のことを考える頭すら無いようだな!」

 

「ペラペラと喋る軽い口だ、そんなに潰されたければ望み通りにしてやる!」

 

「無駄なこと、ご苦労様!」

 

 

 デッドエージェントが姿を消し、炎元素の残像を配置して聖司の背後に回った。その無防備な背中に一撃を加えて事を終わらせようと試みるが、まるで読んでいたかのように急旋回し聖司は背後のデッドエージェントの顔面に拳を叩き込む。

 

 その一撃で地面に転がされ、仮面にヒビが入ったデッドエージェントは気絶したのか動きを止めた。ファデュイの面々はその光景に恐怖を抱き、誰も聖司を止めようという考えは霧散する。

 

 

「騒ぎを起こしたのは、貴様か?」

 

 

 そこで民衆の輪を割って入ってくる偽カルヴィンの姿が現れた。待ってましたといわんばかりの様子で聖司は恭しく、それでいて態とらしい一礼をする。

 

 

「お初にお目にかかります、カルヴィン枢機卿。名を神官 聖司、俺についての噂はもうお耳に入れているだろうから自己紹介は割愛させてもらう」

 

「御託は良い。貴様がなぜモンドを混乱に陥れ、風魔龍討伐隊の面々に被害を与え、この私を呼び出したのかについて話してもらおう。正直に話せば、貴様の仕出かした罪が多少軽くなるように計らってやらんでもない」

 

「寛大な御心、感謝しよう────だが断る。どうせお前のような嘘つきは、俺ごときにそんな真似をするつもりなど毛頭無かろうて。減刑などされぬなら、いっその事全てを暴露させてもらう」

 

 

 嘘つき、という言葉に偽カルヴィンは内心で反応を示す。表情には出さないが、何か裏があるのではと考える中、聖司はこの風神像広場で堂々と言い放った。

 

 

「俺は最初から混乱など考えたことも無い。ただ俺が思ったモンドという国に対する批判を書き記し、それをモンドに広めただけだ。ただ皆に読んでほしいとそう願ってな」

 

「では、こうしてモンドの民草が怒りや疑念で溢れているこの状況を微塵も考えなかったと? それは浅慮が過ぎるというものではないか?」

 

「お前は俺に良心を覚えてほしいのか? 残念だが土台無理な話だ。俺の書いた本を読んでモンドの人々がどうなろうと、筆者である俺は関係無い。自由の国と謳うにも関わらず自らの責任を考えようともしない愚かな国民が、何を思おうと()()()()()()のだよ」

 

「愚かな国民だと……ふざけるな! 無責任なのはアンタの方じゃないか!」

 

 

 民衆の中の1人がそう叫びを挙げ、それに続くように他の人々が聖司1人に向かって非難や罵倒の言葉を浴びせ始める。しかしそれらを一身に受けている聖司は、更に不敵な笑みを浮かべて叫んだ。

 

 

「無責任? 無責任と言ったか!? もはや雑用とも取れる猫探しを最寄りの騎士団員に報告せず、態々代理団長殿に頼み込み余計な仕事を増やすような人間が無責任では無いと?! 本来行うべき仕事を国の要人ともいえる人物に全て任せきりにする人間が無責任でないと?! 貸し出しした本を返さない人間が無責任では無いと?! 風の翼を使用して違法行為を行った人物を半ば擁護し放逐させていることが無責任では無いと?! 貴殿らは、これらの事を無責任では無いというのか?! これは傑作!何たるお笑い種よ!」

 

 

 ひとしきり言って、聖司は悪どく高笑いをしてみせる。そこから更に非難の声は集まっていき、次第に彼に対する怒りの空気が流れ始めていくが、そんなことも気にせず聖司は続けて言い放った。

 

 

「というよりも、無責任なのは国も同じでは無いか! 自由の国? モンドの国は本当に自由という意味を理解して、そのように謳っているのか?! 馬鹿馬鹿しい! 人間にとって自由とは風のように縛られないものでは無い! 人間にとっての自由とは即ち、己の責務を遂行して初めて行使できる権利そのものだ! 風のような自由など、その先に待つのは他者の迷惑を顧みない暴風よ! やがては己すら自滅させかねん自由に、果たして本当に存在する意味はあるのか?!」

 

 

 “どう思う、モンドの民草よ?!”という形で1度締めくくった聖司に待っていたのは、本を頭に投げつけられるという事態であった。そこから民衆は、彼に向かって本を投げ、罵倒を浴びせていく。中には石を投げてくる者も居て、もはや止めようのない状態へと移っていた。

 

 中にはその蛮行を止めようとする者も居たが、そんな空気にはなっていない。モンドの掲げる自由の国という概念を批判し、そこに住まう人々をも批判したことで収まりようのない怒りが生まれていたのである。

 

 そのような空気になった偽カルヴィンはというと、これをチャンスだと考えた。今ここで聖司という人間に対して、然るべき流れで死罪なりの判決でも下せれば、モンドという国は正しく意のままに操れると判断する。

 

 

「成程、私の忠告など聞く耳は持たないのだな? ならばお望み通り、貴様を評議会にかけて罰を与えるとしよう。民草よ、案ずるが良い! モンドの敵となったこの男に、私は然るべき裁きを下す! だが判決は既に! 死罪は確定しているだろう!」

 

「あぁ、当然だ! コイツは死んで当然の奴だ!」

 

 

 意見は簡単に統一された。死罪を望む声が民衆から発せられる。物を投げていた男も、女も、老人も、子どもも、()()()()()()()()全て、神官 聖司という人間に死という制裁を望んでいた。そうなった光景を見て顔を俯かせた聖司は、片手で両目を覆い隠し────笑いが溢れた。

 

 

「く、くくっ」

 

「……何が可笑しい? 貴様は既に全ての民衆から死を望まれているというのに」

 

「いやぁ、なに。まだお前を呼び出した理由を言ってなかっただろう? それを聞いてからでも、死罪は遅くないと思ってな」

 

「何を言っているのか分からんが、兎に角貴様は」

 

「まさかこんな時間稼ぎにまんまと引っ掛かってくれるとは、とんだアホ晒しだな」

 

「────何?」

 

 

 偽カルヴィンはその言葉に思考を奪われる。時間稼ぎ、そう言ったのがハッキリと聞こえた。しかし、何の時間稼ぎなのか。確信に至るまでには、それほど時間は掛からなかったが、既に時遅し。

 

 

「俺が態々お前を呼びつけるよう言い続けたのは、ある者を探してもらう時間を稼ぐため。枢機卿という地位に着いたお前を誘き出すには、国を巻き込んだ方法を取った方が確実だからな。我ながら迫真の演技であっただろう?」

 

 

 聖司は不敵な笑みを偽カルヴィンに向け続ける。まさかと思ったその時、既に事は終わっていたようで。民衆の輪の中を割り込むようにして現れたその人に、この場にいたモンドの人間は何が起きているのか理解出来ずにいた。

 

 そして偽カルヴィンはガイアを支えにして現れたその人物を見て、脂汗が滴り落ちる。

 

 

「こうしてまんまと騙されてくれて何よりだ、嘘つきのお前にはちょうどいい報いと言えよう。なぁ、偽物?」

 

 

 




【後書きキャラ紹介】
『神官 聖司』
・本という媒体を使って国中から敵であると騙して偽の枢機卿を呼び出し、時間稼ぎという立ち位置に回った人。敵を騙すなら、まず味方から。

『ガイア』
・時間稼ぎの間、本物の枢機卿を探す役割を遂行した人。地下牢にロサリアも居たが、先に枢機卿の救出を優先する。地下牢の鍵は開けておいた。
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