ようやくカタルシス解消に移れるので初投稿です
8月4日追加修正
現在、モンドの人々はさらなる混乱に見舞われていた。何せ、民衆の輪を割って現れてきた人物が既にこの場にいるはずの枢機卿その人であるため。聖司1人に向けられていた罵声や怒号が瞬く間に霧散し、2人の枢機卿に注目が向かっていたのだ。
この場に最初現れた偽カルヴィンは、この現状に対して“嵌められた”と内心で悪態をつく。壊れたモンドを見せて絶望させようと考えず、さっさと殺してどこぞの発見されにくい場所にでも捨て置けばと後悔したが、時既に遅し。しかしこの状態でもまだ偽カルヴィンの勝ち目はあった。
「おや? おやおやおや? これは一体どういうことか、説明していただけますかな? 何故同じ顔をした枢機卿殿が2人いらっしゃるので?」
先ほどまで人々から敵意を向けられていた聖司は、偽カルヴィンに向けて煽るような口調でそのようなことを訊ねる。が、冷静さを崩すことなく偽カルヴィンは聖司の方に顔を動かして話した。
「これは驚きました、まさか態々似たような顔の人物を持ち込んで――――」
「お前じゃない。もう1人の方に言っているのだが?」
「……私に言ったのでは無いのかな?」
「あぁ、すまんな。お前ではなく、そちらの枢機卿殿の言い分が聞きたかっただけだ。もしや自分に向けて言ってるとでも思ったか?」
聖司は偽カルヴィンに向けて、ニヨニヨとあくどい笑みを浮かべてそのように言う。揶揄われていると偽カルヴィンがそう判断すると、軽い咳払いをしてその空気を流した。偽カルヴィンが発言を止めたことを確認すると、聖司は改めて本物の枢機卿に向けて質問を投げかける。
「では改めて、枢機卿殿。何故この場に、同じ顔をした人物が2人存在しているのだろうか? 正直に、答えてもらいたい」
「────そこにいる私が偽物であり、新種の魔物が化けた姿であるためだ」
ガイアに支えられてる本物のカルヴィンがそのように答えたことで、モンドの人々は益々混乱した。ざわざわと不穏と疑念が交じり合う声が錯綜するが、構わず本物の枢機卿は続けて答えていく。
「私が出会った当初、そこの偽物は龍災の折にシスターの1人に化けていた。そいつと出くわした途端、正体を現し気絶させられ、気が付けば私に化けた魔物はこのモンドを滅ぼすために暗躍していた……その間、情けないが私は地下牢で閉じ込められていた」
「ありがとうございます、枢機卿殿。で、そこの偽物は、何か言い分でもあるか?」
ここで偽カルヴィンは、聖司が呼び方を分けていることに気付いた。だからなんだ、とその思考を一蹴して事も無げにその口を開き、嘘をつく。
「言い分も何も、そこの男の言うことが出鱈目であると考えなかったのかね? 私はモンドの為に「やれっ!」」
突然、聖司が偽カルヴィンの言葉を遮ったかと思いきや、偽カルヴィンの頭上から雷撃が発生した。時間にして一秒にも満たない時間ではあったが、偽カルヴィンの体内に雷元素が確かに宿った状態に変化する。
「何をっ!?」
「ガイア!」
「あいよっ!」
聖司の合図に合わせて、本物の枢機卿を支えていたガイアが氷元素を宿した球体を偽カルヴィンに向けて放った。そこで超電導反応が起こり、偽カルヴィンの防御性能が低下したタイミングで、また聖司は合図を叫ぶ。
「今ッ!」
それと同時に、偽カルヴィンの頭上から2つの影が飛来した。上空、風神像の手の平で待機していたディルックと蛍が同時に偽カルヴィンに斬撃を加え、その体を仰け反らせながら偽カルヴィンは、人狼のような正体を露にする。
「バケモノだあああああ!?」
誰かの叫び声が響き渡った途端に、民衆の輪が一斉に崩壊し蜘蛛の子を散らすように逃げていった。この世界に産まれた人間にとって、魔物とは恐れる対象。決して物珍しさにかまけて自らの命を犠牲にはしない判断を下せられる。
故に、人狼が何かを言おうとしても、その言葉に全く耳を貸さない状況となったのだ。やがて民衆は殆ど消え、残されたのは冒険者や騎士団関係者のみ。途端に扇動対象が居なくなったことで形勢は逆転した。
「どうやら上手くいったようで何より、だな」
「バ、馬鹿ナッ……何故!?」
「ディルック、奴の口に剣を突っ込ませろ」
「ああ」
ディルックはその通りに、人狼の口に剣を突っ込ませて喋ることが出来ないようにさせる。その状態になったことで改めて聖司はその新種の魔物────ウルフメギドに向かって語り始めた。
「何故、こうも簡単に化けの皮が剝がれたのか? 総評して言うなれば、お前は俺たちの策に嵌った。ただそれだけだ、国や民を巻き込んだ化かし合いにお前は負けたのだ」
手で狐の形を作り、聖司はそれを見せつける。ディルックや蛍は自身の耳に詰め込まれた耳栓を見せびらかし、それについても説明をした。
「お前の能力の発動条件が、お前の嘘を聞かせるという方法であろうと目星はついていた。であれば、予め協力者には耳栓をしてもらっていたのだ。とはいえ耳栓をしていても聞こえるものは聞こえてくるからな、合図を出すまで常に両手を使って耳を塞いでもらっていたがな。では改めて、観念してもらおうか、バケモノ」
啖呵を切った聖司に続くように、広場に居る皆がそれぞれの得物を顕現させて敵意を向ける。今まで散々モンドを操ったことに対する報復がウルフメギドに待っていたが、やけに冷静さを保っているようにも見えていた。
何か見落としている、そのように考えた時点でウルフメギドは行動を起こした。そして本来聞こえるはずの無い声が、この広場に居る全員の耳に届く。
「カミツカサ セイジハ、敵ダ! 殺サナケレバナラナイ!」
「なっ!? 口を塞いでいた筈────」
突如、ウルフメギドがこの場に居る全員に嘘を吹き込んだ。喋られないように口に大剣を突っ込んでいるにも関わらず。これにより全員がウルフメギドの洗脳下に堕ちた……たった1人の敵意を向ける対象を除いて。
「セイ、ジ……逃げ」
「ちいっ、最後の最後で!」
「ハハハハッ! 最後ニ騙サレタ気分ハドウダ!? デハナ愚カナ人間共ヨ!」
差し込まれた大剣を外し、ウルフメギドはその広場から退場していく。追いかけようと試みたが、敵意を植え付けられたディルックに止められた。周囲を見回せば辺りには武器と敵意を向けている者たちによって囲まれている。
「これは、正直不味いか……!」
「何をしている、皆!?」
と、そんな聖司のピンチに駆けつけてくる者が1人。包囲網をくぐり抜け、彼のもとにジンが駆け付けてきた。
「ジン! すまない、助かる!」
「何がどうなっている? 皆は何故セイジ殿を?」
「奴に一杯食わされた結果だ、まさかあの風貌すら偽物だったとは……!」
「退い、て、ジン! そいつは、モンドの────ちが、違う!」
「蛍殿……! くそっ、逃げた彼奴を何とかせねばならんというのに!」
あのウルフメギドの嘘を嘘とわかっていても、肉体や思考がその嘘で塗りつぶされていく。そんな彼らに包囲されていく中、その広場に柔らかな音色が風と共に訪れた。その音色は広場に居る全員に安らぎを与え、心穏やかにさせるような、そんな音色。
奏でられていくその演奏に聴き入っていると、敵意を向けていた筈の人々は力が抜けたのか、膝から崩れ落ちていく。その演奏が終わった頃には、全員の洗脳が解けていた。
「これは……」
「────風の神の御加護、といった所か。ありがとう、ウェンティ」
聖司がそのように礼を言った直後、風がある方向にのみ流れ始める。そよ風は常にモンド城の城門方向へと流れており、まるでそこに向かっている事を示しているかのようであった。
「俺は奴を追う、ジン殿は皆のことを」
「いや、ここは私に任せてくれ。モンドを危機に陥れた相手を放っておく訳にはいかない」
「なっ、おい待て!」
そう言ってジンは風元素の力を使い、颯爽と向かって行った。聖司の制止を聞くことなく向かったが、このままではジンの身が危ないことになりかねない。どうしたものかと悩んでいた所に、聖司の背中をディルックが押した。
「ディルック?」
「行ってこい、僕らはもう大丈夫だ」
「本当にか?」
「あぁ、それに洗脳されたとはいえ君と戦った訳じゃないから特に何ともない。僕らはこれから城内の混乱を収めながら本を回収していく、君は君のやるべき事をやってくれ」
それを聞いて何も言わずに首肯した聖司は、そよ風の行く方向へと踵を返して突き進む。高低差のある場所も難なく降りていき、聖司は1度モンド城の裏口から外へと出ていきソードライバーを顕現させ腰に巻き付けた。
そよ風の導きに従って、ジンは1人モンドの地を駆けていく。そのまま進んでいくと、そよ風は千風の神殿近くにあるヒルチャールの集落で消え去り、この場所にウルフメギドが居ることを表していた。
しかし集落の中にはヒルチャールの群が跋扈しており、その中の1体がジンを見つけたことによって、全ての個体がジンを認識し戦闘態勢に入る。
「邪魔をするな!」
風元素の力を解放し、ジンはただ1人でヒルチャールの群れと対峙した。向かってきた斧持ちのヒルチャール暴徒の攻撃を避け、斧を足場にして飛び上がり脳天に剣を突き刺して塵へと変える。着地した隙を狙って投擲された炎スライムや放たれるクロスボウの矢をも避け、接近してただ一刀のもとに斬り捨てた。
襲いかかってくるヒルチャール共の攻撃を付かず離れずの所で躱し、ある程度固まらせると風の力を使い敵を浮かび上がらせ引き寄せると、風を纏った突きを放つ。落下地点まで走り抜け、地面に到達する前にヒルチャール共を斬り伏せて塵に変えて殲滅を完了した。しかし、目的であるウルフメギドの姿はどこにも見当たらない。
「一体、魔物は何処に……」
「うぇええええん!」
「ッ、子ども? こんな所になぜ」
ジンは本来有り得ない場所に居るであろう子どもの声を聞いて、疑うよりも先に声のする方向に向かっていた。そこには確かに泣きじゃくる子どもの姿があり、彼女はその子どもに声をかける。
「よしよし。君、もう大丈夫だ。すぐにモンド城に戻ろう」
「うぇえええええん!」
「大丈夫、大丈夫だ。もう安心して良いよ」
しかし子どもは泣き止まず、はてどうしたものかと考えていると、不意に背後から視線が向けられる。収めた剣のグリップに手をかけ振り向くと、そこには両手を小さく挙げて1歩下がった聖司の姿があった。
「セイジ殿? なぜここに?」
「貴殿が心配で追ってきたんだ。向こうの様子は特に問題なかったのでな、こちらを優先したのだ」
「そうか、ああでは少し頼まれてくれないか? この集落に迷い込んだ子どもが居るんだが、私はあの新種の魔物を追わねばならないから、この子を連れて行ってもらえると助かるのだが」
「……子ども? どこに居るのだ?」
「いや、子どもならここに」
ジンが子どもの居る場所へと視線を移す。が、そこに居たのは子どもではなく、1体のヒルチャールの姿であった。
「なっ?! いつの間に────ぐあっ!?」
「全く、こんな簡単な事にも騙されてくれるとはね。やりやすくて助かる」
ヒルチャールの姿に驚き下がったジンの首根っこを掴み、持ち上げる聖司の姿をしたウルフメギドは、そのままジンを岩壁に向かって投げ飛ばす。投げ飛ばされたジンは岩壁にぶつかり、肺の中の空気が全て吐き出され咳き込んだ。
聖司の姿をしたウルフメギドは先程まで人間の子どもの姿であったヒルチャールを殺して塵に変えると、ゆっくりとした足取りでジンに近付き悪どい笑みを浮かべながら口を開く。
「本当に馬鹿な女だな、この場に居る人間のガキなんて普通は警戒するもんだ。とんでもなく慈悲深いことで」
「きっ、さま……! 卑怯な真似を!」
「その通り! 俺は嘘を操り、人を騙し、全てを嘘で塗り替える! 卑怯、卑劣、非道なんでもごされってな! だがこんな嘘に簡単に騙されるテメェも悪いんだぜ? もっと疑ってかかっていれば、こんな傷を負わずに済んだのによぉ!」
「おごっ!?」
ウルフメギドはジンの腹を蹴り、彼女の体内から空気が吐き出された。想像だにしなかった痛みを与えられても、何とか耐えようとしていたジンであったが、ウルフメギドは彼女の髪を掴み無理やりに立たせると前蹴りをして岩壁に突き飛ばす。
「お前1人で俺の相手が務まるわけねぇだろ馬鹿がよぉ!」
反動で前のめりになったジンの髪を掴み、顔を上げさせたあとウルフメギドが彼女の頬に向けて拳を1発叩き込んだ。しかしメギドの一撃は神の目を持つ相手でも致命傷になりかねないため、じっくりと甚振るために敢えて威力を抑えた一撃にしている。
「神の目を持つ者だろうと、俺をなんびとたりとも止められる事は出来ない! 圧倒的な力の差があるからなぁ!」
殴る、蹴る、首を絞め、投げる。徹底的な攻撃がジンに振りかかり、一方的な暴力が行われていた。やがて満足したのかウルフメギドは攻撃をやめて、ジンに背を向けて3歩ほど離れたあと高らかに言う。
「ファデュイの望みを叶え、モンドを掌握する作戦は失敗したが、まだ終わっていない! 今ここでお前を殺し、俺が成り代わることで先ずは西風騎士団を掌握する! そしてもう一度国のトップに成り代わり、当初の目的を遂行する!」
高笑いをしながらウルフメギドはゆっくりと体を振り向かせながら、右手をメギド本来の爪を持つ手に変化させ構える。勝ちを確信した笑みを向けながら、ウルフメギドは彼女に訊いた。
「最後の遺言ぐらいは聞いてやる。命乞いの台詞は用意してるか、間抜けな代理団長サマ? アッハハハハ!」
ウルフメギドの嘲笑う声が響く中、ジンはゆっくりと剣を杖代わりにして立ち上がり、頭や口の端から血を流しながらウルフメギドを睨みつけ、言葉を紡ぐ。
「出来るものなら、やってみろ。西風騎士団は、そう簡単に屈しはしない」
「あぁっ?」
「もうお前の手品は皆が理解した。ならば、たとえ私が死んでお前が私に成り代わろうとしても、必ず正体を突き止めお前を……必ず、倒す!」
「────良いぜぇ。なら、その無駄な理想を抱いたまま死ね!」
ウルフメギドが傷だらけの彼女に向かって走ろうとしたその時、その場から誰の耳にも聞き覚えのない音が響いた。その音に気を取られてどこからしているのか探るために、ウルフメギドは辺りを見回し隙を晒した。
その隙を狙うように、聖司の姿に化けたウルフメギドに向かって炎の弾が発射され、ウルフメギドがあらぬ方向へと吹き飛ばされていく!
「ぎゃあッ!?」
「これは……」
聞きなれぬ音がドンドンと近付き、高低差のある地面を飛んでディアゴスピーディーに乗った仮面ライダーセイバーが現れた! 着地と同時に車体をウルフメギドに向けると、立ち上がったメギドが彼に向かって問う。
「なっ、誰だ貴様!? 俺の邪魔をしやがってェ!」
「────邪魔だと?」
仮面越しにドスの効いた声が発せられたセイバーはディアゴスピーディーを降りて、ソードライバーに差し込まれたライドブックを引き抜き変身を解除する。本のページのような物が霧散した所に現れたのは、紛うことなき本物の神官 聖司の姿であった。
「なっ!?」
「本物の、セイジ殿?」
「散々モンドという国を害し、剰えジン殿を殺そうとしていたお前が、俺に邪魔と言ったのか? 嘘つきのメギド風情が……!」
「な、何故その名前を知っている?!」
「メギド……?」
「すまぬ、ジン殿。あとで説明をする故、今はそこで休んでいてくれ」
聖司は改めて、ブレイブドラゴンとストームイーグルのライドブックを起動させ、ソードライバーに差し込む。
【ブレイブドラゴン!】
【ストームイーグル!】
「待ってくれ、私も……っ!」
「怪我人に任せられる訳無いだろう。それに、メギド退治は今は俺の役目だ。安心して任せてくれ」
聖司は彼女に向かってそのように優しく語りかけたあと、もう1冊のワンダーライドブックを顕現させた。その本の色は黒の色味を含んだ3冊目の赤。彼はその本を起動し、表紙を開く。
【西遊ジャーニー!】
【とあるお猿さんの冒険記、
摩訶不思議なその旅の行方とは……】
そして3冊目の表紙を閉じてソードライバーのレフトシェルフに装填すると、ポップ調の待機音が流れ始める。ゆっくりと聖司は火炎剣烈火のグリップを握りしめ、勢いよく聖剣を抜刀する!
【烈火抜刀!】
3冊の赤き本を背後に顕現させ、龍と大鷲、筋斗雲が聖司の身に纏い炎の斬撃が仮面を形成した。
ワンダーコンボと呼ばれる形態、仮面ライダーセイバークリムゾンドラゴンへと変身を遂げた聖司は、己に化けているウルフメギドへと剣を向ける。
「さて、お前の嘘を暴かせてもらおうか!」
【後書きキャラ紹介】
『神官 聖司(オリ主)』
・嘘つきを相手に嘘で相手し、危うくメギドを逃がしそうになるも多くの手を借りて漸く倒す機会を得た。怒りの炎を燃やすかのように、ワンダーコンボであるクリムゾンドラゴンになってウルフメギドと対峙する。
『ジン』
・広場の時は別の場所に待機して、不測の事態に備えてもらっていた。ウルフメギドに一方的ではあったが、その前にヒルチャールの群れを1人で片付けている。