島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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20 - 一蓮托生のふたり

「中々来ませんねぇ、料理……」

「店内も混んでいますからね。……本当は食後にと思っていましたが、今のうちにしておくべき話をしておきましょう。つまり、藤田さんのデビューソロについての話ですが」

 

 卯月の言葉に目がきらめくことね。

 

「そうですよ、あたしのデビュー曲! どんな曲になるんですかっ!?」

「それをこれから決めるんですよ、藤田さん。……とはいえ、藤田さんの素質とデビュー曲としての性質上、ある程度ですが曲の雰囲気は定まってきます。早速考えていきましょうか」

 

 水を一口飲み、喉を湿らせてから卯月は続ける。

 

「まず、大前提ですが……アイドルとしての藤田さんの長所。世界一可愛いこと、そしてダンスが得意なことです」

「も〜、ほんとプロデューサーってば息をするようにあたしのこと褒めるんですからぁ〜♡」

「そして藤田さんの短所。歌が下手なことです」

「そうやって褒めてすぐ落とすんですからぁ……」

「渋谷さんのレッスンによる表現力の向上、そして学園での基礎技術修得の甲斐あって、以前よりもかなり良くなっていることは事実です。しかし歌唱力だけで観客を唸らせるには、歌声の安定性がまだまだ不安です」

 

 なお、凛のレッスンは単純な歌唱力の底上げというよりは、特定の曲を細かく分解し、この部分ではどう歌うべきか、その理由は何かという考察と実践を交互に突き詰めていくものだ。

 

 てっきりスパルタ的に歌を鍛えられると思っていたことねとしては意外だったが、単純な歌唱力の向上は学園のレッスンに委ねるべき、というのが卯月と凛の共通見解であるようだった。

 

「あたしがどれだけ上手くなったとして、歌うまな相手に勝てる気は確かにしませんけど……」

「将来の話はともかく、現状の実力としてはその通りです。つまり藤田さんのデビューソロにおいては、ゆっくりと曲を聴かせるような余裕を観客に与えるべきではありません」

「観客に余裕を与えないって、そんなことできるんですか?」

「楽曲そのものを激しく、かつエレクトロ的であったりロック的であるようなものにする。藤田さんのダンスパフォーマンスで熱狂の渦に叩き込む。休む暇もないようなコールアンドレスポンスを藤田さんが浴びせ続ける。はたまた、多少歌を犠牲にしたとしても『流石に仕方ないか』と観客に思わせるほどのファンサービスを藤田さんが連発する。今の藤田さんで取れそうな選択肢だけでも、これくらいはありますね」

 

 急に具体的な案がいくつも出てきて、ことねのテンションも俄然上がっていく。

 

「プロデューサー的にはどの方法が良いと思ってるんです?」

「忘れてはいけないこととして、藤田さんは可愛いことをメインでアピールしていくわけです。正統派なキュートアイドルで行くのも良いですし、コミュニケーション能力の高さを活かしてバラドル方面に振る選択や、生配信プラットフォームでファンとの距離を近づけていくネットアイドルに傾倒するなど……方向性こそ様々ですが、とにかく藤田さんは可愛いという事実をファンの皆さんに共有してもらわなければいけません。ここまではいいですか?」

「あたしも自分の可愛さには自信ありますからね! 異論ナシです!」

「であれば、デビューソロは可愛いアイドルソングにすべきです。楽曲としてのジャンルはなんでもいいですし、多少正統派を外れてもいいですが、最初は可愛い曲で攻めていくことが重要になります」

 

 そう断言する卯月だが、ことねには曖昧な疑問が浮かぶ。

 

「ん~……でもですよ。なんて言うんですかね……」

「慌てないで、ゆっくり言語化してください」

「えーと……だいぶふわっとしてるんですけど、普段は可愛いアイドルが歌う曲でも、『強い曲』ってあるじゃないですか」

「クール系で売っていない、歌唱力をアピールしていないアイドルの『強い曲』ですか」

「はい、そういう感じの……これ、伝わってますかね?」

 

 ことねの言葉を聞いて、卯月はつらつらと曲名を挙げていく。

 

「『ALIVE』『アイル』『俠気乱舞』『水中キャンディ』『Pavé Étoiles』『Ambitious Eve』『Dye the sky.』『アルストロメリア』など……どうでしょう、どれかお聴きになったことのある曲はありますか?」

「どれもこれも話題になったことある曲ばかりじゃないですか……アイドル目指すくらいですし、一応全部聴いたことありますよ」

 

 当然のようにそう言われ、目を丸くする卯月。

 

「……古めの楽曲もありますよ? 本当に全て聴いたことがあるんですか?」

「そりゃーまあ、業界研究の一環ですし? それに予定がガチガチに詰まってても、音楽はどこでも聴けるじゃないですか。歌が下手な自覚はあったのに、今考えてみれば夢を見すぎだろって言われてもしょうがないですけど……」

「……本当に、藤田さんという人は。ただでさえアイドルの才能があるのに、ますますプロデュースで楽をさせてくれますね」

「えっ、なんで今あたしそんなに褒められたんですか!? 理由の分からない褒めは嬉しい以上に怖いんですよ!?」

「理由がわからないことこそ藤田さんの美徳なので、どうかそのままでいてください。では、話を戻しますが」

 

 まったく納得していない様子のことねをスルーしつつ、卯月は続ける。

 

「こういった曲にはいくつかのパターンがありますが、全てに共通しているのは『キュートな活動で人気を集めているアイドルが格好いい曲を歌う』ことですね。つまり可愛いというイメージが既に定着しているアイドルが歌うからこそ、イメージとして『曲の強さ』が取り沙汰されるわけです。この例に限らず、とにかくどこかでギャップを与えることで強い印象が生まれ、それが巡り巡って歌への印象にまで繋がっています」

「だいたい納得できますけど、水中キャンディとかアルストロメリアはちょっと違くないです?」

「水中キャンディは、歌唱者である馬場このみさんの容姿によるギャップの要素が無視できません。アルストロメリアはキュートアイドルのデビュー曲としてはどこか意味深な歌詞が当時話題になりましたが、これも平均的なアイドルと比較したうえでのギャップと言えますよね?」

「あー……確かに、言われてみるとそうですねぇ」

「そして、こういったギャップは今の藤田さんに必要ありません」

 

 今度はことねが目を丸くする番だった。卯月の言葉はあまりにもざっくりしすぎている。

 

「必要ない、って……ないよりはあるほうが良くないですか?」

「いいえ、断言します。藤田さんは、ただひたすらに可愛いことを観客に全力でアピールするだけで戦えますし、今はまだそうするべきです。勿論これは楽曲の可愛さだけではなく、藤田さん自身の演技力、演出力、ファンサービス……その他あらゆる要素を『可愛い』に振り切る前提ですが」

「……プロデューサー、素面の真顔でそんなコトよく言えますよね」

「今は意識して表情を抑えるようにしていますから」

 

 いやそういう意味じゃないんですけど、とツッコミを入れる勇気はなかった。

 

「強烈なギャップは強い武器になります。ですが、ギャップを常用しすぎるとそれはただの通常運転です。ギャップはここぞというときに見せるからこそ強いのです。これを勘違いしたプロデュースを受けたアイドルは……」

「……どうなるんですか?」

「ほぼ例外なく潰れます。アイドルも、プロデューサーも」

 

 それまでの明るい会話とは真逆の、ぞっとするような言葉だった。

 

「よくありますよ。キャラクターを作ることとギャップを見せることを同じように考えてしまったり、一瞬の話題性に自分のアイデンティティを捧げてしまったり。アイドルに合わない靴を履かせてしまう例も、疑わずに履いてしまう例も、枚挙に暇がありません。……ですから、藤田さん」

「……はい」

「プロデュース方針で私に異議を唱えたいと思ったなら、いつでもそうしてください。私は貴女のプロデューサーですし、貴女の先輩ですが、それは私が何も間違えないという意味ではありませんから」

「……難しいことを言ってくれますねぇ。あたしのアイドル人生、プロデューサーと一蓮托生のつもりなんですケド?」

「だとしても、です。一蓮托生だとして、一緒に地獄へ行くよりは頂点に行きたいでしょう?」

 

 そんな言葉と共に少しだけ微笑んでみせる卯月。対することねは感情を口に出さず、ただ心の中にしまいこむことしかできなかった。

 

(こういうところを見れば見るほど、ますますあたしの人生をプロデューサーに賭けてもいいって思えちゃうんだけどなぁ……ま、言うだけムダだよね)

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