僕は無敵の結界術士 〜素敵なお足の女神様に頼まれたとあっては、転生するのもやぶさかではないです(ぺろぺろ)〜   作:龍々山ロボとみ

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第094話・暴飲暴食の魔剣士

 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

 

 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……、ごくん。

 

 手近なベンチに一緒に腰掛けて、一心不乱に食事をしている様子をしばらく横で見ていましたが、これはすごい。

 

「ふぅ、すまない。助かった。アナタからの恵みに、心からの感謝を」

 

 僕が買った揚鶏四十八個のうち四十五個(僕は二つ、メラミちゃんも一つ食べました)と、残っていた串肉四十本近くをペロリと食べた灰色の髪の女の人(お腹がパンパンでまん丸に膨らんでます)が、厳かに手を合わせて頭を下げました。

 

 明らかにこの人の胃袋のサイズを超えた量だったと思うんですけど、いやぁ、入るものですね。

 

 隣で見ていたメラミちゃんもドン引きしていますが、まぁ、そういうこともあるでしょう。

 

 僕がお水の入った結界水筒を渡すと静かに喉を潤し、水筒から口を離したところで自己紹介をしてくれました。

 

「ワタシは個人で傭兵業をしているキャベンシアという。アナタの名は?」

 

 キャベンシアさん、という名前みたいですね。

 傭兵、というと、戦いが専門の方なのでしょうか。

 

 確かに背丈ぐらいの長さの大剣を背負っていました(今はベンチに立てかけて置いています)し、ボロボロのマントも歴戦の雰囲気を漂わせています。

 

 過酷なお仕事をされているので、お腹もたくさん空いてしまうんでしょうかね。

 

「僕はナナシです。今は冒険者をしています。隣は同じパーティーで冒険者活動をしているメラミちゃんです」

 

「よろしく。……なぁアンタ、底なし沼みてーな食欲してるな。それはやっぱりその剣のせいか?」

 

 メラミちゃんは、キャベンシアさんが背負っていた剣を見ながら聞きました。

 

 うん。まぁ、聞きたくなる気持ちも分かります。

 

 なにせキャベンシアさんの大剣、見るからに重々しい魔力を帯びています。

 

 その場にあるだけで周囲の空間が歪んでしまいそうなくらいの重みです。

 

 しかもキャベンシアさんのお腹が膨れれば膨れるほど、その重みを増していく感じがしていて、まん丸お腹になった今はかなりの魔力の圧を感じます。

 

 これは下手すると、紅ティラ君とかに匹敵する魔力の圧です。

 普通の武器ではあり得ないと思います。

 

「いや、たくさん食べるのは昔からなんだ。……ただ、確かにこの剣は、ワタシが満腹のときはよく切れるようになる。そしてたくさん切っているとすぐにお腹が空くから、よりたくさん食べなくてはいけなくなっている」

 

「……ひょっとしてアンタ、暴飲暴食の魔剣士か?」

 

 と、メラミちゃんが問うと、キャベンシアさんは頭上に疑問符を浮かべて首を傾げました。

 

 なんですかその、絶妙に締まらない異名は。

 

「今年の春先だったかな。隣のサウンザード法国から凄腕の剣士が帝国に来たって噂が流れてたんだ。乳白色に近い明るい灰色の髪と、薄い水色の瞳の女で、バカデケー大剣を背負っているって話だった」

 

 ふむ、その特徴なら、確かにキャベンシアさんと一致しますね。

 

 そこまで聞くとキャベンシアさんも「ああ、それならたぶんワタシだ」と言いました。

 

「で、元々はサウンザード法国軍にいたんだが、行軍の兵站にも支障が出るレベルであまりにもアホみたいに大量の飯を喰うからクビになったとかなんとか。噂話を聞いた時は、んなこたねーだろって思ってたけど、この食べっぷりを見るとまるきり嘘ってわけでもねーのかな」

 

「いや、確かにワタシは人一倍ご飯を食べるが、さすがに兵站に支障を出したことはない。足りなければ獣を狩ったり魚を獲ったり木の根を掘って食べたりしていたし、他の皆の迷惑にはならないように気をつけていた。……ただなぁ」

 

 キャベンシアさんは困ったように眉尻を下げました。

 

「ある時、自分の部隊の食糧保管量があまりにも帳簿と合わないとかで、査察が入ったことがあったんだ。……そしたら知らない間に、ワタシが勝手に隊の食糧を食べたからだという話にされていて、弁明の機会もなく懲戒免職になってしまった。しかしあれは、今にして思えば当時の部隊長やらが食糧を横領して横流ししていたんだろうな。ワタシは濡れ衣を着せられたんだ」

 

 ほほう、そんなことがあったんですね。

 

「それから、行くあてもないし帰る田舎もなかったから、仕事のかわりに食べさせてくれるところを求めて国内をあちこちしていたら、気がついたらこの国に来ていた。たぶん一か月ぐらい馬車に揺られながら襲ってくる獣を狩って焼いて食べてた時期があるから、そのときに国境を越えたんだと思う」

 

「いや、あやふやすぎるだろ……。自分の行き先も分からずに馬車に揺られてたのかよ」

 

「満腹には程遠かったが、それでも比較的よく食べさせてくれる雇い主だった。食べた分だけ戦って馬車を守るというのが契約だったから、それ以外のことはあまり興味がなかったんだ」

 

 ワタシの先天スキルは「暴飲暴食術」という。

 と、キャベンシアさんは言いました。

 

「たいていのものは食べたり飲んだりできるようになるスキルだ。かわりにとてもお腹が空くから、ワタシは美味しい物をお腹いっぱいに食べるために生きている」

 

 なるほど。

 先ほどの締まらない異名は先天スキル名が由来なのですね。

 それにしても、あれですけどね。

 

「ワタシはあまり得意なことがないが、それでも戦うことはできる。だから傭兵をしているし、たくさんご飯を食べさせてくれるならどんな相手とでも戦う。たくさん食べれば、それだけ強いやつとも戦えるしな」

 

 そう言うとキャベンシアさんは立ち上がり、大剣を背負い直しました。

 

「今日は本当に助かった。ありがとう、ナナシ。このグラ剣も、久しぶりによく切れると思う。今日明日でたくさん稼いで、いろんなところのツケを返してから新年を迎えるようにするよ。それとまた会えたら、今度はワタシがご飯をご馳走する。約束だ」

 

 キャベンシアさんは僕と握手をしてから、静かな足取りで人混みに消えていきました。

 

「変わったやつだなぁ」

 

 メラミちゃんは呆れたように言いました。

 

「けど、強かったですね」

 

 僕が言うとメラミちゃんも「まあなぁ」と頷きます。

 

「あれたぶん、満腹度に応じて強くなるタイプですよね。しかもあれだけ食べてまだ満腹じゃないのに、おそらく今のキャベンシアさんならメラミちゃんを片手で転がせるのでは?」

 

「持久戦に持ち込んで空腹にさせてやれば勝てると思うが……、そこまで長引かせるためのプランが今んとこ思い浮かばねぇな。あの大剣も色々厄介そうだしよぉ。お前の結界術だとどうだ?」

 

「んー。全力強度の結界で閉じたらなんとかなると思うんですけど……、逆に言うとそこまでしないと不安が残りますね。万が一を考えると、中途半端な強度の結界を使う気にはなれないです」

 

「そうかぁ」

 

 僕とメラミちゃんは、腹ペコ凄腕剣士との出会いに、あれやこれやと意見を出し合ったのでした。

 

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