僕は無敵の結界術士 〜素敵なお足の女神様に頼まれたとあっては、転生するのもやぶさかではないです(ぺろぺろ)〜   作:龍々山ロボとみ

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第097話・伝えること、向き合うこと、決意すること

 

 イェルン姉さんのお顔を見ると、なんだか青ざめているように見えます。

 僕は少しだけ、心がざわざわとしました。

 

「はい。どうやら僕は、迷宮都市に行かねばならないようです」

 

「帝都での用事が終わったら、またブライト辺境伯領都に戻るんじゃなかったの……? 迷宮都市に行くって……、どれぐらい居るつもりなの……?」

 

 ……分かりません。

 迷宮都市でどれだけ頑張れば僕の目的が達せられるのか、現時点では全く不明瞭です。

 

「魔石は、ダンジョン産のモンスターの中には必ず一つは入っておる。深い階層のモンスターのものなら、それなりに良い蓄魔石として使えるじゃろう」

 

 ほほう。そうなのですね。

 

「そしてダンジョンクリア達成時には、スキルオーブをもらえると言われておる。迷宮都市のダンジョン規模なら、もしクリアできれば第七位階か、ひょっとしたら第八位階の物がもらえるじゃろうて」

 

 なるほど。

 それなら。

 

「イェルン姉さん。僕は迷宮都市のダンジョンモンスターを倒しまくって魔石を集め、最深層まで潜ってダンジョンクリアすることにします。だからそれまでは迷宮都市にいます」

 

「そ、それって何年かかるのよ! それに迷宮都市のダンジョンって、たしかとても危ないって話じゃなかったっけ!? ねぇ、ミーシャ、そうよね!?」

 

 イェルン姉さんの言葉に、ミーシャ姉さんが頷きました。

 

「……迷宮都市のダンジョン、……通称名『ゲヘナダンジョン』は、帝国建国以来いまだ誰もクリアしたことのないダンジョンです。公式記録での最大到達階層は五十五階層。予想される最深層は……第百階層、です」

 

「それってつまり、一番深く潜った人でも半分ぐらいが限界だったということですか?」

 

 ふぅん、そうですか。

 

「まぁけど、なんとかします。僕はなんとしてもお嬢様の元に帰らねばなりませんので」

 

「な、ナナシちゃん! 本気なの!? 本気でそんな、地獄の底を目指すようなことをするの!?」

 

 はい、イェルン姉さん。

 僕はいつだって本気で、全力ですよ。

 

「〜〜〜〜っ! や、やめようよナナシちゃん! やめよう! そんな、危ないところなんて……! 行っちゃダメ!!」

 

「ちょっと、姉さん……」

 

「わ、私だって薄々分かってるけど! 私は別にナナシちゃんに何かしてあげられるわけでもないし、なんならいつもナナシちゃんが私のことを世話してくれるけど! 酔い潰れて寝たら毎回着替えさせてベッドまで運んでくれて、部屋の掃除してくれて朝ごはんまで作ってくれてるけど!!」

 

 いや、さすがに頼りすぎでしょ……、とミーシャ姉さんがツッコミました。

 

「ナナシちゃんのいうお嬢様が、ナナシちゃんにとって本当に大事な人なんだって私でも分かるし、そのために頑張ってるのも分かるけど……! だけど私は、ナナシちゃんがどんどん危険なことに挑んでいくのを笑顔で見送るなんてできないのよ……!」

 

 ……イェルン姉さん。

 

「依頼のたびに凄いことをしてきて、とうとう皇帝陛下に呼ばれるようなことまでしちゃって! ナナシちゃんが強くて凄いのは本当によく分かるけど! だけどそれでも、私はいつもナナシちゃんが怪我をしたり危ない目に遭ったりしてないか心配で、心配で、それはずっと変わってないの!」

 

 イェルン姉さんはもう、泣きそうな表情をしています。

 

「今回のも、ナナシちゃんならもしかしたら、本当にゲヘナダンジョンをクリアしちゃうかもって思うけど、それでも潜ったっきり帰ってこなかったらどうしようって心配になるの! 帰ってこれてもそのまますぐに元のところに戻っちゃうなら、もうほとんどナナシちゃんとお話できる時間が残ってないんじゃないかって、不安になるの!! そんなに生き急がなくてもいいじゃない! まだナナシちゃんは子どもだよ!? そこまで命懸けで一生懸命にならなくたって、いいじゃないのよ!!」

 

 ……イェルン姉さんの気迫に、僕は思わず深呼吸をしました。

 

 この言葉を、気持ちを、蔑ろにしたままではいけないと思ったからです。

 

 ここでイェルン姉さんを振り切って迷宮都市に行くのは簡単なことでしょう。

 

 しかしそれをしてしまえば。

 僕はきっと、女神様やお嬢様に顔向けできなくなってしまうと、そう感じました。

 

 だからこの場できちんと向き合います。気持ちには気持ちでぶつからなくてはなりません。

 

「……イェルン姉さん。まずは謝らせてください。……ごめんなさい、不安にさせて。いつも心配させて、ごめんなさい」

 

 静かに頭を下げて、それからゆっくりと顔を上げてイェルン姉さんの目を見ます。

 

「僕はイェルン姉さんを不安にさせたり、心配させたりしたいわけではありません。イェルン姉さんや、他の皆さんのことを蔑ろにして、自分のためだけに動きたいわけでもありません」

 

 ぐすっ、とイェルン姉さんが鼻をすすります。

 

「僕がこうしてやりたいことに取り組めるのも、皆さんが僕を助けてくれるからです。どこの誰とも分からぬ僕を皆さんが暖かく受け入れてくれたから、僕は全力を出して物事に取り組めるのです」

 

「…………うん」

 

「僕は、イェルン姉さんが、本当の姉のように僕のことを心配してくれることが、とても嬉しいです。僕には兄弟姉妹がいません。それどころか、産みの親の顔を見たことさえありません。家族の暖かさというものには、ほんの最近まで触れたことがありませんでした」

 

 イェルン姉さんが息を呑みます。

 ミーシャ姉さんも、わずかに目を見開きました。

 

「僕のお嬢様は、そんな僕のことを、初めて迎え入れてくれた人です。失礼なことをしてしまった僕を許してくれて、いろんなことを教えてくれた人です。お嬢様といるととても楽しくて、お嬢様のためならどんなことだってやり遂げられると、そう思える人なんです」

 

 そんなお嬢様を、今回のことで、おそらくたくさん不安にさせてしまっていると思います。

 

「お嬢様だけではありません。他にも一緒にいてくれた人たちがいます。皆さんとてもよくしてくれた、大切な人たちです。僕は、イェルン姉さんが感じているような不安を、ずっとその人たちに抱かせている状態なのです。それは、良くないことだと思うのです」

 

 だから僕は、なんとしてもお嬢様の元に帰らなくてはならないのです。

 

「イェルン姉さんが僕のために怒ってくれたことは分かります。イェルン姉さんの気持ちも、分かります。ですが僕は、お嬢様たちのこともイェルン姉さんたちと同じくらい大切に思っています。比べることはできません。僕は大切な人たちのために、全力を尽くさなければならないのです。手を抜くことも、見て見ぬふりすることもできません」

 

「……ナナシちゃん」

 

「お願いします、イェルン姉さん。僕を迷宮都市に行かせてください。危険なのは百も承知です。けれど必ずダンジョンをクリアしてきます。そして必ずイェルン姉さんのところにも帰ってきます。心配はさせてしまうと思いますが、イェルン姉さんを悲しませるようなことには決してしないと、僕の女神様に誓います」

 

 だから、どうか……!

 

 僕はこれでもかと頭を下げます。

 

 イェルン姉さんがハンカチで目元を拭きました。

 黙って話を聞いていた教授が、所在なさげにアゴヒゲを擦ります。

 

 と。

 

「……ナナシ様が迷宮都市に行かれるのであれば、迷宮都市の冒険者ギルドに通達を出さなくてはなりませんね」

 

 ミーシャ姉さんが言いました。

 

「ナナシ様は帝国でも数少ないAランク冒険者です。当然、ギルドとしても便宜を図る必要があります。居住家屋や必要物資の手配、ゲヘナダンジョンの情報収集、他のダンジョンアタッカーへの協力要請、……ああ、そうだ。ギルド員の人員配置も必要になるかと」

 

「み、ミーシャ……?」

 

「ゲヘナダンジョンの入出場管理は冒険者ギルドと帝国軍の都市駐留兵が行っています。冒険者であるナナシ様がゲヘナダンジョンに潜るためには冒険者ギルドを通じて手続きをする必要がありますが、……であれば、面識があって話しやすい人物のほうが良いでしょう。……と、いうわけで」

 

 ミーシャ姉さんが、イェルン姉さんの肩をポンと叩きました。

 

「私たちも冒険者ギルド職員として迷宮都市に行くよ、姉さん。ゲヘナダンジョンクリアという前人未到の大偉業を達成できるように、私たちでナナシ様を全面的にサポートするの。……そうすれば、遠いところで心配しながら待つよりは、いくらかマシだと思うけど」

 

「へ……? ……はっ!?」

 

「支部長と副支部長代理にはちょっと手間をかけるけど……、まぁ、仕方がないわよね?」

 

 呆気に取られた様子のイェルン姉さんを横目に、ミーシャ姉さんが僕に向けてウィンクをしてみせたのでした。

 

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