島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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 藤田ことねをTrueエンドまでプロデュースして、気付けば書き上がっていました。対戦よろしくお願いします。みんな学園アイドルマスターをやれ。



01 - スカウト前夜、秘密のバーにて

 都内某所。夜空に月が輝く午後10時。

 

 ここまで走ってきた息を整えてから、スーツ姿の女性──島村卯月は、隠れ家のように佇む行きつけのバーに足を踏み入れた。

 

「あ、卯月ちゃん。今日は遅かったね」

 

 からんと鳴ったドアベルに振り向いた顔馴染みのバーメイドが、卯月に優しく声をかける。

 

「今日は仕事が多くって……気付いたらこんな時間になっちゃった」

「お疲れさま。仕事ってことは、ついに卯月ちゃんもプロデューサーとして本格始動?」

 

 その問いかけに頷く卯月。

 

 高校2年生、17歳で華々しくデビューを飾って以来、島村卯月という少女はオールマイティなアイドルとして芸能界の第一線で活躍し続けてきた。王道のアイドル活動に始まり、バラドルとして、アーティストアイドルとして、さらにはCMやドラマへの出演、はたまたイベントの主役から司会業に至るまで、やれることは全てこなしてきて、気付けば10年の年月が過ぎていた。

 

 いつのまにか彼女は少女と呼ばれる年齢ではなくなっていたし、かつての駆け出しアイドルは今や日本を代表するトップアイドルの一人とまで言えるほどの成長を遂げていた。

 

 27歳。芸能人としてはむしろこれからが最盛期と言える年齢だし、アイドルとしてもまだまだやっていけることは疑いようがない。仮にアイドルとしての活動を終わらせるにしても、彼女ほどに芸能界での実績を積み重ねていれば、アーティストや俳優として本格的な転身を遂げることも決して難しくはなかった。

 

「……卯月ちゃんが引退しちゃったこと。わたしは、今でも勿体ないなって思ってるよ」

 

 卯月のコートを預かったバーメイド──小日向美穂が言葉を零す。

 

「それはお互い様だよ、美穂ちゃん。だから言いっこなし、でしょ?」

 

 美穂はかつて卯月と共にアイドルユニットを組み、同僚として、また無二の親友として切磋琢磨する関係性だった。しかし彼女は3年前にアイドルを引退。この小さなバーを開店し、店主兼バーメイドとして第二の人生を過ごしている。

 

 そして卯月も、デビュー10周年を迎えた今年、アイドルとしての大きな活動に終止符を打った。そして新たに志した夢こそ、アイドルプロデューサーとしての道。そのために、国内最新にして最大のプロデューサー養成機関であるところの、初星学園プロデューサー科へと入学したのだ。

 

「……そうだったね。ごめん、なんだか暗くしちゃって。最近はどう?」

 

 キープのボトルを取り出しながら問う美穂に対して、卯月は笑顔を崩しつつバーカウンターにもたれかかる。

 

「覚えることが多くて大変だよぉ……プロデューサーっていう職業のこと、私は全然わかってなかったんだなって。それに同じプロデューサー科の人たちと話してても、ちょっと距離を感じちゃうし。同年代の人も結構少なくて、なんだか浮いちゃってるかなあ」

「もし同年代の人たちばかりだったとしても、卯月ちゃんが同じ学校の同じ教室にいたらどうやったって浮くと思うし、周りは浮かれると思うよ」

 

 至極当然のツッコミに、ますます項垂れる卯月。

 

「普通なことがコンプレックスで、それを乗り越えてからは普通を持ち味にしてやってきたんだけどなあ……」

「押しも押されもしないようなトップアイドルの言っていいことじゃないよ。『普通』だなんて、卯月ちゃんのデビュー当時を知ってる人たちくらいにしか伝わらないし」

「元アイドルね、元」

 

 卯月の訂正を半分聞き流しつつ、美穂は続ける。

 

「それで、肝心のアイドル科の子たちはどうなの? 初星学園卒の子はレベルが高い、って話は聞いたことあるけど……」

 

 初星学園のアイドル科に在籍する生徒たちは、入学が決定した直後から試験成績や容姿・性格などを事細かにリサーチされ、有望株にはプロデューサー科の学生からスカウトが相次ぐことになる。しかし当然ながら、芸能プロダクションのプロデューサーと違い、初星学園のプロデューサーとは学生であり、その多くがプロデュースの経験も芸能界の知識も浅く薄い。

 

 故に、経験豊富な少数のプロデューサーが有望株とみなされたアイドルと早々に契約し、平凡な成績のアイドルとプロデューサーたちが残される、というのが初星学園における基本的な構図だ。残った側のアイドルからすれば、運良くスカウトを受けたとしても、それが無名で実績の少ないプロデューサーだと良し悪しの判断がしにくい。第一印象や人柄で決め打ちする以外の選択肢が乏しいのだ。

 

 そのような環境にあって、今や国内で知らない方が珍しいほどの元トップアイドルが、突然プロデューサー科の学生として初星学園にやってきた。

 

 学園の内情にさして詳しくない美穂でも、学園内における卯月の立場は容易に想像できた。文字通りの選り取り見取り、誰でも好きな子を選んでスカウトできるような状況に違いない。にもかかわらず、卯月本人から初星学園での話を聞き及ぶ限り、彼女の担当アイドルの話が出てきたことはこれまで一度もなかったのだ。

 

「トップアイドルの卵は何人か見つけたよ。みんな良い子たちみたいだし、ちゃんとプロデュースできればきっと大成できそう。でも……」

「何か問題があったの?」

「ううん、問題があるのは私の方。……私とか、美穂ちゃんとか、いろんなアイドルのことを間近で見てきたから、どうしても私の中に『トップアイドルとしての理想像』みたいなものが凝り固まっちゃってるような気がして」

 

 溜息と共に吐き出された卯月の悩みに、頬に指を当てて少し考える美穂。

 

「卯月ちゃんの中にある理想像を、その子たちに押し付けてしまいそうってことかな」

「そういうこと。だから、初めて担当する子は私がこれまであまり触れてこなかった部分で活躍できそうな子がいいのかなって思ってるんだ」

 

 差し出されたグラスを受け取りながら言う卯月に、美穂はどこか呆れたような様子を見せる。

 

「卯月ちゃんが触れてこなかったアイドルの分野なんて、本当にあるの? なんでもそつなくこなす、自称普通の努力家な優等生さん?」

「あはは……でも、私にもあまり得意じゃないことはあるよ。例えば──」

「ダンス、特にキレのある動き。特にニュージェネだと、凛ちゃんや未央ちゃん任せだったことが多いでしょ」

「……やっぱり美穂ちゃんには勝てないなぁ」

 

 ウイスキーで一度喉を湿らせて、卯月は再び口を開く。

 

「今のアイドルは、私たちがデビューしたころよりもずっと、マルチなスキルが求められるようになってる。とにかくなんでも(こな)せてようやくプラスマイナスゼロ。そのうえで、独自の強みを持たないといけない」

「だからこそ、オールマイティなことを売りにしてやってきた卯月ちゃんはプロデューサーとして向いている。けれど、オールマイティで終わらないだけの強みまでプロデュースしないと、今の芸能界では活躍できない……難しいね。プランはあるの?」

「ううん、これから作るよ。担当する子の性格、長所と短所、それに目標や夢。できるだけ理解したうえで、私にやれることを全部やるつもり。少なくとも、長所はもう見えてるからね」

 

 自信ありげな卯月の言葉を聞いて、美穂はすぐに気付いた。

 

「もしかして、担当する子がやっと決まったの?」

「まだ話を持ちかけてはいないけど……でも、きっと良い返事を貰えると思う。そのための準備は済ませたからね」

「本当!? ねぇ、どんな子なの? 名前は聞いちゃダメ?」

「うーん……じゃあ、他の人にはまだ内緒ね?」

「勿論! 約束はちゃーんと守るよ」

 

 美穂の返事を聞き届けて、卯月はにっこりと自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

「初星学園高等部アイドル科1年、藤田ことねの名前を覚えておいて。絶対に損はさせないよ」

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