島村卯月(27歳)による藤田ことねトップアイドル化計画   作:天宮雛葵

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26 - 未来を示すと決めたから

 電子音交じりのイントロと共に、卯月がステージへと姿を現す。

 

「みなさん、お久しぶりです! 島村卯月、智絵里ちゃんのために帰ってきましたよ!」

 

 智絵里のファンであれば、自分のことを知らないわけがない。そんな自信に満ち溢れた口上に、観客たちの興奮は限界を超える。叫び声でシアターが揺れた。揺れているような気がする、ではない。間違いなく揺れている。

 

「んなッ……!」

「……こ、こんなことって」

 

 それ以上の言葉が出てこない咲季とリーリヤ。そういえば彼女たちはあくまで開演前に卯月と会っただけで、卯月がライブに出演するとはこれっぽっちも想像していなかったわけである。ふたりには少し悪かったかもと内心思いつつ、ことねはその視線を卯月から動かさない。

 

 今流れているイントロが何の曲か、ことねは知っている。これは智絵里の曲ではない。

 

(Great Journey、プロデューサー……卯月さんが、ニュージェネレーションズのひとりとして歌った曲だ)

 

 いくら事務所が同じとはいえ、関係ないユニットの持ち曲が当然のようにセットリスト入りするのは割とどうかしているし、それですぐに沸き立って反応できるファンもファンである。訓練されすぎではないだろうか。

 

 だが、今のことねにとって大事なのは卯月だ。この曲はアップテンポで明るいアイドルソングだ。テンポが速く、コーレスを入れるタイミングもあり、ダンスもステージの形状によってかなりアレンジが入る。しかも普段はニュージェネの三人で歌う曲なので、デュエットでの披露はレア中のレアだ。

 

(仕草ひとつ見逃せない、一音も聞き逃せない! 気合入れ直すぞぉ~!)

 

 自分に喝を入れて、ことねは双眼鏡とサイリウムを構え直す。

 

 

「一歩前へ 踏み出すたび 変わる景色は」

「いつだって 進化形の ドキドキであふれてるよ」

「Everybody Going, Doki Doki Dokiri, Many Many Starlight!」

 

 

 普段はひとりが担当する歌詞を卯月と智絵里で分割。それに続く観客たちのコーレス。智絵里は勿論のこと、卯月も活動のブランクを感じさせない立ち振る舞いだ。ステージに立つアイドルたちは精一杯笑い、ファンたちは歓声でそれに応える。なにせ、ことねのいる関係者席からもコーレスの声がしっかり飛んでいるほどである。どこにも間違いはないはずの、完璧なライブだ。

 

(……いや、なんか……おかしい、よね?)

 

 にもかかわらず、ことねはどうしても引っ掛かるものがあった。歌い踊る卯月から感じる強烈な違和感。何も間違っていないはずなのに、盛大に思い違いをしているような気持ち悪さ。

 

(パフォーマンスが……全体的に、卯月さんっぽくない。うん、きっとそうだ。映像と現地の違いじゃ片付けられない、絶対おかしい!)

 

 だが、ことねがただおかしく感じるだけではいけない。その違和感を言語化しなければ、眼前のパフォーマンスを自らの経験として積み上げていくことはできないのだ。

 

(ひとつひとつ分解するしかない。まずは歌からちゃんと聞こう)

 

 

「一個願い 叶えるたび 輝きを増す」

「キラキラの 星明かりの パノラマ見上げ進もう」

「Everybody Dreaming, Waku Waku Wakuri, Many Many Starlight!」

 

 

(何か下手なわけでもないし、変な歌い方をしてるわけでもない。何もおかしいところは……)

 

「……いや、待った」

 

 卯月のライブパフォーマンス、その持ち味は『総合力の高さ』。かつては全てが普通だった少女が、経験を積み重ねて全てが上手な優等生になり、そして今やあらゆる面でトップクラスの技術を持つようになった。それ故の、統一された完成度の高さ。

 

 例えば、渋谷凛や高垣楓の歌唱力が100点だとして、卯月のそれは90点。無論彼女の歌唱力でもアイドルにあっては相当なものなのだが、それでも頂点には及ばない。緒方智絵里や橘ありすの演技力を100点とすれば、卯月のそれはやはり90点だろう。ひとつの技術で頂点を取れなくとも、アイドルとして必要な技術の全てにおいて90点を維持できる。それが卯月の大きな強みだ。

 

(でも、今の卯月さんの歌はそうじゃない。確かに下手じゃないし、変じゃない。文句を付けられるような歌声じゃない。……でも、それだけ)

 

 高い歌唱力に裏付けされた、応用的な歌唱法の数々。高い演技力に裏付けされた、曲調や歌詞に合った感情を創出する手腕。高い表現力に裏付けされた、歌声にすべての感情を乗せきる技術。そういったものが、今の卯月からはまったくと言っていいほどに感じられない。

 

(難しいことを全然やってない、アイドルとして及第点の歌。今までのライブだったら、どんな曲でも出し惜しみしなかったのに……ダンスはどう?)

 

 ことねが考え込んでいる間に一番のBメロもサビも通り過ぎ、曲は間奏へ向かう。全体的な雰囲気が明るくハイテンポなものだからか、卯月の動きは激しいが、正確さは決して損なわれていない。しかし、そんなダンスにもどこか違和感がある。

 

(すっごい動くし、跳ねるし、とにかく止まって歌おうって気がないの!? 確かにこんな動き方をするなら、歌に意識を向ける余裕がないのはわかる。わかるけど、それにしたってさぁ)

 

 いくらなんでも動きすぎだ。隣で踊る智絵里のダンスが元々控えめなことを加味しても、ひとつひとつの振付がオーバーに見えてくる。というより、明らかに決まった振付を逸脱しているような動きが今の卯月には目立つ。その勢いのまま曲は二番に入り、彼女たちのパフォーマンスはますます熱を帯びていく。

 

 

「迷う時 どうしてかな? 上を向いちゃう」

「流れ星 指さしたら キセキを思い出したよ」

「Everybody Singing, Pika Pika Pikari, Many Many Starlight!」

 

 

(一瞬止まったら満点スマイルでファンサのばら撒き、またすぐ動いて跳ねて手を振って、あぁ緒方さんがやってもないターンを!? 前を向いたら指差しウインク、歌ってない隙に投げキッスってもうめちゃくちゃじゃん! この曲だけで観客全員にファンサ決める勢いだけど!?)

 

 その技術とプロ根性には素直に驚嘆する。だがそれはそれとして、振付にないだろうダンスと濃すぎるファンサービスをこれほど短時間に集約するのは、まったく卯月らしくない。相方がそもそも大きく踊らない智絵里だから対比になって良かったが、これが普通に踊るアイドルだったら悲惨だったろう。ダンスとファンサだけで卯月に全てを持っていかれるところである。

 

 

「悔しくて 泣きたい でも! 笑いたいから」

「諦めない スキップして スマイル届けに行こう」

「Everybody Smiling, Niko Niko Nikori, Many Many Starlight!」

 

 

(ライブとしてのクオリティはすっごく高いのに、やっぱりいつもの卯月さんとは全然違う。歌は下手に思われない最低限でダンスとファンサに全力ガン振りって、あたしが目標にしてるパフォーマンスみたい……だけ、ど……?)

 

 

「地平線こえた 遥か遠い町で」

 

 

(いや、まさか、まさかね。ライブ本番だよ? 十年来の友達、ずっとユニットで一緒だったメンバーのバースデーライブに呼ばれたんだよ? 卯月さんはシークレットゲストなんでしょ? 緒方さんに煽られて期待マックスのファンからバッチリ視線集めてる、引退以来のライブパフォーマンス。そうでしょ? ねぇ、卯月さん)

 

 思考が巡る。これまでにない速さで。

 

 

「まだ見ぬ誰かが 待ってる光に」

 

 

(どうして普段通りに歌わないの、なんで縛りプレイしてんの? ここにいるのはみんな緒方さんのファンでしょ? そりゃ卯月さんのことだって好きかもだけどさ、そんなに目立ってファンサ飛ばしたってしょーがないじゃん)

 

 そんなこと、しなくたっていいのに。

 

 

「いつか いつかね なれますように……」

 

 

(めちゃくちゃだよ。ダントツで頭おかしいって。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って、いくらなんでもそんな示し方あるかよ!? 今までで一番イカれてる、ふざけてる!)

 

 口に出せない叫びの語気は強まるばかりだが、それでもことねの中に怒りの感情はなかった。驚愕と諦観と納得が入り乱れて、最後に固まったのは。

 

(こんなの、本当に見せられたら……突きつけられたらさぁ、やるしかないじゃん! なーんにも言い訳できなくさせられた! 最初からそんなことする気全然ないけどさぁ、ダメでしょ! 島村卯月が取っていい手段じゃないよそれは! あーもうわかった、やりますよ、あたしも同じようにやればいいんでしょぉ!?)

 

 決意の再確認と、ほんのわずかな恨み節。

 

 

「未来コンパスがグルグルリ まわる時は」

「目指す場所がいっぱいあるってコトかも なんてね」

 

 

 2番のサビ、その入りを歌う智絵里。そして続くのは卯月のパート。

 

 

「見せたいんだ 私たちの キラメキのステージ」

 

 

 そのフレーズを歌う瞬間、卯月は視線を上げた。

 

 まっすぐに、中央に向けて、それまで詰め込んでいたファンサはせずに。半分以上やけくそになりながらサイリウムを振ることねの姿を観客席に見つけて、にっこりと笑ってみせた。

 

「あぁもう、ここまで全部お見通しかよぉ~……」

 

 もはや笑いしか出てこなかった。どうして笑っているか、自分すらわからなかった。

 

 

「今 ふいにキミが こぼした笑顔は」

「懐かしくて 優しい 新しい ディスカバリー!」

 

 

 曲は続く。ライブも続く。しかし今のことねにとっては、この一曲こそがすべてだった。





 本作の島村卯月と藤田ことねを描いていただきましたので、こちらと目次ページにて掲載させていただきます! ことねが世界一可愛いのは自明ですが、色々と細かい部分までこだわっていただきました。そして卯月は……他ではそう見られないだろうスーツ姿です。これでもアイドル感あんまり抑えきれてないよ。そりゃ目立つわ学園内でも。

 お描きくださったういかさん(@uika310p)に改めて感謝申し上げます!

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