島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画 作:天宮雛葵
いよいよお気に入り1000件が見え、総合評価2000ptも越えておりました。……お気に入り1000!? 総合評価2000!? そんなに!? の感情で日々を過ごしております。感想も作者のメイン燃料です。些細な一言からでも大歓迎ですので、今後とも是非よろしくお願いします!
東京都江東区、有明。
東京臨海副都心の一角をなす、大型イベント施設や複合商業施設が充実した地区である。中間試験を翌週に控えた日曜日、本来であれば完全オフか、はたまた
「それにしても……藤田さん、本当に招待してもらってよかったんですか?」
「いーのいーの、チケット余ってたしさ。どうせなら興味ある人に譲った方がいいじゃん?」
まだまだ開演は先どころか、会場にすら到着していないというのに、期待の感情が抑えきれず顔に出ているリーリヤ。
「そうよ、これはことねの提案だし、権利と時間の有効活用なんだから。リーリヤもかしこまらずに堂々とすればいいのに」
「あんたに関してはもうちょっとかしこまれよ」
ことねにそう言われても聞く耳を持たず、ずんずんと前に歩いていく咲季。
絶妙によくわからない組み合わせであるし、同じ1年1組のクラスメートとしてそれぞれの交流こそあれど、こうして休日に三人だけが連れ立って外出するというのは初めてのことだ。そもそも、ことねがこうしてリーリヤ・咲季の両名と共に歩いているのには当然わけがある。
『藤田さん、もしもバースデーライブを観覧するのであれば、初星学園の友人を連れてくることは可能ですか? 誰でも構いませんよ』
『へ? 友達を連れてこいってことなら……まー何人か集められるんじゃないカナ〜って思いますけど、どうしてですか?』
ファミレスでの食事後、普段通りに車で女子寮まで送られている最中。卯月の提案に対して、ことねが疑問を抱くのも当然だった。
『ライブの関係者席は、基本的に演者や芸能事務所、運営会社などから招待を受けた方しか入ることができません。演者の血縁者でもない限り、ただの女子高校生が関係者席にいると目立ちます。さらに、初星学園生がひとりだけともなると……』
『……もしかしてぇ、あたしとプロデューサーの繋がりが即バレしちゃうってことですか!?』
『誰から招待を受けたかがわかるわけではないので、すぐ知れ渡るとは言いません。今回は緒方さんが主役のライブですから、素直に考えれば緒方さんから招待を受けたと受け止めるのが自然です。とはいえ、私と藤田さんの関係が余計に知れ渡るリスクを背負う必要はありません』
『だからあたしの友達……初星学園の友達を呼んで、うやむやにしちゃおーって話ですね!』
ことねの素早い理解に頷く卯月。
『ひとりでいれば藤田さん個人に注目が向きますが、初星学園生が複数人で連れ立っていたならば、周囲の方々は勝手に様々な推測を立ててくれるでしょうから。そうですね、藤田さんを含めて三人もいれば充分ですよ』
中等部からの在籍に加え、持ち前のコミュニケーション能力も相まって、学園内におけることねの交友関係はかなり広く、友人も多い。単純に数合わせで人を呼ぶのであれば、予定さえ合えば十人二十人と呼べる自信がことねにはあった。
しかし肝心の予定が厳しい。来週の終わりには中間試験があるのだから、日曜日とはいえ誰だってそちらに意識が向くだろうし、試験対策に集中したいという者の方が多いだろう。
大前提として、試験直前の日曜日が空いており、休養日にしているわけでもなく、外出する余裕があること。できれば、緒方智絵里のバースデーライブと聞いて興味を持つこと。そして何より、ことねが手に入れた関係者席チケットの出どころを根掘り葉掘り聞かないか、あるいは察したうえで黙っていてくれること。
これらの条件をある程度満たす必要があるとなれば、ことねが思い浮かべることのできる相手はかなり少なかった。最悪どこかの条件を妥協すべきかと、ことねはそう考えていたわけであるが。
『へぇ、緒方智絵里のライブ? しかも関係者席のチケット、いいじゃない。行きましょ!』
『わ、わたしも……ぜひ行ってみたいです! そんな機会、めったにないですから……』
一瞬で、というか初手の声掛けで集まった。
卯月がことねのプロデューサーとなっていることを知っており、完全休養日の土曜日がライブと被らず、自らが目指すアイドルの世界で活躍する先達の姿を見たかった咲季。卯月とことねの事情は知らないものの、余計なことを聞かず言わない性格の良さは折り紙付きで、日曜に予定を入れておらず、智絵里のライブそのものに興味を持っていたリーリヤ。
すべての条件を綺麗に満たしたふたりに快諾された結果として、ライブ当日をこのよくわからないトリオで迎えることになったというわけである。
「今日の会場は……東京ガーデンシアター、でしたよね」
「明らかに同じ会場へ向かおうとしている人たちも多いわね。……流石は346プロの誇るトップアイドル、緒方智絵里ってところかしら」
バースデーソロライブで8000人規模の会場を使い、実際にその観客席を埋めるどころか、プレミアチケットにしてしまう。まさしく智絵里の面目躍如と言えよう。
「あ~、でもあたしたちは一般入場の人たちとは別のところに行くんだよねぇ」
「そうなんですか?」
聞き返すリーリヤに頷くことね。
「あたしにこのチケットを譲ってくれた人がさぁ、なんか会場の外で一旦待ち合わせしようって。何がしたいのかはよくわかんないけど、とりあえず行くしかないっしょ~」
ことねの言葉に、リーリヤと咲季は顔を見合わせる。その物言いを素直に受け止めるなら、関係者席のチケットをことねに譲った相手の顔が見れるということだ。意味のない詮索をする気はふたりともなかったが、興味がないかと問われれば嘘になる。
しかし、一方のことねは内心困惑していた。
(結局詳しいことは教えてくれなかったけど、どう考えてもこれってプロデューサーとふたりが会うことになるし……ああでも、あたしとプロデューサーの関係がすぐバレるとあんまり良くないのは、業界の人たちに対して? リーリヤちゃんと咲季の口の堅さを見込んだうえで、どうせ学園の中では中間試験のときにバレるから……ってこと?)
筋は通っている。一応通ってはいるが、それでもやはりライブの前に卯月が顔を見せに来る積極的な理由はわからない。
(……まっ、考えても仕方ないか。プロデューサーの考えてることなんていっつもわからないし)
自分のプロデューサーに対して酷い物言いだが、おおよそ悪いのは卯月のせいであった。
「っと、ここか。こっちが会場になるシアターで、あっちが待ち合わせしてる広場なんだって」
ホテル、シアター、ショッピングモール、さらに複数の広場。どこを見ても人で溢れかえっている。どうやら智絵里のライブに参加する者たちだけではなく、宿泊客や観光客、さらには地域住民も大勢行き交っているようだった。
そんな人混みの中を歩き続ける三人。やがて、一面が芝生になっている広場へと辿りついた。
「で、ここに着いたら一度連絡を入れろってさ」
「回りくどいわね、あなたにチケットを渡した人。何がしたいのかしら」
「珍しく咲季と意見が合ったよ。んじゃ、電話かけるからちょっと待ってて。……もしもし? 藤田ですけど。広場に着きましたよぉ、今どこにいるんですか?」
電話先の卯月にそう呼びかけるが、返事はない。
「もしもし? もしもーし、聞こえてますか? 何かあったんですかぁ?」
「聞こえていますよ、藤田さん」
「ひょわぁ!?」
ことねが素っ頓狂な叫び声を上げたのも無理はない。なにせその声は、スマートフォンではなくことねの背後から聞こえたのだから。
「ぷ、ぷ、プロデューサー! なんでいっつも後ろにいるんですかぁ! 今のはもう驚き通り越して怖いんですけどぉ!?」
「ちょっとしたサプライズです」
「いらないですからそういうのホント! 毎回毎回心臓に悪いんですよ!」
「いえ、今回は藤田さんに対してというよりも……お連れのお二方に対して、ですね」
卯月の言葉ではっとしたことねが、リーリヤと咲季に対して目を向けた。彼女たちの浮かべる表情はそれぞれだったが、目を見開いて驚いていることだけは共通していた。
「はじめまして……ではないですね、花海咲季さん、葛城リーリヤさん。初星学園プロデューサー科に在籍しております、島村卯月です。どうぞよろしくお願いします」